BraveHeartヌメリナイト

BraveHeartヌメリナイト

まだいける。きっとシャイなヤツが待ち構えているに違いない。

放課後の教室から見えるグラウンドは綺麗だった。もう2月だ。日が短いと言ってもそろそろ結構長くなってきたな、冬ももう終わりだね、と感じる時期。夕陽によって黄色ともオレンジ色とも言える色に染め上げられたグラウンドは綺麗だけれども物寂しかった。

教室には誰もいない。意味不明に教室に残って、別に今すぐやらなくても構わない数学のドリルを狂ったように解く僕の姿だけがあった。放課後の教室は嘘みたいに静かで、窓越しに聞こえる野球部の何言ってるんだか分からない掛け声と金属バットの音だけが静かに響き渡っていた。

きっと、きっと。誰もが勇気を持っているわけではない。

僕はそう信じていた。世の中に数あるお話の多くは、勇気を褒め称え、尊く気高いものだと伝える。誰もが勇気を持って欲しいと伝えているのだろう。勇気を持って欲しい、そう願うことは真っ当でおそらく正しい。けれども、今日だけは、今日だけは、誰かが勇気を持っていないで欲しい。そう願っていた。

2月14日バレンタインデー。

分かっている。全然分かってる。僕のような、飲み会の席とかで複数の男性がいる中で数人の女子に、「この中で完全に顔だけで判断して誰と付き合いたい」という、アメリカだったら人権侵害で結構上の方の法廷まで争われても文句言えないレベルの質問をする雰囲気イケメンがいて、女子も「えー」とか言いながら、ズバズバとまんざらでもない御様子で、小陰唇で物事を考えているような顔しやがってからにランキングを発表するんだけど、間違いなく下から2番目か3番目にランクされるブサイクフェイスの僕ですよ。どうせなら一番下ならまだ救いがあるんですけど、下から2番目、3番目ってところがリアルで切実でシャレになってない。そんな僕がチョコを期待すること自体間違っている。

けれども、この年の僕には勝算があった。なんか毎年そんなこと言ってるような気がするのだけど、とにかく勝算があった。冷静に考えて、まず、いきなり女の子が登場してきて「好きでした」ってチョコを差し出してくる、なんてことがあるだろうか。現実的にはありえない。現実は常に残酷で、ゲームのフラグとは違うのだ。

ならば自分から率先して動かねばならないのだ。そう、チョコをもらうべく動き出さなければならない。待っていたってチョコは飛んでこない。自分からもぎ取りにいかねばならない。2月14日というエックスデーに向けて年明けくらいから用意周到に動かねばならないのだ。

まず女子に親切にする。重い荷物を持ったり、掃除を手伝ったり、女の子はか弱いんだゾ!って感じで親切にした。 1月から2月にかけて「持ってやるよ」「用事あるんだろ、俺が掃除しとくから今日は帰んな」みたいな感じでこのセリフを何度となく口にした。あくまでもわざとらしくなく、それでいてスマートに言うことを心掛けた。

次に、チョコのことなど忘れている感じを演出した。基本的に女子はチョコに対してギラギラしている男子に引いてしまう傾向がある。みんなが思ってる以上に女の子は繊細なんだゾ!全然意識していない自分をプロデュースするため、「あー、あの、茶色っぽい甘いお菓子、なんだっけ」と突然言い出すことを忘れない。

それに女の子は皆が思ってる以上に小悪魔なんだゾ!今か今かとチョコを待ってる男子より、貰えると思っていない男子にあげて驚かせる小悪魔なんだゾ!全然意識していない感じで女子に接するのが得策。

そんな月日を過ごし、その年は、たぶん5人くらいに貰えるんじゃねえかなって算段があった。親切にしたあいつとあいつとあいつ、それに多分僕のことを密かに好いてる、あいつとあいつ、最低でも5人、全ての歯車が噛みあえば10人はいけるかもしれない。10人のチョコなんて持って帰ったら母ちゃん、腰抜かして泡吹くんじゃないだろうか。変に気をまわして母ちゃんが避妊具とか渡して来たらどうしよう、そんなこと考えていた。

多分貰えるんだろうなって算段のあるバレンタインって物凄くて、朝から全てが違う。貰うあてのないバレンタインを「バレンタイン」って表記するなら、算段のあるものはちょっと調子ぶっこいて「ヴァレンタイン」と表記してよい。特に最低でも5人はいけそうな今年は「ヴヴヴヴヴヴァレンタイン」くらいで、リモコンバイブの音みたいにしても良い。とにかく、あんなに灰色だったヴァレンタインの風景がカラフルで瑞々しくて、温度すら感じる風景だった。

お、朝っぱらからくるかな。朝からはちょっとあれだなー。みんな昼休憩にとかにくれるかな。あの子とあの子がかちあっちゃったりしてね、おいおい、わかったわかった、どっちも美味しく食べるから喧嘩しないで、わかった、こらこら、よし、今両方食べるから。ほーら、泣き止んで、ほら。

とか妄想してたら、あっという間に放課後になった。CMスキップ機能を使ったかと思う速さで放課後になった。オレンジ色の教室。誰もいない教室で僕は泣いた。

それでも僕は信じたかった。算段を立てていた女の子たちはくれなかったんじゃない。断じて、僕のことなど眼中にもなくて、チョコをあげるという考えすら浮かんでこなかったとかキモイから話もしたくないとか、そんなことはなかった。彼女たちは勇気がなかった、渡したくても渡せなかった、そうであったと僕は信じたかったのだ。

勇気を持つことは尊い、誰もが勇気を持つことを善行と信じ、奨励するだろう。勇気を持って欲しいと思うだろう。けれども、僕は彼女たちは勇気を持っていなかった、勇気がなかった、そうであったと信じたかった。

「おい、早く帰れよ」

担任が見回りにやってきた。僕は目を真っ赤にしてやらなくても良い数学のドリルを解いていた。

「この問題解いたら帰ります」

「熱心なのはいいけど、あまり遅くなるなよ」

もしかしたら、この担任も、チョコもらえると信じて普段来ない教室の見回りにきたのかもしれない。彼もまた、教え子たちに勇気がなかったと信じていたのかもしれない。だとしたら、コイツもバカだ。

それでもやっぱり、彼女たちに勇気がなかったのだ、貰えなかったのじゃない勇気がなかった。そう信じないと生きていけない。薄暗い帰り道、涙を堪えながら歩いた。途中、公園を横切ると、貰えるだろうと算段を立てていた内の一人の女子が、クラスのイケメンにチョコを渡しながら、真っ赤な顔で俯きながら告白していた。むちゃくちゃ勇気あるじゃん。

ホント、女はクソ、何がか弱いんだゾだ。なにが繊細なんだゾだ。なにが小悪魔なんだゾだ。小陰唇と大陰唇の見分けがつかなくなって中陰唇になって死ね。とにかく死ね。

そんなこんなでヌメリナイトの告知です。

BraveHeartヌメリナイト
2014/02/14(Fri)Valentine day @TOKYO CULTURE CULTURE
Open 18:00 Start 19:00 End 22:00 (予定)
イベントサイト
チケットサイト残席わずか!

画像

Illustrated by HAMUEMON

バレンタインデーの夜に送る冬のヌメメリナイト。
本当の勇気とは何なのか。
ひとりひとりの想い―――
奇跡を信じて
圧倒的スケールでお送りするヌメリナイト特別編!!

と意味不明なこと書いてますけど、太ったオッサンが訳の分からない話をするだけです。多分、本気で訳わからない話する。大阪でやったら来場者の95%男性だったことも納得と言った訳の分からない話する。ぬめり本2のリメイクでもある「ぬめり2-挑戦するものたち-」も数量限定先行発売予定です。みんなでバレンタインに訳の分からない話を聞きましょう。

そんなこんなで、皆さんお待ちしております。

ちなみに冒頭の話で出てきた年のバレンタインは、いくらなんでも貰えるだろうなって算段を立てていた母親からすら貰えなくて、本当に女ってクソだと思った。ヌメリナイトにご来場予定の女性の方、別に僕は算段も立ててませんし、茶色い甘い奴の名称も分からないし、重い荷物持ちますよ。お待ちしております。

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