甘き死よ来たれ

甘き死よ来たれ

いやー、車盗まれましてね。

とまあ、軽やかに季節の挨拶の如く導入してますけど事態は深刻でしてね、なにせ車ですよ、車、キティちゃんのシャーペンを盗まれるのとは訳が違います。あまりの動揺に取り急ぎ1行更新だけして皆様と悲しみを分ち合おうとしたのが一つ前の日記なんですけど、その、あれですよ、いくらなんでも一行日記はないと思うんですよ、一行日記は。そういうのって自分で書きながら頭腐ってるとしか思えない。もっとどういう状況で盗まれたのか、どうして盗まれたのか、それは社会のせいだ!みたいな文章を切々と書かないといけないと思うんですよ。1行日記、ダメ!ゼッタイ!

でもまあ、どこにでもいると思うんですけど、妙に不幸自慢するパッパラパーな女性とかいるじゃないですか。ウチの職場にもいかに男に騙されて象牙の印鑑を買わされたとかラッセンの絵とかそういった類の不幸話を切々と語る女性がいるんですけど、そういうのって結構、可哀想な自分を見て!そして慰めて!的な素養をふんだんに含んだ感じで一行日記を更新した僕の気持ちも汲み取って欲しい。

そういった26歳OL的なフィーリングで「コンビニで車盗まれた」とサイト上で力強く一行カミングアウト、それを見て心配した閲覧者の方々から「大丈夫ですか?」「元気出してください」「僕のポルシェあげます!」といったメールがドコドコ来ることを期待していたんですよ。うん、期待してなかったって言ったら嘘になるからね。マジ期待していた。

でまあ数日後に、よしよし、今日はみんなに慰められちゃうぞー、メールボックスがパンクしてたらどうしよう!もしかしたら体で慰めてあげるとか書いてる女の子がいたりして、むふふ、と喜び勇んでメールチェックをしたんですよ。そしたらアンタ。

「ざまあみろ!」

「盗人ナイス!」

「patoしね!」

「pato生まれてくるな!」

「はやく本送れ!」

といった正視に耐えないメールがドコドコやってきましてね。僕の心の非常にデリケートな部分を揺さぶったんですよ。生まれてくるな!ってもう生まれてしまって31年も生きてしまってますがな。

ホント、皆さんが何を考えてるのか分からない。どうしてそこまで非道な鬼になれてしまうのか、どうしてそんな悪辣な言葉を吐けるのか、人の心に巣食う修羅を見た気分にすらなってきます。アナタたちは根本的に間違っている。なんでもっとこう犯罪被害者をいたわれないのか。

アメリカのドラマとか映画とか観てますと、犯人が逃げる時とか犯人を追いかける刑事みたいな人とか、よく道端に停めてある車を盗むじゃないですか。それはそれは鮮やかに、中国人窃盗団も真っ青のお手並みで盗みますよね。まあ、物語の進行上必要なんでしょうけど、以前は「よしいったれ!」とエキサイトして見ていた僕も、いまやそのシーンを見るだけで腹が立ちますからね。お前らはそうやってタクシー気分でホイホイと人の車盗むけど、もっと盗まれた人の気持ちを考えろ!って言いたくなっちゃいますからね。ホント、盗まれた立場になって初めて気持ちがわかったよ。

世の中ってのは往々にしてこういった構図になっているもので、人は人が痛んでいてもその心は痛まない。なぜなら自分は痛くないからだ。自分が痛む段になって初めてその痛みを知る。人の痛みを知ろうとしないのに、前述の同僚女性のように自分の痛みは他人に死って欲しい、人間とはかくも矛盾を含んだ面白い生物なのです。

アメリカのジャーナリストであり広島市の名誉市民でもあるノーマン・カズンズは「人間の選択」の中でこのような言葉を述べています。

「人間の傷や痛みに無頓着な態度は、教育失敗のこの上なく明白なしるしである。それは、また自由社会の終わりの始まりである」

傷や痛みを知らないということは言うまでもなく他者へのいたわりを失うことを示しています。自由社会とは完全なるフリーダムではなく、人が他者をいたわることを前提に絶妙なバランスで成り立っている。他者の傷や痛みを知らずに好き勝手、多くの人がそれをやり始めると自由社会は崩壊してしまうのです。

勝ち組だ負け組みだともてはやし、未曾有の平成大不況を通り抜けた日本社会にアメリカ式のドライなビジネス哲学が導入されました。それに伴ってなんだか人の痛みに無頓着な方向に傾いている感覚すら感じ、日本特有の「情」という言葉が前世紀の遺物に成り果てた気さえします。あらゆるニュース、あらゆる現象、そこに確実にいるであろう痛んでいる人の痛みが聞こえてこないのです。このまま日本という自由社会は終焉に向かっていくのではないか、漠然とそう思うことがあるのです。

とにかく、皆さんが「ざまあみろ」とか口汚い罵りを口にするのは別に構わず、僕はまあ生粋のマゾ気質ですから、そのような罵倒を頂く度に「アヒィ!」などと快楽に身悶えるのですが、もっと他人をいたわってもいいのではないか、顔の見えないインターネットだからこそ、バーチャルの世界だからこそ、希薄な他者という存在をいたわる必要があるんじゃないか。過激で攻撃的なインターネットの時代は終わった、これからは優しいインターネットの時代だよ、ってことで今日は事件の顛末を皆さんにお話したいと思います。そうすることで少しは僕の痛みを分かってもらえると思うから。


「本当にあの日の僕はどうかしていた……」

今回、車両窃盗という未曾有の凶悪犯罪、その被害に遭ったP氏は我々の取材に対し深刻な面持ちで重い口を開き、当時の状況を語り始めた。

「犯人に人の心があるなら、少しでも悪いと思うなら返して欲しい……僕の車を……」

事件当時の心情が蘇ったのか、P氏は俯きながら弱々しく言い放った。頬を伝い膝の上に落ちる涙が記者の目からも確認できた。

「あの日は寝坊したんです。大切な仕事に寝坊したんです。今思うとそれが終わりの始まりでした」

P氏はまるで心の中に溜めていたモヤを吐き出すかのように、忘れたい過去を搾り出すかのようにその日の状況を語り始めた。

P氏は今年31歳、田舎町に生まれ、普通に進学して普通に就職をした。就職先は生まれ故郷から遠く離れた町、同じように田舎だった。インターネットなどで自身の文章を発表するのが趣味のようで、暇を見つけては文章を書く、そんな日々を繰り返していたようだ。

職場での評価は低く、我々の取材によっても「仕事をしない」「セクハラ」「死んで欲しい」「飲み会には誘わない」などの辛辣な意見が多く聞かれた。そんな彼が寝坊し、仕事に遅刻しそうになったのが今回の事件の発端のようだ。

「いやー2時間くらい寝坊したら諦めもつくんですけど、5分寝坊って結構微妙じゃないっすか、急いだら全然取り戻せるじゃないっすか」

悪びれずこう発言するP氏、その後も楽しそうに状況を語り続ける。普段は無口だが話し始めると止まらないタイプのようだ。職場で嫌われているというのも頷ける。

焦ったP氏は急いで身支度を整え、車を走らせて職場へと向かう。職場までの通勤時間は1時間。いつもより速度を出して5分の寝坊を挽回しようと必死だったようだ。この時は自慢の愛車も元気だった、まるで跳ね馬のようだったとP氏は語る。

急いだ甲斐もあって彼は規定の時間に職場へと到着する。朝の挨拶と共に元気に職場へと入る、そこで彼は衝撃の光景を目撃する。

「いやね、何か大切な行事があったらしくて、同僚全員がギッシリスーツ着て偉い人の話を聞いてるんですよ。僕は偉い人が来るってのすっかり忘れちゃってましてね、思いっきりジャージ姿で普段の仕事スタイルですよ、笑っちゃうでしょ」

彼の表情からは反省の色は読み取れない。自分で話をしながらドンドン盛り上がってくるタイプのようで、笑いながら話し続ける。記者はそんな彼を心底気持ち悪いと思った。

「上司にもう帰っていいよとか冷酷に言われちゃってね、そうなると困るじゃないですか、さすがの僕も困るじゃないですか」

確かに、上司にそんなセリフを言われたら社会人として困り果ててしまう。何が何でも謝罪してその場を凌ぐしかないだろう。上司の機嫌を損なうことだけはしてはいけない、帰るわけにはいかないと石にかじりついてでも仕事をするべきだ。

「だって、こんなに早く帰ってもすることないじゃないですか」

ケタケタと笑うP氏、記者はそんな彼を心底クズだと思った。

「とにかく、思いもがけず仕事が早く終わっちゃいましてね、しょうがないから車を走らせてパチンコ屋に行ったんですよ」

クズのフルコース、仕事をサボってパチンコ三昧、ここまでクズだと清々しさすら感じてしまう。彼はそのままフラリとパチンコ屋に立ち寄り、最近は色々なパチンコ台があるんだなー、アニメオタをターゲットにした台やアイドルオタクをターゲットにした台などなど様々だ、そんな中にあって一体どの層を狙ったのかサッパリ分からないCRアン・ルイスという台を打ったそうだ。

「CRアン・ルイス打ってたらパスタ食いたくなったんですよ、パスタ」

あまりに突拍子のない発言に記者から声が漏れる。

「パスタですか……?」

「そういうことないですか?僕はCRアン・ルイスを打っていたら無性にパスタ食べたくなる。普段は全然食べないんですけどね」

でまあ、いい加減記者とP氏って語り口に疲れてきたので普通に書かせてもらいますけど、何でか知らないけど無性にパスタを食べたくなったんですよね。

でも、パスタってアレじゃないですか、オシャレの必須アイテムじゃないですか。パスタを出す店ってオシャレのコロシアムみたいな状態になってるでしょ、とてもじゃないが僕のようながジャージ姿の野武士一人で食べにいっちゃったりしたら絶妙な営業妨害になると思ったんですよ。

で、誰かと食べに行くべきだ、それも女がいい、と色々な思案を巡らせた結果、そうだ!とびっきりのキチガイ女とパスタを食べに行こう!と決断してしまったんです。

なんでそんな考えに至ったのか分かりませんが、多分ムシャクシャしてたんでしょうね、パチンコ台の中で咆哮するアン・ルイスを尻目にとにかくキチガイとパスタを食べたいと渇望してしまったんです。

そうなるとキチガイ女を調達しないといけないんですけど、それにはうってつけの場所がありましてね、キチガイ女が巣食う禁断の花園と評判の掲示板があったんですよ。ここはツウの間では評判の場所で、とにかく途方もないクリーチャーやキチガイが量産されると大評判、アン・ルイスにシャブ打ちまくったみたいな女がナタ持って待ち合わせ場所に来た、なんてクレイジーな逸話が残るくらいのとんでもない場所なんですよ。

で、早速携帯電話でアクセス。まあ、するといるわいるわ、とんでもない女性どもが「10万で私の体を買って!」「ラッセンの絵を買って!」みたいなとんでもないスパイシーな書き込みをしてるんですよ。結構活発でそういった女性がモサモサといましてね、まるで戦国武将のような群雄割拠の様相を呈しているのですが、そんな中にキラリと光る書き込みが。

「ひまー、ごはん食べにいこー」

ぐおおおおおお、これだ、これにいくしかない!とんでもないクリーチャーを10万とかそんな場合じゃないよ、なんとパスタを食べに行きたいという僕の欲求を完璧に満たす書き込みじゃないですか。こいつを逃してはならん、と早速メールを送ります。

「パスタ食いに行こうぜ!」

イメージとしてはドラゴンボールを掴もうぜ!みたいなノリで送信しました。するとすぐに返事が返ってきて、

「いいよー、奢ってねー」

みたいな感じに。コイツはトントン拍子過ぎて怖いですな!あわよくばパスタからおセックスもあり得るかもしれん、と半ば猪突猛進気味に車を走らせて待ち合わせ場所に向かったんです。もうCRアン・ルイスなんて打ってる場合じゃねえよ。

なぜか相手の女性が指定した待ち合わせ場所がコインランドリーなんですけど、普通待ち合わせにコインランドリーはないだろ、ちょっと頭おかしい子なのかな?とか思うじゃないですか、でもそれってキチガイとパスタ食いたいっていう僕の欲求に近づいてるわけですから結構歓迎すべき事象だったんですよ。

「ついたよ!」

みたいなメールが来てキョロキョロと辺りを見回す、といってもコインランドリーですからでっかい洗濯機とどっかのオッサンが忘れたパンツくらいしか見当たらないんですけど、ふと入り口付近に女性が立ってるんですよね。

ここですごいカワイイ娘とかそういった高ポテンシャルな娘が来ると僕としてもネタになるしカワイイしで一粒で二度美味しいんですが、世の中ってそう上手くはできてないですよね。

ウチの職場は旧社屋と新社屋に分かれてまして、3階にそれらの社屋を繋ぐ連絡通路みたいなのがあるんですよ。で、もう2年位前からずっと気になってたんですけど、なぜか通路の真ん中にモップが置いてあるんですよね。なんでこんな場所にモップが?って思いつつベテラン社員の人に聞いてみたら、なんか深刻な顔になっちゃいましてね、俺も別にこういうの信じるわけじゃないんだけどと前置して話してくれたんです。実は、あの通路、出るんだよ、とか言い出しまして、なんでも雨が降るとあの通路の屋根のところにボヤーッと女の顔みたいなシミが浮かび上がるみたいなんんですよ。で、それがオフィスラブで失恋した女子社員の怨霊だとか言われてまして、僕もあまりの怖さにON!RYO!と微妙にラップ調に唄って誤魔化すことしかできなかったんですけど、とにかく気味が悪いっていうんで定期的にモップで消してるらしいんですよ。でもまあ、そんなのって結構見間違えとか多いじゃないですか。まさか、そんなわけあるはずない、って実際に注意して見ていたら、本当に女の顔みたいなシミが通路の屋根のところに浮かび上がってるんですよ。もう震えたね、心底震えた。

と、とにかく、やってきた女がそのシミみたいな顔してたんですよ。屋根に出る怨霊のシミみたいな顔してやがんの。危うくモップで消しそうになった。

まあ僕は心底落胆してるわけなんですけど、そういうのが相手に伝わるとなんか悪い気がするじゃないですか、で、文字通りカラ元気なんですけど 元気いっぱいに

「さあ!パスタ食いに行こうぜ!」

みたいなノリで言ったんです。しかし、シミ、じゃないや彼女の反応は冷ややかで

「パスタ…ですか…」

みたいな、お前、本当に怨霊なんじゃないかって消え入りそうなトーンなんですよ。でももう僕も元気キャラでいっちゃってますから

「そうだよ!何か行きたい店とかある!?パスタ!」

みたいな、いつの間にこんなウザったいキャラになったんだろうって自分でも不思議に思うテンションで切り返すと、

「どこでもいいです…ただ、大切な相談があるから静かな店がいいかな…」

とか、怨霊が妙に気になること言うんですよ。まあ、そんなこと気にしたって始まりませんし、とにかくパスタ食いたいって勢いで車走らせてパスタ屋にいったんです。

もう何頼んだか忘れたんですけど、とにかく二人でパスタ頼みましてね、ものすごい沈黙が襲ってきて何か喋らないといけないって妙に気を使っちゃって、いやーパスタって最高!みたいな訳の分からない会話を切り出したんですけど、すると怨霊が言うわけですよ。

「50万円貸してくれませんか?」

いやーぶっ飛んだね、まさにぶっ飛んだ。まさかパスタ食いにいって50万貸してて言われるとは思わなかった。あまりの出来事に僕も動揺してしまい、

「ご、50万!?」

とか素っ頓狂な声出してテーブルの上に置かれたメニューをウチワ代わりにすることしかできなかった。それでも聞いたからにはどういう事情があるのか掘り進めていかないといけないので、

「50万円も何に使うの?」

と聞くと、

「私、失明寸前なんです。目の病気で……」

とかとんでもないこと言うじゃないですか。なんかパスタ屋とかいうと語感的にもポップな感じがするじゃない。なんかウキウキみたいな。なのに店内のこのテーブルだけ大好きなおじいちゃんが死んだ時のお通夜みたいな深刻さになっとるんですよ。

「もう今もほとんど見えなくて……1週間以内に手術しないと完全に失明するんです……」

こりゃとんでもない暗黒ゾーンに踏み込んでしまったなーって思いつつ、それでも会話を進めます。

「1週間って!なんでそこまで放置してたの!」

ここにきてもまだ元気キャラを止めない僕って結構すごい、と思うんですけど、彼女はもう演技派女優も真っ青な感じで言うんです。

「放置していたわけじゃありません。貯めてたんです。手術代を。手術代の50万円をやっと貯めて喜んでいたんです。これで目が治るって、でも……」

「でも?」

「その手術代が入ったカバンを盗まれたんです。手術代だけじゃなく携帯電話や家の鍵まで盗まれて私どうしたら……!」

あのね、アンタ、さっきまで僕と携帯電話でメールしてたじゃない、おもっくそ携帯電話使ってたじゃない、って思うんですけどとても言い出せる雰囲気ではないので黙ってグラスに注がれた水を飲み干します。

「お願いします!50万円貸してください!絶対に返しますから!」

とか懇願されるんですけど、思いっきり嘘8000じゃないですか、絶対に騙されるじゃないですか。だって携帯電話の件もそうですけど、失明寸前で 目が見えないって自分で言ってたのに、さっきメニュー見ながら思いっきり「シェフの気まぐれ秋風パスタ」注文してましたからね。っていうかそもそも50万円も持ってない。

「50万円もないから無理だよ、5千円だって厳しいし」

まあ、CRアン・ルイスにやられましたからね、そんな金ありませんよ。で、ピシャリと断わったんですけど、彼女も諦めない。

「じゃあ、あの車売って50万円作ってください!」

とか、とんでもないこと言い出しやがるんですよ。もうこの時には注文したパスタが運ばれてきてたんですけど、食ってたパスタ噴出しそうになったからね。なんでそこまで考えが飛躍するんだ。ホント、望みどおりすげえキチガイとパスタ食ってる、僕、キチガイとパスタ食ってるよ!

「いや、車がないと仕事にもいけないし」

と絶妙に断わるんですけど

「私が失明してもいいんですか!」

とか、ぶっちゃけると、本気の本気でぶっちゃけると僕が失明するわけではないですから「いい」という答えしかないんですけど、それを言ったら人間お終いじゃないですか。色々と終わってるじゃないですか。

「そりゃあ失明しない方がいいと思うけど」

「じゃあ50万」

こんな感じで物凄い不毛なやり取りを1時間ですよ。とっくの昔にパスタなんか食い終わってましてね、なのに帰ろうとか言い出せない重苦しい雰囲気。もうどうしていいのか分からないんですけど、そうすると怨霊が言い出すんです。

「私だって借りたくないよ……でも……でも……」

とか泣き出すじゃない。傍目にはなんか僕がDVかなんかで泣かせてるみたいじゃないですか。

「カバンさえ盗まれなかったら私だってこんなこと言わないよ」

とか泣くんですけど、「でも盗んだのは僕じゃないからねえ」と言いたいんですけど言ったら結構人間として終わってるじゃないですか。っていうか、彼女明らかに目が見えていて、50万円盗まれたってのも壮大なるペテンなんでしょうけど、それでも聞いてみるじゃないですか。

「だいたい、なんで50万も入ったカバンを盗まれたの?」 すると彼女は一瞬困った表情を見せた後に言いました。

「身長2mくらいの外国人風の男にひったくられた。本当に怖かった」

僕水飲んでたんですけどブホッってなりましたからね。2mはねーよ、とか、外国人風て、とか色々言いたいことはあるんですけど、その前に目が見えないんじゃなかったのか。

「盗まれたのは災難だけど、やっぱ貸せないよ、ごめんね」

まあ、僕が盗まれたわけでも何でもないので痛くも痒くもないんですけど、とにかくそう告げるとやっと彼女も諦めてくれたみたいで、それどころか凄い方向に開き直っちゃったみたいでカバンから携帯出してメールをピコピコ、目が見えないのにあんな小さい携帯の画面を・・・!その前に携帯は50万円と一緒に盗まれたのでは・・・!とか思うんですけど、そんなことはお構い無しに憮然としてました。

やれやれ、とんでもないキチガイだったぜ、50万円のために車売れって言われた時はあまりの事態に血湧き肉踊ったけど、それにしても2時間も拘束されるとは思わなかった。望みどおりキチガイとパスタ食えたけど精神的にかなりつかれちゃったぜ、と家に帰ってホッと一息。

で、ここまで書いて気がついたんですけど、ここまで長々と書いたことが車を盗まれたことに全く関係がなかった。盗まれた日の出来事を書き綴ったけど、あまり事件に関係なくて本気でビビッた。戦慄すら覚えた。とにかく、無関係な日常部分をやっと終えて事件の核心に迫りますけど、家に帰ってホッと一息、腹減ったなーオデンでも食うか、と近所のコンビニに車で行ったんです。で、

コンビニで車盗まれた。

結局一行日記と変わらないじゃないか!pato死ね!とかお怒りはごもっともですけど、そういった怒りのメールは送ってこないでください。それは僕の痛みに無頓着ということで自由社会の終わりの始まりですから。

とにかく、車盗まれて大変なので誰か僕に50万円貸してください。

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