マルチタスク

マルチタスク

運転中の携帯電話使用が禁止され、違反点数や反則金が課せられるようになってから3週間が過ぎました。改正道路交通法施行前は携帯電話しようによって交通に危険を生じさせた場合にのみ罰則規定がありましたが、この度の改正で使用のみでも罰則が、さらに通話だけでなくメールチェックなど画面に向き合っているだけで罰則対象となる厳しいものになりました。施行後は全国で何千人と検挙されたようです。今ここを読んでいる人の中にも反則金を納めた人がいるのではないでしょうか。

車の運転をしながら携帯電話を操作したり通話したりというのは大変危険なものです。人間ってのは一度に複数の事が処理できるようには出来てません。どちらか片方に意識を奪われる、運転中に携帯を操作しようものなら携帯に意識を奪われて大変危険なのです。

僕も血気盛んな若者の頃、車の免許取りたてだったりした頃は、「運転しながら別なことできるってカッコイイ!」と活火山のごとく勘違いを爆発させ、幕の内弁当を食いながら運転したりとか、漫画を読みながら運転したりとか、果てには完全にトチ狂ってファンキーに自慰行為なんかもしちゃったりしたのですが、それはそれは危険でした。何度か事故を起こしそうになったもの。

世の中が便利になるにつれて何々をしながら何々をする、いわゆる「ながら族」が増えるように思います。オートマチック車の普及で運転が簡単になったからこそ「ながら運転」が可能になったわけですし、携帯電話ができたからこそ携帯しながら運転するようになったのです。つまり、何か技術が発達するということは、その行為自体を遂行する負荷が少なくなることを意味し、その行為が別の作業に吸収されて同時進行が可能になってしまうことに他ならないのです。

パソコンなんかも良い例なのですが、真っ黒な画面に文字がチカチカ瞬いているような古いパソコンは同時に一つの作業しか処理できません。しかし、現状のパソコンではマルチタスクの名の元で複数の作業が処理可能なのです。こうして文章を書きながら別の窓ではエロ動画の熱烈ダウンロード、それと同時に音楽を奏でてメールの送受信も出来る。現状のパソコンこそが「ながら族」の代表格なのかもしれません。

パソコンや技術の発達と共に「ながら族」であるマルチタスクが強烈に進行すると、なんだか将来的にそら恐ろしいことになりそうです。なんでもマルチタスクで処理し、複数のことを一気に解決しようとする。一つ一つの仕事に対する注意力が低下し、途方も無い不注意社会が出来上がるような気がするのです。現に、もうそいう傾向が見え始めているのです。

ウチの近所には今時珍しく子供が遊ぶような小さな広場があり、コンビニ行く際などにそこを通ることがあるのですが、先日、夕暮れ近い時間だったでしょうか、その公園の前を通ると、子供たちが元気に遊ぶ光景が見られました。

僕らの時代では、広場で遊ぶといえば野球と相場が決まっていたのですが、最近は違うようです。これも時代なんでしょうか、子供たちは元気にサッカーをして楽しんでいました。いや、正確に言うと元気だったのか楽しんでたのかは定かではありません。とにかく、その光景を見て僕は腰が抜けるかと思ったのです。

いやな、サッカーしてるのはいいんだけど、プレイしている子供たち、携帯電話片手に画面見つめてプレイしてるのよ。もうすげえ無気力で死んだ魚みたいな眼でタラタラとパス回ししながら、メールチェックしてるのかアプリでゲームしてるのか知らないけど、ながらサッカーしてるのよ。

大体8人くらいの子供がサッカーしてたんですけど、そのうち4人は携帯電話見ながらやってた。で、もっとすごいのはキーパー役の子供で、なんかゲームボーイアドバンスだかワンダースワンみたいなのピコピコしながらゴール前に仁王立ち。守る気力も見せずにゴール前に仁王立ち。どんなSGGKやねん。

いやいや、そんなことまでしてサッカーしなくてもええやんか、って突っ込みたくなるじゃないですか。携帯したいなら携帯する。ゲームしたいならゲームする。サッカーしたいならサッカーする、それでいいやないか。

大体ですね、「ながら」でやると両方とも疎かになる、これは間違いないんですよ。冒頭でも述べたように、車を運転しながら携帯メールを打つことだって、運転に対する注意力が低下して危険だしメールだって満足に打てないんですよ。「おめでとう」と打とうとして打ち間違えて「おめこ」になったりして、それを乙女に送信してしまって大変な騒ぎになるんですよ。

現に子供たちも、サッカーはヘロヘロだし、携帯も満足に打ててない様子。そこまでして同時進行する意味が皆目分からないのですが、とにかく必死で同時進行なんですよね。もう、便利すぎる世の中に脳が侵食され、同時に何かしてないと損した気分になるとかそういうのじゃないんでしょうか。

とにかく、こういったマルチタスクに侵食された「ながら」というのは大変危険なことです。両方がおろそかになってヒヤッとするならともかく、一歩間違えば大変な大失敗、例えば重大事故などに発展することがあるのです。今日はちょっと警告の意味も兼ねてその危険なマルチタスクの実例をお話しましょう。

ちょっと前のことになるのですが、僕はパソコンに向かいつつ、メッセンジャーでメッセージのやり取りをしていました。このメッセンジャーというのは大変便利なもので、気軽に知人とメッセージのやり取りができる、大変利便性の高いものです。

ちょうどその日、僕はとある女性とメッセージのやり取りをしていました。最初こそは普通に、「最近どうよ?」的な日常会話だったのですが、彼女の「彼氏が浮気しているかもしれない」発言を皮切りに、会話は急転直下の大異変、一気に恋愛相談の様相を呈してきたのです。

僕はこう見えても巷では恋愛パトリオットと噂されるほど恋愛相談は大得意です。何度かサイト上やラジオでも恋愛相談にのり、その適切なアドバイスが好評を博しているという経緯があります。ですから張り切って彼女の相談に乗りましたよ。

「いやいや、男ってやつはそういうのが本心じゃない場合もあって・・・」

などと懇切丁寧、彼女の不安を取り除こうと誠心誠意心を込めて恋愛相談に乗ったのです。このままいけば彼女の不安も取り除かれるだろう。僕の助言によって人が救われる、なんて素晴らしいことだろう。そう思いました。とある人が話しかけてくるまでは。

「今、お暇ですか?」

メッセンジャーの利点は、登録している知人と気軽に会話を楽しめるところにあります。それでまあ、恋愛相談をしている横から、別の知人が話しかけてきたんです。

「今ちょっと数人でチャットしているんですけど、来ませんかか?」

こうして、僕は誘われるがまま恋愛相談とは別の窓でチャットへと足を踏み入れたのです。

そのチャットがとにかく凄かった。何食って育ったらこんな会話ができるんだろう?と疑問に思う人々が集っており、もう酒池肉林の乱痴気騒ぎ、下ネタ大連発で大車輪のごとく会話が成されてるんですよ。

もう猥褻すぎて書けないんですけど、「おめこ」が普通の季節ごとの挨拶くらいに感じる猥褻ワード連発のチャット。ある意味人間の尊厳を賭けた戦いですよ。

一方で「だからね、女友達とかあるじゃない、そりゃ彼氏だって女友達くらいいると思うよ」と恋愛相談の窓でジェントルに発言しつつ、変態チャットでは「げへへへへ、幼女大好き」とか言う輩の発言を冷ややかに見るということをやったんですよね。つまり、恋愛相談しながら変態チャット、見事に「ながら」をやってしまったのです。

そうなると、もう大変ですよ。どっちに対しても注意力がおろそかになりますから、両方とも中途半端な状態に。それまでは恋愛相談に全神経を注ぎこんで、最良のアドバイスをしていたのですが、「ながら」を始めてからは「うんうん」「そうだよね」んどの場当たり的な発言が目立つように。

変態チャットのほうも変態チャットで、いつもならゲハハと変態トークに緊急参戦するのに、注意力がないもんだからイマイチ乗り切れない。ただただ、少し離れたスタンスで流れ来る変態ログを読むばかり。

やはり、「ながら」ってのは良くないものなのです。どちらにもイマイチ乗り切れなくなって中途半端。おまけに途方もない失敗をしでかしたのです。

その時の窓の状態はこうでした。

恋愛相談

XXXの発言:
もう彼氏どころか、男の人が信頼できないかも・・・。

patoの発言:
いやいや、それはおかしい。なんでそうなるの。

XXXの発言:
だって・・・。私、どうしたら良いですか?

変態チャット

○○:やっぱさ、熟女って最高だよ
△△:あのムッチリ感がたまらん
??:浣腸とかしてヒーヒー言わせたいぜ!!
pato:そうだよね
○○:あー、でも妊婦とか捨てがたい
??:それわかる
○○:あれ、patoさん大人しいね

恋愛相談も佳境、相手なんか泣きそうです。ここは一発優しい言葉をかけて不安を取り除くのが恋愛伝道師の仕事です。おまけに、同時進行の変態チャットでは、「pato大人しいじゃん」という発言が出ています。これではpatoという変態が見くびられてしまいます。patoはこんなもんか、サイトでは変態でも実際は普通のつまらないやつか、そう陰口を叩かれる恐れがあるのです。

意を決しましたよ。とりあえず、恋愛相談は置いておいて、まず変態チャットを克服しようと。途方もない変態発言をし、チャットの面々を恐怖のズンドコに叩き落して戦慄させてやろう。で、その後に恋愛相談を優しくフォロー、これしかないと思ったのです。

幸いにしてチャットの流れは妊婦は素晴らしいという流れ。ここは一発度肝を抜く変態な発言をしてやろうと、キーボードのエンターキーが取れるんじゃないかって勢いで発言しました。バシッと発言しましたよ。

恋愛相談

XXXの発言:
もう彼氏どころか、男の人が信頼できないかも・・・。

patoの発言:
いやいや、それはおかしい。なんでそうなるの。

XXXの発言:
だって・・・。私、どうしたら良いですか?

patoの発言:
分娩台プレイ

変態チャット

○○:やっぱさ、熟女って最高だよ
△△:あのムッチリ感がたまらん
??:浣腸とかしてヒーヒー言わせたいぜ!!
pato:そうだよね
○○:あー、でも妊婦とか捨てがたい
??:それわかる
○○:あれ、patoさん大人しいね

patoの発言: 分娩台プレイ

違うよ、違うよ・・・。大変違うよ。泣けてくるくらいに違うよ。

なんですか、男性不信に悩み、どうしたらいいですかと救いを求めてる乙女に向かって「分娩台プレイ」ですか。いくら同時進行で注意力散漫、てんやわんやで発言する場所を間違えたとはいえ、もうこれだけで懲役物の間違いです。

おまけに、「え・・・?」という至極真っ当で正常な反応を見せる乙女に向かってフォローで放った言葉が凄い。

「いやいや、分娩台プレイとかしたら彼氏との仲も円満に・・・」

それからはもう、満ちた潮が引けるかのように彼女もオフラインになり、僕はそっと変態チャットの窓を閉じたのです。

何でも「ながら」でできるほど世の中は便利になりました。しかし、そこにはやはり落とし穴あって、「ながら」では何一つ満足にできないどころか手痛い失敗を犯すことがる。

運転しながら携帯も結構、サッカーしながらゲームも結構、でも、それはどちらも満足にできてなくて単純に踊らされているだけ、それでいて大失敗をする可能性もあるから注意しなさいよ、ってことなのだ。

そう、相変わらず「ながら」作業ってのが止められず、この日記を書きながら仕事上の書類を書いていた僕のように、日記も書類も両方の出来が酷いだけでなく、仕事上の書類の文章の切れ端に「分娩台プレイ」が記されてるものを上司に提出する大失敗があるのだから。クソッ!

関連タグ:

2004年 TOP inserted by FC2 system