引越し戦線異常あり-中編-

引越し戦線異常あり
-中編-

とある方に言われました。「クロネコヤマトのCMなどを見ていると凄く優雅な引越しに見えるんですけど・・・」などと。なるほど、確かにその通りです。引越し屋に頼み、梱包から積み込み、運搬に至るまで全てやってもらう、確かにそれは楽だと言えます。

しかしながら、そには当然ながらお金と言うものが発生します。それに見ず知らずの他人の手が加わることによる羞恥心と言った問題もあります。そう、大量の産業廃棄物のごとく溜まりまくったエロ本の山や、各種エログッズ、貰った女子高生の制服に至るまで、僕の私生活全てが他人に見られてしまう。さすがにコレ、いささか恥ずかしいものが御座います。

それに、なんというか人間の温かみがないじゃないですか。自分で苦労して梱包して運搬する。エロ本を縛ったヒモをエロ中学生に解かれて泣きそうな思いをする。予想だにしなかった古の物品を発見し思い出に浸る。自らの手による引越しにはこういった暖かさがあるのですよ。

親父がわざわざ田舎からトラックで出てきてくれて、仕事まで休んで引越しを手伝ってくれる。そういった親子愛というかなんというかの人間ドラマもありますし、苦労はするものの、やっぱり自らの手による引越しはいいな、そう思うのです。お金もあまりかからないしね。

そんなこんなで、まっこと苦労した僕の引越し話の続きです。前回は現代の使い捨て文化の象徴の如きゴミの山(主にエロ本)をなんとか処分し、親父が到着するまでに引越しの体裁を整えることにしました。やってきた親父は、、これから息子が引っ越そうとしているというのに、それはそれは立派な生魚を発泡スチロール4箱も持ってきやがりまして、「お前、料理して食え」などとおっしゃっていました。彼は手伝いに来たのか邪魔しに来たのか、全く持って謎で仕方ありません。

「とにかく荷物を運び込もうや」

とりあえず荷物のことは置いておき、先ほどまとめた荷物をトラックに積み込もうと促しました。このまま生魚に驚愕しているだけでは、いつまで経っても引っ越せません。

「じゃあな、大きな家電品をワシのトラックに積み込め。で、お前の荷物とか衣服とか、当面必要になりそうな小物をオマエの車に積み込め」

何故だか知りませんけど、親父はそう指示しました。僕としては大物家電品も小物も親父の車に積み込み、親父はトラックに乗って新天地へ、僕は自分の車に乗って新天地に向かう計画でした。しかしながら小物と大物を分けて乗せろという親父の指示、全く持って訳が分かりません。

「なんでよ?全部トラックに乗せればいいじゃん」

「ダメだ、分けろ」

僕も必死で反論するのですが、詳しい事情説明は一切なし。全く持って取り付くしまがありませんでした。彼は言い出したら聞かない性質ですし、こんなことで口論していてはいつまで経っても引っ越せません。とにかく親父の言う通りに小物を僕の車に積み込むことにしました。

しかしながら、ここで問題が一つ。僕の車の車内はNumeriキャラバン終了時の時のままなのです。そう、全国で皆様から頂いたお土産や差し入れの数々(食えるものは食っちゃいました)何をトチ狂ったのかコアなエロ本やバイブ類など、それはそれは見るも無残な物品で溢れかえっているのです。その量たるや相当なもので、とてもじゃないがここに小物とはいえ引越し荷物が積み込めるとは思えません。

「じゃあ、積み込めるように車の中を片付けるわ」

すげーめんどくせー、と思いつつも、渋々と後部座席を片付ける僕。キャラバンで全国を回った際に貰ったバイブやらバスケのユニフォームやらストッキングやら生理用品やらアナルに出したり入れたりして楽しむボールやら、おおよそ正常な人間の所有物とは思えないものがボコボコ出てくる始末。一体どんな車やねん、と自分で自分にツッコミを入れつつ片付けました。

「おい、まだ片付かないのか。一体どれだけ散らかしてるんだ」

そこに痺れを切らした親父が歩み寄ってきます。そりゃ、はるばる遠くから引越しを手伝いに来て待ちぼうけくらったんじゃ彼だって怒ります。その怒り、ごもっとも。まあ、それは良く分かるんですけど、問題は別の場所にあって、親父が片付ける僕の横にやって来た時にですね、ちょど僕はイボイボつきの極悪なバイブをビニール袋に今まさに押し込まんとしてる時でしてね、なんというかモロに見られちゃったんですわ。なんか親父、どう反応していいのか分からないといった複雑な表情をしてた。

僕が高校生だった頃、タバコを吸ってる姿を親父に目撃されて殴られたことがありました。僕が高校生だった頃、クラスの女子と放課後に歩いているところを4トントラックに乗った親父に目撃されたこともありました。他にも数え上げたらキリがないほど色々な姿を親父に目撃され、幾多の辛酸を舐めてきたわけなんですが、もうなんというか、バイブを必死で袋に詰める姿ほど情けないものはなかった。引越しとかそういったものを超越し、人生自体がどうでもいいものになりつつあった。

そんな悲しき親子のすれ違いを乗り越え、いよいよ引越しが始まる。大型の家電品を親父のトラックに積み込み、生活雑貨の詰まった小物ダンボールを僕の車に積み込む。なんとも気の遠くなるような作業だが、昨晩の涙のエロ本捨てのことを考えれば軽い軽い。それに二人掛りだからなんとかなりそうだ。

「ワッセ、ホイセ」

奇妙奇天烈としか思えない親父の掛け声を受けつつ、なんとか二人で協力して家電品をトラックに積み込む。冷蔵庫にテレビ、電子レンジに洗濯機、他にも大物の棚とかを積み込む。あまり大きなトラックではなかったので、瞬く間に親父のトラックの荷台は満杯になりました。

で、次は小物ダンボール。小物とはいえ、さすがに生活用品を詰め込んだダンボールなのでその数はなかなかのもの。なんとか必死で僕の車に積み込んだのだけど入りきらない箱がいくつか。これはもう仕方ないので親父トラックのほうに乗せたのでした。

さて、これで部屋のほうは空っぽになりました。数時間前まで極度に日常だったこの部屋を鑑みると、ここまで引っ越し体制が整ったのは奇跡とも言えます。もう怖いものなんて何もない。引越しでも何でもかかってこんか。

とか思うのですけど、僕はふと我に帰り、「まだ新天地での新居が決まっていないんだった」ということを思い出したのでした。うん、出て行く体制は整ったのだけど、無残なほどに受け入れる先が決まってなかった。

「おまえ、引越し先での部屋は決まってるのか」

「当たり前、決まってるよ、ハハハハハ」

引越し先が決まっていない、なんて言ったら親父に殺されかねませんので、最初に合流した時に僕はこう答えたのでした。こんなことを言ってしまった手前、親父の目の前で大っぴらに部屋探しをするわけにはいきません。

荷物の積み込みが終わり、必死なまでに部屋の掃除をしている親父を尻目に部屋を抜け出し、僕はあらかじめ調べておいた引越し先での不動産会社に電話をしたのでした。そう、まるで人目をはばかるかのように部屋探しを始めたのでした。

「はい、○○不動産です」

「あ、すいません、部屋を探してるんですけど・・・」

「はい、どんな物件がよろしいでしょうか?」

「えっと、とにかくすぐに入居できる物件です

「はあ・・・他に条件などは・・・」

「ありません」(きっぱり)

「・・・でしたら、○○町にある物件で家賃はXX万円のものがあるのですが」

「じゃあそこでいいです。今日行きますので用意しておいてください」

かつてないほどに豪放な部屋探し。間取りとか立地条件とか関係なし。部屋の下見とかそういったもの皆無。もうなんというか、下手したらギネスに乗るかもしれないほどに豪快な部屋探しです。不動産屋の人もさぞかしビックリしてました。こんな部屋探し、やまだかつてない。

さあ、これで引越しの体制は整いました。異常に大変な引越しでしたが、出て行く準備も完了、受け入れ先の部屋も決まりました(どんな部屋かは知りませんが)。あとはトラックと僕の車で連なって新天地に向かうだけです。意気揚々と親父が掃除している部屋に戻りましたところ、そこには驚愕せざるを得ない信じられない光景が広がってるのでした。

いやな、親父のヤツ、掃除の手を中断してぬめり本を熟読してた。

(注:ぬめり本-思い出話を中心にNumeri日記をまとめた自費出版本。つまらない、21世紀最大の悪書との評判高し。当然ながら親父ネタ満載の本)

うん、売れ残ったぬめり本を5冊ほど空になった押入れに置いてたんだけど、親父のヤツがそれを発見して読んでやがった。ぬめり本を買って読んだ人なら分かると思うんだけど、最初の話が「嵐の中で」っていうモロ親父ネタなんだけど、それをかなりの勢いで熟読されてた。もう死にそう。

まあ、親父は不気味なくらいに無反応で、著者が他でもない自分の息子だと気がついたのか、そもそも何も気がついていないのか知らないけど、なんとも微妙な反応を見せてくれてました。

バイブやらぬめり本やらを目撃され、できれば記憶の片隅に封印したい思い出を量産しつつ引越しは終了。あとはトラックと僕の車で移動することとなりました。

「じゃあ、いこうか」

手伝いに来てくれた親父の愛に感謝しつつ、もうちょっと頑張って引越しを完了させちゃうかと問いかけたのですが、

「はあ?何言ってんだ。まだ不動産屋に部屋を引き渡さなきゃいかんだろ。勝手に出て行ってはいそれまでよってわけにはいかんだろ」

などと、キチガイ親父に至極真っ当なことを言われ諭されてしまいました。うん、確かにその通り、すっかり忘れてたわ。

で、不動産屋への部屋の引渡しのことをすっかり忘れていた僕。またもや親父の目を盗んでコソコソと不動産屋(今度は広島の)に電話。「もう出て行くからすぐに部屋の点検に来てほしい」と伝えました。その返答は「今日はもう無理だから明日立会いに行く」という冷酷無比なるもの。なんというか、このまま引っ越すわけにはいかなくなったのでした。

「なんかな、不動産屋は明日来るってさ。今日は出発できないわ」

と親父に告げました。引っ越す気満々の親父にそのような不手際を露見し、しかも出発できないなどと言ったら烈火のごとく怒られるかと思ったのですが、

「ふむ、それならば仕方ないな」

などと予想に反して柔和なもの。こちらが拍子抜けするほど穏やかに翌日出発を了承されたのでした。しかし、その後に続く彼のセリフが僕を地獄のどん底に叩き落すこととなったのでした。うん、ここからが引っ越し地獄の本番だった。今までの地獄が天国に思えるほどの地獄の到来だった。

「あのな、ワシ、今日はもう帰らなきゃいかんのだわ。だからな、ワシはこのままトラックを運転して帰る。載ってる冷蔵庫やらテレビやらは欲しがってる友人がいるからソイツにやるわ。お前は引っ越し先で新しく買えや」

そう言うと彼はやおらトラックに乗って走り出し、僕の命とも言える家電品を満載にして地元鳥取へと旅立っていったのでした。うん、テレビも冷蔵庫も洗濯機も電子レンジも、ちょっとお気に入りの棚も、全てを満載にして親父トラックは旅立って行った。

「え?ちょっとまってよ。家電品返してよ」

家電品を全て奪われてはかなわんと思い、まるで好きな子が転校するとかなんとかで家具満載のトラックを追いかける少年の如くですね、僕の家電品を満載にした親父トラックを追いかけたのですが、さすがに追いつけるはずもなく、僕の愛すべき家電品たちは見事に親父にかっさらわれていったのでした。

というかな、親父は引越しを手伝いに来たんじゃないと思う。最初から僕の家電品をシーフの如く騙し取るのが目的だったんだと思う。だから家電品と日用品を分けて載せろなんて言ったのだと思う。くそ、計画的犯行じゃねえか。親子愛が聞いて呆れるぜ。

そんなこんなで、引っ越すつもりで全部積み込んでしまい、おまけに家電品を全て親父に奪われたため、何も無くなってしまった部屋に一人佇みながら、僕は引越しとは何と寂しいものだろうと涙するのでした。明日、不動産屋に引き渡すまでこの部屋で過ごさねばなりません。

前日からマトモに寝てなかったためか、何もない部屋でも、家電品を全て失ったショックがあろうとも、眠たくなって寝てしまうもので、全てを運び出して「こんなに広い部屋だったのか」と感じる部屋の真ん中で大の字になって眠るのでした。

夜中寒くなって目が覚めたので、積み込み忘れてたカーテンを窓から剥ぎ取り、カーテンに包まって朝まで深く深く眠りましたとさ。

次回、引越しシリーズいよいよ完結。
不動産屋のセクシーダイナマイト社員との対決。
そしていよいよ新天地へ。
新しい部屋の契約はどうなるのか。
そして新居は。
感動のフィナーレ、君は世界一無残な引越しを垣間見ることになる。乞うご期待

関連タグ:

2004年 TOP inserted by FC2 system