モンゴル放浪記Vol.4

モンゴル放浪記
Vol.4

前回までのあらすじ
自費出版の「ぬめり本」を売るためにモンゴルに行った。誰も来なかった。ゴビ砂漠の奥地まで売りに行くことを決意。どう好意的に解釈しても騙される以外の結末が見えないブローカー陳の仲介により現地人ドライバー兼通訳兼案内人の男性と契約したpato。

しかし、契約したドライバーの息子が馬に蹴られたという理由で出発数時間前にキャンセル。代わりに来たドライバーがアシュラマンの家庭教師みたいでサムソンティーチャーと命名。しかしこいつがビタイチ日本語を話せない。出発数分でウォッカ飲みだすわ飲酒運転だわで大騒ぎ。果たして僕は無事に旅を続けることができるのか!意味がわからないと思うから詳しくは旅日記1と2および3を読んで内容等を熟知すべし。


サバイバルツアー1日目

モンゴルの首都ウランバートルは舗装されたアスファルト道路だが、ちょっと市外に出るといきなり舗装道路がなくなる。ものの30分くらいだろうか、たったそれだけで文明が消え去り、恐ろしいまでの大自然が待ち受けている。

ジェスチャーと地図、そしてこれがないと意味が分からないということでハンディのGPS受信機を材料に行き先を検討。とりあえずゴビ砂漠に程近いウランバートル南に位置するマンダルゴビという町を目指すことに。なんか300キロくらい南にいくみたい。

ここからはもう道路なんて素敵なものは皆無なので、原始人が猪を追い回したような獣道を使って移動。見渡す限り地平線の中に伸びる獣道を移動していく。もちろん、地図とか道路とかあてにならないのでGPSに表示される緯度と経度だけが頼り。

日本での常識など全く通用しないであろう砂漠横断のサバイバルツアー。生きて帰れるかも分かったものじゃないし、何が起こるのかも分からない。スイッチを押せば電気が点く世界じゃないし、蛇口をひねれば水が出るじゃない。それだけに備えは万全にしておきたい。そんなこんなで、ゴビ砂漠横断行脚ツアーに持っていた心強い装備品を紹介。

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お金、大量!まだまだブルジョアジーです。プロレタリアートなんて一掃してみせます。さすがに未開の地にいくとなっても金は必要。財布がパンパンになるほど入ってます。コレで安心。

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そして、長い時間のドライビングで暇になるでしょうからiPod miniは外せない。日本の音楽に耳を傾け、遠い祖国を思い浮かべるのに必要な逸品です。

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そして忘れちゃならない、NINTENDO DSです。これも暇つぶしには最適。ちなみにソフトは大人の頭の体操だったかなんとかと、なんとかコードっていう推理物でした。

そしてこれらの装備に加えてデジカメ。本を売った証明にガシガシ画像を取ります。容量不足と電池不足を解消するため、デジカメはソニー製とパナソニック製の二つを持っていました。

そして、最後、これがないと生きていけない。極めて必需品な一品。

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大塚愛「さくらんぼ」のCD。これがあればモンゴルでも砂漠でもチンギスハーンでもなんでもこい。CD聞く設備なんてないけど、いつだって愛が一緒。もう10000人力とはこのことですよ。

ってばか!生きるか死ぬかのサバイバルツアーなのに、物凄い心細い装備じゃないか。もっと水とか食い物とか医療品とか持っていくものがあるだろ。ざっと見、金以外役に立ちそうにないじゃないか。とまあ、何かをナメてるとしか思えないラインナップだったのですが、まあ、何とかなるか、と鼻歌交じりに運転するサムソンを見つめて考えていたのでした。

それにしてもモンゴルの草原ってのは物凄くて、これがステップ気候の代表格みたいな景色が飽きるほど広がっているんです。もう360度地平線なんて当たり前ですし、ヤギの大群がメエメエ歩いてる姿に最初は興奮したんですけど、そのうち飽きてきちゃって半分くらい寝てました。

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寝るっていってももちろん舗装されていない道路を爆走してるわけです。道路なんて水溜りの跡とかでボコボコですし、剥き出しになった岩とかに乗り上げてガンガン揺れるんですよ。すっごい家賃の安いボロアパートの隣の部屋で同棲カップルが情熱的に駅弁ファックしてるような、そんな耐え切れない揺れなんですよ。

もちろんそんな悪路ですから、本日の目的地であるマンダルゴビまでは軽く10時間、日没近くまでかかるという予想。300キロの道のりですが、1時間に30キロも進めれば上出来です。死ぬほど時間がかかるんですよね。

そんなこなんで、駅弁ファックの如き揺れをサムソンと体感しながら見渡す限り地平線の中に伸びる獣道を走っていましたところ

ドガン!ガガガガガガガ!

という物凄い音と共に車が走行不能に。どうもあまりの揺れに後輪のサスペンションが耐え切れなかったらしく、タイヤ上部にある無骨なスプリングみたいなのが思いっきりねじ切れてました。

出発して数時間でコレですからね。もうこんな状態ではドライビングは続けられない。おまけに周りは何もない大草原のみ。かといってJAFを呼んだところで来るわけないし呼ぶ手段もない、とまあないない尽くし。笑うしかない。

「jhぢくぁxxqm、お!」

大切な愛車が早くもぶっ壊れたことにいたくご立腹な現地人ドライバーサムソン。訳のわからない言語でとにかく怒っておられました。こっちが怒りたいぐらいだわ。

とにかく、このままでは仕方ないので後輪をジャッキアップ。タイヤを外して故障箇所の状況を観察します。するとまあ、やはり当たり前のようにスプリングみたいなのがボッコリ壊れてましてね、全く衝撃とかを吸収しそうにない状態。これでこの獣道を走るのは無理ってものです。

「おい、サムソン、こりゃ無理だぜ。どうするんだよ」

みたいなことを、言葉が通じないのでジェスチャーと英語交じりで伝えましたところ、何を思ったのかサムソン、いきなり懐からジャキーンとかバタフライナイフを取り出しましてね、それはそれは人を殺せそうなナイフ片手に地平線に向かって走り出したんですわ。

おお、早くも狂ったか。

そりゃね、言葉が通じないやつがいきなりナイフ取り出してあらぬ方向に走り出していったら狂うたかと思いますわ。車が壊れたショックで狂うた、刺されなくて良かった、くらい思いますわ。

ところがどっこい、サムソンは別に狂ったわけでもなんともなくて、はるか地平線の彼方くらいの場所で何かを拾って帰ってきたんです。どうやらこの窮地を脱するブツが落ちてるのを、どういう視力してるんだか知らないけど発見したらしく、それを拾いにいったみたいなのです。

カブトムシを捕まえた少年のように満面の笑みで帰ってくるサムソン、その傍らにはタイヤがしっかりと握られてました。どうも、この辺でパンクした車が遺棄していったタイヤらしく、見るからにボロボロ、もちろん空気だって入ってないのですが、それを使って窮地を脱することができるのか?と思いながら見ていましたところ

ベリベリベリっとね、先ほどのバタフライナイフを使って拾ってきたタイヤを裂き始めるんですよ。煮て食べるの?って聞きたくなるくらい綺麗に短冊状にタイヤを切り刻むの。

「疲れたから変われ、お前も切れ」

みたいな事を、ナイフの一番切れそうな部分をこっちに向けて要求してくるサムソン。もう断ったら殺されそうなので嫌々切るんですけど、これがまたタイヤって死ぬほど硬いのな。全然切れないの。きれてなーい!って言いそうなくらい切れないの。

もう握力がなくなるのを感じつつゴキゴキとタイヤを切り刻むこと1時間。やっとこさ真っ黒いイカソーメンみたいな短冊が50ほど完成しましてね。サムソンも「OK OK」とかご満悦な様子。

だいたいこのタイヤの破片を何に使うんだ、俺にはとんと使い道が見えない。おまけにこの旅も開始数時間にして先が見えない。いやいや、最初から見えていなかったのかも、と悶々と考えながら眺めていましたところ、サムソンのヤロウ、狂ったようにタイヤの破片をぶっ壊れたスプリングのところに詰め込みはじめるんですよ。

ははーん、なるほどね。結局そういうことなのか。今、この車はサスペンションのスプリングがねじ切れていて全くクッションが利かず、衝撃を吸収しきれない状態。だったらそのねじ切れたスプリングにゴムを詰め込めば衝撃を吸収するというわけですな。

そのサムソンの機転に感心しながら作業を見ていたわけですが、なんていうか、その詰め込んだゴムが思いっきりズレてるというか、今にも外れそうというか。ゴムが外れそう、って書くと途端にエロいんですが、とにかく外れそうで危なっかしいんですよ。わお、さらにエロくなった。

しかし、サムソンはそんなことお構いなしで、ジャッキアップした車を元の状態に戻して満面の笑み。「ノープロブレム、レッツゴー」みたいなこと言うてるんですわ。いやいや、物凄いプロブレムじゃないか。見るからにスプリングがずれてて、物理的に色々とおかしい。今にもガコッと外れそうじゃないか、と思うのですが、そんなことはモンゴルでは日常茶飯事のようです。あまり気にするべき問題じゃないらしい。

さすがモンゴルだぜ。ここの人々はこの草原のように、限りなく広がる地平線のように大らかな心を持っているんだ。そんなね、ちょっとスプリングがずれてるとか、それじゃあサスの意味がないとか小さいことはいちいち気にしないんっすよ。そう、ここではこんなこといちいち気にする僕が間違ってるんだ。少しのズレも許せない、セコイ人間になってたよ。

ということで、走れるならまあいいかと旅を続けることに。明らかに壊れた部分のサスペンション能力がおかしくて、ぶっ壊れたお爺ちゃんのように奇妙な振動がするんですが、ノープロブレム。どんどん先に進みます。

しかし、前述したように舗装されていない獣道では移動速度がかなり遅い。トラブルのせいもあってかとてもじゃないが目指すべきマンダルゴビには到達できない気配。朝っぱらから移動して日が落ちる夜11時くらいまでかかって300キロ移動できないんですからね。かなりの悪路であることが伺えます。

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すっかり日も落ち、もちろん街灯なんてあるはずのない道ですので、仕方なくマンダルゴビの手前の人口50人くらいの小さな集落で1日目の旅を終えることに。飯はどうなるのかなって思ってたら、どう考えても民家としか思えない家にサムソンがズカズカと文字通り土足で入っていって、なんか羊の肉が骨ごと入ってたコテコテのスープを振舞ってもらいました。未だにこの民家とサムソンとの関係が謎なのですが、怖いので考えないことにしてました。

さてと、色々あったけど飯も食べたし無事に一日目が終わりましたな、明日も頑張ろうぜ、サムソン。それより今日は寝る場所はどうするのかな?まあ車内泊だよね、シート倒せば二人くらい眠れそうだし、といった眼差しでサムソンのヤロウを見つめていましたところ、サムソン、おもむろに車を走らせましてね、見渡す限り草原であろう場所(闇夜なので正確にわからない)に車を停めやがるんですよ。

で、訳の分からない言語と共に何やら包みみたいなのを渡されましてね、車から降りろ、みたいなこと言ってくるんです。

渡されたのが、組み立て式の貧弱な一人用テントでしてね、どうやら車の中では寝るな、ここでテント立てて寝やがれって主張のようなんですわ。いやいや、なんで車の中で寝ちゃダメなの。僕だけこんな草原で寝るなんて不安がいっぱいだよ、と思うのですが、それを主張するほどサムソンと意思疎通ができているわけではありませんので面倒なことになる前に素直に車を降り、テントを組み立てたのでした。

組み立ててみると、やはり一人用テントというだけあってものすごく小さい。一畳分くらいのスペースしかない。人間一人が横になればそれで精一杯という感じで、気分は寝床というよりは遺体を安置する場所のような感じ。

こんなとこで寝るのかよー、こえーよー不安だよー心細いよー、でもまあ、サムソンの車が横に停車してるわけだし何かあっても大丈夫か、とか思ったんですけど、サムソンの車は僕がテントの設営を終えたのを見届けるとブルルルルルンとどこかに走り出しましてね、なんだか別の場所で寝るみたいなんですよ。あまりの驚きに「おいおい」どころか「OIOI」って言ってましたわ。

ええ、見ず知らずの異国モンゴル、しかも見渡す限り完全な闇であたりに何もないパーフェクトな草原、絶望的に周りに人が住んでないであろう場所にテント立て、得体の知れない恐怖に怯えながら眠りについたのでした。

遠くのほうで野犬だか野生の狼だか知りませんが、正体不明の動物の遠吠えのような鳴き声、分かりやすく言うとX JAPANの人みたいな声が聞こえたのですが、こんなテント、動物の群れに襲われたらひとたまりもない、いざとなったらこのNINTENDO DSを振り回して戦うしかないぜ、とか考えていたらいつの間にか眠っていました。

なぜかテントの天井がメッシュで、雨が降ったらどうするんだと思いつつ、異常に綺麗な星空を眺めて眠ったのでした。明日は本を売れるといいな。

サバイバルツアー2日目

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日の出の強烈な眩しさにより強制的に目が覚める。というか尋常じゃない腹痛と共に目が覚める。時計を見ると朝6時。太陽も半分くらい地平線から出ている。

なんだ、この腹痛は。今までに経験したことないレベルの腹痛。腸とかそのへんのウンコを司ってる部分が全部裏返しになりそうな腹痛。もしや、昨日の羊肉の夕食などに代表されるように、現地の食い物、現地の水を思いっきり摂取していたのが良くなかったのか。

と、とにかくウンコをしなくては・・・。体の中の悪魔を外に出さなくては。そういえば、こんな草原のど真ん中にトイレなどあるはずがない。くっ、僕のような皇族生まれに近い高貴な男が野グソなどという下賎なことをしなくてはならないのか・・。

苦しみながらテントから出ると、昨日は暗くて分かりませんでしたが、やはりここは見渡す限りの大平原。見える範囲では地平線しか存在しないという壮大な風景が。おまけに、あたり一面探してもサムソンの車は見えず、あいつはどこまでいったんだ、と不安に駆られましたが、今はそんなことよりウンコです。

いやね、しかしまあ、僕もこれまでの人生で、駄菓子屋の裏とか、田舎の畑とか、高速の路側帯とか、山下君の部屋とか、色々な場所で野グソしてきたけど、草原のど真ん中でする野グソはシャレにならないよ。マジで爽快。人生観変わる。小学校の時、ウンコマンとか言われるの嫌で頑なに学校でウンコしなかった自分とか、授業中にウンコ漏らした堀部君のこととか、そんなのが銀河の彼方レベルでどうでもよくなるくらい爽快。地平線に向かってウンコする、まさしく地球レベルだからね。

そんなこんなで、明らかに体の異常を知らせる原色レベルに黄色いウンコ(液体)を眺めつつ、まだサムソンが戻ってこないから寝よう、とテントに戻って二度寝をかましていたのですが、夢うつつの中で車がテントの横に停まった音がしたので外に出てみると、そこには衝撃的な光景が。

いやな、サムソンも野グソしてた。

そこは遮蔽物が全くない草原ですよ。生まれたての小鹿みたいになってウンコをするサムソン、その後ろには地平線から昇り来る太陽、まさにライジングサンですよ。もう、なんていうか、野グソしてる姿って万国共通で情けないな、と思いつつ、二日目の旅が始まるのでした。ちなみに僕もサムソンも尻を拭く紙がなかったので拭いてません。

異常に長いので続く。

次回はいよいよマンダルゴビ上陸。そしてゴビ砂漠へ。しかし、コーラ禁断症状が現れたpatoに、さらなるサムソンの魔の手が襲い掛かる。そして、渓谷で見たものとは!さらに、旅の最終地で出会った少女、その数奇な巡りあわせに全米が涙した!お楽しみに!

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