ボッタクリ風俗店と対決する

ボッタクリ風俗店と対決する

風俗店。

こう聞くと皆さんの反応は人それぞれだと思う。特に女性の人などは聞いただけで「いやっ!不潔!」と毛嫌いする人も多いだろう。男性でも毛嫌いする人はいるだろう。しかし、多くの男性にとって風俗店とは日々の疲れを癒す場であったり自分の欲望を叶える場であったりする、まさしくパラダイスなのだ。

風俗店は僕ら非モテの受け皿だ。世の中には、イケメンでモテモテ女をとっかえひっかえなんていう輩ばかりではない。そうなるとどうしても金を払ってでも性処理する必要がある。そこで登場するのが風俗店だ。

世の中ってのは素晴らしくできてるもので、一万円も出せば普段は口も聞けないようなカワイイ娘が裸になってチンコをチュッパチャプス、それでお釣りまで来る、なんてのが普通に存在するのだ。まさに非モテの聖地、桃源郷、命の洗濯、そういっても過言ではない世界がそこに存在するのだ。

というわけで、名実共に非モテであり、風俗雑誌ライターを片手間にやった経験もある僕も当然ながら風俗産業に対して肯定的ではあるのだが、それでもどうしても許せない事が一つだけある。それが「ボッタクリ風俗店」なる存在だ。

もともと、風俗店なんてのはクリーンなイメージなどとは程遠く、ある種のアングラ的要素は兼ね備えて持っているものである。健全なんて言葉は程遠い商業ジャンルだ。ある種のアングラ要素は仕方がないし、それ自体が魅力だったりするのだ。

しかしながら、それに付込んで悪事を働く輩がいる。それがボッタクリ風俗店だ。簡単に言うと、言葉巧みに客を店の中に誘い込み、暴力を含むあらゆる手段で法外な料金を毟り取る風俗店のことだ。風俗や下半身に関する事柄だけに被害者も訴えにくいというところに付込んだ犯罪であり、さらにはアングラ的である風俗店の隙間をついた極悪非道な行為とも言える。

僕自身、もう28歳といういい年したオッサンである。当然ながら下半身の処理が切実となる時期もあったわけで、恥ずかしながら風俗店のお世話になた事がある。

しかしながら、風俗店の持つアングラさが受け入れられないという部分や、ボッタクリに対する恐怖などから、実は数えるほどしか利用したことがない。それで風俗誌に文章を書いていたりするのだから、世の中ってのはつくづくいい加減なものだと思う。

さて、諸悪の根源とも言えるボッタクリ風俗店だが、実際にどのような形で行われるのか、僕のもとに寄せられた相談メールと一緒にケーススタディとして学習してみよう。

「patoさんこんにちは。いつもNumeriを楽しく読んでいます。相談というかお願いなのですが、どうしてもpatoさんにお願いしたいことがあります」

読者の方から実際に寄せられた相談メールだ。なんでも切実な相談もしくはお願いがあるらしく、全く見ず知らずの僕にお願いしようという腹らしい。そこまで信頼されても困るものがあるが、とりあえず先を読み進めてみる。

「就職活動で東京に上京した際、空き時間に打ったパチンコで大当たり。1万円ほどのお金が手に入りました。そこで、僕は今まで風俗経験もなかったことだし、せっかくの大都会東京です、風俗デビューを果たそうと考えたのです」

なるほど。悪銭身につかずとはよく言ったもの。ギャンブルで得た金を普段やらないことに注ぎ込む。そうすれば自分の中での新しい世界も開ける。なんとも奨励したい行為だと思います。良い姿勢ではないでしょうか。

「場所は新橋でした。JRの駅から歩いて数分。確か歩道がアスファルトじゃなくてタイルで舗装されている場所でした。いい店はないか、せっかくならセーラー服の店がいい、なんならナースでも。そう考えて歩いているとスーツを着た男性に呼び止められました」

田舎から出てきた青年が、半分口をあけて高い位置にある風俗店の看板を見回し、ナースやらセーラー服という文字を探す。ハッキリ言ってボッタクリ業者からしたら鴨がネギ背負っておまけに調味料までも携えているような状態です。明らかに狙われる。

「男は手にチケットのようなものを持っていました。で、7000円ポッキリで最後まで!カワイイ子いますよ!というのです。なんだか良い人そうで親身になって言ってくれるのでその人についていきました」

いわゆる呼び込みというやつです。たいていの場合、ボッタクリ店などは待っていて客が引っかかってくるような事はありませんので積極的に狩りにいきます。場所によって呼び込みの信頼度は違いますが、まあ大抵が「呼び込み=何らかのボッタクリ」もしくは大変不人気な店で何かあります。優良店などは呼び込まなくても評判で客が来るのですから、わざわざ狩りに出る店は何かあると読むのが妥当です。

「入って7000円を受付で払いました。で、中に通されて待っているとすごいブスが出てきました。もうビックリですよ!」

僕もビックリです。そんなんで本当にカワイイ子が出てくるわけない。ブスが出てくるのは分かりきったこと。かろうじて性別上は女なのが出てきただけ良し破格の幸運とするべきだ。

「おまけにそのブスが、乳を触るのはプラス5000円、服を脱ぐのはプラス10000円、チンコをチュッパチャプスは15000円とぬかすのです」

典型的な筍剥ぎ型ボッタクリです。最初は安価な値段で釣っておき、中に入ったら最後、何をするにも料金が発生するという恐るべきシステムです。徐々に所持金を剥ぎ取られていく様が筍のようでこういった名称がついたのだと思います。

この場合、普通のヘルス風俗のサービスを受けようと思ったら最初の7000円と合わせて37000円かかる計算になります。地域にもよりますが1万出せば正規の店で普通にサービスを受けられることを考えると破格にボッタクリといえます。

「お金を払わないと何もできないとのことでした。ただ、ブスだったのでやりたくなかったのですが、やらないと怖い人が出てくる雰囲気のことを女の子が言うので、仕方なく払いました。新幹線で帰るはずだったお金を払い、鈍行で帰りました」

大抵の場合、こういったボッタクリは後ろに怖い人が控えています。それこそ世紀末覇王のような輩が控えており、最終的には暴力をちらつかせて金を根こそぎ奪い取る。普通の人なら怖くて多少高い金でも払って帰るでしょう。

「もう風俗には怖くて行く気になりません。それよりなにより、あんなブスに4万円近い金を払ったのが悔しくて・・・。お願いですpatoさん!この店をとっちめてください。僕の無念を晴らしてください!お願いします!」

何を言ってるんでしょうか、このバカは。

いやいや、悔しい気持ちは分かりますが、そこで僕に仇を取ってくれ!はお門違いもいいところ、それより以前に警察などに被害を報告するべきです。

あれですよ、仇を取ってこの店をとっちめるということは、僕が実際にこの店に行ってボッタクリに遭う、そいでもって大暴れして後ろに控えている世紀末覇王と一戦を交える。そういうことなのでしょうか。うん、断る。

あのですね、誰がすき好んでそんな危険な目に遭いに行かなきゃいけないんですか。誰が自ら進んであたら若い命を散らすというんですか。特攻隊ですか、僕は。行きません、そんなボッタクリ店になぞ行きませんぞ!命がいくつあっても足りないわ。

と意気込んでみたのですが、なんだか知らないけど気がついたら東京は新橋の駅に佇む僕の姿がありました。読者さんからタレコミがあったボッタクリ風俗店がある新橋に。なんで、なんで、行かないと決めたのに何でこんな場所にいるんだろう。

まあ、あれですよね。それこそ、読者さんの仇を取ってやる!とか意気込む義理もありませんし、悪のボッタクリ店を許さない!なんていう正義感もカケラもございません。ただ、興味があるのはボッタクリ店に対する興味のみ。そう、好奇心が僕を衝き動かしたのです。好奇心、猫をも殺すとはよく言ったもの、おかげで自ら危険に身を投じることに・・・。

どんなに聡明な男性であっても、こと下半身のこととなると愚かなものなのです。それが総理大臣であろうが何であろうが同じなのです。そう、ボッタクリとはそういった男どもの愚かさに付け込んだ犯罪なのだ。

大抵、ボッタクリに引っかかる人というのは寝耳に水の状態である。まさか自分が引っかかると思っておらず、突然襲われた不幸に驚愕しパニックに陥る。そうなると冷静な判断やら何やらできなくなり恐怖だけが身を包む。そうなるともう、法外な値を払ってでも助かりたいと思うんじゃないだろうか。そう、全ては何も準備できていないのが悪いのだ。

だったら、最初からこの店がボッタクリ店だと分かっていたらどうだろうか。数々の危機を予め想定し万全の準備を整えてボッタクリ店に臨む。さすればどうにかなるんじゃないだろうか。そう、全ては万全の準備をして毅然と対応すればボッタクリも回避できるんじゃないだろうか。全てはそんな好奇心に衝き動かされてチャレンジすることになったのだ。

ということで、万全の準備をして臨む僕とボッタクリ風俗店の仁義なきバトル。ボッタくられなかったら僕の勝ち、法外な値を取られれば負け、7000円で済めばイーブンという問答無用のサバイバルデスマッチ。これはもう戦争だ。一体どんな結末を迎えるのか、とくとお楽しみください。

●準備

とりあえず、今回の相手は一筋縄ではいかないボッタクリ業者なので、間違っても危険な状態にならないように最善の準備、万全の体制を整える。

まず、身元が割れそうなブツ、つまり免許証だとかクレジットカードだとかそういった危険な爆弾は駅のコインロッカーに預ける。ついでに、7000円以上の金を取られないよう、余分な金も同時にコインロッカーへ。身体検査とかされてこの鍵が出てくれば同じことで目も当てられないので、この鍵をさらに別の場所に隠す。

あと、ここは新橋。もちろん東京都にあたるのでボッタクリ防止条例、正確には「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等の規制に関する条例」の適用対象となるのでその条例文章を熟読しておく。これで準備はOK。さあ、いよいよ突入だ。

●ボッタクリ風俗店に接近

これで準備は万端。早速、タレコミのあったボッタクリ店がある場所へと赴く。明らかにカモですよーネギ背負ってますよーと言わんばかりにストリートを練り歩く。ポイントとしては「半分口をあけ」そいでもって「風俗店の看板を食い入るように見る」、これだ。

「お店お探しですか?今日はどういった店を?」

待ってましたとばかりに、黒っぽい背広を着た呼び込みの店員が声をかけてきた。この男、やや長髪でキノコのような髪型をした茶紙髪、一言で言うとハウスマヌカンのような風貌で見るからに怪しい。

「ああ、はい。できるだけカワイイ子のいるヘルスがいいんですけど・・・」

もう抜きたくてしょうがない、性処理をしたくてしょうがない、性犯罪一歩手前、という雰囲気をムンムンに醸し出して告げる。するとハウスマヌカンはニカーッと笑って切り出した。

「お兄さん、だったらウチだよ。ウチなら若い子いるし7000円でヌキありだから。本当は9000円なんだけどこのチケット出せば7000円になるからさ」

でたー!タレコミメールに記載されていたチケット。これがタレコミの内容とまったく同じチケット、料金設定も同一であることから、このマヌカンの薦める店こそが間違いなく目的のボッタクリ店であることを示しています。さあ、前準備は整いました、いよいよボッタクリ店へ突入です。

●いよいよボッタクリ店へ

「どうしよっかなあ・・・」

どうせ最初から突入すると決めていますから、行くことは決まりきっているのですが迷っている不利をします。

「若い子いるから、絶対お勧めですから」

執拗に入店を勧めるマヌカン。そりゃそうだ、カモが引っかかるかどうかの瀬戸際なのだから自ずと一生懸命になるのも分かる。

「まあ、7000円だし、行ってみよかな」

ついに決断しました!と言わんばかり、悩みに悩んで行くことにしました!みたいな感じでカモらしさをアッピール。もうここまできたら引き返せません。いよいよ覚悟を決めます。

「はい、じゃあお店はこちらになるんで。階段を下りて右に行ったところに看板ありますんでそこに入ってください。あとは受付の者が対応しますんで」

と手招きし、怪しげな地下へと続く階段に誘うハウスマヌカン。どうやら彼は店まで案内するのではなく、階段下りたらすぐだから勝手に行けというスタンスのようです。たぶん、これは最大限の対応策か何かだと思います。

どうせこの先の店では7000円ポッキリでサービスが受けられるどころかボッタくられます。その際に、「7000円ポッキリ」と言ったハウスマヌカンが店と関わりを持っていたのではマズイ。ということで、あくまでマヌカンは店とは無関係、勝手に呼び込んだだけというスタンスを貫くために違いまりません。そのために彼は店までは案内しない。

これが地獄へと続く階段か。

そう呟きながら地下へ。コンクリート打ちっぱなしの階段、おまけに照明もクソみたいな豆電球のみで薄暗い。その先に待つのは鉄板でボッタくられるインチキ風俗店。まさに転落していく自分をかみ締めながら一歩一歩階段を下りていきました。

階段を下りると、そこは少し照明が明るくなっており、なにかの集合店舗のような、言い換えると物凄くお粗末な地下街だったような形跡があり、何店かの店が軒を連ねる通路が広がっていました。まあ、もちろん、それらの店舗は完全に朽ち果てており、埃をかぶったスナックやらの看板が悲しげに置いてあるだけでした。

もちろん壁なんかには何のためらいもなくマンコマークとかがスプレーで落書きされているという、作者のソウルがふんだんに感じ取れるスピリチュアルアートまで存在しておりました。

こりゃ、怪しすぎるだろ。普通の風俗店ならこんな死に体の地下通路に店など構えない。見てみろ、全ての店が夜逃げでもしたかのように潰れてる。冷静に考えればこんな場所にある風俗店がマトモなものでないことぐらいすぐに分かる。

なのに、風俗店に思いを馳せ、股間を空気入れすぎたタイヤみたいにパンパンに怒張させている男にはそれが分からない。でも、それは仕方がないこと。僕だってこの先にあるのがボッタクリ店だって知ってるから冷静に分析できているだけだ。

これまで、何人の男ども、いや侍どもがこの通路を歩いたのだろうか。先にある風俗店に期待を寄せ、カワイイ子いればいいな、若い子いるかな、本番させてくれたらどうしよう、なんてルンルン気分で歩いていたかもしれない。下手したらスキップとかしてたかもしれない。その数分後にはボッタクリの被害に遭うとは露も知らず・・・。男ってバカな生き物だよな。

そんなこんなで、東京新橋に実在したスラム街、みたいな地下通路を抜けて指定されたとおり右に折れた通路を歩きます。すると、なんか手書きの頭悪そうなフォントで「タイムサービス中」と書かれた立て看板がありました。どうやらここがお目当てのボッタクリ店のようです。

これまでにボッタくられた男達の悲痛な叫び声がウオオオオオオンと怨念のように響き渡るのを感じながら、僕はゴクリと唾を飲み込み、ドアノブに手をかけるのでした。

●想像以上の怪しさの店内

「なんだこりゃ、物置じゃねえか」

思わず心の中でそう呟いた。ドアを開けると、そこは8畳ほどの空間になっていた。不要になったのだろうか朽ち果てた立て看板が片隅に積み上げられ、その横には長机が無造作に投げ出してあった。しかも6本ある蛍光灯の2本は切れかけでパチパチと瞬いた状態、後は完全に何もないスペースが広がっていた。もはや風俗店の店舗というよりは本当にお粗末な物置レベル。

普通、風俗店といえば店舗はピンキリで、本当にお粗末で掘っ立て小屋みたいなものもあればゴージャスな迎賓館みたいなものまであります。しかしながら、どんなにお粗末でも店舗としての体裁だけは守っているのが普通なのですが、この店はそんな体裁など微塵も感じさせないレベル。明らかに客商売をする店構えではない。やる気あんのか。

まあ、考えるとそれもそのはず。普通は客を呼んでリピーターを呼んで商売に結びつけるものなのだけど、なにせここは超絶なるボッタクリ風俗店。客をもてなしたりリピーターのことなど考える必要はない。そうなると、手間と金をかけて店舗の体裁を整えるなんて馬鹿らしいわけで、必然とこうなる。ボッタくれればいいのだから店としての体裁を整える必要などない、物置になるのも仕方ない。

落ち着いて冷静な眼で見てみると。もうこの物置自体で様子がおかしいことは明白で、ここで脱兎のごとく逃げ出せば救われる目があるものの、股間を怒張させた男どもはそうは思わない。ああ、もしかしたらココは隠れた名店、職人肌な店かもしれない。あらゆる経費を削って上質な女の子を集めることに注力する。そんな知る人ぞ知る隠れた名店なのかも!とたわけたことを考え出すのだ。ホント、男って馬鹿だ。

「いらっしゃいませ」

そうこうしていると。店の奥から藤子不二雄のグロい絵を描くほう人みたいなオッサンが満面の笑みで現れて、本当に揉み手をしながら近づいてきました。こんな人の良さそうなオッサン、もう年頃の娘に「お父さんの後のお風呂は嫌だ」とか不当な扱いを受けても怒るに怒れなくてそっと涙を流すだけっぽいオッサンがボッタクリ風俗店の店番なのですから世の中ってのは分かりません。

「あの、このチケット。上の人にもらったんですけど・・・」

と、先ほど呼び込みのハウスマヌカンからもらった料金が7000円になるチケットを手渡します。

「では料金は前払いで7000円になります」

とまあ、当然のごとく前払いで金の要求。まあ、これはボッタクリ店でなくても普通のことですし、金を払わないと先には進めないので払います。過剰なボッタクリを防止するため財布に7000円しか入れてないのですが、そのすべてを支払いました。

「では、こちらにどうぞ」

金を受け取った藤子不二雄Aはニヤリと不適に笑うと、物置の一角から奥の部屋へと続く通路であろう場所に手招きして誘ってきた。で、僕も誘われるまま店舗の奥へ。

ここからがさらに圧巻。奥の部屋は便宜上はプレイルームになっているのだろうけど、とにかく暗い。完全に照明がなく漆黒の闇だけが口を広げて待っている。かろうじて物置スペースの灯りだけが部屋の中をうっすらと照らしている状態だ。

この部屋は縦長の8畳くらいの部屋っぽく、左側にソファーが3つだけ並べられている。ちょうど人が寝転べるであろう長さの3人掛けのソファーが三つ、電車の座席みたいに同じ方向を向いて並んでいる。でまた、このソファーってのが明らかに金かかってなくて、どっかから拾ってきただろうというレベルの汚さ。

「一番奥のプレイルームになりますので」

暗闇の中で藤子不二雄Aが言う。便宜上、部屋にソファーを並べただけなのに一個一個のソファーをプレイルームと呼ぶらしい。で、その一番奥へ行けと。

一番奥に行きつつ、段々と暗闇にも目が慣れてきたので辺りを見回すと、意味不明に古い看板「ファンタ」とか、昔の駄菓子屋にあったであろう金属製の看板などが無造作に部屋の隅に投げ捨ててあった。あとなんか知らんけど傘立てには木刀が4本も威風堂々と立てかけられていた。

一番奥のスペースにあるソファに通され、案内を終えた藤子不二雄Aはどこかに消えていく。後は女の子が来るのを待つのみ。なんか知らないけど部屋の一番奥ということで目の前には窓があり、パチンコ屋の新装開店のチラシでその窓が塞がれていた。日付は2003年秋頃の日付。そんなに古いものじゃない。というか、なんで地下室なのに窓があるんだろう?と根本的なことが気になって仕方なかった。

●女の子登場、悪魔か天使か

このソファの上で何人の男たちが、いや侍どもが法外な値段をボッタくられ辛酸を舐めたのだろうか。そんなことに思いを馳せながら女の子の到着を待っていると、

「いらっしゃいませ!」

と背後から女性の声が聞こえた。前情報では途方もないブスが出現するということで、それこそ朝青龍にムキになって女性ホルモンを注入したような女性が出てきてボッタくられると予想。ちょっとやそっとでは驚かないように心臓を叩いて待っていたのだけど、振り返るとそこには普通の女性が立っていた。

なんとなく拍子抜け。彼女はそんな僕を気に留める様子もなく、僕の横に腰掛けるとテキパキと何かの作業をしながら話しかけてきた。

「今日はお仕事だったんですかぁ?」

と語尾上げ気味舌っ足らずに言うお姉さん。年はいってるっぽいがまあまあカワイイ。けっこうな年なんだろうけど無理やりセーラー服を着てるところなんか哀れみすら覚えるのだけど、まあ許容範囲レベル。

前情報では歴史的惨敗と言ってもいいほどのブスにエンカウントするはずで、すでにドラクエで敵に遭遇したときの音楽が頭の中で鳴り響いていたのに拍子抜け。もしかしたら、女の子は複数いるのかもしれない。つまり、なかなか大きな規模のボッタクリグループなのかもしれない。

年はいってるものの予想以上にカワイイ子の出現に、男なら誰しもが興奮し、それこそ抱きついてプレイ開始!となる場合もあるだろうが、ここは落ち着いて行動したいところだ。何せココは筍剥ぎのボッタクリ店、抱きついただけで「抱きつきプレイ+5000円」と請求されてもおかしくないのだ。軽率な行動は禁物。落ち着いて慎重に行動しなくてはならないのだ。

「はい、じゃあズボンとパンツ脱いでください。ローション塗りますので」

淡々と事務的に言うお姉さん。これだから風俗店ってのは物凄い。挨拶の次に交わした言葉が「チンコにヌルヌルした液体を塗るから脱げ」ですからね。普通に考えたらこんなシチュエーションありません。

ここでまあ、そこそこの女性が「チンコにヌルヌルのぬめった気持ち良い液体を塗ってやるから脱げ」と言ってるのでそれを断る男などいないと思うのですが、忘れてはいけませんここはボッタクリ店なのです。さすがにローション塗り塗り代とかは請求されないでしょうが、このプレイにはもっと別の意味があるのです。

店に入り、何より先にズボンとパンツを脱がせてヌルヌルの液体を局部に塗る。これは、言うまでもなく客を帰らせないための手段です。何も僕らは監禁されているわけではありませんから実は帰ろうと思えばいつでも帰れるのです。

この後に筍剥ぎボッタクリの真骨頂が始まり、何をするにも追加料金の請求。法外な値段を請求されたとしても「最初と話が違う、帰る!」と怒りを顕にして席を立つことも可能なのです。最初に藤子不二雄Aに払った7000円は返ってこないでしょうが、それ以上の被害を防ぐことはできるのです。

しかし、そうなった時、下半身裸でおまけにチンコにヌルヌルのローションを塗られた状態だったらどうでしょうか。帰る!と席を立って外に行けば下半身丸出し、間違いなく新橋駅前の交番に連行されることになります。じゃあ、ズボンとパンツを履こうにも股間にはヌルヌルローション。これはなかなか落ちません。パンツも履けないというわけです。そう、全ては途中で客を逃がさないための作戦です。

「どうしたの?早く脱いで?」

「断る」

ここは毅然と断りましょう。こちらはもう既にこの店がボッタクリ店だと分かっているのです。何もみすみす相手の罠にはまる必要はない。毅然とズボンとパンツは絶対に脱がないぞと言う意思表示をしましょう。風俗店に来て脱がないってのも何か間違ってるのですが、ここは仕方がありません。

「え!?どうして?ローションとか苦手?」

「うん、なんかローションアレルギーみたいでかぶれるんだ」

嘘8000な言い訳をし、なんとか脱ぐのとローションを回避、いつでも逃げ出せる体勢だけは保ちます。

「そうなんだ・・・、じゃあどうしようか?」

用意していたローションを片付けつつ、次なる手に出ようとするお姉さん。ここからがボッタクリ風俗の真骨頂でした。

「じゃあさ、フェチプレイとかソフトSMとかイメージプレイとか興味ある?」

何でか知らないけどそう切り出すお姉さん。そんなもの、もちろん興味津々で、ありまくりなわけで、願ってもないことなのですが、ここはボッタクリ店、警戒しなくてはなりません。

「うん、まあ、興味ないって言ったら嘘になるかな。ちょっとはあるよ」

ホントは興味だらけのくせにニヒルに言い放つ僕。すると

「じゃあさ、そういうコースにしよう。これ見てね!」

とまあ、ソファとソファの間の隙間みたいなところから「コース料金表」とかいう新たな物体が登場してきたのです。喫茶店とかのテーブルにおいてある小さなメニュー表みたいなその紙には怒涛の事実が書かれておりました。

フェチプレイコース  25000円
イメージプレイコース 30000円
ソフトSMコース    35000円

おいおいおいおい、ちょっと待て。なんだ、この法外な料金設定は。35000円って言ったらプレステ2が帰るぞ、プレステ2が。

しかしまあ、ココまで露骨だと面白いものです。店の前のハウスマヌカンは「7000円ポッキリ」と豪語していたにも関わらず、中に入るとこの吹っかけですからね。最初の7000円を入れた料金にすると一番安いフェチプレイで32000円、ソフトSMなら42000円になる設定。法外にも程があります。

「いや、ちょっと追加は・・・追加なしだとどんなプレイになるの?」

どうせ7000円しか持ってないのです、追加などでできるわけないので聞いてみます。

「うんとね、これだけだと。追加なしだと、下半身にローション塗って終わり」

おいおい、僕は断ったからアレだけど、本当だったら下半身だけ裸でローション塗られた状態でプレイ時間の60分をポケーッと過ごすのか。半分口をあけ、下半身裸おまけにヌルヌル、それだけでお姉さんと世間話でもして7000円。バカバカしいにも程がある。というか、そのローションすら断った僕はただお話をしに来ただけという状態。あまりにも惨い。

「えっと、でもね、店の前では7000円でフルサービスとか言ってたよ」

「そんなの知らないよ。うちの店はそういう決まりだもん。でどうするの?コース追加するの?しないの?」

と、なんだか胸がワクワクするような押し問答が始まりました。うん、オラ、なんだかワクワクしてきたぞ。

「いやね、追加はいいんだけど、そのさ、フェチコースとかの内容を教えてよ。じゃないと追加を考慮することもできない。どんなことするの?フェチコースは?」

「そういうのは教えられないんだけど・・・店の決まりで・・・」

おいおい、これから追加させようかって言う3万もかかるコースの内容も一切説明できないのか。それは明らかにおかしいってもんだろ。

「いやさ、普通内容知らないと金は出せないでしょ。よく知りもしない中身の見えない箱に「プレステ2」ですって書いてあって、3万を出して買う気になる?ならないでしょ」

よく分からない例えを出して力説する僕。するとそういった例え話をするほど頭を使いたくないのか、お姉ちゃんは切々と、それでいて投げやりに各種コースの説明をし始めました。

「フェチコースってのは、これを使って抜いてあげるの」

ソファーの奥のほうに置いてあった本棚みたいなのから小さな箱を手にとって見せてくるお姉ちゃん。どうやらこのツールを使って股間を刺激し抜くのがフェチコースのようです。見るとお姉ちゃんの手にはこじんまりとした箱に猥褻なイラストが描かれたオナホール。

アホか。

オナホールってのは、文字通りオナニーの時に使う穴っぽいツールで、明らかにオナニズム文化発祥の地みたいなウエポンなのですが、読んで字のごとくオナニーに使うツールです。女性器を模ったブヨブヨしたグミみたいな所にチンコ突っ込んで摩擦運動、そいでもって雄たけびを上げる。そんなワンランク上のオナニーを演出する道具なのです。

こんなオナホール、そういった店にいけば500円からあります。それをチンコにはめてお姉さんが上下に動かしてくれるだけで追加料金25000円、合計で32000円。ハイパーインフレ起こした東南アジアあたりのレストランじゃないんですから法外にも程があります。

これだけでも腰が抜けるほどのビックリするのですが、その他の2コースがまたすごい。

「じゃあさ、イメージプレイコースってのは?」

「それはね、私セーラー服着てるでしょ、だからまず先生と生徒っていうシチュエーションになるの。貴方が先生、私が生徒ね」

「うんうん、それでそれで」

「で、そのシチュエーションでこれを使って抜いてあげるの」

と、彼女の手にはまたもやオナホール。

アホか。

何をどうやったら先生が生徒にオナホールを使わせるなんてシチュエーションが発生するんだ。というか、さっきにフェチプレイと内容は変わらず、先生と生徒という設定を追加しただけで値段も跳ね上がり30000円、合計で37000円になります。法外にも程がある。

「じゃ、じゃあ、ソフトSMコースってのは?一番高いけど」

「これはね、ソフトSMするの。まあSMって言ってもムチとかロウソクを使うわけじゃなく、私が貴方のお尻の穴をこの棒で刺激するの」

と手には耳掻きみたいな緑色したプラスチックの棒が。さすが最高級値段設定のソフトSMコース。道具が違います。しかもアナルを刺激するサービスつき。これはなかなか期待が持てそう。

「でね、お尻の穴を刺激しながら、これで抜いてあげるの」

と手にはやっぱりオナホール。

アホか。こいつは狂ってるのか。

おいおい、ここはオナホール専門店か、と言いたくなるほどのオナホールぶり。まさにオナホール尽くしの逸品。どうなってんだこの店は。しかも、もちろん全コースで彼女は服をビタイチ脱がないし、おさわりとかもご法度らしいです。あまりにも酷すぎる。

あまりに露骨なボッタクリっぷりに驚愕しつつ、最初から分かっていて心の準備ができていたのに戸惑いが隠せない訳なんですが、これが知らない人なら尚更でしょう。戸惑いパニックになり、下手したら追加の30000円払ってイメージコースで先生と生徒と言うシチュエーションでオナホールを使われかねません。

「で?どうするの?どのコースにするの?」

「ん?断る」

ここは毅然と断りましょう。曖昧な返事はせずキッパリトと断ります。ここで最初にズボンを脱がなかったことが効いてきて、すっと席を立って帰ることもできるのですが、せっかくココまで来たのです、もう少しやってみましょう。できれば最初の7000円も取り返したいところ。

しかしながら、毅然と断ると突如として彼女の態度が豹変しました。

「あのね、どのコースも選ばないって断られると困るのよね。ウチら遊びでやってるわけじゃないし、これで飯食ってるの。それにココ見えない?何も選ばないと違約金が発生するんだよ」

と、値段表の下のほうを指差す彼女。見るとそこには、老眼の老人では見えないであろう小さなフォントで「コースを選ばない場合、違約金30000円支払って頂きます」と書いてありました。まあ、典型ですね。笑えるくらいにボッタクリの典型。

「というか、最初に聞いていた話と違う。ここは明らかにボッタクリ店だよね。だからさ、最初に受付で払った7000円返してくれない?」

ここは、もうちょっとお姉さんを怒らせたほうが面白そうなので、さらに火に油を注いでみます。

「はあ?何いってんの?ウチはこういう決まりでやってるの。それにとやかく文句言うんじゃねえよ」

とまあ、年はいってるもののなかなかにカワイイ顔を怒りに歪めて言うのです。おいおい、そんなに怒るとシワが増えるぜ、ただでさえ危なそうなのに、とか言いそうになりましたが、ここはグッと堪え、そろそろお姉さんを丸め込みにかかります。

「性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等の規制に関する条例、いわゆるボッタクリ防止条例って知ってる?」

「はあ?なにそれ?何言ってんの?バカじゃない?」

「その条例の第3条なんだけど、東京都の風俗業では係る全ての料金を営業所内の見えやすい場所に表示しなきゃいけない決まりなんだよ。それがこの条例で決まってるの。さっきの追加コースや違約金の話、それらはね、見えやすい位置にデカデカと表示しなきゃダメなの。でも、なんか隠してあったメニューみたいなのに書いてあっただけだよね、それって違反だよ」

「うるせえてめえ!早く払え!」

何を払うのか知りませんが、払う金は持ってない。というか、もともとヤンキーだったのか言葉遣いがえらい事になってます。せっかく年はいってるもののカワイイ顔してるのに。

「ちなみに第三条違反は六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金。でさっきの「払えっ!」っていう脅し的文句は第四条違反、こっちも六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金だよ」

とまあ付け焼刃で勉強したことを教えてあげたのですが、

「何コイツ!信じられない!死ね死ね氏ね死ね!」

とかアメリカ人女性のようにヒステリックに連呼しながら、手に持っていたオナホールの箱を僕に投げつけ、先ほど受付をした物置スペースへと消えていったのでした。

おいおい、君の大切な商売道具じゃないか、オナホールは。それを投げつけるんだから余程怒ってることは手に取るように分かりました。

で、彼女が消え、またもやソファに一人になった僕は気がついたのですよ。さっきまでは僕も興奮と言うかムキになった部分もあってこうなったのですが、ここは一筋縄ではいかないボッタクリ風俗店だったと。しかも今は地下室に監禁に近い状態。下手したら殺されかねないなと。

たぶん、彼女は怒りにまかせて仲間を呼びに行ったのだと思います。もしかしたら強面の屈強な世紀末覇者みたいな男どもが数人やってくるかも知れません。

そういや・・・さっき通路に木刀が数本あったよな・・・。

もしかして、僕ってばコンクリのブーツ履かされて海に沈められるんじゃなかろうか。ココは新橋、東京湾も近いしなあ・・・。ああ、思えばロクでもない人生だった。

とまあ漠然とした恐怖が身を襲い、走馬灯とか体感しそうになりながら、こんなことやるんじゃなかったと心底後悔したのでした。明らかにムキになりすぎた。というか、自分で突入するってのが危なすぎた。こんなことやっちゃいけない。ああ、本当に家に帰りたい。帰れるのならば3万でも4万でも払う、なのに財布にはもう一円も入ってない。

警察なりなんなり、助けを呼ぼうと携帯を見たのですが、ここは地下室と言うこともあって携帯電話は見事にザ・圏外。もはや八方塞りな状態です。

でまあ、しばらく自分の愚かさを後悔しつつソファに座っていたのですが、やはりと言うかなんと言うか、ドヤドヤと入り口のほうが騒がしくなり、数人の男どもが入ってまいり、一気に絶体絶命のピンチになったのでした。

「お客さん、何かご不満な点でも?」

そこにおわしたのは世紀末覇王の名に恥じない屈強なお方。そのお方が小動物でも狩る時のような目をして仁王立ちしておりました。はわわ、殺される。

果たして僕は生きてココから帰れるのか。それよりなにより、最初に払った7000円は返ってくるのか。そして、床に転がったオナホールはどうなるのか。と、非常にスリリングな展開になったところで、あまりに長すぎるのでこの続きは近日発売予定「ぬめり2-チャレンジ編-」という自費出版の本で。

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ぬめり2 
定価1000円
近日発売予定

Numeriで好評を博している「対決シリーズ」「ひとりDEシリーズ」などチャレンジ物のお話を再編集して掲載した自費出版本。他にも新作「ボッタクリ風俗と対決する」や「懸賞商法と対決する」「マルチ商法をやってみた」「ひとりDEディズニーシー」「ひとりDE USJ」など新作を多数収録。現在絶賛執筆中!



ということで、物凄く嫌なとこでお話を打ち切り、本の宣伝をしたところで後味悪くNIKKI SONIC出展作品を終わりにしたいと思います。まあ、この「ぬめり2」っていう本自体が「1000円も出して買う本じゃねえよ」と言われるボッタクリ本になりかねないのだけど・・・。

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