ヘルスズキがやってきた

ヘルスズキがやってきた

一つ一つの灯りの下には物語がある。夜ごと高台に上って夜景を見渡せばそこには沢山の光が瞬いていて一つの「夜景」という風景を作り出す。けれども、その光り一つを抽出してみると、それが点滅信号だったり車のテールランプだったりネオン看板だったり暖かい家庭の灯火だったり、一つ一つ意味合いがあって、そこにはそれに応じた物語があるはずだ。無数にある光の下で無数の物語が進行する、そう考えるとなんと爽快なことか。夜景全体を堪能するのも良いが、一つ一つの光の理由に思いを馳せてみるのも風流なのかもしれない。

その無数の光の中の一つである僕のアパートの部屋の灯りの下でもやはり僕なりの物語が進行していて、いつもと変わること無い、驚きも新鮮さもクソもない連続再生みたいな一日だけど、それでも必死に自分という物語の主役を演じている。そう、きっと誰もがそうだ。

大抵の物語がそうで、ドラマティックでもなんでもない、見せ場もお色気シーンも感動する場面も何にもないつまらないもので、これが月9のドラマだったら怒りのあまりチャンネルを変えて二度と見ない、なんてこともできるのだけど、あいにく、自分の物語はそういうわけにはいかない。つまらない連続ドラマを嫌でも延々と繰り広げていく、それが生きるということなのかもしれない。

つまらないドラマに辟易としながらも、灯りの下、エロ本をパラパラとめくってオナニーでもするかと考えていると、そんな平坦なシナリオラインを打ち破るかのごとく携帯電話が鳴り響いた。突如展開する物語に動揺しながらも携帯電話を手に取ると、そこには驚愕の文字が記されていた。

メール着信
差出人 鈴木 
件名 無題


はて、鈴木とは誰だろう。差出人欄にメアドでなく名前が表示されると言うことは僕の携帯に登録されている人物。つまり、まったく知らない人間ではない。僕の知ってる人間で鈴木とは誰だったか。必死に記憶の糸を辿りながら鈴木を脳内検索していく。これまでの人生でこれほど鈴木について本気出して考えてみたということがないほどに。そして、一つの結論にたどり着いた。

「そうか、ヘルスズキだ!」

あっけないほど簡単だった。知ってる人間で鈴木と言えばヘルスズキしかいない。僕が4月まで在籍していた前の職場で同僚だったヘルスズキ。彼は生粋の風俗好き人間で、給料の大半をヘルスなどの風俗産業に費やしているほどだった。いつもヘルス店の割引券や風俗嬢の名刺を常に携帯し、考えることはヘルスのことばかり。ヘルスのために生まれてきてヘルスで死ぬ男、ヘルスの十字架を背負った悲しき男。そんな彼のことを僕はひっそりとヘルス大好き鈴木君、略してヘルスズキと呼んでいた。

その彼からメール。なんだよ、懐かしいじゃねえか、8ヶ月ぶりじゃねえかと思いつつも、急速に展開するであろうドラマに戸惑いを覚えずにはいられなかった。

懐古主義というほどではない。昔は良かった、あの頃は良かったと、半ば現状を投げ捨て気味に言う趣味もない。けれども、やはり昔の知人からのメールってのは嬉しいもので、少なからず心を弾ませながらメールを開いた。

差出人 鈴木
件名 無題
本文 久しぶり!元気してる?俺は相変わらずだよ!それはそうと、今度ホームページ作ったんだけど見てみてくれない。そういえばpatoも何かホームページ持ってたよな、よかったらリンクしてよ!URLはhttp://...


ヘルスズキの「俺は相変わらずだよ」のセリフ、これが相変わらず元気なのか相変わらずヘルスに行きまくってるのか定かではありませんが、それ以上に衝撃的なのが「俺もホームページを作った」の一文。そして、「patoもホームページ持ってたよな」の一文。これが何物にも変え難いほどの衝撃だった。

最近では小学生のガキでも動物園のサルでもホームページを作る時代のようですが、まさかヘルス以外の事柄に全く興味がないヘルスズキがホームページを作るようになろうとは。これぞIT革命と言うしかない現象です。

そいでもって、「patoもホームページ持ってたよな」、これは間違いなく今皆さんが閲覧しているNumeriのことを指しているわけです。これは、ちょうど昨年の今くらいの時期、いやいや、今年の最初くらいだったかにNumeriが職場にサイトバレし、自殺したくなるほどの衝撃が職場中を吹き荒れた時期があり、職場の同僚全員がNumeriを知ることとなったのです。

もうその頃は職場の同僚の陰口大満開の日記全開で、ヘルスズキを筆頭にマッスル事務員B子やらウンコ上司、大崎、チンポヘッド君など、裁判されたら確実に負ける勢いでネタにしまくっていたのです。で、その全てが白日の元に。

当時はそれこそ自殺しようとか、出家しようとか、名前を捨てて東北辺りに逃げよう、と真剣に悩んだのですが、まあ、別に今の職場辞めるしいいかあ、と開き直りに近い悟りを手に入れるに至ったわけなのですが、実は自分が思って以上に事態は深刻ではなくて、同僚達にとってはNumeriはよくある極めてパーソナルな個人サイトとしてしか捉えられてなく、まさか自分達がネタにされてるとか夢にも思わなかったようなのです。

「ふーん、patoのサイトね」

程度でトップページをさらりと見ておしまい。後は余計な詮索などはしないという流れになったようなのです。幸運にもそういった同僚ネタは過去ログの奥深くに封印されていましたしね。

でまあ、今でも同僚が見てるかもしれないという恐怖があってロクに前の職場の連中をネタにしないまま現在に至るわけですが、「patoもホームページ持ってたよな」この一言に尽きます。どう考えても今現在リアルタイムで見ていない口ぶり。こりゃもう、書いてもいいだろ。

ということで、ヘルスズキのメールに書かれたURLを意気揚々とクリックしたわけなんです。どうせなら同じ釜の飯を食った仲のよしみでリンクぐらいしてやるか、それもネタで弄った後に特大フォントで文中リンクしてやるか、と閲覧したのでした。しかしながら、どうやら携帯電話では表示できないページらしく、真っ白な画面が表示されるだけでした。

ち、めんどくせえ、と思いつつもパソコンの前に座り、シコシコとURLを打ち込む。エンターキーを押した瞬間、ムリムリと回線を破壊せん勢いで激重のページが表示される。Numeriも人のこと言えないけどサイトが重過ぎる。もうこの時点で半分どうでもよくなってた。

その重さになんとか耐え忍んでトップページが表示されたわけなんですが、画面中央には乙女が好んで使うようなフォントでズババーンと「鈴木○○のホームページ」ですからね。

なんで本名なんですか。なんでフルネームなんですか。

いやいや、前にも職場の同僚大崎のホームページを発見した事があったのですが、その時も彼のフルネームを冠したサイト名になってました。なんかそういう決まりでもあるのかと思うほどに我が職場では本名を冠したサイト名をつけるのがブレイク中のようです。

でまあ、もちろん、やけに重いページだなとか思ってたらお約束のごとくMIDIだかSEXだか知りませんが音楽が流れてくるわけですよ。それも、意味不明にオドロオドロしい、サスペンスドラマで人が殺される時みたいな音楽が流れてくるんです。

軽い目眩を覚えつつ、コンテンツを探すと、左側に物凄い自己主張をしまくったコンテンツ群が。上からざらっと読んでいくと、

自己紹介
掲示板
ヘルス
リンク


になってました。さすがヘルスズキ、ヘルスが堂々とコンテンツに名を連ね、燦然と輝いてました。こんなサイト探してもなかなかないと思います。メインコンテンツがヘルス、男らしくヘルス、何よりも率先してヘルス。何が書いてあるのか気になって仕方ない。

でまあ、ざっとページ右側を見てみると、開設日は3日前の日付になってました。できたてホヤホヤのサイトです。で、その上のカウンターを見てみると開設3日にも関わらず3056の数値。これは物凄い事ですよ。開設3日で3056。Numeriなんて開設3日目は14とかでしたからね。こりゃもう、何かとてつもない事態が巻き起こっているに違いない。

開設間もないにも関わらず爆発している彼のアクセスに軽い嫉妬を覚えつつも、さっそく気になるコンテンツ「ヘルス」を見てみようとマウスポインタを動かすと

グイーーーーン

とポインタを追ってくるクマさんのアイコン。死ねる死ねる。

いやいや、なんでみんなアイコンがポインタを追ってくる演出が好きなんですか、なんでこんなオドロオドロしいトップページに乙女チックなクマさんですか。シュールすぎて泣けてくるじゃないですか。

なんとか追っ手をかいくぐり命からがら「ヘルス」コンテンツをクリックすると、BGMに流れる音楽のビートが様変わり、急にアップテンポな曲調に。もうこれだけで彼がどれだけこのコンテンツに力を入れているのかが窺える。

で、肝心の内容を見てみると、やはりヘルスと銘打ってるだけあって内容はヘルス花盛り。もう右を見てもヘルス、左を見てもヘルスですわ。ヘルスズキの記すヘルス日記から始まって、ヘルス各店舗の成績表みたいなものまで。ヘルスズキの生き字引きともいえる内容テンコ盛りでした。

スカッドミサイル並にパンチの効いたコンテンツですが、気になるヘルス日記を読んでみると

「今日は○○ナースに行った。予約して行ったのに20分も待たされた。しかも出てきた女が写真とは大違いの岩石ブス。詐欺だ。サービスも手抜きだしシャワーで時間稼ぎしやがるし最悪。あまりに腹が立ったから時間前に帰った。○○ナースは二度と行かない。12点」

といった辛辣なもの。全体的に辛口評価なのですが、いくら酷い目にあったからといって100点満点で12点は辛口すぎ。まだ三日分しか日記がないのですが、その三日間ともヘルス日記が書いてありますから、おそらく普通に日課のごとくヘルス店に通っているのでしょう。

相変わらずヘルス狂いのヘルスズキを再確認し、嬉しいやら情けないやら複雑な心境になるのですが、ふと思い立ってトップページに戻り、またもクマさんの追撃をかわしながらBBSという掲示板コンテンツをクリックしました。そして、そこには衝撃の光景が。

いやな、開設3日のホームページのはずなのに、鬼のごとく掲示板が荒らされてるんですわ。もうこれでもかってほどに。

変な絵とかいっぱい描かれてるし、書き込み欄いっぱいに「死ね」とだけ連呼されてるのとか、グロすぎて元が何なのか分からないグロ画像とか、セクシーな女性の体にYAWARAちゃんの顔だけくっつけた画像とか。これが荒らされた掲示板の代表です、とか代表例で紹介されてもおかしくない勢いで荒らされてるの。

もう、何をしたら開設三日でここまで徹底的に掲示板を荒らされるのか分からんのですけど、とにかく全部の荒らし書き込みに

「もうやめてくれ!」

と本名でレスをつけているヘルスズキの書き込みが死ぬほど泣けた。律儀にレスしてる姿が泣けた。泣きすぎてディスプレイが見えなかった。自己紹介に書いてあった「ホームページ作りました、みんな仲良くしてください」が悲しすぎて正視できなかった。仲良くされてない、荒らされてるよ。

結局、ヘルスズキの開設したホームページは、相変わらずヘルス三昧の彼を象徴する内容でヘルスドンと来い。それでもなぜか開設3日とは思えない荒らされっぷりでした。

僕も彼のお望みどおり嫌がらせのごとくNumeriからリンクしようかと思ったのですが、彼が本名でサイトを開設している事から、さんざ迷いました。けれども、迷うまでもなく、あまりの荒らしに耐え切れなかったのかその二日後にはサイトが跡形もなくなってました。うん、閉鎖。ヘルスズキのスーパーヘルスホームページ、開設5日目にして閉鎖。

インターネット上には、それこそ星の数ほどのサイトがあります。それらは全てインターネットとして見ることもできますが、夜景の中の光と同じでそれを構成する一つ一つのサイトにはそれに応じた歴史があるのです。

数あるサイトの一つ一つに無数の歴史が存在する。開設3日目に立ち直れないくらい荒らされて5日目に閉鎖したヘルスズキのヘルスホームページも、そんな歴史の一つなのです。

そんなこんなで、様々な歴史を駆け抜けてきた我がNumeriももう少しで1千万ヒットです。兼ねてから公言していたように1千万ヒット記念にはサンクスヌメラーズウィーク3を開催しますので、今しばらくお待ちください。

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