台風タイフーン

台風タイフーン

モンゴル放浪記は少しお休み。だってここはモンゴル旅行記サイトじゃないもの。仕方ないよ、人間だもの。


「台風」ってなんで台の風なんでしょうか。

良く分からないですけど、あれだけ物凄い暴風を演出する台風です、もっと恐ろしげな漢字が使われてもいいと思うのです。もっと竜虎のような脅しの効いた名前だとか、死を連想させる名前、画数の多い漢字を使った名前とかがあっても良さそうなのですが、何故か「台風」。見た目もホノボノしてますし、画数が少なくてスカスカです。怖くもなんともない。もっとこう、龍風とか死風とか、読みは同じにしても画数の多い戴風とかにするべきだ。

台風の語源には諸説ありまして、タイフーンから来た説だとか、中国で台湾付近の風として使われてた「颱風」からきたとか、アラビア語の「tufan」から来た、ギリシャ語の風の神「typhon」からきたなど様々です。どれもこれも納得な説ですが、それでもさすがに「台風」はないだろうと思うわけなんです。これはあの暴風の恐ろしさを全く表してない。

まあ、そんな語源の話は置いておきまして、それにしても先日列島を襲った台風14号は物凄かったですね。暴風が吹き荒れ、まさに猛烈という言葉がふさわしいほどの暴風雨。崖は崩れ、川は溢れ、電気が止まり水道も止まる。本当に物凄いものでした。

僕など暴風雨で2日間仕事が休みになったばかりか、台風が過ぎ去った後も大変でして、土砂崩れやら洪水やらで道路が壊滅状態でしてね、職場まで通じる国道が全て通行止め状態。強制的に通勤できなくてしばらく有給を使ってました。

我がアパートのほうも、強風で窓ガラスにヒビが入るやら、隣家とベランダで繋がってる部分の「緊急の際は蹴破ってください」と書いてある仕切り板が風の力で破れちゃって、「おお、緊急の際だ」とか思うやらカーニバル状態の大騒ぎ。台風で窓ガラスが割れるとか言うと屋根から転げ落ちたどっかのクリスタルナイツな親父を思い出しますが、とにかく凄かった。

暴風雨の真っ只中、今まさに最も盛り上がってるだろう時にコンビニATMで金を下ろしてやろうと呑気に近所のセブンイレブンに行ったのですが、横殴りの雨に初めて「痛い」と感じました。雨に「痛い」ですからね、こんなのモンゴルで雹に見舞われて「ヒョウ!」と驚いた時以来です。

そんな苦しい思いをしていざコンビニに到着してみると、停電で大騒ぎ。非常灯がつくやら、アイスが溶けないように店員さんが必死になるやら、そんな中で微動だにせずヤンマガを立ち読みしている若者がいるやらでカオスな状態になってました。

情報によると、近くでは堤防が決壊して浸水の大騒ぎ、山間部では土砂崩れが起きて各所で避難勧告が出てるとのこと、大変だなあ。と思いながら金を下ろそうとATMに向かうと、もちろん、停電なので微動だにしてませんでした。

金を下ろさないと45円くらいしか持っていなかったものですから何も買えず。死ぬ思いで来たというのに何も買わず、またもや死ぬ思いで帰っていきました。

想像を絶する強風に、このままでは空でも飛べるんじゃないか、何かきっかけがキッカケがあれば大空に飛び立てるかもしれない!とバカなことを感じ、オナラとかしてフライトを試みたのですが、パンツまでグッショリ濡れて目も当てられないことになってました。ちょっと泣いた。

それにしても、「24時間営業」を掲げている店舗、特にコンビニはこういった災害時に重宝されがちですが、やってるほうは大変なんだなあとつくづく感じました。どんな災害時でもギリギリまで営業を止めるわけにはいきません。自分の家が心配でも、電気が来なくても営業するのです。それはもう、商売人の鑑と言っても過言ではありませんよ。

今頃、この周辺のコンビニはどこも大変なのだろう。そんなことに思いを馳せていると、急に僕が懇意にしている行きつけのコンビニのことが気になったのです。

職場の目の前にあるコンビニ、ここで僕は最近、とある事象にハマっておりまして、懇意に店に通っていたのですが、あそこが非常に危険が危ないんじゃないか、そう感じたのです。

まず、そのコンビニは裏手に立派な崖がそびえ立っているのですが、これがもう危ない。これだけあちこちでがけ崩れや土砂崩れが起きているのです。下手したら埋まってしまってるんじゃないか、そう感じたのです。

それに、僕の目測なのですが、そのコンビニ周辺、つまりまあ、ウチの職場の周辺は他より少し海抜が低い場所にあります。川なんかが溢れたらおらく一発で水浸し。土砂崩れはなくとも浸水は十二分にあり得ます。

本当にあの職場近くのコンビニは大丈夫なのだろうか。僕の心のオアシスは大丈夫なのだろうか。パンツまで濡らし、家の窓とかもぶち破られている大変な時に、僕は職場近くのコンビニの心配ばかりしていたのです。

実は最近、僕は早朝にエロ本を買うという行為に大変ハマっておりまして、件のコンビニはそんな早朝マラソンならぬ早朝エロ本を実現させてくれる最高の舞台が整っているのです。そのコンビニが危ない、僕はもう途方もない危機感に襲われたのです。

早朝エロ本という行為が良く分からない素人の方に親切に説明しますと、早朝エロ本とは、女の裸が見たいだとか、エロ本が欲しいとか、エロ本を見て興奮するとか、そんなものは超越した別次元に存在する高尚な遊戯です。

あくまでも「買う」という行為に興奮を求める。それが大人のエロ本作法なのです。グラビアを見て「乳がでけー」だとか、「肉嫁」を読んで興奮するだとか、そんなのは中学生までで卒業しなくてはいけません。あくまで、大人は「買う」行為自体に照準を合わせるのです。

エロというと、風俗店や深夜のエロ番組に象徴されるように夜が主たる活躍の舞台だと思われがちです。エロ本も例外ではなく、読むのはいつでも読むでしょうが、買うのは夜にコッソリ、という方が多いと思います。しかし、それにあえて逆行して爽やかな早朝に購入する背徳感。まるで神に背いているかのように感じる自分。その中で自分の中に潜む最後の良心に目覚め、こんなことをしていていいのだろうか、と自問自答しながらも、それでも購入する。それが最高なのです。

早朝に買うということは、必然的に通勤時にコンビニで買うことになるのだけど、利便性を考えてどうしても職場近くのコンビニで買うことになってしまいます。そこで考えてみて欲しいのですが、これから仕事をしようかという通勤ラッシュの時間に、サラリーマンに混じってエロ本を購入する、それも職場近くなので同僚に目撃される可能性大。まるでチキンレースのようなギリギリの緊張感に、自分は命すら賭けている事を実感するです。

深夜のコンビニでエロ本買ったって何も興奮しません。どうせ店員なんて無精髭の男で、ケミストリーの右側みたいになってるヤロウばかり、下手したらココロオドルとか歌ってる奴らみたいなもんです。こいつらだって普通にエロ本買いまくってますし、裏の待機所みたいな場所でオナニーしてますからね、売り物の本使ってオナニーしてますからね、そんなやつ相手に買ったって何も興奮しない。

それに引き換え早朝はいいですよー。早朝のコンビニバイトをチョイスするのって主婦か真面目な乙女が主流ですからね。バルコニーでフルート吹いてても何らおかしくない紅茶の似合う乙女、そんなのが早朝にコンビニでバイトしてるわけなんですよ。

そんな真面目な乙女の前に、「人妻を踊り喰い!」とかとんでもなくポップなフォントが表紙で踊っているエロ本を叩きつける。そいでもって乙女は、誰も早朝に買う人がいないんでしょう、まるで初めてお父さんのブツを見た時のように目を背ける。けれども仕事だから、と手にとってバーコードを読み込ませようとする。この時点で興奮度はウナギ昇り。

乙女がエロ本を手にとって裏返しにしてピッとやろうとしたら裏表紙は包茎手術の広告ですよ。「人には言えない悩み、悩みから脱皮しよう」とかドデーンと書いてあんの。ちょっとうまいことが書いてあんの。鼻までセーターで隠した人がグラビアなの。

もう純な乙女なんかは顔を真っ赤にしちゃってね。「390円です・・・」とか蚊の鳴くような細い声で言うの。もうその時点でこの一連の行為の性的欲求が95%は解消されていてエロ本に興味すらない。あくまで買うという行為に重点を置いてるわけなんですよ。

そして、残りの5%は職場での振舞いに注がれるわけです。バリバリと仕事をこなし、時には後輩を叱り付けたりすることもある。そんなビジネスマンな面を自分で自覚する度、今、俺はビジネスマンに見えるだろう、しかし!俺には秘密がある!とんでもない秘密がな!お前らはそれを知ったらビックリするぜ。と一人でハラハラしてるわけなんです。

誰も僕が出勤の直前、職場近くのコンビニでエロ本買ってるとは思うまい。おまけにそこの女店員を辱め、熟れた人参の如く真っ赤にさせてるとは思うまい。そしてそのエロ本は窓際にあるあのダンボールの中、あそこに鬼のような勢いで蓄積されてるとは思うまい。蔵書なみの量があるぜ。

そうなんです、出勤直前に購入するエロ本ですから、仕事を終えて帰宅する頃にはすっかり存在を忘れてるんですよね。でまあ、職場にモリモリとエロ本の類が積み重なっていくのですが、さすがに職場の本棚がエロ本ばかりってのはマズイじゃないですか、ヤバイじゃないですか。

結局、いくら僕でも豪胆にエロ本を並べるわけにはいかず、人目につかないようにそっとダンボールにしまいこんでいくわけなんですが、今やそのダンボールの存在すら、僕をゾクゾクさせる秘密になっていまして、ああ、こんなに真面目に仕事の話をしてるのに、あのダンボールを開けられたらどうなるんだろう、とか一人で大車輪ですよ。

そんなこんなで、爽やかな早朝にエロ本を買う行為、職場前でエロ本を買うというチキンレース、乙女を辱める行為、そして、あえて職場のダンボールに爆弾を抱える行為、これらをひっくるめて身悶えるほどの快楽に身を委ねているわけなんですが、その舞台となるコンビニが危ない!となると気が気じゃなかったのです。

やはり、職場近くというポイントは布袋の兄貴も言ってるようにスリルですから外せません。おまけにエロ本の品揃えも良く、出勤時にピュアな乙女が働いている、となるとあのコンビニしかないのです。そのコンビニが危ない、台風のヤツめ!と思った次第なのです。

しかし、ウチから職場までは車でかなりの時間がかかります。こんな暴風雨の中を運転していくなど自殺行為ですし、土砂崩れが起きまくってる山の中の国道を通っていくのはかなりリスキーです。

ああ、あのコンビニは大丈夫だろうか。僕の楽園は、僕のパラダイスは大丈夫だろうか。最後のユートピアを守って欲しい。熱烈な台風の中にあって、考えることはコンビニの、いや早朝エロ本のことばかり。

台風が過ぎ去ってもそれは続きました。空は満天の台風一過の快晴であるというのに、道路が寸断されていて通勤できませんから、職場近くに住む人々たちだけで会社が回っていました。僕は家でヤキモキ。仕事の心配とかさらさらなくて、ただただコンビニのことだけが心配。

数日後、やっとこさ道路が復旧し、なんとか通勤できるようになったので、もう我先に向かいましたよ。ええ、職場なんか後回し、まずは僕の楽園の無事を確認せねばなりません。

道中、いたる場所で土砂崩れを起こしてましてね、道路がなくなってるわ、あったはずのプレハブが跡形もなくなくなってるわ、民家が押し流されてるわと言葉を失うような光景が随所に見られましてね、僕もどんどん心配になってくるじゃないですか。

もう、気が気じゃない状態でコンビニに急ぎましたよ。そしたらアンタ、そこで途方もない光景を見たんです。いやいや、途方もない光景はこの後だった。ここではそう大したことない光景だった。

いやね、問題のコンビニ、もう頼もしいくらい立派に、無事にいつもの場所にそびえ立っているんですわ。もう無傷。超無傷。僕なんか「よかったー」とか膝から力が抜けちゃいましてね、火事場で「中に子供がいるんだ!」とか言いながら消防隊員に制止されていたら、炎の中から我が子を抱えたマッチョマンが出てきたような、そんな気分になったのです。

これでこれからも早朝エロ本を楽しむことができる、慈しむことができる。そう考えると嬉しくなっちゃって、早速エロ本買っちゃいましたよ。それも二冊も。「夫の知らない本当の私」とか書いてある本でバイト娘を陵辱してやりましたわい。

これでこれからも安泰、毎日が楽しみですなーとエロ本2冊片手に意気揚々と久々に職場に出勤しましたところ、職場の様子が変なんです。

なんか、浸水とまではいかなかったんですけど、暴風で窓ガラスがバッカンバッカン割れたらしく、そこから雨が入ってきて水浸しになったみたいなんですわ。

もう書類とか散乱しましてね、その書類が水に浸ってビシャビシャ。ハッキリ言って仕事にならない状態ですよ。もうみんな、朝っぱらから書類とか中庭で干してるの。海苔漁の人みたいに干してるの。

そりゃね、僕かて仕事に生きる企業戦士ですから、仕事場が大変な被害ってのは由々しき状態なわけですよ。でもね、そんな全然関係ない。今はもう、あのコンビニが無事だったこと、これからも早朝エロ本ができることで喜びイッパイ胸イッパイ。

「お、patoさん、通勤できるようになったんですね、もう大変ですよー」

そこに異常に爽やかな後輩の登場ですよ。見た目は体育会系のゴツイやつで、喧嘩とか本気で強そうなんですけど、超爽やかな後輩。イメージとしては綺麗なジャイアンを想像してもらえるといいと思うんですけど、こいつがまあ、職場での評判がすこぶるいい奴なんですわ。

僕のようなクズ、いわゆるヨゴレにも気さくに話しかけてくれて先輩、先輩、と慕ってくれますし、誰にでも非常にいい感じで接することができるんです。で、人が嫌がる仕事も率先してやりますし、気味が悪いくらいによく気がつく奴なんです。マジで綺麗なジャイアン。

その綺麗なジャイアンがですね、満面の笑みで書類をビニールシートに並べながら話しかけてくるんですよ。「patoさんがこれない間、ずっと後片付けですよー、大変ですよー」とか子供が生まれた時みたいな笑顔で、全然大変そうじゃない感じで言うんですよ。

僕もそこまで言われると自分の仕事場が気になるもので、

「うわー、大変だなあー、俺の仕事場も大変なことになってるんだろうなー、片付けるの大変だわー」

とか言いましたところ、綺麗なジャイアン後輩、凄いこと言うんです。

「patoさんの仕事場も窓ガラスが割れて雨が入り込んで大変なことになってましたよ。あ、でも、総務で鍵借りて僕が片付けておきましたから、大変だろうなって思って」

なんていう綺麗なジャイアンですか。なんていう良くできた後輩ですか。自分の領域の片付けだけでも大変だろうに、なぜか僕のようなヨゴレの仕事場まで片付けてくれるんですよ。もう、眩しすぎてコイツの姿が見えない。

「水浸しになったのはあっちのほうで乾かしてありますんで」

とビニールシートの隅のほうを指差す綺麗なジャイアン。

「ありがとう、本当に助かったよ」

丁寧にお礼を言って自分の書類を回収すべく、指差された方に向かう僕、そこで途方もない光景を目にするのです。

「人妻を踊り喰い!」

「セックス狂いの女!」

「バイアグラで大ハッスル!朝まで5回戦!」

ちょっ、おまっ・・!ちょっとこれは何のブラックジョークですか、とか言いたくなるような光景がそこに広がってるんですよ。

ポップなフォントでエロスな文句が踊る雑誌たちが狂ったように乾かしてある。もちろん、早朝エロ本の戦利品たち、ダンボールに敷き詰めていた僕の蔵書ですよ。

それがダンボールごと濡れちゃったみたいで、全部整列されて並べられてるんですよ。その数40。今でも忘れられん光景だわ、40冊が8×5で綺麗に整列してた。

いやいや、すごい親切心で「大切な本だろう」とか思ってやったかもしれませんけどね、男ならわかるだろうに。触れちゃあいけないアンタッチャブルだって分かるだろうに。それがなんだ、お前はベッドの下からエロ本見つけたら机の上に置いておく母ちゃんか。デリカシーがなさ過ぎる!

中庭に綺麗に整列され、もはや職場中の人間全ての目に留まることになった僕のカワイイエロ本たち。コイツは俺を失脚させるつもりじゃなかろうか、ものすごい陵辱された気分だ、と思いつつも、真っ赤な顔をして回収するのでした。

回収しながら、目から汗が流れて頬を伝うのを感じ、女体が、女の裸が踊り狂っている雑誌を丁寧に丁寧に、雨に濡れたページがボロッとならないように注意して回収しながら思いましたよ。

台風の語源は中国語だかタイフーンだか知りませんが、もしかしたら、太古の昔にもこういった台風にまつわるエロ本のエトセトラな事件が起きてしまい、「体婦雨」から台風になったのじゃないかと。

とりあえず、衆人環視の中、回収する行為自体が恥ずかしいので、今ここに局地的に台風が来て、エロ本を吹き飛ばして欲しい、そう思ったのでした。

関連タグ:

2005年 TOP inserted by FC2 system