正月クライシス

正月クライシス

はい、みなさんあけましておめでとう。なんだかんだで正月を迎えて、いつの間にか2006年から2007年になっていたわけなんですが、なんというか、ここで皆さんに報告しなければならないことがあります。まあ、率直に言うと正月から雪山で死にかけたわけなんですが、それを説明するには順序だててお話をしなければなりません。近年稀に見る地獄の正月三が日、生か死か、とくとご覧ください。


大晦日、紅白歌合戦の大塚愛は最高で、それを見ながら僕が感涙の雫を垂らしている頃、既に最悪のシナリオは動き出していた。

僕が子供の頃の大晦日から正月、いわゆる年末年始ってのは、貧しいながらも時間がゆっくり流れていて、家族で普段食べないちょっと豪華な料理とソバを食べて、レコード大賞と紅白歌合戦を見ながら過ごす。そのうち親父は酒飲み過ぎて寝ちゃって、母ちゃんが雑煮作ってくれて、弟はテレビに大興奮、で、爺さんは相変わらず即身仏のように動かない。

ゆっくりと時間が流れ、よくよく考えたら何の意味もないことなのに、誰もがカウントダウンに夢中になる。普段あまり意識しない時間というものを格段に意識させてくれる、それが年末年始だった。

大人になってもそれは変わらないと思っていたし、いつだって、どんな未来でも、それこそ車が透明のチューブの中を走るような未来予想図の中でもずっと正月は正月だ、ずっとそう思っていた。

それが今やどうだ。ちょうど大晦日に血なまぐさい格闘技イベントをやるようになったのと時同じくして、僕の正月は様変わりしていった。なぜだか知らないけど、いつの間にか恒例化していた年越し生ネットラジオ。大晦日の番組を見つつネットラジオをグダグダと見つつ、歳を越したら「あけましておめでとー」とか心にもないことを言って締めるクソ番組。このままIT社会が発達していってネット世界での転送量が限界に達し、世界警察アメリカの勅命で無駄なネットリソースを排除しようと言うことになったら、真っ先に削除しなければならないラジオ番組だ。

で、毎年毎年、この番組が酷くて、本当にテレビを見ながら文句しか言わない。ろくにカウントダウンもしない。それどころかゲップとかオナラとかオンエアし放題。チンパンジーぐらいしか聴いてないんじゃねえのって感じなのだけど、今年は更に酷かった。

放送中にそこで酒を飲んでしまったからさあ大変。例年通り年が明けてから2時間くらい放送して終わるつもりだったのに、何だか知らないけどそこでいづいてしまって気付けば26時間ノンストップのカックラキン大放送。長いだけならまだ許せるんだけど、その内容がまた酷い。

まず、テレホンセックスするエロい番組に電話しまくり。そこでエロい話をしてそれを放送するならまだ可愛げがあるんだけど、カタコトの中国人とか加藤晴彦のモノマネでやってましたからね。おまけにアナルに仏像を入れるとか、これが中学校だったら緊急の保護者説明会が開催されても不思議ではない内容を熱烈トーク。頭おかしい。

おまけに、大晦日の秋山VS桜庭戦がよほど納得いかなかったのか、放送中にTBSに抗議電話を駆け出す始末。それだけならまだ良くて、TBSが誰も出ないもんだから、意味不明にNHKとかテレ朝の「朝まで生テレビ」に秋山VS桜庭戦の抗議電話をかけまくり。最終的にはホモホモ詐欺にやられる始末。

まさか僕も、こんな年越しをするとは想像だにしてなかったのですが、幼い頃の僕が今の僕を見たらショック死するんじゃないかと思いつつ、全ての流れに身を任せ、流るるままに年越しネットラジオを楽しんだのに。

さて、放送が終わったのが、1月1日の午後8時。さすがにノンストップで26時間もアホなことをやっていると脳が腐りそうだ、それよりなにより死ぬほど眠い。とりあえず寝る準備をして、ぐっすりと初夢を見よう、僕の年越しはこれからだ、とか思いながら風呂に入ったりなんぞしつつ寝る準備を整えていたんです。

最近はですね、いつぞやも書いたんですけど眠りが浅くて疲れが取れないのが悩みでしてね、それも寝る前に牛乳を飲んだら少しは改善されるってのを発見しまして、コップ一杯の牛乳を飲むのを欠かさないんですけど、さあ、それを飲んでぐっすり寝るぞ〜!2007年もテンション低く寝まくっちゃうぞ〜!と見当違いな野望を燃やしていたところ、事件は起きました。

ピンポーン

けたたましく鳴り響くチャイムの音。もう午後9時になるとはいえ、曲りなりにも元旦ですよ。牛乳飲んで全然正月らしくない過ごし方ですが、とにかく元旦。それなのに来客があるとか考えられない。僕が独身OLとかだったら恐怖のあまり彼氏に電話しちゃって、勢い余ってそのままテレホンセックスしてしまう、最終的にはアナルに仏像を入れても何らおかしくないくらいの恐ろしさです。

なあに、風のざわめきじゃと聞かなかったことにはできませんが、こんな元旦に来るなんてどうせロクなもんじゃない、訪問販売とかそんな類に決まってる。居留守を使うに限る、無視を決め込んで手に持った牛乳をグーッと飲み込んでました。

ピンポーン、ピンポーン

しかしながら、それでもチャイムの攻勢は止まない。それどころかドアをガンガン叩き始めてドアノブまでガチャガチャやりだすんだからたまらない。こりゃ訪問販売ってレベルじゃねえぞ、もっとこう大家とか、このアパートの2階に住んでいる、ゴミをちゃんと分別してるのか漁って調べるババアとか、そんなセカンドインパクトレベルの来訪者に違いない。ますます居留守しかない。とさらに無視を決め込んだその時でした。

「おーい!○○!おらんのかー?」

僕の名前を呼び続ける来訪者。何で僕の名前を!と驚く以前に、聞き覚えのありすぎる声です。そう、他でもない僕の父親。あの最狂にして最悪と言うしかない親父の声だったのです。あまりにビックリしすぎて牛乳吹いたわ。

とにかく、親父が来たのなら居留守と言うわけにはいきません。さすがに僕もそこまで親不孝ではないですので、何があったにしろこの部屋に親父を入れなければなりません。

ドアに近づき、覗き窓から覗いてみると、やはりそこに映る姿は親父そのもの。なんで、元旦に、こんな場所に親父が・・・。

「な、なんだよ、何しに来たんだよ・・・!」

明らかに狼狽しながらドア越しに話しかけます。

「お前が帰省してこないから、ワシから来てやったワイ。電車を乗り継いでな!」

その理論が全く分かりません。乳房を揉んでもダメだったからクリトリスをみたいな酷い理論。さすがキチガイと言わざるを得ない。

「寒いから早く開けておくれ」

まあ、ブラフでしょうが、弱々しくそう言う親父にグッと心打たれてドアを開けそうになったのですが、事態はそんな単純なことではない。

ドアを開けてしまおうものなら色々と大変なことが起こってしまう。

まず、この玄関先に山積みにされている300冊からの自費出版本「ぬめり2」が問題だ。親父が見ようものなら明らかに興味を示すに決まってる。そしてそこから芋づる式にサイトバレして、親父の悪口をワールドワイドウェブで公開していることがバレてしまう。それに、部屋の奥に散乱しているエロ本も問題だ。親父はエロ本に過剰反応して説教モードになる特性があるので、このエロ本も隠し切らねばならない。そしてなにより、たまにテレビに出てくるゴミ屋敷レベルに汚いこの部屋をなんとかせねば、殺されても文句は言えない。たるんだ生活しやがってー!と撲殺されても不思議ではない。いかん、とにかく今この部屋に親父を入れてはいかん。

「おお、遠かっただろうに、わざわざ来てくれたんだー。今開けるからちょっと待って」

とりあえず、こんなことしてどうにもなるわけじゃないですけど、ドア越しに会話して、解決方法の糸口を探ります。

「早くあけてくれや、寒いし腹減ったしどうしようもない」

これだ!これで責めるしかない!

「俺も腹減ったわー、ちょっとドアがたてつけ悪くて開きそうにないからさ、親父、そこ出たとこにコンビニあるから焼き鳥買ってきてくれないか」

ドアの立て付けが悪い、とかどんな古典的な言い訳だよ、カツアゲされそうな時にメガネの優等生が「これは参考書買うお金なんでー」っていうのと同じレベルの言い訳じゃないか。ダメだ、こんな方法ではじきにドアを破られてサイトバレしてしまう!

「おお!焼き鳥いいな!ついでにビールも買ってくるわ!」

やった!何だか知らないが回避できた。まさかこんな手法が通用してしまうとは。

「うん、大通りに出て左にセブンイレブンあるから」

「よっしゃ、いってくるわ!」

これで幾ばくかの時間はできた。その間に見られてはならない物を隠さねばならない。300冊からのぬめり本と100冊からのエロ本、これを彼がコンビニに行っている数分で隠し切らねばならない。

それでまあ。なんとか試行錯誤するんですけど、300冊の本ですよ。ダンボールにして7箱あるんです。そんなもんこの収納のないワンルームマンションではおいそれと隠せるわけがない。便所の便器の裏に隠そうかとも思ったのですが、それでは危険が危なすぎる。靴箱に隠そうかとも思ったんですが、物理的に入らない。これはもう、車のトランクに隠すのが一番ベストなんじゃないか。そう思いましてね、もう裸足でダンボール担いで車にゴーですよ。1個30キロくらいありそうなダンボールを2個担いで、ウチは3階ですから駐車場まで超絶ダッシュ。

あまりの重さに腰がガクガクいうんですが、親父にサイトバレだけは回避しなければならない。元旦からなにやってんだよと思うのですが、睡眠不足と疲労でフラフラになりながらなんとかやり遂げました。最後のほうは、もうダンボールごとベランダから投げて、ドシンドシンと巨神兵みたいな音がしてたのですが、それを降りて拾って車のトランクに収納するという離れ業。なんとか数分のうちにNumeriの痕跡を部屋から抹消したのです。

で、まあ、エロ本のほうはもう時間がありませんので隅っこに集めてシーツを被せて誤魔化し、部屋に散乱していたゴミも端っこに寄せて誤魔化しました。人間やればできるもんで、本気で数分のうちに都合の悪い事象を覆い隠すことに成功。マジでコレにはちょっと感動した。

「おう、焼き鳥買ってきたぞー」

そこに見計らったかのように親父が登場。既に寝不足でしたし、物凄い重い荷物をダッシュで運んだものですから、物凄く呼吸が乱れていておまけに気持ち悪く、焼き鳥なんて油っぽいもの見たくもなかったのですが

「マジでー、ゼエゼエ、わー、おいしそうだー、ゼエゼエ」

と心にもないことを言ってました。

それからはまあ、このまま親父が起きていてはいつ何時エロ本やらNumeriが見つかるか分かったもんじゃありませんので、早目に酒でも飲ませて寝かしつけようと判断。

「いやなー、紅白歌合戦見てたらお前のこと思い出してな、朝一の電車に飛び乗って来たよー、乗り継ぎが多くてまいったまいった」

「へえー、ゼエゼエ、電話してくれたら、ゼエゼエ、帰省したのに、ゼエゼエ」

「それでなー!傑作なことに乗り継ぎで間違えてとんあでもない街に連れて行かれてな!開き直って駅前の立ち呑み屋で酒飲んでたらこんな時間に到着したんだよ!わっはっはっは!」

「ソイツハケッサクダネ」

と、まあ、職場一番のブスが街でナンパされて、私ナンパとか軽いのダメなのよねーすごい一生懸命だったからお茶だけはしたけどー、みたいな話より心の底からどうでもいい話を延々と聴きつつ、僕の元旦は更けていったのでした。

それからテレビで、何か正月から冬山で遭難した老人のニュースをやっていたのですが、それを見て親父が「正月から冬山とか頭おかしいだろ」みたいな大変不謹慎なことをのたまっておられました。

いいから早く寝ろよとか思うんですけど、さらに親父は手に持っていた紙袋からCDを取り出し、

「ちょっとこれかけてくれ。昨日紅白見てたら気に入ったから駅前で買ったんだ。ただワシはCDのかけ方わからんから」

と、なんだろうと思って親父が出したCD見てみたら大塚愛の「恋愛写真」じゃないですか。

「この子はいいぞ。この子がいれば税金とか税務署の査察とか嫌なことを全部忘れられる。こんな子がワシの娘だったらなあ。こんな臭い息子じゃなくてな!ぐわっはっは!」

と、血の繋がりを感じずにはいられないことをのたまってました。

でまあ、良くわかんない親子が大音量で大塚愛を聞きつつ、二人して体育座り、でもって焼き鳥を不味そうに食うというシュールな絵図が展開していたのですが、ご機嫌になった親父がバタンキューと倒れるように眠ったのでホッと胸を撫で下ろし、ここからが本番だ、とまだまだ眠るわけに行かない自分の運命を呪いつつ、物音を立てないように動き出したのでした。

まず親父に毛布をかけて、電気を消し、彼が簡単に起きないであろう体制を整えます。で、その間にシーツの下に眠るエロ本類をなんとかせねばなりません。

物音を立てぬよう、丁寧に1冊1冊をトイレに運び、便器の裏に隠します。隠しきれなかった分はまたもや車に運び、眠っている300冊の本と共に封印します。だいたいこの作業で2時間くらいかかったでしょうか。時計はすっかり4時を指し示し、そろそろ寝ないと本気で死ぬ、でもこれでやっと眠れる。ただ安らかに眠ろう、と僕も布団に入ったその時でした。

ガバッ!

「よく寝た!」

復活するゾンビみたいに起き上がる親父。おめー、2時間しか寝てねーよ、と思うのですが、睡眠ばっちりの親父は異様にハイテンションで元気。

「最近何時に寝ても4時に目が覚めるわ!がっはっはっは!」

と大盛り上がり大会。僕は一睡もしてないのですが、目が覚めてしまったものはしょうがありません。寝てないから寝かせてくれとか、そういった交渉は無駄です。キチガイに刃物とはよくいったもんだ。

「初詣いこう!初詣!」

「観光しに行こう!観光!」

「カラオケ行こう!大塚愛歌おう!」

とまあ、朝の4時から夕方までウザいくらいにハイテンション。その間僕はずっと親父に付き合いつつ、親殺しって懲役どれくらい食らうかなあと考えて口から半分くらい魂が出た状態で過ごしたのでした。

で、夕方、このままここに親父がいたんでは殺されてしまう。なんとかせねばならない。せめて、これが僕のホームタウンではなく実家だったらなんとかなるんじゃ!と眠くて判断力が落ちてたんでしょうね

「なあ、このままここにいてもつまんないし、僕も久々に故郷に帰りたいよ。だからさ、このまま一緒に車運転して実家に帰らない?」

と、自殺とも思える提案を。単純に考えて、今から実家に、それも車を運転して変えるとなると途方もない時間がかかり、その間も睡眠できないことは目に見えてるのですが、それでも親父がマイホームタウンにいることが耐えがたかった。いつボロが出るのか分かったもんじゃない。

「いいね!ドライブ大好き!」

ドライブ大好きって理由が良く分かりませんが、とにかく親父も快諾の様子。こうして、我が実家に向けて僕と親父の長時間ドライブが始まったのでした。

さて、サルと犬、上司Aと上司B、僕と会社のお局様と世の中に相性の悪いものは沢山ございますが、睡眠不足と高速道路の運転ってのは特に相性が悪くいものでございまして、とにかく眠い。死ぬほど眠い。もう眠いとかのレベルを超越して所々寝ながら運転してましたからね。このままあと何時間も運転したら確実に死亡事故起こすって予言者でなくても分かるくらい居眠り運転でした。

親父に運転代わってもらえば良かったんでしょうけど、親父は助手席でビールをガッパンガッパン食らってご満悦の様子。とてもじゃないが飲酒運転よりは居眠り運転の方がマシと言わざるを得ない。

親父は親父で

「おい、あの塔は何だ!?」

と、初めて海外に行ったクソババア並みのテンションで見える景色全てについて訊ねてくるんですよ。ホントウザったい。なんか、この辺に住んでるんだから何でも知ってると勘違いしてるみたい。

どっからどう見ても送電線か何かの鉄塔なんですけど、「さあ、鉄塔じゃね」とかそっけなく答えると途端に説教モードに変身してウザさが倍増しますので、「あれは地元の農民が五穀豊穣を願って建立した祈りの塔だよ」と嘘8000答えてました。

そんな調子で何時間運転したでしょうか。もう深夜と呼ぶにふさわしい時間で辺りも真っ暗。地元に近づいたためかモリモリッと雪も積もってます。もう眠くて眠くて、これほど実家に帰りたいと強く願ったのは初めてなのですが、なんか親父が目が覚めて腹が減ったご様子。

「どっかのパーキングで休憩しよう」

ほんとウザったいんですけど、そう言うなら仕方ないってことで山間部にひっそりと佇む、見るからに寂れたパーキングエリアに入ったのですが、ここからがマジで頭おかしい。

車を降りて、さあラーメンでも食おうかって言ったのですが、親父の様子がおかしい。なんか、パーキングに隣接している山の中腹辺りをジッと見つめているんですよ。キチガイなのは今に始まったことじゃないですが、食堂とは反対側に向かって歩いていきますからね。何かがおかしいと言うほかない。

「そっちは食堂じゃないって。どこいくんだよ」

挙動不審な親父を諌めるかのように近づいて言うのですが、親父は聞く耳持たない。

「XXXXが生えてるんだわ!」

それどころか、何か情熱的に言ってるんですけど、単なる酔っ払いですので何言ってるのか分からない。一般の皆様にも分かるように通訳しますと、「この山にはXXXXという山菜っぽいものが生えてるんだ。あれは酒のつまみに最高なんだ」ということを言ってるようなのですが、いかんせん、その生えてるものの名前が聞き取れない。

「へー、そんなのが生えてるんだ。じゃあこの辺の特産なのかもね。土産物屋とかに売ってるかもしれないよ。それより寒いし、早く中入ってラーメン食べようよ」

みたいな至極無難なことを言ったのですが、親父は聞く耳持たない。

「よし、取って帰るぞ!」

と走り出してパーキングエリアの柵みたいなの越えて走り出していっちゃいましたからね。頭おかしい。

さすがに僕も付き合いきれないので、このままラーメン食おうかとも思ったのですが、泥酔状態の親父ですから心配は心配ですよ。しょうがないので引き続き柵を越えて親父の後を追いました。

柵を乗り越えると、何かパーキングの建物の裏には、従業員が使うんでしょうね、普通に一般道とかあるんですけど凄い寂しい暗い道。あと、高速道路ってことでパーキングエリア内も念入りに除雪されてたんですけど、一歩外に出るとなかなかの積雪。そんな雪を掻き分けて親父がガンガン真っ白い雪の中に進んでいくんですよ。

「うおーすげー!XXXXがこんなに生えてる!」

と、相変わらず何の植物かは知りませんが、何か素敵なものが生えてる様子。

「ちょっとこれ持て!」

と親父が引っこ抜いた植物を渡されたんですけど、どうみてもババアの乳房としか思えない皺枯れたウンコみたいな植物でした。

「こっちにも!」

「そしてこっちにも!」

と、多分見てないから分からないですが、僕が生まれた時よりも興奮して突き進んでいく親父。どんどんと雪と山道を突っ切っていくのですが

「あんまり進むとパーキングに戻れなくなるよ」

と言った瞬間。まさに帰り道が分からなくなっちゃいましてね、もう色々とジエンド。死ぬほど暗いわ寒いわで大騒ぎ。

「どうすんだよ、戻れなくなったじゃんか」

「ワシに任せろ、きっとこっちだ!」

と進むとさらにシャレにならない山奥に。本当にありえない。パーキングから遭難するとかありえない。

「暖を取らないと死ぬ。寝たら死ぬぞ!」

とか、とても正月に交わす親子の会話とは思えない会話をし、何とか持っていたライターで先ほど採取したばかりの謎の山菜を燃やし、「マーマ」と言うしかないような凍える空気の中、星空を見上げることしかできませんでした。まだ親父は謎の山菜を夢中で採取しているのですが、渡される端から片っ端に燃やしてた。このキチガイが。

これからどうやってパーキングまで戻るか。それよりなにより生還できるのか考えながらも、ああ、なんか時間がゆっくり流れている。酷い寒さで、もう48時間以上起きてるから死ぬほど眠い。このまま眠ってしまうのも悪くないなと思いつつも、幼き日、貧しくともゆっくりした正月を過ごしていたのを思い出し、親父と2人でこんなゆっくりとした正月を過ごすのも悪くないなと思いつつ、抜けるように綺麗な星空を眺めるのでした。こんな正月も悪くない。でも、パトラッシュ、僕・・・もう・・・眠いよ・・・。

あまりに時間がゆっくり過ぎてそのまま止まってしまいそうな、それこそ死を感じながらも、僕と親父の正月は過ぎていったのでした。あまりに長いのでつづく。

次回予告
故郷に凱旋帰郷したpatoに同窓会という魔の手が襲う!殺るか殺られるか地獄の大車輪!初恋の先に見たものは!乞うご期待!

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