未来予測図

未来予測図

予測。

事の成り行きや結果を前もっておしはかること。、また、その内容。

僕らの生活は予測と結果、この繰り返しによる産物といっても過言ではない。まるで輪廻のように繰り返し繰り返し、予測を立てては結果を得る。当たるか外れるかは分からないけど、そののみを馬車馬の如く繰り返してるに過ぎない。

予測とは未来の情報を手に入れようとする行為だ。あーでもない、こーでもない、としながらなんとか未知なる未来の情報を入手しようとする。10秒後の未来なんて10秒後に分かるし、10年後だって同じ、そこに本質的意味はない。なのに誰もが未来の情報を手に入れようと躍起になる。

明日、晴れるだろうか。今抱えてるこの仕事は今日中に終わるだろうか。今日の晩御飯はなんだろうか。今日は何か面白いテレビやるかな。今週末のあの子とのデートうまくいってムフフなことになるかも。もしかしたら今度の人事で昇進するかも。こうやって時間軸を未来へと昇っていく。そうすることにほとんど意味なんてないのに。

これは単に僕らの日常が不安定でダイナミックであることに起因するんじゃないだろうか。もしかしたら明日死ぬかもしれないし、5秒後に隕石が落ちてくるかもしれない。通り魔に遭うかもしれない。全財産を失くすかもしれない。満員電車で痴漢に間違えられて人生終わるかもしれないし、いきなり逮捕されるかもしれない。もしかしたら、土曜日で休みだーって浮かれてスロットに行っていたら、実は会社で釈迦並みにお偉い人がやってきてプロジェクト説明をするという重大行事があったりして、何も知らない30歳男性がやれ777が揃っただの一喜一憂している頃、会社ではプロジェクト責任者がいなくて大騒ぎ、偉い人も憤慨しちゃって地獄の修羅場、月曜日に上司にこっぴどく叱られて「今度ばかりは覚悟しろ」なんて微妙にカッコイイセリフを吐かれちゃったりなんかして、仕事からも干されて仕方なくゴミ捨てなんかやらされるかもしれない。クソッ!ペットボトルのゴミ、途方もなく臭いんだよ!ベトベトするし。

とにかく、この世知辛い現代、一寸先は闇なんて言葉が大変適切で、次の瞬間にどんな不幸が降ってくるかわかりゃしない。それらを最小限に食い止めようと、予測することを止めない、止められないんじゃないだろうか。

しかしながら、予測が未来の情報を手に入れようとする行為であるといっても、実はそれは過去の反芻でしかない。ある事柄に対して未来を予測する時、過去の似たような事例に照らし合わせて予測する。前回こうだったから今回もこうだ。これまでずっとこうだったから、今回はこそは違うはずだ。逆を言うと、何も過去を参照できない物は予測しようがない。そう、予測とは未来の情報を得ようとする行為なのだが、そこでは過去を振り返る行為しか行われていないのだ。

ある2件の相談メールがある。これにも過去を振り返った彼らなりの予測がふんだんに盛り込まれているため、是非とも皆さんに読んでもらいたい。

僕は自分でも自分が可哀想になってくるくらい社交性がなく、それこそB'zが出てきてシャウトしてもおかしくないほど社交性ゼロな男なのだけど、それでも高校時代から今まで緊密に連絡を取り合っている友人が2名いる。皆さんご存知の通り、土曜日に大事な仕事をすっぽかしてスロットに興じるほどのカスであるこの僕と長い間仲良くしてくれている心優しき友人だ、なるべく大切にしていきたい。

その友人の1人は、まあ、僕と仲良くしてくれる男なので、こいつも例外なくキチガイで、常に片想いをしているというアグレッシブハートの持ち主だ。別に片想いが悪いとは言わないけど、30歳にもなったオッサンから「今日大好きな○○さんが飲んだ後の缶コーヒーを舐めたよ、間接キッスだ!」などと色恋に脳髄をやられたエロ中学生みたいな携帯メールが届くと心の底から気持ち悪くなる。

彼は過去の様々な失恋経験、およそ高校時代から通算して40連敗にもなろうかという悲しき記憶を反芻し、自分なりの予測を立てている。口にしないまでも、彼がそのような予測を立てていることは痛いほど伝わってくる。

この恋は実らないだろう。

そんな悲しき予測を立ててしまうのも防衛本能の一つだろう。そして彼は、まるで少女のような片想いに没頭することに自分の未来を見出した。そう予測した。秘かに恋心を抱き、その人の一挙手一投足で一喜一憂する。そうすればたまに切なくて泣いちゃうようなこともあるだろうけど、深手を負うほどには傷つかなくて済む。そうすることが最良であるという彼なりの予測だ。

しかしながら、そろそろ加齢臭のお年頃、ハッキリ言ってそろそろ頭髪の心配とかする30歳男性の片想い秘話なんて精神衛生上大変よろしくないものがありましてね、

「今日は○○さんと目があっちゃった(なんか踊ってる絵文字)」

「今日は○○さんと喋ったよ(スマイルマークみたいなの)」

「○○さんと同じシャンプー買っちゃったよ〜(意味不明にモアイの絵文字)」

とまあ、とにかくキモい。間違いなくキモい。僕がコイツの妻だったら間違いなくパンツを箸で摘む、それくらいキモい、っていうメールがドンドコやってくるんですよ。

あまりにもキモいですから、僕も過去の経験から「よかったねー」と肯定的な返事を返そうものなら更にキモさがヒートアップすることは予測できますから、あえて彼の純愛をぶち壊すような返事を送ってあげるんですよ。

「今日は○○さんと目があっちゃった(なんか踊ってる絵文字)」

「もうレイプしちゃえよ」

「今日は○○さんと喋ったよ(スマイルマークみたいなの)」

「レイプするぞって言っちゃえ」

「○○さんと同じシャンプー買っちゃったよ〜(意味不明にモアイの絵文字)」

「レイプして俺のシャンプーだーってかけちゃえよ」

「なあ、今度○○さんと2人で得意先にいくことになったんだけど、なに喋ったらいいかな?」

「レイプするぞ」

「それはそうと、今度はいつ帰省する?飲みに行こうよ」

「レイプするぞ」

「知ってる?青山のヤツ結婚したってさ」

「レイプするぞ」

もう懲役物の返事なんですけど、途中から面倒になっちゃいましてね、もう内容も見ずに「レイプするぞ」ばっかり返信するようになってました。

こういう時、最近の携帯電話とは本当に便利ですね。予測変換機能ってヤツがついてるんですから。なんと、何回か「レイプするぞ」って入力していればそのうち「れ」を入力するだけで勝手に「レイプするぞ」が候補にあがってきて、後はそれを選択するだけなんですから。

これもまた、未来に入力されるであろう文章を携帯電話が予測してくれる便利システムなのですが、予測していると見せかけて実は過去の入力遍歴を振り返っているだけという、いわゆる過去の情報なわけです。携帯が勝手に気を利かせて「れ」から「レオナルド・ディカプリオ」などと突拍子もない変換をしてくれることはありえません。

とにかく便利な世の中になったもんだなー、でも便利になるのも考え物で、こういった予測変換機能を使うと、ついついその候補ばかり使う文章を考えてしまう。新たに文章打つのが面倒になっちゃうんだよな。結果、画一的な文章になっちゃって味気ないコミュニケーションになってしまう。便利なコミュニケーションを求めるあまり機械的なコミュニケーションになっていくとは皮肉よのう。などと考えながら、キモい桃色片想い30歳に「レイプするぞ」って送り続けていました。

さて、それと同時期に受けていたもう一人の友人の相談メール。こちらは長いこと友人関係が続いている女性で、まあ、2回くらい乳を揉んだことあるんですけど全く興奮しなかったと言えば分かりやすいでしょうか。そんな距離感の友人です。

で、なんと、マサイ族みたいだった彼女がこの度結婚することになりまして、僕も「おめでとー」みたいなメールを送っていたのですが、どうも彼女の歯切れが悪い。なんか、文面からマリッジブルーだかヒステリックブルーみたいな雰囲気が伝わってくるんですよ。

「ちょっと相談があるんだけど」

そんな折、彼女から届いたメール。これを見た瞬間思いましたね、ああ、思い話になるな、と。黒人ボクサーのボディーブローなみにズシリとくる展開になるな、と。

予想は見事的中で、なんでも彼女の相談内容は「結婚する彼が働こうとしない」という、もう、僕にどんな権力があったとしても、たとえ国王であったとしても解決できそうにない内容。なんでそんな人と結婚しようとしてるのか分かりませんが、彼女は真剣に悩んでいる様子。

ハッキリ言って、僕はこういったシリアスな内容は苦手でして、正直放置したいのですが、このマサイ族は過去にコンドームを万引きして捕まった彼氏、小学3年生からカツアゲして捕まった彼氏(24歳)、地域社会を震撼させた月夜の強姦魔として捕まった彼氏、とその辺のアバズレじゃあ到底太刀打ちできない犯罪オールスターみたいな男性遍歴を誇る彼女です、きっと過去を振り返って悲しき未来を予測しているに違いないのです。

「やっぱり不安だよ」

過去に付き合った男性が、次々と情けない犯罪で捕まっていく。その気持ちになって考えると無理もありません。捕まるまでいかなかった彼氏でも、けっこうデンジャラスだったもんな。意味もなくカブトムシとか殺してたもんな。

「わかんないよ、でもいい人だと思ったから結婚しようと思ったんでしょ?」

その彼氏がどんな人だか知りませんが、とにかくそう返事を送信して彼女の不安を取り除こうとする僕は本当に男前だったと思います。

「でも、結婚を止めるも止めないも自由だと思うよ。自分の結婚なんだから。自分で決めればきっと後悔しないと思うし、誰も文句を言う権利はないと思う」

まあ、この辺なんか今これを読んでる女性は「入れて!」ジュボとなるくらいジンジンになる、それくらいジェントルでしょうが、過去の経験から、蓋を開けてみるとそういった女性読者はB'zが出てくるくらい皆無というのは容易に予測できます。

とにかく、彼女は今の彼氏と結婚したいと思いつつ、それでも過去の経験から不安もある、それは彼女の予測ですから尊重しなければなりません。けれども、女も30歳ともなると周りの声も色々とあるのでしょう。今更止めるわけにはいかない。職場にいられなくなる。次第にそんな重圧を息苦しく感じ始めてきたようです。

「もういっそのこと死んでしまいたい」

彼女はいつもこうで、収拾がつかなくなるとすぐにこういったことを仄めかしてきて正直ウンザリなのですが、友人として止めないわけには行きません。

「止めたほうがいいって」

あまり熱烈に止めるとそれに反応して自分の中で劇場オペラが盛り上がって、シャレにならないことになるタイプの彼女ですので、やや冷ややかに止めます。

「うん、わかってるんだけど、そんなことしたってどうしようもないってわかってるんだけど、それでもふっと思う時があってね…」

ここは一発言ってやらなきゃって思いましたね。こりゃあモノホンかもしれない、冷やかな対応とかそういった次元の問題じゃない。ここはさすがに思い留まるような言葉をガツンと投げつけてやるべきだと思ったんですよ。「冷静になれ!」そう親身になった言葉を彼女に投げつけ、とりあえず目を覚まして欲しいと思ったんです。僕は壊れるかという勢いで携帯電話のボタンを押しました。

「レイプするぞ」

いやいやいや、おかしいじゃないですか。キチガってるじゃないですか。なんかね、「冷静に」って打とうとしたんですけど、大体、僕って「冷静」って言葉を「冷静に考えるとアナルってウンコ出るとこだよ」って感じで頻繁に使うから予測変換の第1位に「冷静」が入ってるんですけど、さっき30歳桃色片想いに「レイプするぞ」連呼してたじゃないですか、見事に「れ」の予測変換第1位が「レイプするぞ」ですよ。テンポよくいったもんだから勢いそのまま送信しちゃった。

決して癒えることのない過去の傷によってマリッジブルーに思い悩み、仄暗い未来予測が頭から離れない女性に「レイプするぞ」ですからね。時代が時代だったらお縄ですよ。いや、下手したら今でもお縄ですよ。ホント、予測変換のヤロウ、予測できない大暴れしやがる。

「最低」

まあ、これを最後にパタリとメールが来なくなりまして、おそらくこのまま音信不通になると思われ、貴重な友人を失うという大惨事に。これは働かない旦那より大問題ですよ。

ちくしょー、なんで「レイプ」発言を繰り返してる時にこの結末を予測できなかったんだ。こんな失敗、過去に何度も繰り返してきたじゃないか。どうしてここで予測が出来なかったんだ。

予測とは、この世界を生き抜く僕らには欠かすことのできない大切なものです。しかし、それは連綿と続く過去からの産物でしかなく、そこからは何も産まれない。大変便利で楽な「予測」だけど、それにばかりに捉われると大惨事になりかねない。あくまでも予測は予測、それは真実じゃないのだ。

「いやー今日は○○さんの写真撮ったよ!見て見て!すげえカワイイよ!(ハートマークいっぱい)」

桃色片想い30歳から気持ち悪い文言の画像付きメールが届く。画像には盗み撮りしたと思われるOLの姿が。これって犯罪だぞと思いつつその画像を見ると、そこにはマサイ族どころかマサイ族No.1の戦士みたいな女性が厳かに鎮座しておられました。それを見た僕はそっと変換候補2位を選択し、

「冷静になれ!」

と送信するのでした。ちゃんとその辺のマサイ族戦士との未来は予測しような。

予測の脆さと大切さ、相反する二つの要素を再確認し、仕事を干された僕はゴミ捨てに専念し、入社したての小娘(19歳)に「ちょっと〜ちゃんとビニールは分別してください〜」とフェラチオばっかりしてるんだろうなって口で小生意気に言われ、泣く泣くゴミからビニールを分別するのでした。ちくしょう、いつかレイプしてやる。懲役食らう、良くてもクビになる未来が予測できた。

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