モンゴル放浪記Vol.5

モンゴル放浪記
Vol.5

前回までのあらすじ
自費出版の本、海外で売る、モンゴル行く、誰も来ない、モンゴル人に売る、砂漠まで行く、レンタカーとドライバー雇う、サムソン、言葉通じない、車ぶっ壊れる、何とか直る、すごいお腹壊す、野グソ、サムソンも、さあ、砂漠横断の旅二日目だ!ということで訳分からないと思うので詳しくは放浪記1〜4をお読みください。


さて、朝の行為も済んだことだし、ということでサムソンと二人で優雅に朝食をとることに。大平原のパノラマを眺めながら、ヤツがどこから入手してきたのか分からない得体の知れない岩みたいなパンを食す。物凄い腹が下っていて正直食欲がないのだけど、食わないといつ食えるか分かったもんじゃないのでとにかく詰め込む。

テントを片付け、荷物を車に積み込んでいざ出発。目指すは昨日到達できなかった砂漠入り口の町マンダルゴビ。さあ行くぞ!

と意気揚々と出発したのはいいのですが、サムソンが意味不明のヒップホップのカセットテープを爆音で流してご機嫌だわ、ウォッカをがぶ飲みして大トラだわで大騒ぎ。しかも、生水とかが祟ったのか僕のお腹も大騒ぎですよ。

もう目指すマンダルゴビまで数キロという地点まできてるのに、数分したらお腹がギュルギュルして非常事態。

「すまん、サムソン、ちょっとストップ、ウンコ」

と5分走っては車を停めて野グソしにいく始末。これまでの人生で数回しか野グソした経験なかったのに、マンダルゴビまでの数キロで20回くらい野グソした。

もう最後のほうなんて僕もサムソンも慣れちゃってて、最初はパノラマの中での野グソにちょっとドキドキだったけど、最後のほうはもう普通でしたからね。まるで万引きに手を染めていく女子高生のように、最後のほうは顔色一つ変えずに野グソしてた。まるでそれが当たり前であるかのように。

サムソンも、僕が「ストップ!ストップ!ウンコ!ウンコ!」と何回も車を停めるもんだから、すっかり言葉を覚えちゃって、停まるたびに「おーーー、ウンコ」とか鼻歌交じりに言ってた。いやいや、最初に覚えた日本語がウンコってなんですかそりゃ。

それにしても、モンゴル人の、というかサムソンの言語を吸収する力は恐ろしい。クーラーのない車内に暑い暑い言いまくってたら「アツイ」とか普通に覚えてたし、旅の終盤戦では「オオツカアイ」とかまで覚えていた。逆に僕がほとんどモンゴル語を覚えてないことを考えるとこれは物凄いことですよ。こりゃ言葉通じないと思って暇つぶしに「元寇なめんな!」とか「神風吹かすぞ!」とか意味不明に叫んでたけど注意しなきゃな。

そんなこんなで、度重なる下痢にすっかり脱水症状ヤロウと化した僕を引き連れてついに車はマンダルゴビという街に。ここで食料やら燃料を補給することになるのだけど、この街がまた凄い。

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もうバラックというか、戦後の焼け野原というか、こう言っちゃ何ですけどCoccoが出てきそうなくらい物凄い焼け野原な貧相な町並みなんですよ。なにこれ?米軍に爆撃されたの?って素で思った。

そんな街にもガソリンスタンドはあるもので、何故かモンゴルのガソリンスタンドはどこも妙にセクシーな姉ちゃんがガソリンを入れてくれるんですけど、そしたら爆音を轟かせてバイクが入場ですよ。

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しかもそのバイクにはどうみても子供みたいなのがまたがってるんですよ。おお、こんなモンゴルの奥地にまで暴走族の低年齢化の波が、と僕なんかは驚くんですけど、実はこれ、結構普通の光景らしい。どうもこの辺ではバイクってのは子供の乗り物らしく、ホントに日本ではムシキングとかに狂ってそうなガキがナナハン級のロシア製モンスターバイクを乗り回してるんですよ。明らかに足が届いてない。自転車に足が届かないとかそういったレベルのお話ではありませんよ、これは。

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で、早速、持ってきた自費出版ぬめり本を売りつけてやろうとスタンドに入ってきたガキどもに話しかけるのですが、言葉が通じないので微妙にはにかまれるのみ。サムソンに現地語で話してもらったのですが、なんか熱烈にいらないって言われました。包み隠さず打ち明けると、無理矢理本を押し付けたのに投げ返された。そんなにいらんのか。

その他にも、食料を買いに行った先やら、街のメインストリート(牛が放し飼いにされてる)やらで適当に声をかけたのですが、全く売れそうな気配がないんです。っていうか、僕はこんな異国で何やってるんだ。

そんなこんなで、食料、水、燃料を補給でき、全く本が売れる気配すらなかったので早くも移動をすることを決意。どうやらこれから先も南下が続くのだけど、南に行くに従って砂漠的雰囲気になる様子。それは僕の金でサムソンが大量に買い占めたミネラルウォーターの量からも伺える。なんと、500mlペットボトル12本入りが6ケースだったからね。サムソンは水キチガイか。

というわけで、微妙な振動を伴う車は街を抜けてさらに南に進んでいくんですけど、みるみる景色が殺風景になっていくんですよね。ここまでは植物とかも生えてる草原で、野生のヤギがいたり馬が水浴びしてたりしてたんですけど、草木一本生えてない北斗の拳みたいな景色になってくるの。

見渡す限り土だけの景色。そんな中を爆走していくと、ポツリポツリとフロントガラスに当たる液滴が。あ、雨が降ってきやがった、と思ったらもう遅いですよ。次の瞬間にはズゴーーーーーっていうね、激しい雨ですよ。雨というよりはスコールって感じのような、バケツの水をひっくり返したような、たまにドラマの「待てよ!」「離してよ!」「おれ、お前のこと好きだ!」みたいなシーンで降ってる「おいおい、そりゃちょっと降らせすぎなんじゃないの」って言いたくなる雨よりも強烈な雨なんですよ。

どれくらい強烈かって言うとですね。あ、雨だ!激しい雨だ!と思った次の瞬間には、

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辺り一面が川っていうか河になるくらいの強烈な雨量です。ほんと、さっきまで草木すら生えてない大地だった場所が一瞬で河だよ、河。

もちろん、そんな場所を走れるはずもなく、ムリムリと走行していたらボコッとぬかるみにはまり込んで動かなくなるわけですよ。

「プッシュ!プッシュ!」

サムソンのヤロウが信じられない英単語を連呼してて、どう自分びいきに都合よく解釈しても車を降りて後ろから押せ、と言ってるしか思えないんですよ。彼は熱烈なアメリカ大統領ファンかもしれない、と現実逃避することもできたのですが、僕もこの豪雨の中で水没とかはマジ勘弁なので、仕方なく車を押すことに。

といっても、僕は替えの服をほとんど持ってきていないのでここで服を濡らしてしまうと大変な騒ぎ。ええ、脱ぎましたよ。スッポンポンっすよ。どうせ周りなんて地平線しかないんです、誰も見るわけないですし、むしろ見られたほうが興奮するってなもんですよ、それはちょっと違う。

とにかく、サムソンが「ワオ!」とか言っちゃうくらい豪快にストリップしましてね、真っ裸で豪雨の中にダイブですよ。

ブモモモモモ!

マジでこんな声が出ちゃうくらい滝のような雨でしてね、背骨とか折れそうなんですわ。しかも足場がすげえぬかるんで、歩こうとするけど歩けない。ズルってなってチンコが揺れるのみ。

それでもなんとか車の後部に回りこんで必死で押すんですけど車のヤロウ、微動だにしやがらない。僕はこんな遠いモンゴルの土地で何やってるんだ。素っ裸で雨の中車を押すとか、お父さんお母さん元気ですか。

しかもサムソンが鍛冶職人がプシュープシューってやるやつみたいに豪快にブオンブオンとアクセルを踏み込むもんですから、世界陸上の織田裕二並みに空回りしたタイヤが泥を跳ね上げましてね、それがモロにヒットですわ。ビショビショビショですわ。

そしたら、ダメだ!と思ったのか僕に触発されたのか、サムソンのバカまで素っ裸になって車から降りてきましてね、僕の横に並んで押し始めるんですわ。素っ裸で車を押す日本人とモンゴル人、ここに国境を越えた絆に全米が涙した!って感じでサムソンの助太刀は本当に有難いんですけど、いやいや、アクセル操作とハンドル操作は誰がやるのよ、アンタが勇んで降りてきたら誰も車操作できないじゃん、ってなもんですよ。彼は頭の中に水死体でも詰まってるんじゃないか。

格闘すること数十分、全裸の僕が押したかいあって遂に車はぬかるみを脱出。泥だらけでフルチンな僕のバンザーイが響き渡ると同時にピタリと雨が止んだのでした。なんだこれ。

もちろん、汚れてしまったからシャワー浴びてくるわ、なんていうセレブみたいな振る舞いが許されるはずもなく、晩飯に街で買った怪しげな中国産のカップラーメンを食って就寝となったのでした。もちろん、サムソンは車でどっかに行ってしまって僕はまたもテントで一人。またあんな豪雨がきたら確実にテントごと流されるぞ、と恐怖に震えながら、乾いてパサパサになった泥を剥いで眠るのでした。

サバイバルツアー3日目

目が覚めると、またどこからともなくサムソンが帰ってきてて野グソしていた。何度見ても野グソ姿ってのは万国共通で情けない。

さあ、三日目もいくぜ!ここまでの二日で本が全く売れてなくて恐ろしい結末が見えてきたけどまだまだ始まったばかり!今日も行きますぜー、と意気揚々と車に乗り込んだところ、ルームミラーに映った自分の姿を見て驚いたのでした。もう、まだ幸せだったころの田代まさしみたいに真っ黒な顔してるじゃないですか。泥かぶって風呂にも入らず過ごしてるもんですから、もう黒人と自己紹介しても通じるほど真っ黒。

うわー、すげえなー

とウットリと鏡を見る僕を尻目に車は発進していきます。見ると、サムソンはいたくご機嫌な様子。なにごとかとジェスチャーとイラストで問いただしてみると、なんでも今日行く場所はすごい楽しみな場所だ、という。

以前からサムソンが行きたくて仕方なかったヨーリン・アムという渓谷に行くらしい。そこは絶句するような岸壁が聳え立ち、夏の季節でも解けずに残っている氷が存在するらしい。なるほど、なんとも素敵な大自然が体感できる場所なのだな、とか思ったのだけど、おいおい、なんでサムソンが行く先を決めてるんだ。そんなの完全に私情じゃないか。自分が行きたいというだけでヨーリン・アムに行く。そこは渓谷があって氷があって自然があって・・・って、そんな場所で本が売れるか!

あのですね、これは本を売る旅なんすよ。本を売る旅。ただでさえここまで全く売れてないというのに、そんな渓谷に行ってどうするんだ。ちゃんと街に行こうぜ、人のいる街に、と切り出したかったのですが、あまりにはしゃぐサムソンにすっかり言い出せず、僕らは一路ヨーリン・アム渓谷を目指すことになったのでした。

たしか、現在の場所からヨーリン・アム渓谷まで数十キロあったんですけど、これまた数時間悪路をひた走って到着。モンゴル奥地にある渓谷ということで素晴らしく荒んだ誰もいない辺鄙な渓谷を想像してたのですが、なんか到着してみると意外や意外、結構観光客がいたりなんかして賑わっている観光地なのでした。なんか結構人がいた。

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まず入り口に恐竜博物館みたいな場所がありまして、その周辺に5軒ほどのお土産物屋さんが。で、なぜか軍人の格好したオッサンが守護しているゲートがあって、そこで通行料を払って山っぽい場所に入っていくとヨーリン・アム渓谷になるって感じでした。ここまで死ぬほどの大自然だったことを考えると随分と人工的な観光地です。

ヨーリン・アム渓谷の入り口みたいな場所に到着すると、なんか各地からドライバーを雇った観光客が集結していて高速のパーキングエリアみたいな状態。

なんかサムソン、ものすごい親しいドライバー仲間を見つけたらしく、ホモなんじゃないの?って言いたくなるくらいベタベタとドライバー仲間と談笑していました。たぶん、その仲間が昔の同級生とかで、「おお!こんな場所で何してるんだよ!」「バカな日本人が砂漠で本売るの手伝ってるんだよ」「バカだな、そいつ」みたいな会話をしてるに違いありません。おまけに昔話に華が咲いて、「そうそう、あのときモンゴル相撲の授業でさー」「そうそう、担任のゲシュタポ先生が」とか会話しているに違いありません。

僕は僕で、一人ぼっちになっちゃったもんだから、その辺にあった小石を賽の河原みたいに積み上げて暇を潰してました。

そしたら仏心を出したのかサムソンが旧友との会話をやめて近寄ってきて

「さあ、ヨーリン・アム渓谷を見に行こう!」

みたいなことを言ってました。言葉が通じないので実際はどうだか知りませんが、たぶんそんなことだと思う。

で、ヨーリン・アム渓谷の奥地まではここに車を停めて徒歩で行くみたいなんですけど、どうやら馬に乗って行くプランもある様子。

「おい、馬に乗っていこうぜ!馬を借りてゴールまで競争だ!」

みたいなことをサムソンが言うんですよ。僕も別に断る理由もないですので、よーし、じゃあ競争だ!みたいなノリでレンタル代金をサムソンに渡して馬を借りてきてもらったのですが、

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おお、なかなかカッコイイな!サムソン!

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なかなか様になってるじゃないか!それに馬も速そうだ!

よーし、俺だって負けないぞ!ゴールまで競争だ!どこだ!俺の馬はどこだ!

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バーン!

これ、ラクダじゃねえか!こんなもんで勝負になるか!

サムソンの罠なのか、馬が大人気で品切れだったのか知りませんけど、競争しようぜといいつつ自分は馬を確保して僕にラクダを渡すその根性。俺、嫌いじゃないぜ。

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そんなこんなで、自分で歩いたほうが早いよ、といいたくなる遅さで歩く僕のラクダに、ハイヨー!と一瞬で視界から消えるサムソンの馬と、何も競争になっていない一方的なワンサイドゲームが展開されてました。俺のラクダ、途中でウンコしてたしな。移動途中にウンコ、まるで誰かみたいだ。

それにしても、乗るためにラクダのコブに捕まってたのですが、これがけっこうパンパンで気持ち良い。オナニーを凄い我慢した時の睾丸みたいにパンパンなんですよ。

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そんな風に睾丸にしがみついて絶景を眺めつつ、渓谷の最深部では夏なのに溶けずに残っている雪を見学。本当はもっと残ってるらしいのですが、コレも地球温暖化の影響なのかほんの少量しか残っていませんでした。うん、だから何?って感じの雪しか残ってなかった。

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恐ろしいことに本を全く売ってない、それどころかこの放浪記が全然先に進まない、そんなことに恐怖を感じつつ、あまりに長いので続く!次回はもうちょっと本の販売やら現地人との相撲対決やらに精を出してます!

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