おまけ1失われたメモリー

おまけ1
失われたメモリー

激烈な体験を経て、約10日間に渡るモンゴル放浪の旅が終わったわけですが、首都ウランバートルに帰ってきたのがかなりの深夜。ホテルはドアを堅く閉ざしているわ、死ぬほど寒いわ、暴走族みたいなのものまで出てくるわ、で大変な騒ぎ。

別にサムソンと感動の別れとか、涙ながらに堅い握手したとか、日本に帰っても連絡するからなとかなくて、スフバートル広場に到着したら

「俺は次のドライバーの契約があるからとっと降りろ、早く報酬よこせ」

みたいなアメリカ人並みの契約社会のシビアさを見せつけ、物凄い勢いでテールランプを光らせて帰っていきました。ありがとうサムソン。さよならサムソン。さて、どうするか。

こんな異国の治安の悪そうな場所に真夜中に残され、さらに死ぬほど寒いのにTシャツ一枚。ホテルを何個か巡ってみたのですが、戒厳令が出てると思うほどにクローズド。

モンゴルの首都ウランバートルにはマンホールの中で暮らすストリートチルドレンが数多くいるのですが、極めてその子供たちに近い感じで僕も廃屋の非常階段みたいな場所で眠りました。セメントの袋に包まって寝た。

凍え死ぬかとも思ったのですが、なんとか朝を迎えることができ、そのままホテルに直行。なんとか最初に来た時と同じホテルをキープしたのでした。

暖かい布団に包まって数時間寝た後、実に10日ぶりとなる入浴へ。湯船が一瞬で真っ黒になるという超常現象。シャンプーも6回くらいやらないと泡立たないという脅威の状態でした。そりゃ毎日泥と砂にまみれてればこうなる。

体が綺麗になったら、帰りの飛行機まで時間があるのでブラブラとウランバートルの街を徘徊していました。ホモたちのハッテン場となってるネカフェに行ったり、旧国立デパートに行ってお土産物を買ったりしました。

そんな感じで街をブラブラしていたら、博物館の横あたりに白い立派な建物が。何か宮殿風の作りになっている古っぽい建物の看板を見ると、「北朝鮮大使館」。日本語で書いてあったわけじゃないですけど、英語でそう書いてありました。

こいつはすげえ!北朝鮮大使館なんて見るの初めてだぜ!と国交がない国の民らしく物珍しげに周囲を徘徊しておりました。大使館は2階建てだったか3階建てだったのですけど、2階の窓が開いていて、その窓からは偉大なる将軍様の写真がズババーンって飾ってありました。

おおーすげー

とか思いながら周囲を徘徊していると、なんか知らんけどパトカーがやってきたんですよね。お、何か事件か事故か!?と思いながら興味本位でパトカーを眺めていると、目の前に停まるじゃないですか。こんな近くで事件が!と興奮してると、見事に僕が捕まって連れて行かれました。なんでやねん。

近くの交番みたいな場所、というか警察官の待機場所みたいなところに連れて行かれたのですけど、言葉がほとんど通じないので大変な騒ぎ。パスポートを出しながらつたない英語で「僕は日本人で、珍しいから大使館を見てただけ」と説明すると、何かを分かってくれたらしくすぐに帰してくれました。

大使館ってのは言うまでもなく重要施設ですから、そこを怪しげに徘徊してると警察に連れて行かれるというわけですな。あと、大使館をはじめ政府建物、軍事施設、空港などはテロなどを警戒してか写真撮影自体が禁止であるようです。その辺の警戒心は日本より格段に高いと思った。

晴れて自由の身になった僕は、大使館ってすげー、周りを徘徊してるだけで捕まるのかー、と感動し、今度は日本大使館に行ってみようと地図で場所を確認、走るようにして向かうのでした。

地図を見て驚いたのですけど、日本大使館は砂漠放浪前に行ったモンゴルオフの会場の隣、あの誰も来なくて枕を涙で濡らしたナムラーダイル公園のすぐ隣でした。

行ってみると日本大使館ってのが物凄くて、他国の大使館の何ランクも上。デカイわ綺麗だわ最新鋭の機器が揃ってそうだわで大変な騒ぎ。マジで、汚くて貧相な建物が並ぶウランバートルの街の中で場違いな感じで金ぴかの建物がそびえ建ってました。

これもみんな僕らの血税なのかしら?

と思いつつ、こんな場違いに立派な大使館をモンゴルの人が見たら日本はどんな国だと思うんだろう、と思いつつ日本大使館前を放浪という感じではなく普通に歩いてました。

するとまた警官登場ですよ。今度は歩いてるだけで警官登場ですよ。日本大使館前は警官の詰め所みたいな場所があるんですけど、そこから映画に出てくる悪徳ポリスみたいなのがノソノソ出てくるんですよ。

レイザーラモンみたいなサングラスかけたポリスは手招きで僕を呼び寄せると、何やら意味不明な言語を喋りつつ詰め所みたいな場所に連れて行きます。これでコイツがホモだったら間違いなく貫かれるな、と思いつつ、ビクビクしながら詰め所に入るのでした。

汚い椅子に座ると、レイザーラモンは僕が手に持っていたデジカメを指差し、「大使館を撮影したらダメだ」みたいなことを言ってくるんです。僕も「撮影してない」と言い張るのですが頑として聞き入れない。

ホントだって!と興奮しちゃったもんだから日本語で言いいつつデジカメのメモリーを警官に見せ、大使館など撮影してないことをアッピールしたのですが、出てくる画像が本を売った幼女だったり裸のサムソンだったりノグソしているサムソンだったり自分の黄色いノグソだったり、人格を疑わざるを得ない画像が次々と出てくるんですよ。もう終わった。

結局、レイザーラモンポリスを納得させることはできず、彼はなんか「デリート」だとか「オール」みたいなこと言いやがりまして、デジカメのメモリーを全部消せと言っている様子。これには本を買ってくれた優しき少女、ウンコするサムソンなど、旅の後半のメモリーが山ほど詰まってるのに。

「デリート」

「ホンマに?」

「ホンマに」

と何故モンゴル人警察官が「ホンマに」とか返答してるのか意味分からないのですが、全部消さないと買えれないご様子。大使館を撮影すらしてなくて、カメラを持って前を歩いていただけでこの仕打ち。仕方なく全てを消去してホテルへと帰ったのでした。こうして、旅の後半は全く画像がなく、切なくて泣きそうになったのでした。

関連タグ:

2005年 モンゴル放浪記 TOP inserted by FC2 system