突撃!ナンパ塾!

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「ばいばーい、加奈子のペチャパイ!」

「もー!うるさい!」

見知らぬ土地を駅を探してさ迷い歩き、とてもここには駅なんてないだろうという住宅街を徘徊している時、なんだか懐かしくなるような光景に遭遇した。

休日だから元気に外で遊んでいたのだろうけど、小学生の男の子2人と女の子2人が自転車に乗っていた。たぶん、4人で遊んでいたというわけではなく、たまたま同じクラスの女の子が2人いるのを見かけたバカ男子が付きまとっている、そんなイメージだった。まあ、なにか訳分からない会話を交わしていたが、たぶんきっと子供にしか分からない話なんだろう。

日が落ちかけの夕暮れ時、もう家に帰らねばならなかったのだろう、十字路に差し掛かった4人は、女の子2人が右に曲がり、男の子2人が左に曲がった。そして、去り際に男子が冒頭のセリフを大声で言ったのである。

「ばいばーい、加奈子のペチャパイ!」

今時の子供がペチャパイなんていうレトロな言葉を使った驚きもさることながら、それ以上にその典型的な小学生的純情に驚いてしまった。まだこんなピュアな子供がいたんだと。

この驚きの古風なセリフを放った男の子は坊主頭にヤンチャそうな顔立ち。地元の神社の祭に行くからと特別に1000円あげても、5分で全部当たりもしない数字当てにつぎ込んでしまいそうな子だった。まあ、当たり前だけど見るからに子供。全然大人びていなかった。

たぶんきっと、いや、絶対にそうなんだけど、このガキは加奈子ちゃんのことが好きなんだと思う。好きで好きでどうしようもなくて、でも、その気持ちをどう伝えていいのか分からなくて、たまたま加奈子ちゃんが遊んでるのを見かけて付きまとって別れ際に悪態をついたんだと思う。

男の子ってのはバカな生き物だから、好きな子に対してだけ悪態をついたり意地悪をしたりする、みんなも経験あると思う。たぶん、せっかく一緒に遊べたのに別れるのが惜しかったんだと思う。もっと一緒に遊びたかったんだと思う。だからあんな意味不明の「加奈子のペチャパイ」なんていう罵倒が飛び出したんだろう。

大体、見たところ小学校3,4年生くらい、ペチャパイでない方がおかしい。この年代にしてFカップとかGカップとかあった日にゃ大騒ぎだ。当たり前のことを罵倒として用いる彼の必死さからも、やはりかれは加奈子ちゃんのことが好きで、自分でもどうしていいのか分からないんだと思う。

でも、悲しいかな。こういったガキな男の子の好きが故の悪態とか意地悪ってのは逆効果な場合がほとんどで、相手の女の子には嫌な印象しか与えない。冒頭の加奈子ちゃんも「もー!うるさい!」と毛虫でも見るかのような冷酷な視線で彼のことを見ていた。

間違ってる、間違ってる。そりゃあ僕かて好きな子に意地悪やらしたくなる少年の気持ちは分かるのだけど、やはりそれは間違っている。こういうことを書くとヒステリックな抗議メールが殺到するんだけど、それを恐れずにあえて書くと、「女なんか誉めときゃいい」、これに尽きるのだ。

こんな話がある。

この間、あまりにも暇で暇で仕方なくて街中まで出たことがあったのだけど、メインストリートの人通りが多い場所で異様な人を見た。その人はもう通る女性通る女性全てに声をかけていて、なんだか必死さが伝わりすぎてきて見てるこっちが悲しい気持ちになるような人だった。

頭はちょっと禿げ上がっていて、ややポッチャリ目の体型。それでいて中年と言い切ってしまっても問題ないような外見。そんな人が悲壮感すら漂わせながら女性から女性へ、まるで華麗に舞う蛾のように声をかけまくってた。

ああ、ひょっとしてあの人はナンパしてるのかな。そう思った。まさか、こんな未だにミサンガが流行ってるようなクソ田舎の商店街でナンパなんてものにお目にかかれるとは思っていなかった僕は興味津々。携帯を弄って誰かと待ち合わせいているように見せかけながら、彼の行動を目で追ってみた。

ヨドバシカメラにいそうな彼が、浜崎ナントカみたいな派手な女性に声をかけてシカトされ、それでもめげずに安西ナントカみたいな女性に声をかける。どんなに失敗してもめげずに次から次へ。その姿には勇気だとか生きる希望すら湧いてくる。

どれぐらい時間が経っただろうか。そして、彼が何人の女性に声をかけたときだろうか。ついに彼は1人の女性を立ち止まらせ、話を聞かせるところまでこぎつけたのだ。人間、やれば何でもできる。

大変気になった僕は、目立たぬように彼らの近づき、逆に大胆すぎるんじゃないかってくらい近距離で話を盗み聞きしました。

「マジで!俺普段は女の人に声とかけられないんだけど、そんなの忘れちゃうくらい可愛かったからさあ」

「いやー、ホント、カワイイよね。もてるでしょ」

「こんなカワイイ人見たことないよ、彼氏いるんでしょ?」

とまあ、聞いてるこっちが恥ずかしくなってきちゃうような。思わず「必死だな」って言いたくなっちゃうような誉め言葉のオンパレード。しかもですよ、よくよく見ると誉められてる女の子、こう言っちゃ何ですが、あんまり言っちゃいけないことなんでしょうが、お世辞にも可愛くないんですよ。ぶっちゃけると、可愛さのカケラすら見当たらない。

それでも満更でもない様子の彼女。「えー、そんなことないですよー。誉めたって何も出ませんよー」とか言いながらも、おぞましいほどに顔がニヤついてました。

「とりあえずさ、お茶でも飲みに行かない?奢るからさ」

とまあ、彼も難なく彼女をゲット。その場には色々な意味で呆然とする僕だけが残されました。

この事象からも、女の子を誉めることがいかに大切か窺い知れます。女の子を誉めて誉めて誉め倒す。それこそが、ゲットする秘訣なのです。

ちないにこの彼の場合、まだまだこんな物じゃ終らなくて、2人で近くのカフェみたいな場所に入っていったので僕も目立たぬようについて行って、目立たぬように店に入り、目立たぬように隣の席に座ったのですが、そこでの誉め倒し作戦が圧巻だった。

「いやー、カワイイ」

「名前教えてよ」

「あずさちゃんって言うんだ、カワイイ名前だねー」

とか30秒に1回くらいカワイイって言ってましたし、もっと歯の浮くようなこと言ってました。で、極め付けが

「じゃあさ、送ってあげるよ。住所教えてよ」

何か、彼女がすごい夢中になってるジャンルのレアな品物を彼が持っているらしく、送ってあげるとか言ってるんですよ。で、ストーキングするつもりなのか夜這いをかけるつもりなのか知りませんけど、住所を尋ねたりしちゃってるんです。

おいおい、いくら誉め倒されていい気分になってるからって、何も素性を知らないナンパしてきた相手に住所は教えないだろ。まてまて、これは住所は教えられないから、また次ぎ会おうよ、その時に頂戴よって感じに持ち込む高度な作戦なのかもな。などと思っていたら

「えっと、○○市○○町の・・・」

とか教えだす彼女。飲んでた紅茶を噴き出すところだったわ。しかし、それを受けた男のセリフはもっと凄くて

「へえー。カワイイ住所だね」

今度は本当にちょっと噴き出したわ。携帯にピコピコと住所を入力しながら、真顔で言うんですよ。真顔で。おいおい、いくら誉め倒す作戦だからといって、住所がカワイイはないだろ、住所がカワイイは。

でもまあ、満更でもなさそうな彼女。心の底からどうでもいいですが、彼に色々な物を貫かれるのは時間の問題でしょう。

こういう風に、女性は誉めておけばオッケーです。何もゲットしようと狙っている相手でなくても、おかしくない程度に誉めておけば万事が丸く収まるのです。

僕は女性を誉めるというのが苦手で、極稀に、「patoさん大スキです!」とか、頭にウィルスが入り込んで脳炎を患ったような女性からメールを貰うことがあるのですが、僕はいつも心の中で

「こんなはずはない、これは僕を陥れようとするネカマの罠だ」

「この性の解放区め!」

などと思うのですが、こんなことじゃいけません。今度からは丸く治めるために、せめて「かわいいメアドだね」とかくらいは思うようにしたいと思います。

ちなみに、冒頭の小学生のハナ垂れクソ坊主、彼は好きな女の子相手なのですから「ばいばーい、加奈子のペチャパイ!」などと別れ際に言ってはいけません。好きな相手だからこそ誉めねばならないのです。つまり、

「ばいばーい、加奈子のペチャパイ!」

ではなく、

「ばいばーい、加奈子、いい乳してんなー」

なのです。そんな小学生嫌だ。

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