連続更新ログサルベージ
先に行われた3000万ヒット連続更新からサルベージ。いわゆる手抜き。それではどうぞ
6.しゃぼん玉
大きな大きなシャボン玉。それが僕の夢だった。
幼い頃の僕は、親が見ても心配するくらいシャボン玉という存在に強く惹かれていて、誰に言うわけでもないけど将来はシャボン玉博士になろうと誓っていたこともあった。
貧しかった我が家では、シャボン玉専用のシャボン玉セットみたいなチープなオモチャ、中はシャボン玉用の笛みたいなのと専用の薬液が入っているチンケな物すらも買い与えてもらえず、もっぱら台所洗剤を薄めたりしてストローで作っていた。
そのうち、ストローの先っぽを改造するとそれに応じて多種多様のシャボン玉が形成されることを発見してしまい、大きくて長持ちするシャボンやら、小さいシャボンが無数に舞う姿などをウットリと楽しんでいたものだ。
シャボン玉ってのは不思議なもので、まず表面が綺麗。虹のような不思議な色彩が、規則性があるわけでもなくウネウネと動いている。それなのにシャボン玉自体は実態があるわけでもなく、フワフワと目的があるわけでもなく宙に浮いている。そして、しばらくするとパッと消えてしまう。その不思議さ、その儚さ、どれをとっても魅力的だった。
この広いインターネット大海原、その枝にぶら下がっている多くのサイトや事象はどこかシャボン玉的で、不思議で儚い。例えば、目の前にあるサイトはどうしても不思議で面白い。一つの事象をとっても、日常で接するよりインターネットで接したほうが何倍か楽しいのだ。しかしながら、ある日を境にパタリと消えてしまうことも少なくなく、その儚さが寂しくもあるけど、またインターネットを楽しくする。きっと、数あるインターネットサイトもムーブメントも、このNumeriだってシャボン玉に過ぎずないのだ。だからインターネットは面白い。
しかしながら、シャボン玉だって良い部分ばかりじゃない。どう突き詰めても、どんなに綺麗でもそれはシャボン玉で、そこに実体はない。あぶく銭を稼ごうとしていたり、自分で何も生み出さない盗人が大きい顔をしていたり、純粋な心を商売的な手垢が踏みにじったり。なんだか苦労やリスクを負わずに大きな対価を得る動きが台頭してきたような気がする。そう、悪い意味でのシャボン玉だ。バブルだ。
その悪しきシャボン玉の最たる例がインチキ出会い系サイトなどに代表される架空請求詐欺ではないか。コンビニエンス詐欺とはよく言ったもので、この種の詐欺は本当にお手軽だ。
まず、適当に男心をくすぐりそうな出会い系サイトを作っておき、適当にスケベな女の子の書き込みでも捏造しておく。で、ツールを使うなりなんなりして男を誘うSPAMメールをゴソッと配信。メールの内容が魅惑的で生々しいほど成果は高い。適当に「完全無料です！」とでも謳っておけばいくらでも釣れる。もちろん、適当に作ったサイトなので出会えるはずもなく、そもそも機能してないことがほとんど。それでもなぜかゴッソリとポイントが消費されていき、いつの間にか数万円の利用料が発生してしまう。あとは、その客に向かってやや脅迫的な請求メールを送っておしまい。なかなか応じないなら屈強な男っぽい声で電話をかければOK。そうすればいくらかはお金が振り込まれてウハウハ、しばらく稼いだらサイトごとドロンすればいい。
まさに実体がなくて儚く消えてしまうシャボン玉そのもの。おまけに用意周到な準備も、人を騙すだけの知識も必要ない。なんとも簡単なもの、僕はこれをシャボン詐欺と呼びたい。
何度も話しているのだけど、一体全体僕のメールアドレスはどこまで一人歩きを続けているのか分からないのだけど、そういった類のシャボン詐欺サイトから山のようにお誘いのメールが来る。最近では海外のサイトなどからも英語で来る始末で、僕のメアドだけが世界に通用する器になってるのだけど、これがまあ、とにかくひどい。
普通に
「主人とはもう営みがありません。よろしかったら３００万円即金で払いますので私を抱いてくれませんか？こちらのサイトで詳しく相談しましょう。登録が必要だけど完全無料だから大丈夫ですよ。http://...」
なんてメールがくるんですよ。抱いただけで３００万払うとかどこの石油成金ですか、コイツは。他にも、
「わたしの名前はミカ！エッチ大好きだよ！気軽にゆっき〜って呼んでね。エッチしようよー。http://...」
エッチ大好きなのはいいんですけど、いや、むしろ喜ばしいんですけど、なぜミカという名前なのに「ゆっき〜」と呼ばねばならないのか。理解に苦しみます。さらに
「恥ずかしいんですが、その・・・一人でしてたら・・・中に乾電池が入ってしまって取れないんです・・・恥ずかしくて人に言えない。お願い！今すぐうちにきて乾電池を取り出してください！私の住所はこっちのサイトに書いてあります。急いで！http://」
んなもん自分で取れよ。もしくは医者いけ。横着すんな。
とまあ、詐欺サイトに誘い込もうとあの手この手で誘惑してくるのですが、こんなのが日に50通も来ると別に少々のことでは動じなくなるから不思議なものです。受け取ったらとりあえず読み、一笑に付して削除する、まあこんなものです。
しかしながら、どうしても心動かざるを得ない、どうやってもアクセスしてみるしかない、夢見る少女じゃいられない、そんなメールに出会ってしまったのです。以下が、問題のそのメール。
「はじめまして。普段は真面目な顔でOLしてます。でも、たまにエッチな気分になることがあって・・・そうなるともうしたくてたまらないのです。男の人の前で全裸になって、アジの開きみたいになってしまいます。こんな私とセックスしてくれませんか？http://...」
アジ！！！
アジの開き！！！
おかしいおかしい。すごいエロスな描写をしようと心がけたことは痛いほど分かるのだけど、いくらなんでもアジの開きはなかろう。こう、体を開いてウェルカムってのを表現したかったのだろうけど、アジの開きはなかろう。何食って育ったらこんな発想ができるんだ。
とにかく、こんなスパイシーなメールを送ってくるサイトが気になってしょうがない。とにかく行ってみるしかない。そしてアジを堪能するしかない。そう思ってメールに記載されたURLをガッシリとクリックしました。
するとまあ、お決まりの展開なんですけど、アジの開きのように体を開いてカマーンとかなってる女など微塵もいなくて、普通に「登録無料！いますぐ登録！」みたいな煽り文句が踊るページがうざったいくらいチカチカしながら余裕の風格で佇んでおりました。
でまあ、これまたお決まりなんですけど「無料！」と謳ってるくせに利用規約を読んでみると目立たない場所に「登録のみは無料です、利用料は利用ポイントに応じて規定の料金をお支払いください」みたいなことが書いてありましてね、古典的過ぎる詐欺サイト。
まあ、メールだけなら華麗にスルーできるんですが、こんなコテコテの詐欺サイトを見てしまったらいてもたってもいられない！とにかくまあ、速攻で登録してやったんですよ。
そしたらアンタ、登録した瞬間にドコドコと女性からのメッセージが届くようになりましてね、恐らく一斉送信してるんでしょうけど、「体が疼くの」みたいなのが８秒ごとくらいにドンドコ届くんですよ。一種のメールボムだぜ、これは。
で、このサイトの凄いところは、それらの勝手に送られてくるメールを読んだだけで５ポイントも消費するというファンキーな設定。それどころか「メール受信料」という名目で送られてきただけでさらに５ポイントかかるというご機嫌な仕様。１ポイント＝１０円ですから、この勝手に送られてきたメール読むだけで１００円かかるということになってるんです。
しかも、これらの「抱いて」とかいう生々しいメールに「抱いてやる」とか返信するだけで５０ポイント（５００円）相手の写真を見るのは２００ポイント（２０００円）自分の携帯番号を相手に送るのは５００ポイント（５０００円）という、シーズン中のスキー場の売店みたいな値段設定になってやがるんですよ。カレーが900円くらいしやがるからな、あそこは。もうどっからどう見ても詐欺サイトです。どこに出しても恥ずかしくない立派な詐欺サイトです。
そんでまあ、勝手にメール送られてきて勝手にポイントも消費されてることですし、別にいいやって感じで、まさにアジの開きのような状態でウェルカム。詐欺でも何でもこいよとアクセスしまくったんです。
で、あっという間に消費ポイントが1000ポイント（1万円）に達してしまいましてね、そこで一度詐欺サイトのほうから機械的な文面で請求メールが。なんか、「ご利用ポイントが1000Pに達しました。3日以内に下記口座まで1万円お振込みください」みたいなことが書いてありました。ご丁寧に「稀に無料と書いてあったから支払わないと言われる方がいますが、当サイトは登録のみが無料です。利用料が必要なことは利用規約に書いてありますので、支払われない場合は法的手段に訴えます」とか勝ち誇ったかのように書いてありました。
さあて、あまりにコテコテでいつもどおりの展開だな。こりゃあどうしたもんかなあ、と携帯電話を弄りつつ普通にその件の詐欺サイトにアクセスしてのです。そこで衝撃の事実が！
ふ・・・普通に使える・・・！
いやね、何がおかしいかって請求メールが来た後なのにさらにサイトが利用できるってのがおかしいんですよ。普通は料金払うまで使えなくなるかなんかして「料金未納のためご利用できません」とか表示が出るんですけど、それらが全然ナッシング。常識的に考えて、料金を払ってないのにさらに使えるなんてありえない。それに詐欺のセオリーからも外れてしまう。
こういったお手軽シャボン詐欺ってのはですね、騙す方もお手軽なら騙される方もお手軽でなくては成立しないんですよね。1万円くらいで煩わしい想いするくらいなら払っちゃうかあ、何割かの人間にそう思わせなければ成立しない詐欺なのです。
で、その人の経済状態にもよりますが、大体多くの人が「大金」と感じる金額ってのが3万円らしく、それを超えない程度で騙し取る金額の上限が設定されてる場合がほとんどなんですよね。
だから、ほとんどの詐欺サイトが1万円請求できるところで利用を止めちゃう。で、それがサクッと振り込まれる可能性は高いですし、払わなくても督促手数料や遅延金を含んで3万くらいで請求しちゃう。もうちょっと話が大きくなると額が上がりますが、大体そんな理由で1万円で止まるはずなんですよ。なのにこのサイトは止まってない。
まあ、完全無欠の詐欺サイトですから、詐欺だ！料金がかかるなんて聞いてない！ってことはこのサイトにいる女も全部嘘さ、そんなものさ、夏の女は幻！とか思って二度とアクセスしないと思うんですよね。だから、止めるのを怠ったか。ホント、お手軽シャボン詐欺だな、その辺の部分はしっかり抑えておけよなあ。
とにかくまあ、相手が1万円ほどを気楽に、シャボン玉のようにフワフワと騙そうとしているに違いありません。ここはいっちょ、そんなんじゃ許さないぜって言う気構えを見せて、お手軽では済まない巨額詐欺事件にしてやりましょう。
1万円を越えた時点で女から勝手に送られてくるメールは、丸で何らかの号令でもかかったかのようにピタリとなくなり、かってにポイントが消費されることはなくなりましたが、まだまだこちらからアクションを起こしてポイントを消費することはできます。
とにかく効率的にポイントを消費し、平成最大の巨額詐欺事件にしてしまわねばなりません。最も効率がいいのは相手に自分の携帯番号を送るというサービスで、コレを1回やるだけで500ポイント（5000円）消費するって言うんだから利用しない手はありません。とにかく、掲示板に載せてる女の子に片っ端から携帯番号を送り続けました。
しかしながら、それでポイントを消費していると、同じ相手には3回までしか携帯番号を送れないというクソな仕様が発覚し、仕方ないので上から順番に全部の女性に、それでもすぐに足りなくなったので、北海道から始めて全国全ての地域を網羅して携帯番号を送りまくりました。
それでもさらに飽き足らず、次に消費ポイントが大きいシャメ閲覧を利用してポイント消費。そのうち、パソコンからツールを使って勝手にメッセージを送り続ける手法を開発し、ドンドコドンドコと自動で「アジの開き」と送ってポイントを消費してみました。
だいたい、最初の1万円の振り込み期限だった3日間ほど暇を見つけてはやったのですが、その時点で「現在利用できません」と表示されて使えなくなりました。その直前までの利用ポイントはこんな感じ。
画像
3999万9950ポイント！（約4億円）
いやー、ここまで使い込むの本気で疲れたわー。
あとは怖いお兄さんから請求電話がかかってきて、4億円を巡る骨肉の争い、法廷闘争も辞さない構えで高裁まで戦う心づもりをしていたのですが、請求が全くこないという体たらく。なんだよ、きたら「アジの開き！」とか言ってやろうと思ったのに。
とにかく、ここで新たな教訓。出会い系詐欺はお手軽な詐欺。騙される額もお手軽じゃないと成立しません。4億というシャレにならない額になったら相手が逃げ出します。これでまた一つ利口になったね。
お手軽にお金を騙し取るシャボン詐欺。シャボン玉のように生まれては消えていく数多くの不思議で綺麗なインターネットサイトに紛れて浮かんでいるこの異質なシャボン玉は、あまりに大きくなりすぎると本当にシャボン玉のように弾けて消えるのでした。
幼い頃、あんなに憧れた大きな大きなシャボン玉。4億円まで膨らんだよ。
