モンゴル放浪記Vol.3

モンゴル放浪記
Vol.3

前回までのあらすじ
世界中にぬめりを知らしめるため、その足がかりとして世界オフ会構想を練りだしたpato。その第一歩がワールドキャラバンvol.1モンゴルオフだった。自費出版した「ぬめり」本を手に、はるばるウランバートルへ。世界の片隅でNumeriを読んでくれてる人がいる、そんな人に会ってみたいし、この本を届けたい。そんな思いだった。

しかし、オフ会自体は参加人数0人という歴史的大敗。さすがの僕も、これを「ウランバートルの悲劇」と呼んでがっくりうなだれ、意味不明な人形の横で膝を抱えるしかなかった。しかし、落ち込んだりもするけれど、僕は元気です。早速、気を取り直して本を売ることを考えた僕。なんとかして持ってきたぬめり本を売り切らなくては・・・。言葉もほとんど通じない未経験の地、モンゴルで僕の奮闘は続くのだった。


さて、オフ参加者0人という事実を真摯に受け止め、ホテルで不貞寝をした僕だったけど、いくらなんでも1冊も売らないうちに帰国じゃあ負け犬も同然。ここはなんとしても売り切らなければ。

そもそも、「Numeriを読んでるモンゴルの人は集まってね♪」じゃあ世界に広めるとか世界に羽ばたくとかなりゃしない。だって集まった人はNumeriのこと知ってるんだもの。場所がモンゴルってだけで、それこそ日本国内の辺鄙な場所でやるのと何ら変わりない。

そんなんじゃないだろう。僕が求めていたのはそんなんじゃないだろう。もっと、こう、なんか、異国の民が、「Oh! Numeri!」とかいうよな、それこそ日本語も通じないような異国人に売ってこそのワールドワイドじゃないか。

日本語も読めないような人に完全日本語の本を売ってどうするんだって話なんですが、とりあえず、現地人に売って売って売りまくることを決意。それも、首都のウランバートルだけじゃなく、完全なる奥地まで出向いて売ることを決意。僕は行動を開始しました。

まず、ウランバートル内で本を販売。それと同時に現地のブローカーみたいな人間を探してレンタカーと運転手を手配。で、そのまま車に乗って南部のゴビ砂漠を横断して小さな集落を巡る。このプランで行こうと策略を立てました。

まず、ウランバートル市内にある、旅行者向けのインフォメーションセンターみたいなのを訪れる。ここは若干の日本語と英語が通じるので楽。そこで日本語の通じるブローカーを紹介してもらい、その人に会って車とドライバーを手配してもらうことに。

で、ブローカーとは夜に会うことになってるのでその間に市内を放浪。なんとか本を売りつける機会を伺いつつ銀行を探す。ここウランバートルは、バブル期の日本のようで銀行がとにかく強い。全体的に貧民窟のような土塗りのボロボロの建物が主流の中、銀行建物だけ金ピカでご立派。立派な建物を見たら銀行と思え、過言でないほど極端にその傾向がある。

なぜか門の左右にライオンの像があって値段の高いソープランドみたいになっちゃってる銀行の門をくぐり、日本から持ってきたUSドルをモンゴル通貨トゥグルクに両替。借金して1500ドルほど持ってきたのだけど、それを全部両替、とんでもないお金の量に。だいたい1ドルが1000トゥグルクくらいだったから150万トゥグルクくらいに。もう札束になってた。

銀行を出て町を徘徊していると、待ち行く人々全員が盗っ人に見える、それほどの大金を手にしているわけだ。軽くその辺の飯屋で飯を食ってみると、だいたい1000トゥグルク(約100円)あれば満腹に飯を食うことができる。それを考えると150万トゥグルクは死ぬほどの大金だ。道行く人も、子供も、ほら、あの老婆だってこの金を狙っているかもしれない。

そんなこんなで、まるで懐を厳重にガードするかのような不自然な体勢で歩いていたところ、道端で古本を売るオッサンを発見。普通、道端で物を売るってのは敷物とか轢いてやるだろうに、まんま路上に本を並べて売っている信じがたい光景。もっとましな方法は考えられなかったのだろうか。

とにかく、コイツなら間違いなく買ってくれるだろうと、まずは路上売りに接近して並んでいる本の品揃えを見る。

モンゴル語、ロシア語、英語、様々な言語の様々な分野の本が並んでいる。おそらく、誰かが家にあったいらない本などを売っているのだろう。性根の入った古本屋だ。まさにモンゴルのブックオフ。

そんな中にあって、日本の本もあったのだけど、モンゴル人に日本語なんてわからねえよ、適当に売っとけ!と悪いやつが売ったのだろう、とてもじゃないが酷い品揃え。

まず、日本麻酔学会だかの学会の要旨集が立ち並ぶ。それに続いて兵庫県版のタウンページ、挙句の果てに静岡版のタウンページですからね。誰がモンゴルで兵庫や静岡のお店探しするんだ。こんなもん、モンゴル人でなくても日本人でも買わないわ。

ここは一発、マトモな日本語の本ってヤツを見せてやらないといけないな、そう思い、これがマトモなのか定かではないのですがリュックから「ぬめり」本を出すのでした。

「ヘイ、ジャパンのクールな本を売ってやるぜ!」(つたない英語)

とまあ、本を売ってる小汚いオッサンに話しかけましたところ

「ホントかい!?そいつはご機嫌だぜ!」(英語)

みたいな事を返されました。何にせよ英語が通じるようで好都合。颯爽とぬめり本を手渡します。

「とてもグッドな本だな、紙も綺麗だ。これはどんな種類の本なんだい?」(英語)

パラパラとページをめくるオッサン。どんな本だとか聞かれても困るのですが、何とか答えます。

「日本で最も有名なウェブサイト管理人が書いた本さ!」(つたない英語)

とまあ、バレないだろうと思って嘘8000言っている僕がいたわけなんですが、オッサンはたいそう本が気に入った様子。中身なんて分からないんでしょうけど、綺麗な紙で新品の本ってのは紙不足(森林が少ないため紙は貴重)なモンゴルではお宝のようです。おまけに日本語の本も貴重らしい。

「4000トゥグルク(約400円)で買おうじゃないか!」(英語)

この本、すっごいアバウトに「お釣りがめんどくさい」という理由で決めた定価は1000円なのですが、オッサンからは4000トゥグルク(約400円)の提示。でもまあ、なかなか良い値がついたものです。ここでは1000トゥグルク(約100円)でたらふく飯が食えることを考えるといい値です。

「OK」(いうまでもなく英語)

と販売を快諾。オッサンもご満悦といった表情でぬめり本のページをめくります。で、最後のページをめくってピタリと手が止まるオッサン。

ぬめり本の最終ページには著者近影と称して僕の顔写真がドデーンと載っているのですが、それを見て僕の顔を見て、とマジマジと繰り返しているのです。それで、

「この写真はユーかい?」(英語)

みたいなことを聞かれたので、自信満々で得意気に

「YES!これは俺が書いた本だぜ!」(つたない英語)

と返しましたところ、オッサンはたいそう驚きまして、

「おおおーーーー!ユーが書いたのか!2000トゥグルク(約200円)で買うよ」(英語)

値段下がったー!僕が作者だと分かった途端に値段下がったー!ってなもんですよ。微妙にブロークンハートするじゃないか。

そんなこんなで、間違いなくその直後から他の古本と同じく店頭に並べられたのでしょうけど、ウランバートル市にて1冊売ることに成功。場所はスフバートル広場の北側角、変なビジョンがある近くです。毎日昼過ぎから店を出しているようですのでお立ち寄りの際には是非覗いてみてください。

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とまあ、なんとか1冊売ることに成功。あとは現在手配中のドライバーとスクラムを組んでゴビ砂漠を放浪。小さな集落を転々として本を売り切るだけです。残った9冊のぬめり本、きっと売ってみせるぜ。

そんなこんなで、現地ブローカーに会う約束をしていた時間になったので指定されたオープンテラスみたいな場所へ。そこでペプシコーラを飲みつつ待っていると、

「コニチワ」

という片言の挨拶と共に、どう好意的に解釈しても「騙される」以外の結末が思いつかない怪しげな人物が立っているじゃないですか。小太りで中国系、間違いなく名前は「陳」みたいな人物が薄ら笑いを浮かべて立ってるんですよ。

こえー、ゼッタイ騙される、尻の毛まで抜かれる、と思いつつも久々に聞く日本語にいたく感動した僕は明日から始まるゴビ砂漠放浪の交渉を始めます。

「わたしの手配したドライバーとレンタカー、セットで10日間80万トゥグルク(約8万円)アルヨ」

みたいなことを言う闇ブローカー陳。普段なら80万という響きにブルってしまうのですが、よくよく考えたら今現在の僕はトゥグルクとはいえ150万もの大金を持つ選ばれし者。即決でOKの返事をします。すると、

「明日出発ということで急ぎアルヨ、運転手を連れてきてるアルヨ」

と言い出す陳。見るとオープンテラスの入り口のところにはにかんだ初老の紳士が立っているじゃないですか。

「彼が運転手ね、こう見えてもワイルドな運転アルヨ」

「ヨロシクオネガイシマス」

どうやら、陳にリクエストした通り、若干の日本語は通じるようで安心。年齢的に過酷なゴビ砂漠横断に耐えられるのか心配だったけど、そこはまあ、何度も経験があるという言葉を信じることに。やっぱ日本語が通じるって大きいよ。僕と運転手はペプシを飲みつつ固い握手を交わすのでした。

「もう彼のスケジュール抑えてるね、前金を10万トゥグルク(約1万円)払ってあげて欲しいアルヨ」

なるほど、確かにそうだ。彼のスケジュールを10日間抑えてしまってるのだから前金を払うのは当然。そう考えて僕は彼に10万トゥグルクを払い、さらに陳にも仲介手数料みたいなのを払ったのでした。

さあ、これで準備は整った。明日からは長く苦しいゴビ砂漠横断の旅。辛くて泣いちゃうこともあるかもしれないけど、僕は絶対に本を売り切ってみせる、ゼッタイに。

明日からは過酷な旅だ、しっかりと睡眠を取って体力を温存しなくてはな!僕はまだお子様だって起きているような時間にホテルのベッドに潜り込み、スースーと寝息をたてるのでした。

深夜1時。

突如けたたましく鳴る部屋の電話。初日は電話が繋がってなくて「ひっでえホテルだな!」とか思ったのに、なんで今日は繋がってるんだ!という素朴な疑問が浮かぶはずもなく、寝ぼけた頭で受話器を取ります。

「もしもし、陳です」

深夜の闇ブローカー陳からの電話。何事かと適当に相槌を打ちつつ寝ぼけた頭で聞いていると、陳のヤロウがとんでもないこと言いやがるんです。

「今日紹介したドライバーなんですが・・・息子さんが馬に蹴られて重傷アル。入院するから、明日からの旅に参加できなくなったアルヨ」

ちょっ・・・おまっ・・・!この21世紀の世に「馬に蹴られた」ですよ、「馬に蹴られた」、ありえない、ありえるはずがない。

「でも安心。急いで変わりの運転手を紹介するね、予定通りに出発アルヨ」

クサレ陳のヤロウがすごい大船に乗ったつもりでいろ、みたいなこと言ってくるんですけど、普段の僕ならここで怒りのアフガン。陳の日本語ボキャブラリーが増えるほど罵声を浴びせるのですが、なにせ寝起きです。代わりが来るならいっか、と非常に軽いノリで電話を切って眠りについたのでした。

翌朝。

約束どおり早朝に待ち合わせ場所のホテル前で孤児のように座って待っていると、そこに一台の車が。陳のクサレはいないようですが、どうやらこれが急遽用意されたドライバーのよう。

見てくれは最初のドライバーと違って非常に若い。僕と同じ歳かそれ以下くらい。浅黒の肌で、見た感じアシュラマンの家庭教師だったサムソンティーチャーにそっくり。一瞬で彼のことを心の中でサムソンと呼ぶことが決定。

「やあやあ、よろしく」

紳士的にサムソンに握手を求めると、

「nmfhiwwejfiorgji」(なんかモンゴル語)

なに言ってるのか全然分からない!

日本語のできるドライバーの代わりだから日本語ができると思った僕が甘かった。それでもさすがに英語くらいは、と、

「ナイストゥーミーチュー」

みたいなことを汗かきながら話したら

「nmfhiwwejfiorgji」(なんかモンゴル語)

これまた何言ってるのか分からない。おいおい、日本語も英語も通じないやつと旅するのか。こんなのよこしてどうするんだ。やりやがったな陳のクサレ外道め!おまけに最初のドライバーに払った前金タダ取りじゃねえか!

不安と怒りが渦巻く中、言葉の通じないサムソンと僕の二人旅が始まるのでした。

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雑多なウランバートル市街を抜けると、すぐに都市的景色が消えて綺麗な草原が広がります。なんだか知りませんがサムソンもご機嫌な様子で鼻歌なんか歌っちゃってます。

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途中、変な、エヴァのできそこないみたいな像が見えたのですが、それを見た瞬間、サムソンが急に車を停めて降りろと促してきます。

もしや陳は完全なる詐欺で、サムソンはホモ。僕は陳にはめられてサムソンに売られたかと一抹の不安がよぎりましたよ。そいでもって、ここで尻の穴を頼もしいほど反り返ったサムソンのエクスかリバーで掘り返され、僕は泣く泣く帰国、内股で帰国。そんな不安がよぎりましたよ。

しかしまあ、これは実は旅の神様とそんなものみたいで、旅する人はこの像の周りを三度回って旅の安全をお祈りするみたいです。

僕もサムソンもアホの子のようにグルグルと像の周りを回ります。すると、サムソンは車の中から何かビンを出してきて飲め、とジェスチャーで促します。

これで身を清めるわけだな!と渡されたビンを見ると、

「ウォッカ」

おいおい、ものすごいアルコール度数の高い酒じゃないか。こんなの飲んだら俺は間違いなく酔っ払ってゲロ吐くぞ、と思うのですが、郷に入っては郷に従え、モンゴルでそういう習慣があるなら飲むしかありません。

きっつい酒だなーと思いながらチビチビ飲んでいると、サムソンのヤロウ、ゴッキュンゴッキュン飲んでるじゃないですか。ちょっ・・・おまっ・・・車の運転・・・飲酒運転・・・と思った時は既に遅く、妙にハイテンションになったサムソンに抱えられるようにして車に押し込められ、いよいよゴビ砂漠放浪の旅が始まるのでした。

「レッツゴー!」

ウォッカがぶ飲みして上機嫌、ハンドル握りながら踊りだしそうなサムソンの叫びだけが車内に響き、僕はあまりの不安に早くもお腹が痛くなってきたのでした。っていうか、おまえ、英語できるんじゃないか。つづく

想像以上に過酷な旅、驚きの連続、愛、友情、そして裏切り、大緊迫の砂漠放浪編をお楽しみに!

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