結婚式へ行こう!

結婚式へ行こう!

過去の記憶はいつだって輝いているものだ。

特別な記憶じゃない、他愛もない普通の記憶が輝いているのだ。良い思い出ばかりじゃない。何か地球崩壊クラスの天変地異が起こってバレンタインデーにチョコをもらもらった人生最良の日と言わんばかりの記憶ばかりじゃなく、家庭訪問の日にオヤジがナマハゲの格好で乱入するという何の得にもならないプチドッキリを敢行、幼い僕はショックのあまり失禁してしまうという忌まわしき思い出もまた輝いているのだ。

僕らはいつも思い出のパッケージングを間違えがちだ。チープな品物でも豪勢な包装紙に包めばそれなりに見えるし、いくら高級なものでも新聞紙に包んであったらサバの切り身でも入ってるのかと思ってしまう。高級品台無し。思い出も同じことで、包装紙を間違うととんでもないことになる。

例えば、あまりに恥ずかしすぎて夜寝る前に布団の中で悶々と思い出してしまって、うわーー!と布団の中で身悶えるしかない悪辣な思い出、できることなら封印したい思い出があったとしよう。想像しにくいと思うので実例を挙げてみると、あくまでも例えばの話なんだけど、全然僕の体験とかそんなんじゃないんですけど、まあ、友人の話なんですけど、なんかそいつが中学生くらいの時に好きな子がいたんですよね。もう好きで好きでしょうがなくて、彼女の性器なら舐められる!って本気で思ってたらしいんですよ、そいつは。

でもまあ、そんな恋心はそっと心にしまいこんで日々の生活を営んでいたんですけど、ある時に、ふっとその子が僕の前の席を通り過ぎた時に髪留めのゴムが落ちてきたんですよ。興奮しましたね。発奮しましたね。とにかく勃起しましたね。大好きなあの子の所持品、それだけで大勃起、固くなりすぎて根元から腐るんじゃねえかってくらいにギンギンのビンラディンですよ。

匂いを嗅いでみるとまた、良い匂いでしてね。この世にエンジェルが存在するんならこういう体臭なんだろうなって匂いなんですよ。で、何をトチ狂ったのか、そのゴムをチンポに装着したくなりましてね、たぶん、将来的にチンポにゴムをつけるって想定してましたから、その予行演習だったんでしょうけど、とにかくこの意中の人の髪留めゴムをチンコに巻きたくなったんですよ。

で、早速トイレに行って巻いてみたんですけど、これがまた凄くてね。ダメだよ!そんなに強く握っちゃ取れちゃうよ!とか妄想しながらさらに怒張する僕のモノ。それに伴って締め付けが強くなりまた興奮する。とにかくとんでもない状態になっちゃいましてね、このままこの快楽に溺れてしまってもいい!と思い余ったその瞬間ですよ。

なんか中学生くらいの頃って、学校で大便するってのが、幼女を2,3人レイプしたくらいの罪深いことじゃないですか。で、クラスの悪ガキが「patoのヤツ大便してるぜ!」と上から覗いてきたもんだからさあ大変。僕はゴムチンポという、まるで自由自在に伸びる縦横無尽な暴れん坊みたいなニックネームをつけられて一躍クラスのスターダムにのし上がりましてね、まあ、未だに寝る前とかに布団の中で思い出して「うわー!」と叫ばずにはいられない恥ずべき思い出になってるわけなんですが、これはパッケージが間違ってると言わざるを得ない。

人生にDeleteボタンがあるのならば間違いなく早期に消さなければならないこの思い出だって、「恥ずべき思い出」というパッケージに包んでしまうから良くないのだ。そう包んでしまうと中身もそうにしか見えず、学校でチンポ出してなにやってんだ、大体、髪留めのゴムをチンポに巻くとか頭おかしい。やるにしても何で家に帰るまで待てなかったんだ、と自責の念が盛り沢山に飛び出してくる。

僕らは思い出を無意識下で「良い思い出」と「悪い思い出」に選別する作業をやりがちだ。そして、それらをそれぞれの良い悪いといったパッケージに包んでしまう。こうやって分別してしまうと、確かに悪い事は早く忘れるようにできるのだが、たまにフラッシュバックしてしまうだけに性質が悪い。

だから分別しなければいいのだ。良い思い出も悪い思い出も1つの「思い出」というパッケージにしまいこむ。すると、なんてことか、上記のような忌むべき思い出にも良い所がちらほら見えてくる。そうか、あの時僕はあんなバカな行動をするくらい恋をしていたのか。うんうん、チンポにゴムつける練習できて良かったな!いざというとき素早いと白けないぜ!ゴムチンポって語呂の良いニックネームだよな。人のことニックネームで呼ばない委員長ですら呼んでたから相当いいニックネームだったんだぜ。と、決して取り戻すことの出来ない遠きあの日を呼び起こす絶妙のスパイスになりえるのです。

僕らのセピア色の思い出はいつだって輝いている。だから、どんな思い出だって忌むべきものじゃない。輝かしく懐かしいこの財産、それを思い出というパッケージにしまいこみ、いつだって取り出せるようにいつまでも大切に大切にしまっておけばいいんじゃないだろうか。

さて、とある週末。僕は名古屋行きの飛行機へと乗り込み、大きな翼の傍らに広がる真っ白い雲を眺めながら、一つの思い出のパッケージを開封する作業に没頭していた。

始まりは一本の電話だった。

「おれ、今度結婚するから」

大学時代の旧友からの突然の電話。あまりの驚きに食っていたシュークリームの中身がブチャアとなったくらいだった。

「おお!それはそれはおめでとう。式には絶対に行くよ!」

取り留めのない昔話に華を咲かせつつ、結婚式の日取りや場所などを聞く。そんな折、彼がとんでもないことを言い出した。

「式ではさ、友人代表として余興なんかをして欲しいんだけど」

「余興?」

「うん、歌とか唄ってくれるとありがたいな」

「オッケー分かった。シューベルト(1797 - 1828 オーストリア)の魔王を唄うよ。しかもドイツ語だぜ!」

「そ、そう…とにかくよろしく」

こんな会話でその日の電話は終わったのだった。

で、あくる日から親友の晴れ舞台で魔王が歌える!と主に通勤の車内でレッスンに明け暮れていた僕だったのだけど、そこに正式な招待状が届いた。

「披露宴では友人代表挨拶をお願いします」

招待状と共に同封された手紙にはそのような文言が。晴れやかな披露宴の席上で魔王を熱唱されてはかなわんとでも思ったのか、いつの間にか挨拶に変わっているというイリュージョン。早速どういうことかと電話をかけます。

「おいおい、挨拶に変わってるじゃないか。ダメだよ、人前で喋るの苦手だもん」

「そんなこといわずに頼むよ」

「まあ、おめでたいことだし、やってもいいけど…魔王が良かったな…」

「魔王は勘弁してよ。とにかくスピーチ頼むよ」

「うん」

「あ、あと、相手は厳格な家柄の人だから、パチンコとか合コンとか、あと、2人で馬糞を持って小学生を追い回した話とかはしないでな」

「えー」

こんな心温まるやり取りがあり、晴れて僕は友人代表挨拶をすることとなったのです。

普通なら、事前に「結婚式のスピーチ」とかそんな本を購入し、入念に話す内容とかを考えるんでしょうけど、ビタイチ考えてませんでしたからね。こうやって式場へと向かう飛行機の中で「何を話そう」と考えるくらいどうしようもなく考えてない。こいつは困った。

とにかく、ご出席の皆さんが友人代表である僕に期待していることといえば、やはり学生時代の友人ならではの思い出エピソードだ。学生時代、彼はこうだった、それを面白おかしく伝えるエピソードが話せれば満点だ。

早速、僕は彼との思い出をパッケージを解きながら回想する。

そういや、いつも大学行く前にパチンコ屋に並んでいたっけな。で、あまりに毎日出しすぎて二人とも出入り禁止になったんだよな。懐かしい。あの時の店員、鬼のような顔してたな。

2人で合コンにいったこともあったっけ。ウキウキでもしもの時のためにコンドームを購入して6個ずつ分けて持ったのはいいけど、合コンに行ったんだか修羅の国に行ったんだか分かんない状態だったっけ。川に映る夜景を見ながら二人で泣いたよな。

そうそう、観光牧場の牛乳が美味しいらしいっていうんで行ったら、あまりにも生意気な小学生がいてさ、あまりにも腹立ったから馬糞掴んで追い掛け回したよな。2時間くらい。

本来なら、ほとんどが恥ずかしい思い出であるはずなのに、やはり思い出というパッケージに包んであると全てが輝かしい。こんなエピソードを面白おかしく話して会場を爆笑の渦に叩き込んでやる!特に合コンでブスがきたところを熱く語りたい!

「相手は厳格な家柄の人だから、パチンコとか合コンとか、あと、2人で馬糞を持って小学生を追い回した話とかはしないでな」

頭の中でリフレインする彼の言葉。そうだ、釘を刺されているんだった。上記のエピソード、全て話せないじゃないか。というか、人の披露宴で合コンの話とか正気を疑う。なしなし、このエピソードなし。

着陸態勢に入った飛行機の中でさらに考える。しかしながら、胸を張って人様に話せるようなエピソードがなさすぎる。僕と彼は大学時代に何をやってたんだ、と愕然とするばかり。ええい、そろそろ考えないと飛行機が名古屋に到着してしまう。早く考えねば、素晴らしい挨拶を考えねば。

そうだ…鯉ヘルペスの話をしてやろう!

鯉ヘルペスっていうのは正式には「コイヘルペスウィルス病(KHV)」といって、ニシキゴイなどのコイに感染する超ヤバイ病気。治療法はなく、しかも鯉同士で感染するのに目立った外見的特長はないってんだからかなりヤバイ。死亡率も格段に高く、集団感染して川面に浮かぶ大量の鯉死体なんていう風景を作りだす。コイ養殖業者も頭を悩ませているものだ。

で、なんで披露宴で鯉ヘルペスの話をするかって部分なんだけど、そんなもんこっちが聞きたいわ。教えてくれ。ただ漠然と雲の上を見ていたら「鯉ヘルペス」って単語がでてきたんだから仕方ない。これをキーワードに話をするしかない。

まず、壇上に立っていきなり鯉ヘルペスの恐ろしさを延々と語る。この小汚い男は何を話してるんだ?狂ってるんじゃないのか?ザワつく来賓たち。最初は笑顔だった新郎新婦も顔が引きつってくる。

「さて、そんな怖ろしい鯉ヘルペスですが、感染している鯉を見分ける方法があるそうです。それは、感染した鯉は動きが鈍くなり活動的でなくなるそうです、そんな鯉は次第にエラが腐ってきて死に至るそうです。鯉業者の人たちはそんな感染鯉を一生懸命見分けてるそうです。大変ですね」

ここで一転して新郎に話題を振る。

「おや、そういえば、今日僕は新郎の高志君とは大学卒業以来数年ぶりに会ったのですが、学生時代と比べて随分とふくよかになっているようです(電話にてかなり太ったと報告を受けている)あんなに学生時代は機敏で、学生食堂にも時空をねじ曲げたとしか思えないスピードで駆け込んでいたメキシコーのレスラーみたいなトリッキーさを兼ね備えていたのに、随分と動きが鈍くなったようです。もしかして、高志君は鯉ヘルペスでも患ったのかな?」

ここで少し間を起き、満面のグッドスマイルで

「いいえ、鯉ヘルペスは人間には感染しません。そんなことないですね。でも、高志君はやはり患っているようです。コイはコイでも、新郎の芳江さん、あなたに恋する病にね、ホント、こんな幸せそうな顔している○○君は初めて見ました。高志君、芳江さん、いつまでもお幸せに、2人で明るく楽しい家庭を築いていください。高志君、鯉ヘルペスになった鯉のようにエラ腐らせないようにな!本日はこのおめでたい席で、鯉ヘルペスのように2人の幸せが皆さんに集団感染したら喜ばしいなと思います。本当におめでとうございます」

イエス!これでいい。なんとかなった。関係なさそうな話題で、この人、狂ってらっしゃるんじゃと心配させておいて、徐々に本題に戻していく。すると話の内容はどうあれ、全ての人々が、よかった狂ってなかった、と安堵に包まれる。もうこの線で攻めるしかない。思い出とかクソ関係ないけどこれでいくしかない。もう全然訳わかんなくて、なんだよ鯉ヘルペスってと思うんですけど、もう飛行機も着陸したしこれでいいやと半ば諦めの境地に達していました。

中部国際空港セントレアに到着し、ムチャクチャ綺麗な空港なのにほとんど人がおらずゴーストタウンと化している現状に驚きつつ、いざ披露宴会場へ。会場に近づくにつれて徐々に緊張してドキドキしてきました。

披露宴会場はなかなか大きい立派な場所で、表の立て看板を見るとどうやら数組の披露宴が開催される模様。なかなか豪気なことですな!と意味不明に誇らしくなり受付へ。緊張のあまり名前を書く時プルプル震えていました。

新郎以外の懐かしい友人とも再会し、

「おー元気してたかよ」

「してたしてた」

「今日お前、友人代表スピーチだって?」

「うん、緊張してどうしようもない。ウンコ漏らしそう」

「どうせ意味分かんない話するんだろう。昔からそうじゃないか」

「うん、まあ、鯉ヘルペスの話をしようと思ってさ」

「…」

とまあ、心温まる会話を交わしつつ、いよいよ式が始まるっていうんでチャペルの方へ。そこで新婦を待機する新郎に久々に会ったのですが、やはり、誰?ってくらいに見事に肥え太っていました。肥え太った資本主義の豚みたい、香港映画に出てくるデブな人みたいになってました。

まあ、それはなくても、タキシードみたいなのを着てキリッとしている彼は学生時代とは見違えるくらい立派で、なんだか別人のようになってました。普通、30歳って言ったらこれくらい立派なもんだよな。

式自体は厳かに進行し、なんかよく分からない歌を唄わされて終了。いよいよ披露宴となったのでした。

配布された式次第を見ると、どうやら友人スピーチは中盤戦の様子。最初に色々あって、偉い人の挨拶とかクソ長いのなどがあった後に出番の様子。まだまだ先とはいえ緊張も高まってきます。

「なんだ、緊張してんの?」

隣に座った件の友人が話しかけてきます。

「知ってるだろ、こういう改まった席は苦手だって…」

「まあまあ、おめでたい席なんだし緊張するなよ、酒でも飲めばいい感じでほぐれるって、まあ飲め飲め」

まあ、乾杯の時に飲んだスパークリングワインって言うんでしょうか、アレが結構美味しかったこともありましてね、酒を飲めば緊張もほぐれると、何杯も何杯も飲んだんですよ。

賢明な方ならご存知かとは思いますが、僕はムチャクチャお酒弱い。普段ほとんど飲まないものですから、たまに飲むとすぐにベロベロになる。もうどうしようもないくらいにベロベロになる。緊張もあったんでしょうけど、ビンの半分くらい一気に飲んだものですから、モノの見事にできあがって前後不覚みたいな状態になってました。ってか吐きそうだった。出されたサラダみたいなのを平らげたんだけど、すぐにでも皿にお返ししそうなくらいヤバかった。

やばいな、ちょっとトイレに行ってこよう。でも、もう少しで僕の出番だ。その時にいないとか最悪だ。あ、でもまだお祝いの電報とか読んでるところだ、まだまだ僕の出番まで時間ありそうだ。トイレ行ってきて万全の体勢で挨拶に臨まないとダメだ。

とまあ、フラフラとおぼつかない足取りでトイレに向かったようです。さて、ここからは酔いどれpatoですので、若干記憶が曖昧な部分がありますが、必死で時系列を追いかけてみましょう。

会場を飛び出したpato。トイレの場所が分からずにただっぴろいロビーをさまよい歩いた記憶があります。今日は僕、ガラにもなく礼服着てるぞ、礼服とは言わば鎧だ!社会人の鎧だ!鎧をまとってトイレ求めてさ迷う僕は「さまようよろい」だ。あれ、ロマリアとかで出てくるとムチャクチャ強いんだよな。なんて言ってたと思う。もう危ない。

トイレになんとか到着、洗面台に向かってゲロを吐くべきかどうか散々迷っていた記憶アリ。どれくらいいたのかわからないけど、結局吐かずにフラフラと会場へ舞い戻る。

で、会場に帰ってくると、宴もたけなわといった感じで死ぬほど盛り上がってる。披露宴にありがちな皆が席についてお澄まし顔ってのはなくて、みんな席を移動したりしてムチャクチャ歓談してる。おおーすげえ盛り上がってるなー、さっきの電報からどんな起爆剤を使ったらこんなに盛り上がるんだ、と思いながらも自分のいた席へ着席。僕の席の皆はどっかに移動して歓談してるらしくテーブルには誰もいない。少し寂しかったのだけど、少しでも酔いを醒まそうと目の前にあったサラダをモシャモシャと食べる。いつの間にかいっぱい料理が運ばれてきていて並んでいた。

しばらく一人で、やばいわー、挨拶できるのかしらー、というか僕の出番まだー?早く鯉ヘルペスの話をさせてくれ!と頭をフラフラやってたんですけど、そういえば緊張のあまりちゃんと新郎新婦の姿を見てなかった、と新郎新婦席に目をやったんです。

いや、ホントに立派になって、あのアホやってた彼がねー、馬糞持って小学生を追いかけていた彼がねー、立派になったもんだよ、別人になったかと思ったよ、と少し優しい視線で新郎新婦に目をやると…

別人でした。

別人になったかと思った、じゃなくて別人だった。掛け値なしに別人だった。誰だよこれ。ここ会場が違う。別の披露宴だ。どうりで一気に宴がヒートアップしすぎだと思った。サラダを2回食ったと思った。

というか、回りの人が気付かないのがおかしい。宴もたけなわで席もぐちゃぐちゃといえども、気付いて欲しかった。いや、逆に披露宴ってのは知らない人だらけだから気付かないのか。っていうか、僕も気付かないのがおかしい。何ゆったりと座ってるんだ。頭狂ってる。頭が鯉ヘルペスだ。

とにかく、酔っていてもヤバイと思ったらしく、まるでトイレに行く人みたいなナチュラルさで別会場を抜け出た僕。また会場が分からずに「さまようよろい」になっていたのですが、そこでやっとこさ友人に捕獲されました。

「なにやってんだよ!挨拶飛ばされたぞ!」

どうにもこうにも、挨拶の時に僕がいなかったので会場のスタッフサイドの人が大変探したようなのです。ふふ、まさか別会場にいたとは思うまい。で、騒ぎが表面化しないよう極めてナチュラルに僕の出番は飛ばされたそうです。

で、こっからはさらに覚えてないのですが、友人の後日談から抜粋してみましょう。

まず、帰ったら宴も終盤戦、新郎新婦の両親を並べて花束やら手紙やら、そんな涙なしでは語れない一番よい場面だったようです。そんなとこに挨拶すっぽかした酔いどれキチガイがご帰還。僕が新婦の父だったらぶん殴ります。

で、新郎の強い意向もあり、なんとかナチュラルに僕の挨拶が組み込まれた様子。冷静に考えると、むちゃくちゃ流れのおかしいプログラムじゃないか。両親に花束渡して涙した後になんで訳の分からない酔っ払いが出てくるんだ。

で、壇上に上がった僕、鯉ヘルペスの話とかしなかったようで、延々と大塚愛の話をしていたそうです。大塚愛という歌手がいて、彼女の歌のフレーズに「あなたの好きなものはあたしも好きになっていくものね」っていうのがありまして…っていう話から入って良い話っぽいかと期待したらしいのですが、次第に僕が大塚愛と付き合ったらみたいなオチも山場もないヨタ話だったそうです。怖くて詳細な内容まで聞いてない。

すごい長くて早く終わらないかなって思ったそうです。

僕は酒で失敗をする人間はクズだと思って日々の生活を営んでいます。なんでも酒のせいにするってのは理性のある人間、それも責任ある社会人がやってはならないと思っています。そんなことはないように日々を正直に酒も飲まずに生きていたのですが、まさかとんでもないチョンボを自分がかましてしまうとは。

式も終了し、二次会の会場。さすがに酔いも冷めてきて自己嫌悪に陥った僕は、かなり凹んでしまい、新郎に

「ごめんな…酒がすごい回っちゃってさ…」

と謝ったのですが、彼と彼の奥さんは満面の笑顔で

「いやいや、挨拶頼んだ時点でこれくらいは予想していた。君に頼むということはそういうことだ」

「ハラハラして面白かったです。良い思い出になると思います。本当にありがとうございますね」

とまあ、そう言ってくれると幾分か救われるのですが

「でもさ、いない時、どこにいたの?」

「…別の会場。新郎新婦が見たことないサーファーみたいでビビった」

二次会で大爆笑を頂戴したのでした。

まあ、それからは、新婦の友人(大塚愛似)に鯉ヘルペスの話を思いっきり語っておきました。君に鯉ヘルペスくらい言ったかもしれない。

「思い出」とは素晴らしいパッケージ素材だ。良いことも悪いことも、思い出というパッケージに包んでしまえば全て遠く輝かしいものになってしまう。思い出は常に等価なのだ。辛いこと悲しいこと恥ずかしいこと、思い出したくないことだってあるかもしれない。それらを固く封印せず、もう一度思い出というパッケージに包む作業をすれば少しはハッピーになるんじゃないだろうか。僕らは過去に捉われる必要なんてないんだから。胸を張って生きていこう。

この日の大失態に教訓を得つつ、結婚式に引き出物の包装紙でパッケージしつつ、いつかきっと良い思い出になるさ、とまた祝いの酒を飲むのでした。

まあ、また酔っ払って大塚愛似の新婦友人に「僕はアソコがむっちゃ伸びるよ」と訳の分からない口説きを見せるゴムチンポがそこにおり、この人気持ち悪いみたいな冷ややかな、道に捨ててあるガムを見るような視線を投げつけられたのでした。この記憶だけは包装紙ごと投げ捨てたい。

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