魔の郵便受け

魔の郵便受け

郵便受けとはパンドラの箱です。そこには開けてはならない禁断の魔が多数存在し、それを開けるという事は悪魔と契約し、どんな不幸でも甘んじて受け入れるという覚悟が必要なのです。

我が家の郵便受けを開けると、そこには家賃を払えという脅迫状、電気を止めるぞという脅迫状、契約を解除するぞというネット会社や電話会社の脅迫状、治安の悪い南米の国みたいな無秩序さが存在するのです。多数の不幸が大挙して押し寄せる、まさにパンドラの箱。死ぬほど怖い。

先日もナントカコミュニケーションズというところから、利用料を払わないと止めるぞという過激な文面の手紙が届いたのですが、

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なんと、その滞納額が40円という驚愕のもの。40円ですよ、40円。どうやったらこんな請求額になるのか不思議でしょうがないのですが、こんな微々たる金額で止められそうになるのですから僕の経済状況は逼迫しているとしか言いようがありません。というか、日本の経済が狂ってる。ヒルズ族とかセレブとか敵対的買収とかハードゲイとか景気のいい話が飛び交う一方で、40円でネットを止められそうになる男がいる。アヘン戦争直後の中国の如き貧富の差です。

そんな事情もあってか、一日の仕事を終え、疲れた体を引きずりながら帰宅、すると目の前には郵便受けがあるわけなのですが、いったい今日はどんな脅迫が待ち構えているのか、と恐怖で自然と僕の右腕も震えるというものです。ユウビンウケコワイ、と何故か片言にもなるってものです。

その日も、仕事で疲れ、ミッドナイトシャッフル!とか訳の分からないことを呟きながら歩くほどに精神状態が荒んでいたのですが、そんな僕がアパート入り口の郵便受けコーナーに辿り着いたのです。すると、いつものように郵便受けは禍々しきオーラを放ち、不幸が大きな口をポッカリあけて今か今かと待ち構えてるように感じたのです。

普段の屈強な僕でしたら、家賃の督促やらの脅迫状でも電気を止めるぞという過激な脅迫状でもちぎっては投げちぎっては投げ、家賃なぞ3ヶ月滞納しても大丈夫、それ以上は勝手に鍵を変えられるが、まだいける!と荒ぶる戦国武将のような、猛将のような豪胆さを見せ付けるのですが、なにせ疲れて精神的に弱っている僕です、今、過激な文面の脅迫状が届いたら心が折れてしまう。僕の翼が折れてしまう。

しかし、怖いからと言って開けないわけには行きません。脅迫だって虐めだってそうですが、大切なのは立ち向かう勇気なのです。メソメソと泣いてたら誰かが助けてくれるなんて甘い幻想、立ち向かわなければ電気を止められたり鍵を変えられたり、やりたい放題にされてしまうのです。

頑張らねばならない。立ち向かわなければならない。僕は意を決して郵便受けを開けたのでした。すると、そこには驚愕の事実がぽっかりと口を開けて待ち構えていたのです。

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裏ビデオ販売のチラシ。

いやいや、おかしいじゃない。おかしすぎるじゃない。時代錯誤もいいところじゃない。あのですね、今やインターネットやブロードバンドが隆盛の時代、エロいビデオを見たいと思ったらお気軽にダウンロードできる時代なんですよ。それこそパシッとやってバスッとやれば簡単にパソコンでエロビデオが見れちゃうわけ。

そんなご時勢にあって、誰もレンタルビデオ屋に行ってエロビデオを借りるわけもなく、巷のビデオショップのエロビデオコーナーは縮小傾向にあるわけなのですが、それに伴ってか、こういった不法な裏ビデオ販売も衰退傾向にあると聞きました。そりゃ、ネットで落とせるのに誰も家の外で入手しようなんて思うまい。

裏ビデオとは、簡単かつストレートに言ってしまうとモザイクの入っていないエロビデオのことです。僕らがビデオ屋で借りて大興奮するエロビデオはいわゆる表ビデオで、局部には必ずモザイクがかかっています。下手なドアップ系のチュッパチャップス系のビデオになると、それこそ大部分にモザイクをかけねばならず、画面全部がモザイクでなんのこっちゃわからない、サイコな映画作品を見ている気分になることも多々あります。

しかし、表があれば裏がある、モザイクがあればその向こう側が見てみたくなる、ぶっちゃけ、女の子のアソコを見たい、それはある種仕方のない人間の心理でありまして、ブルーフィルムから始まり、家庭用ビデオの発展と共にひっそりと売られていったのでありました。

しかし、こういった裏ビデオ販売、どの時代でもそうなのですが、下半身に直結した事柄は詐欺に繋がりやすいという基本原理が存在します。それは、性的な本能に訴えかければ男ならどうしても止まらずひっかりやすい、さらに被害にあっても恥ずかしくて訴えにくい、という魅惑の好条件が揃ってるわけで、今まさに問題となっている架空請求詐欺なんかもその一環に過ぎないのです。

つまり、こういった、特に各家庭にチラシを配布して裏ビデオを販売する業者は詐欺の可能性が高く、高い金を払って購入しても裏ビデオなんてナッシング。物凄いダビングを繰り返された画質の悪い普通のモザイクビデオが送られてくるのならまだ良心的なのですが、酷いのになると何も入ってない空テープやら、別の番組が録画されてるテープが来るなど、握り締めたチンポとティッシュが空しくなるような憂き目にあうのです。

かくいう僕も、今から8年くらい前でしょうか、大学生だった時分に随分とこの手の裏ビデオ宅配には騙され続けまして、ちょうど当時はこの手の詐欺の全盛だったこともありまして毎日のように上記のようなチラシがアパートの郵便受けに投函されていたのです。

そのチラシを見て真剣に買うべき裏ビデオを吟味。時には友人などにも深刻に相談し、やっぱ「放課後の体育倉庫でブルマ姿のロリ」は外せねーよな、などと真剣に吟味。ドキドキしながら注文。親からのなけなしの仕送りを食費を切り詰めて投入したにも関わらず、思いっきり空テープが送られてきて枕を涙で濡らす、そんなことを繰り返した大学生時代。たぶん8回くらい騙されたんじゃないかと思う。

考えてもみてください。ものすごい裏ビデオが来るのを今か今かと待ち構えているところに空テープが送られてくる衝撃。その後、仕送りを使っちゃったものだから食費がなくなってフリカケだけで過ごす毎日。ご飯にフリカケじゃないですよ、完全にフリカケだけを食す毎日。シャケ味が美味。ホント、涙なしでは語れない。

あの頃は本当に右も左も分からなかった。ただ裏ビデオが見たいだけで必死だった。裏ビデオさえあれば大学の期末テストも乗り切れるって漠然と思っていた。世の中の人が、そうやってよってたかって騙してくるなんて微塵も思わなかったし、なにより、エロビデオという神聖な領域で醜い骨肉の騙し合いが行われるなんて思ってもいなかった。だってそうじゃないですか。同じ男なら気持ちは分かるはずですよ。エロビデオに、特に裏ビデオに賭ける気持ちは分かるはずですよ。そこを狙って詐欺をするなんて、最も卑劣なる行為じゃないですか。

思えば、僕がこうやってサイトで幾多の詐欺行為と戦うことになった原点はこの裏ビデオ詐欺にあるかもしれない。こういった卑劣なる行為を憎む感情が芽生え、フリカケを食した日々が走馬灯のように思い出されます。

あれから8年が経過し、時代がビデオテープからDVDへ、そしてネットでの動画配信に移り変わると共に、それを取り巻く社会状況も大きく変化してきました。架空請求やオレオレ詐欺、リフォーム詐欺が隆盛を極め、誰かが誰かを騙すのが当然の世界。一昔前は詐欺なんてどこか遠くの他人事のように感じていた部分もあったのですが、それが今や本当に身近です。こんなに詐欺に触れることができる現代社会は病んでるとしか言いようがない。

そして、他ならぬ僕自身も僭越ながら大きく成長したかのように思います。8年前は何がなにやら分からず、お金を払えば裏ビデオが手に入るって漠然と考えていた。人が人を騙すなんて、ましてや自分が詐欺の被害にあうなんて考えてもいなかった。そう、ある意味ピュアだった。

しかし、あれから出会い系サイトやら架空請求やら多くの詐欺的業者と対決した僕。少なからず戦い方も分かってきたような気がするし、絶対に騙されないという自負もある。今の自分が8年前に存在していたのなら、泣きながらフリカケを喉に流し込む日々もなかっただろうにと悔やむこと山の如しだ。

もう一度、あの裏ビデオ販売と対決してみたい。8年前に騙され続けたあの日々を、梅味のフリカケは単品で食うには味が濃すぎると涙したあの日々を賭して勝負をしてみたい。今ならきっと負けない。そう思って日々を過ごしていたのですが、前述したように裏ビデオ宅配詐欺は衰退の一途。

こんなネットで手軽にエロ動画をダウンロードできる時代に誰もリスキーに裏ビデオ宅配に手を出すわけもなく、おまけに詐欺する側ももっと手軽な架空請求やオレオレ詐欺に手を出するのが自然の流れと、8年の間、全くこの手のチラシを見ることなく月日は流れて行ったのです。そう、リベンジの機会がないまま。

しかし、8年の歳月を超えてついに裏ビデオ宅配のチラシが我の前に現れた。もはや完全に絶滅したと思われた詐欺が僕の目の前に。時空を超えて 一体何度我々の前に立ちはだかってくるというのだ!裏ビデオ詐欺!と郵便受けの前で叫んでしまったほどです。

8年ぶりの再会に心ときめきいてしまった僕、早速ではありますが件のチラシの分析を始めます。

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何気に時代に即してDVDに対応するようになっているのが笑えるんですが、実はこのチラシを見るだけでも多分に詐欺と判定できる部分があるのです。今思うと、8年前の自分はなんでこんなのに騙されちゃったんだろうと思うほどに見え見えの詐欺。こんなのに騙されてフリカケなんだから、性獣であり、なおかつそれなりに自由になるお金が幾分はある大学生という立場は恐ろしい。騙されやすすぎる。

とりあえず、おかしい部分をいくつか挙げてみましょう。

1. 60分スピード宅配

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よくわからんイラストのお姉ちゃんも言っているように、電話をかけて注文すると60分以内に裏ビデオが宅配されるらしい。ピザ屋もビックリのきめ細かいサービスだ。しかし、地域に根ざしたサービスをしている比較的規模の大きい商売、それこそビザ屋とかならともかく、こんなアンダーグラウンドかつ小規模であろう商売が宅配サービスをしていて利益が出るわけない。交通費や人件費で完全に赤字になるはず。注文数が多い都会ならまだしも、こんな片田舎でこの宅配サービスは無理がある。

2. 販売作品が流出作品ではない

詳しく書くと死ぬほど長くなってしまうので割愛するけど、裏ビデオとして流通している作品は確かに存在する。しかし、それはある程度決まった作品か撮り下ろしの自主制作物に限定される。有名なAV女優物が裏ビデオとして流通したのならば、それはある程度の騒ぎになるのだが、このチラシには全く裏に流出した噂を聞かない一線級で活躍する女優が並べられている。そんなもの存在するわけないのに販売しているとはこれいかに。

3. 画像がおかしい

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チラシに記載された代表的な紹介画像を肖像権に配慮して並べてみる。これを見て何か気付かないだろうか。そう、全てがグラビアから切り抜いてきたかの如き綺麗さを誇る写真なのだ。

もしこれらの作品の裏流出ビデオがあるのなら、わざわざグラビア写真をパクって来る必要はない。そのビデオのキャプチャ画像を多少マイルドな場面を選んで載せれば済むこと。そのような作品自体が存在しないからこのような紹介画像になってしまう。

4. セット販売

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これは常套手段。最低でも1万円からの注文しか受け付けないという姿勢。本当に裏ビデオであるのなら1本からの注文を受けても十分にリピーターが見込まれる。しかし、最低でも5本、場合によっては10本を買わなければ注文ができない。完全な詐欺であるからリピーターは見込めず、1回の騙しあたりでなるべく多くの金額を取らねばいけないという配慮がここにある。騙して1本売れました2千円でした、では全然儲からない、そこでまとめ売りで一網打尽というわけ。

5. 記述の矛盾

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「蔵出し」なのに「産地直送」で「とれたて」とはこれいかに。というか、裏ビデオの「産地直送」が何を意味するのか皆目わからない。「とれたて」にいたってはもっと意味が分からない。

6. 説明文がおかしい

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これは小倉ありすの裏流出と称する作品の内容説明で「エッチなお汁」だとか「ベチョベチョ」だとか魅惑的な単語が踊り狂ってるのだけど、それ以上に注目すべきは、

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あチン○ン。

この記述、伏字が何なのか気になりますが、おそらく「あチンチン」と言いたかったのではなかろうか。すると、それは何なのか多分に気になるところです。巧妙なレトリックが仕掛けられている可能性があります。

とまあ、一見してこのチラシがおかしすぎることが分かりまして、1000%詐欺であることは分かりきってるのですが、次に幾多の裏ビデオ詐欺に引っかかった僕がこの手の詐欺の手口を簡単に説明してみます。

まず、電話で注文をすると詳細に住所を聞かれます。そして、「今すぐバイクで配達に行くので待っておいてくれ」と言われます。その際に、「もしかしたら道順が分からなくて行けない場合もある、その際は後日郵送になる」と言われます。

しかし、待てど暮らせど宅配は来ません。痺れを切らして電話すると「配達のバイトが道に迷った、後日郵送で送る」だとか言われます。で、何日かすると代金引換とかで箱が送られてきます。そこで料金を払って荒ぶる神々のように乱暴に箱を開けるとそこには空テープ。砂嵐を見て泣きながらフリカケだけを食べることになるのです。

酷いのになるとそこからさらに金を毟ろうとしてきて、「当局の取締りが厳しいため、最初は空テープをカモフラージュとして送っている。1万円を同封してこの空テープを送り返してもらえば本物を送る」などの手紙が同封されている場合があります。

冷静に考えると何のカモフラージュなのか全然分からないのですが、猛り狂った獅子たちはさらにお金を同封して空テープを返送。そして何も音沙汰ナッシングで泣きながらフリカケを食べるのです。さらに金を毟って、おまけに騙しに使った空テープすらも回収する血も涙もない手法です。お前らの血は何色だと問いたい。

つまり、こういったやり取りにおいて「後日郵便配達」というのが重要になるわけです。この手の業者は宅配で直接手渡しは絶対にしません。何かしら理由をつけて後日代引きでの郵送にします。僕の過去の例では「配達の途中で道に迷った」から始まって、「配達途中で同業他社の妨害工作にあった」というのまで様々。なんだよ、妨害工作って。この街はそんなに裏ビデオ戦国時代に突入してるのか。とにかく、絶対に何かしら理由をつけて後日郵送にしたがります。

つまり、後日郵送で金払って受け取るから騙されても対抗手段がないわけで、直接宅配に来させてその場で確認、あチン○ンとかがモザイクなしで映ってるのを確認すればいいのです。それで安心。

ということで、常套手段である「配達のバイトが道に迷った」という言い訳が使えないよう鉄壁の守備をおく必要があるのです。具体的には、「駅の西口で待ってるから持ってきてくれ」「分かりやすい場所で待ち合わせしよう」「むしろこちらから取りに行く」「麻薬の取引のように波止場でやろう」などが思いつくのですが、これのどれかを強硬に主張してやろうと計画しました。

電話をかける前に、どうせ詐欺でこのチラシの裏ビデオが買えるわけないんですが、買えちゃった場合に駄作を掴んでしまったら死ぬほど後悔するだろうという状況を鑑みて、とりあえず真剣に欲しい作品をリストアップしておきました。

買えるはずがない、これは詐欺だ。と思いつつも「春菜まい」あたりをチョイスしていた僕がちょっぴり本気印でカワイイと思いましたし、やはり小倉ありすの「あチン○ン」だけは外せないよな、と真剣に悩んだものですから、まるで8年前にタイムスリップしたかのような錯覚に陥りました。

さて、これで準備は整いました。8年前の苦悩の日々、8年間の鬱積した想い、ついでにあまりにしつこい家賃の督促の恨みを晴らすべく、僕は闘いという名の海へ漕ぎ出すのです。かかってこいや!裏ビデオ業者!

業者側が「宅配できない、後日郵送で」と言い出そうものなら「なめんな!今から取りにいく!落ち武者の格好して取りに行く!」とブチギレる準備もできてますし、「早くあチンチン見せろよ!もうお前のでいいよ!あチンチン見せろ!脱げ!」と大爆発する準備もできています。復讐心のあまり冷静さを失うかもしれない自分を戒めるため、フーッと深く深呼吸をし、携帯電話を取り出してついにチラシの番号に電話をしたのでした。

ツーツーツーツー

しかし呼び出し音がならない。注文が殺到して話し中なのかな?とも思ったのですが、どうやら僕の携帯電話のほうが料金未納で止められている様子。

いやそんなまさかね、そんなはずないよ。こいつはAUのサービス自体が落ちているに違いない、と自分の非力さを認められず、AUの障害情報か何かの情報をネットで確認しようとパソコンを立ち上げてネットに繋ぐのですが、繋がらない。

で、携帯もネットも止められたー!ってなもんですよ。

電話の方はいくら未納なのか知りませんが、ネットの方は上述のようにガチで40円未納で止められた様子。ついでにいうと、その前には電気も止められてた。電気だけはなんとか復帰したけど、さすがにネット料金には手が回らなかった。というか、40円じゃあ止められないと余裕ぶっこいてた。

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40円未納で生命線ともいえるネットとの接続を断ち切られる。こいつは裏ビデオ購入とかそんな次元の話じゃないぜ、もう一度体勢を整えて、主に経済面で整えて再度8年後にリベンジするしかないぜ、とフリカケだけを食べながら思うのでした。

ホント、郵便受けの督促状が怖すぎる。あチン○ンが縮こまるほど怖すぎる。

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