1000の言葉

1000の言葉

あのさ、「ぽっちゃり系」って言葉あるじゃないですか。「わたしぽっちゃり系なんですー」とか言う女性がいますけど、どうやってもこの表現が許せないんですよね。こういった細かいことで怒りを感じるのは精神衛生上大変よろしくないことだってわかってるのですが、それでも怒らずにはいられない、日々悶々としながら怒りに打ち震えてるわけなんですよ。

日本語ってヤツは面白いもので、それこそ数多くの表現があるわけなのですが、この「ぽっちゃり」こそ現実と乖離した使われ方をしている単語もないなって思うんです。

女性の言う「わたし、ぽっちゃり系だから〜」なんてハッキリ言ってポッチャリじゃないですからね。本気で掛け値なしでデブな場合がほとんど。ホント、どういう了見やねんって感じですよ。

以前に出会い系サイトシリーズの収録において幾多の女性とメッセージを取り交わしたわけなんですが、そんな中で

「わたし、ちょっとぽっちゃり系なんだよねー、それでもいい?」

とのたまった産婦人科勤務のナース美智子さんの場合、少々肉付きの良いエロナースなんて最高じゃないか!プニプニしたい!と待ち合わせ場所に馳せ参じましたところ、往年の名横綱大乃国みたいなのが四股踏んでましたからね。土俵入りと言わんばかり風格で横綱がちょっとお澄まし顔。どこがちょっとぽっちゃり系なんだと、お前関取じゃねえか、と。

これはですね、僕らが想像する「ぽっちゃり」と、関取かレスラーかって女性が想定する「ぽっちゃり」、その言葉の意味合いが絶望的に異なってることが原因で起こる悲劇なわけなんです。

僕なんかは「ぽっちゃり」っていうと、デブという領域ではないにしろ微妙に肉付きの良い女性を想像し、二の腕なんか最高にプニプニしてて感じ良さそう、というか全体的に程良い肉加減を連想し、鶏がらみたいにガリガリスレンダーな女性よりむしろ好きなんですが、そうは問屋が下ろさない。

かなりの肉弾戦を得意とする女性の場合は、そこで「ぽっちゃり」という言葉に逃げてしまう。なんかデブとか言うと聞こえが悪いし、私はデブなんかじゃない!ぽっちゃり系だもん!こういった思考から途方もないことをのたまってしまうのです。

誤解がないように言っておきますけど、僕は別にデブが悪いと言うつもりはありません。むしろ好意的にすら思ってるくらいです。しかしながら、ぽっちゃりという言葉に逃げるのはいただけない。それならば「私デブ」とド直球で言ってくれた方が全然ウェルカム。僕は比類なきブサイクフェイスですけど、個性的な顔立ちとか、失敗したジグソーパズルみたいな顔とか言わない。ちゃんとブサイクっていいます。デブなものあ仕方ないんだから、それくらいの気概を見せて欲しい。

結局まあ、これは「ぽっちゃり」という言葉があまりに曖昧なものですから、言う側と聞く側で貿易摩擦みたいなすれ違いが起こってしまい、悲劇が後を絶たないわけなんですが、実はコレ、「ぽっちゃり」だけではないんですよね。曖昧な言葉、それも人間を表す言葉ならいくらでも起こりうる事態なんです。

例えば「不思議系」。不思議ちゃんだからーと聞くと、ちょっと四次元的な魅力のあるエキセントリックでチャーミングな女性を連想しますけど、あんなもんただのキチガイですからね。蓋を開ければ不思議ちゃんが行き過ぎて、毎夜風呂場でリストカット、流れ出る血でゴールドクロスを修復してますからね。あと「癒し系」も危ない。ホントに癒されるわーってのは数少なくて大抵の場合はネクラです。毎夜、テレビの砂嵐に向かってブツブツ独り言を言ってるに決まってます。全てが万事これで、実態を曖昧な言葉で濁す風習が横行しすぎている。僕はこの悪しき風習を徹底的に糾弾していきたい。

先日のことでした。

この度、私、不肖patoは社内でも有名な、それこそ過去に数人ほど過労死と疑わしき事例を輩出している鬼のプロジェクトの責任者に出世しましてね、まあ、早い話が会社からの「早く死ねよ」っていうハートウォーミングなメッセージかもしれないのですが、それに伴って秘書をつけていただけることになったのです。

まあ、秘書といっても、そんな重役的で優雅な秘書、「専務、午後から自民党幹事長との会食が」とか言う秘書ではなくて、パートタイム的に雑用などを補佐してくれる人なんですけど、とにかく秘書には違いありません。他の同僚は事務員さんとか言いますけど、誰がなんと言おうと秘書なんです。

で、その秘書を決める採用面接みたいなのがありましてね、僕と上司2人で応募者を面接し、そいでもって合否を決めるってことをやるはずだったんです。で、どうも労働条件が破格によろしかったらしく、結構な応募があったらしいんです。

僕はですね、上司が何を言おうと人間性や資格の有無、仕事ができるか否かっていう判断基準で合否を決めるつもりはありませんでした。完全に顔と体のみ。あとはエロさとか、許されるならばフェラチオのテクニックなどで合否を決定したいほどでした。

だって、秘書って言ったら体の関係を夢見るじゃないですか。っていうか肉体関係ありなもんって相場が決まってるじゃないですか。秘書の「秘」は秘所の「秘」、秘書の「書」は秘所の「所」ですからね。そりゃあ、あるに決まってる。ないほうがおかしい。

「patoさん、とりあえず今日は私は何をしたらいいでしょうか?」

「そうだな、まずは午後からの会議用にこの資料を20部ずつコピーしてくれ、あとそれから・・・」

「はい」

「午後3時に来客があるから、会議が終わるまで待たせておいてくれ」

「はい。他には?」

「うむ、しゃぶってくれい」

「はい」ジュバジュバ

こういうことじゃないですか。これができない秘書なんて秘書じゃないし、僕がデスクに座って仕事してても下に潜り込んでフェラチオ三昧、そうでなくてはいけません。

で、そうなってくると当然ながら顔と体、エロさなどが最重要材料になってくるわけですから、資格で言うとFカップを英検1級、アイドル系の顔を秘書検定、特技フェラチオを司法試験合格あたりに読み替えて審査するしかありません。何をトチ狂ったのか水着とかで面接にきたら即座に合格にします。そんな気構えおりました。

しかしですね、上司から採用面接の日程を決められてなかった僕は、どうもその面接に日の朝に「眠いから今日は休むぅ」とズル休みをかましてしまい、なんと、僕抜きで面接が行われてしまうという悲劇が勃発。なんか上司と、僕の代理として同僚前川君が面接に臨んだらしいのです。

いやね、なんで僕のフェラチオ相手を上司と前川のバカが決めるんですか。こんなこと許されていいはずがない。この世には天使も悪魔もいやしない。あれだけ楽しみにしていた秘書面接。下手したら「ちょっと下着をみせてください」とか言って突然の質問に驚く芳江。そう、芳江はお嬢様育ちで俗に言う箱入り娘だった。でも、もう芳江だって二十歳になったんだもん、いつまでもお父様に頼って生きたくないわ。芳江は決意します。自分の力でお金を稼ごう。資産家で知られる父も反対しませんでした。心配だったけど、芳江が決めたことだ、私はそれを応援しようと思う。執事も同じ思いでした。そして、この秘書採用情報をどこからか見つけてきたのです。初めて社会に飛び出た芳江、極度の緊張状態で面接に臨みます。そこで直面した「下着を見せてください」。怖い、社会ってこんなに怖いものだったのね。やだよう、下着なんてみせたくないよう。でも・・・一人で頑張るって決めたんだから、執事だって、お父様だって応援してくれてる。ダメよ、こんなことぐらいで怯んじゃだめ、私は頑張るんだから。いつまでたっても子供じゃない。ゆっくりとスカートの裾をめくり上げる芳江。そこには神々しき小さな三角形が顔を覗かせます。「うむ、採用!」。こういうことがやれないじゃないですか。ホント、前川と上司は死ねよ。

兎にも角にも、完全に僕不在の状態、数年前の自民党もビックリの密室会議で僕の秘書が決まったらしいのですが、なんていうかさ、この流れで行くと「ぽっちゃり系」といいつつトンデモアニマルなデブが出てきそうとか思うじゃないですか。賢明な読者様なら、ああ、冒頭で「ぽっちゃり系」の話をしつつ、ここで秘書がぽっちゃり系でデブなんだな、と先を予想するじゃないですか。でもね、事態はそんな甘っちょろいもんじゃなかった。

「けっこう美人だったよー、仕事も出来そうだったし何より真面目そうだった。ちょっとぽっちゃりしてたけどね」

と、採用した女性についてお決まりの印象を語るバカ前川。これでまあ、ぽっちゃりの言葉に乗って途方もない力士が来るってのが王道なんでしょうが、事態はそんな生半可なものじゃなかった。

いよいよ、秘書の人が来る当日。僕もまあ、まだ上司とバカ前川が勝手に選んだといっても期待に胸を弾ませていますから、不測の事態に備えて新品のパンツなどを装備して出勤したんです。で、いよいよ僕とのご対面。

コンコン

とオフィスのドアがノックされ、僕は紳士的、かつ満面の笑顔でドアを開け、彼女を出迎えました。

いや、なにこれ?

そこにおわすは、まあ、ポッチャリといいつつも名横綱なんてのは別にいいですよ。そんなもん大体そうだろうなって予想してましたから。しかしですね、なんか外見がむちゃくちゃダルシムに似てるんですよ。なんか、ポッチャリしてて長髪のダルシム。

あまりの事態に動揺を隠せない僕は

「何か用ですかな?」

と、コイツは出入りの業者か、保険勧誘の女性かもしれないという儚い期待を胸にまるで他人のように冷徹に言い放ったのですが

「今日からこちらで働くことになったヨシオカと申します。よろしくおねがいします・・・」

と消え入るような小さな声で言うんですよ。明らかに根暗なのがトシちゃんくらい教師ビンビンに伝わってきます。もうあまりにショックでしてね、別にダルシムは何も悪くなく、むしろ上司とバカ前川が悪いんですけど、あまりの落胆にホームラン打たれたピッチャーみたいにその場で崩れ落ちそうになってしまいました。

あれだけ期待していた秘書なのに、とんでもないデブでダルシム。おまけに根暗で、よく見たら手首にいっぱい傷があります。たぶん、ちょっと嫌なことがあるとすぐゴールドクロスの修復をするんでしょう。

とにかく、怖ろしいことにトリプルクラウンどころか四冠王な勢いですが、これだって曖昧な言葉を使えば「ぽっちゃり系で不思議系、ちょっと癒し系で異国の人っぽい」って感じで表せます。そう聞くとダルシムもまんざらでない感じに聞こえるんですから、本当に曖昧な言葉ってのは怖ろしい。

「あの、今日は私何をしたらいいでしょうか?」

またか細い声で言うダルシム。さすがに

「しゃぶってくれい」

とも

「上司とバカ前川に向かってヨガフレイム吐き出してこい」

とも言えず、ただただ泣くことしか出来ませんでした。クソ!誰だって「秘書」と聞いたら美人でエロい感じの女の人を連想するのに!絶対にダルシムなんて想像しないのに!

「ぽっちゃり系」などに代表される曖昧な、聞こえの良い言葉が許せない。そう言いつつも、「秘書」という最も曖昧で聞こえの良い言葉に手痛いしっぺ返しを食らった僕。家に帰ったら風呂場でリストカットしてゴールドクロスでも修復しようかと思うのでした。

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