午前5時のミステリー -出題編-

午前5時のミステリー
-出題編-

その日、異常に早起きした僕は朝もやの中を仕事場に向けて車を走らせていた。大して好きな仕事でもなかった。そこまで情熱をかける仕事でもなかった。けれども起きてしまったものは仕方ない。出勤時間より大幅に早く車を走らせていた。

どこ薄暗く、それでいてどこか明るい。まるで空気が澄んでいるかのように清々しい通勤経路は、普段のソレとは大幅に違う。なんとなく心踊る気分にさせてくれるのだった。

早起きは三文の得とはよく言ったもので、それだけで爽やかな気分にさせてくれる。心なしかアクセルの踏み込みも強くなり、スピードが早くなるが気にしない。こんな早朝だ、他に車もいなければ信号も全部点滅信号、パトカーだっていやしないんだから。

いつもの道路をいつも以上の速度で駆け抜け、まっしぐらに職場を目指す。見通しの良い直線道路、左右は畑のみ。ふと前方を見ると、はるか1キロほど先だろうか、どうにも理解できない光景が広がっていた。

最初こそは、あれれ何か辺だな?と思う程度だったが、猛スピードで接近するにつれてその光景は徐々にハッキリと見えてくる。おかしい、何かがおかしい。

前方の交差点には、とてもじゃないが理解しがたい光景が広がっていた。なんか、交差点のど真ん中に黒っぽい車が止まり、ピクリとも動いていないのだ。1キロ先から見えていた時から微動だにせず止まっていることを考えると、もう数分は交差点のど真ん中に車が止まっていることになる。

おかしい。なんであんな場所に車が、それもずっと止まってるのだろうか。いくら早朝で車通りがほとんどない時間帯だといってもおかしい気がする。

警戒心を強めながら、スピードを緩めて問題の交差点を通過する。やはり交差点の真ん中には微動だにせず黒い車が止まっている。一体なんだろう?そう怪訝に思いながら、ゆっくりと車の左側を通過する。そこで衝撃が走った。

ずっと見えていたのは止まっている車の後ろ部分だったのだけど、前に回ってみてビックリ。車の前方部がグシャグシャに潰れているのだ。もう車の跡形もないといったレベルで大破しており、あたりにライトやらバンパーだの部品が散乱。おまけに変な液体がベチョベチョと流れ落ちていた。

こ、こりゃあ事故や!きっと事故や!

こういうこと言っていいのかどうか分かりませんけど、僕は大変興奮しました。ここに置いてある車は明らかに事故によって交差点に横たわっています。しかも、警察やら野次馬の姿が皆無ということから考えて、おそらく発生直後。僕が第一発見者である可能性が高いのです。

しかも、普通なら事故車の横に運転手なり何なりが立っていて「参っちゃうなあ」といった味のある表情を見せてくれたりするものなのですが、それもない。もしかしたら、瀕死の状態の運転手がいまだ運転席で気を失っているかもしれません。

こ、こりゃあ、早く助けねば!

早速、路肩に自分の車を停めた僕。慎重に左右を確認してから事故車に近づきます。僕は第一発見者として運転手を救う義務がある、大丈夫任せろ、俺に任せておけ、もう安心だ。

「大丈夫ですか!?」

スモークが貼られた運転手側のドアを勢いよく開け、そう呼びかけました。ハッキリ言って、この時の僕は大変男前だったと思います。ムチャクチャカッコよかったと思います。

しかしながら、運転席はもぬけのから。車内に誰もおらず鍵は挿したままでした。

おかしい。何かが明らかにおかしい。言い知れぬ恐怖が僕を襲いました。

早朝、誰も人通りのない農道。信号だってまだ点滅信号なローカルな交差点の真ん中に一台の大破した車。おまけにその中にも周囲にも運転していたであろう人はいないのです。一体何が起こったのか。まさにミステリー。

呆然と立ち尽くす僕。とりあえず、誰もいないんじゃ話にならないのでそのまま帰ろうかとも思ったのですが、この早朝のミステリーに興味津々だった僕。とりあえず事の成り行きを見守ろうとその場で待つことにしました。

で、他の車が来た時に交通の邪魔にならないよう、交差点内に散乱した車の破片を拾い集めます。しかしながら、その破片を拾い集めながらある事実に気がついてしまったのです。

この車、どこにぶつかったんだろう?

見るも無残に大破している車です。かなりのスピードでどこかに衝突し、そのまま大破したのは一目で分かります。しかしながら、その衝突した物がどこにもないのです。

前述したとおり、見通しのよい農道の交差点。衝突するようなガードレールや塀などはどこにまりません。おまけに、放置されている車は一台だけ。相手になるような車も存在していません。

午前五時。
農道の交差点に放置された黒い車。
消えた運転手。
そして、どこにぶつかって大破したのか分からない状況。
何が起こったのか。

全てがミステリーで不可解でした。一体、この事件の真相はなんなのか。真実は一つだけ。ただただ壊れた部品を片手に、交差点に立ち尽くす僕がいました。

ということで、次回、「謎解き編」に続く。途方もない事実と真実がそこにある。みなさんも推理してみてくださーい。

次回予告
交差点に放置された一台の車。消えた運転手。
「携帯電話貸してもらえるっすか?」
「そこの工場がね」
「大丈夫大丈夫」
「うけえええええええええええええええええ!」
交差点の中心でキチガイが叫ぶ。到着した警官に疑われるpato。こんなことなら見てみぬ振りして帰ればよかった。そして、謎の人物がついに事件の核心に迫る!こうご期待!

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