テレホンセールスと対決する-後編-

テレホンセールスと対決する
-後編-

前回のあらすじ
数年前、一人暮らしを始めるにあたってエロビデオが借りたいがために固定電話を導入したpato。7万円近くする加入権料は財布を直撃し、しばらくはフリカケのみで凌ぐ日々が続いた。そんな血肉の代償とも言える電話加入権料が事実上の無価値に成り下がることを知ったpatoは苛立っていた。

そして、少しでも元を取ろうと、ネット専用と化していた回線に電話機を繋ぐ。しかし、当然のことながら誰からも電話がかかってこないという事態に陥り、自分の寂しさだか侘しさだかを再確認するだけの結果に終わったのだった。

より一層イライラを募らせていると、そこに天の助けとも思える電話が。誘拐犯の電話を待つ逆探知要因よりも熱烈に受話器を取ると、それは甘美な甘い声で指輪を売りつけようとするテレホンセールスのお姉さんだった。「将来結婚するときのために準備しておくといいですよ」「何かアンタが結婚してくれるんか!」イライラで余裕を無くしたpatoとお姉さんの激しい攻防戦がつづく。まあ、よく分からないと思うので詳しくは前編をお読みください。


「とてもお得な商品ですから。今買っておいても絶対に損しませんよ」

「だーかーらー、買ったらあんたが結婚してくれるのかよ。まずはなしはそこからだ。で、アンタの写メとか送ってもらって、それから買うかどうか判断する」

「いえ、それはちょっと・・・」

とまあ、訳の分からない押し問答が続く始末。

「いやな、将来の結婚相手のために指輪とか言うけど、サイズ合わなかったらどうすんの?っていうか合わない確率のほうが高いんじゃないの」

「その際には無料でサイズ直ししますので問題はありません」

「いや、あんた、サイズ直すって限界があるでしょ。7号ぐらいの指輪買って、ゴンザレスみたいな指した女だったらどうするのよ」

「・・・・」

とまあ、一休さんと将軍様のやりとりみたいになっていたのですけど、なんていうか、イライラとか通り越して沸々と怒りがこみ上げてきたんですよ。何で俺、こんな見ず知らずのアマに指輪を売りつけられようとしてるんだろう・・・って。

たぶん、「ローンも使える」って言ってることと婚約指輪にもなるといってることから、どんなに安く見積もっても80万から100万円くらいの指輪を売りつけられるはずです。何ゆえにそんな高価な買い物を訳の分からない姉ちゃんに薦められてしなければならないのか。そんな大切な物を買う時くらい、自らの意思でするのが普通ってもんだろ。

「いやね、なんでそんな高価で大切な物を人に薦められて買わないといけないんですか。そういうのは自らの意思で買うから素敵なんであって、誰かに言われるがままに買うってのはおかしいと思う」

なんだろう、急にマジになって反論する僕。なんというか、この時の僕はこれがテレビ電話でないのが惜しいくらいに男前の顔していたと思う。しかし、この馬鹿女はそんなこと意に介しないといった怒涛の勢いで反論してきます。

「いいえ、人に薦められて買うものです。男の人が指輪を買うって言っても良いものだとか流行だとか分かりませんよね。だから私たちがお手伝いするんですよ。本当にいいものは人に薦めてもらうのです。自分で探したって見つかりっこないですよ」

もう断言しちゃってるお姉さんの豪胆さに僕は白旗、「こりゃもうダメかもわからんね」と心の中で呟き、やんわりとした口調で話し始めたのでした。

「わかった。でも、やはり高価な買い物。こんな電話口で買うと即決することはできないと思う」

「それは十分に分かっています。一度、当社に来ていただいて実物を見ていただきたいと思っています。そうすれば良い品だって分かると思いますよ」

男の人は見たって良い品とかわからねーんじゃねえかよと思いつつも、その辺は豪快にスルー。まあ、一度会社に来いというのは常套手段ですからね。おそらくこの手でくることは分かりきってました。

無理やり交わされた契約を一方的に破棄できるクーリングオフという制度がありますが、これは訪問販売や電話での販売などの場合に使えます。自ら店舗に出向いていって買わされた場合は使うのがなかなか難しい。商品販売目的であることを隠して連れて来られた場合使えますが、この場合は商品販売目的であることが分かりきっているので買わされた場合クーリングオフが難しいのです。

つまり、ノコノコ出向いていこうものなら買うまで帰さないという鉄壁のディフェンスを見せ付けられ、屈強な店員やらがあの手この手で判子を押させようとしてくるはずです。危ない危ない、そんな場所にノコノコ出向いていったら指輪を買わされてしまう。

「はい、じゃあ都合の良い時に伺いますので、そちらの所在地を教えてもらえますか」

「はい、XXX町のXXX通りありますよね、そこの角にあるXXXビルの4階です。いつごろきて頂けるでしょうか?私としてはこれからすぐに来て頂いても構わないのですが、準備もできてますし」

おいおい、何の準備ができてるんだよ。おれをカタにはめる準備かよ、とそら恐ろしくなるのですが、ここは毅然として受け答えをします。

「いや、今からは無理です。少し考えたいし・・・。都合が良くなったら行きますし、その際に連絡するので連絡先だけ教えてもらえますか?」

「はい、では電話番号を・・・○○-○○○○です。株式会社×××××販売、担当小谷まで、必ず連絡くださいね」

「はい、必ず連絡します。よろしくお願いします」

神妙に挨拶をして電話を切る僕。これで小谷さんの方では僕を見込み客としてマークしたに違いありません。

受話器を置き、とりあえず冷静さを失って怒鳴りまくった自分を戒めるため、ふーっと深呼吸をします。連絡先を教えてくれた小谷さん、彼女にもいっちょ、良く分からないものをいきなり売りつけられる気持ちを味わってもらいましょうか。

置いたばかりの受話器を上げ、先ほどの連絡先に神々のごとき速さで電話をかける僕。株式会社×××××販売の受付みたいな小娘が出ましたが、「先ほど電話をもらったpatoというものだが、小谷さんに繋いで欲しい」と要求、繋いでもらいます。

「はい、お電話変わりました、小谷です。いつもお世話になっています」

全然お世話してもらってねーよ、という言葉をグッと飲み込み、続けます。

「あ、さっき電話もらったpatoですけど」

「あら!?先ほどはどうも。どうしました?もしかしたら今から来て頂けるんですか」

明らかに声が弾む小谷さん。どうやら僕の気が変わって指輪を見に来てもらえると勘違いしたみたいです。ここはバシッと、そういう趣旨の電話でないことを告げましょう。

「なあ、小谷さん、アンタ、ウチの洗濯機買いませんか?」

「はい!?」

どうやったらこんな声が出せるんだろう、というか、発情期の猫のような素っ頓狂な返答が返ってきました。さらに続けます。

「あと、うちの電話の加入権も買いませんか。こちらは時価でなんと7万円もする品物です。これを3万円、洗濯機は120万円で売ります」

「あの・・・意味が・・・分からないんですけど・・・」

小谷さんの反応など知ったこっちゃありません。さらに続けます。

「洗濯機のほうは、将来絶対にプレミアがつきます。今はしがない洗濯機、安売りで買った無名メーカーの洗濯機ですけど、将来的にはその洗浄力やフォルムの美しさが認められ、値段が跳ね上がるはずです!120万で買ってもそれ以上の値がつくはずです。損はしません」

「電話加入権も同様。これは言うなれば財産です。もっておいて損はないはず。ぜひとも買いませんか」

「いえ・・・あの・・・」

さあ、小谷さんのセールストークをそのままいきましょう。

「将来、あなたが結婚するとき、旦那さんは喜んでくれますよ。自分のためにこんな素敵な洗濯機と電話加入権を用意してくれていたなんて!って。今から準備する、その姿勢が大切なんですよ。ローンもできますし。」

「とてもお得な商品ですから。今買っておいても絶対に損しませんよ」

「こういうものはですね、自分で選ぶものじゃないんです。素敵な商品ってのは自分では分かりませんから、薦められて買うものなんです。分かります?ですから、絶対にこの洗濯機と電話加入権を買って欲しい。っていうか、買ええええええええええええええええええええええ!ぶひいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」

魂の咆哮、灼熱のセールストーク。本気で売ってやろうとサイケデリックに小谷さんに働きかけたのですが、

「いえ、あの・・・そういったものは結構です・・・」

明らかに背後にいる誰かと相談しながら必死に返答しているようなのですが、ものすごい素っ気無い返事が返ってきました。それでも構わす続けます。

「いきなり意味不明なものを売りつけられる気持ちが分かりましたか。あなたの会社がしてるのはこれと同じことです。あなたが僕の洗濯機と電話加入権を買えないというなら、僕も同じようにあなたの商品は買えません。それは理解できますよね」

「はい・・・」

「なんなら、今からそちらに行きましょうか?当然、現物を見ないと購入できないと思いますから、電話線と洗濯機もって行きますけど。ビルの四階でしたよね、それくらいなら洗濯機運べると思います。いいですか?」

「いえ、あの、その結構です」

「いや、何が結構なの」

「来ていただかなくて結構です」

「あ、そう、じゃあ指輪も買えないけどいいの。買いたかったのに」

「・・・はい」

僕としては本気で洗濯機を担いで、首に電話線をグルグル巻きにして敵の本丸に行く覚悟ができていたのですが、向こうが来なくていいというのだから仕方ありません。

こういった電話でのセールスは最近は巧妙化しているようです。今回の場合は最初からセールス目的であることを明かしていますが、悪質な場合はそれすら隠してセールスをするようです。いわゆる恋人商法やらデート商法というやつです。

電話をいきなりかけてきて世間話をする。カワイイお姉さんと一発やれるとノコノコと股間を膨らませて出向くと途方もない品を買わされる。そういうことがあるのです。決して騙されないようにしましょう。

まあ、わざわざ絨毯爆撃で電話攻勢でセールスしようという品物はろくなもんじゃありません。そんな売り方でもしなきゃ売れない商品なんですから。電話でのセールスなど断固として断り、あまりにしつこい場合は連絡先を聞いて自分の家のエロ本など売りつけてあげるのも手かもしれません。

テレホンセールスのお姉さんとの激しい攻防戦が終わり、部屋にポツンとたたずむ僕。本当に洗濯機が売れてたたら明日から洗濯できなくて困るけど、電話加入権は本当にいらねえや。そう思うのでした。現にあのセールス電話以来、チンとも鳴りやしねえから。

ということで、誰か僕の電話加入権、買いませんか。当方切実です。

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