大阪散策シリーズ その2〜動物園前駅編・後編〜

大阪散策シリーズ その2
〜動物園前駅編・後編〜

前回のあらすじ
大阪の良いところ再発見!と称して天王寺動物園にいったpato。そこにはやる気のない動物が大量に存在し、動物園として楽しめるかどうかは疑問であったが、幼き日の記憶を辿り、懐かしい気分に浸った。動物園閉園後、周辺を散策、昔のようにホームレスの数が減っていることに気が付いてしまった。あれだけいたホームレスはどこにいったのだろうか。

さらに散策を続けると、異常に雰囲気がダークネスなアーケード商店街を発見。あまりの雰囲気に心底怖くなるがそのまま突き進む。途中にあった大衆酒場は体臭が動物みたいな客がいて体臭酒場、カラオケスナックからも動物の奇声のような音声しか聞こえなかった。

アーケード通りを外れると、そこは普通の住宅街。しかし、ゴミ捨て場に出刃包丁が捨ててあったり、ゴミや盗難車が道路の真ん中に投げ出してあったり、裸のオッサンが長淵の歌を歌いながら歩いていたり、おおよそ普通の街とは違うトリッキーな出来事が数多く存在していた。

心底怖かったが、それでも僕は進んでいかねばならない。そう、大阪の良いところを再発見するため、大好きな大阪だから、大好きな大阪だから。こんなバイオレンスな危険レベルSの場所にだっていいところはあるはずだ。半ば意固地になりながら、真っ暗な住宅街を先に先に進んでいくのだった。


さて、素っ裸のクリーチャー親父はどこぞに消えた。しかしながら、相変わらず住宅街は街灯もなく真っ暗で雰囲気自体が中東あたりの政情不安定な場所みたい。おまけに歩道にいらなくなった家具とかが山のように捨ててあったり、それが何のためらいもなく道路にはみ出してて道を半分塞いでいたり、僕らの常識からすると考えられない光景が広がっていた。

なんだよここは・・・

と愕然としながらも真っ暗な通りを歩いていくと、前方に異変が起こっていることに気が付いた。現在の状況では考えられもしない異様な光景だった。

遥か前方の通りは、現在の真っ暗な住宅街とは対照的に煌びやかに明かりが灯っている。おまけにここからは確認できないが、どうも沢山の人々が活発に行き来しているように見える。ここまで殺伐とした人通りの少ないアーケードや、真っ暗で人のいない住宅街を歩いてきたというのに、遥か前方の一角だけ妙に活気溢れているように見えた。

もしかしたら、これは幻覚かもしれない。砂漠をさ迷い歩く人は、渇きや疲れで極限状態になるとオアシスの幻覚が見えるという。それと同じことで、あまりの人通りの少なさ、寂しさ、殺伐さに極限状態に達していた僕は幻覚が見えたのかもしれない。

あるいは本気で狐に化かされてるのか、もしくは本当にあそこで縁日か何かが行われているかだ。とにかく何にせよ、真相を確かめるしかないと僕は暗闇にポッカリと夢幻のように浮かび上がる喧騒にむけて歩き出した。

なんだ、なんだ、ここは。どうなってるんだ。

そこには予想だにしなかった光景が広がっていた。

昭和にタイムスリップしたかのような、古い造りの和風旅館みたいなのが立ち並び、その前の通りを男達が狂ったように歩いている。一軒一軒の建物には同じ規格の看板が掲げられており、「山田」とか「田中」とか無難そうな苗字っぽい名前が表示されている。そんな光景がずーっと奥まで続いているのだ。

なんなんだろう、ここは。

そう思って通りを歩いてみると、なるほどと納得した。ここは戦前の遊郭の名残を残す、かの有名な飛田新地なのだと。名前だけは聞いたことがあったが、まさかこんな場所に存在するとは。

つまりはここは、男の人たちが楽しむ場所であって、ぶっちゃけ早い話女の人とエロスな良いことをする場所なのだ。

通りに存在する店は一軒一軒が一個の店で、表向きは料亭ということになっているらしい。で、女の人は仲居さんということ。女性は店の玄関みたいな場所に座し、煌びやかなライトを浴びる。男性は通りを闊歩しながら良い女の子を探し、気に入ったら入る。あとは金を払って二階でいい事をする。そんなシステムのようだ。

でまあ、通りを歩いてみるのだけど、とにかく女性がカワイイ。中にはブッサイクのもいるが、え!?マジで!?と思うようなカワイイ子も確かに存在する。何軒かは女の子が不在の店もあるが、どうやらそれは現在絶賛接客中ということらしい。

良いことをしてくれる女性がいる店を一軒一軒覗いて周る男達。この界隈の通りは本当に血潮たぎる男どもで溢れている。なんちゅうディープな街だ。

おまけに、通りを歩いていると、とにかくうるさくてかなわない。女の子の横には大抵セットで婆さんが座っていて、

「お兄ちゃん、寄っててや」

「サービス良い子やで」

ととにかく客引きが物凄い。女の子は満面の笑みで微笑んでいるだけだが、とにかくセットの婆さんがうるさい。

で、どんだけこういった店があるのだろう、と看板が見える限り歩いて探してみたのだけど、とにかく広い。大体、○○町1丁目とかいう区切りがあるとすれば、その1丁目が丸々この界隈みたいな感覚で、ざっと見200軒くらいの料亭が軒を連ねているのだ。とにかく凄い。

で、歩いてみて気がついたのだけど、どうもゾーンによっている女の子が違うみたいで、人通りの多いメインストリートみたいな場所には若くてカワイイ子が多い。しかし、ちょっとメインから外れるとイマイチな人やお歳を召した人が増えていく。

歩いている男性は、それこそ20代くらいの若いのから、いい歳のナイスミドルまで様々だが、心なしか団体が多いような気がした。友達同士仲間同士で通りを闊歩し、「おい、あの子カワイイな」などと大騒ぎしている姿がよく見られた。

中には、タクシーで乗りつけ、界隈の通りをタクシーでグルグル。車窓から眺めて気に入った子がいたらタクシーを停めて店の中にはいるという豪気な紳士もいた。

さっきまで誰もいない場所を歩いていたのに、いきなりこんな活発な桃源郷みたいな場所に出てしまったために混乱するのだけど、それ以上にショックなのはこんな界隈を塾帰りだか部活帰りだか知らないけど自転車に乗った中学生が通っていたことだ。明らかに教育に悪すぎる。

女の子が二階で接客中で暇そうに座っている婆さんに話を聞いてみたが、どうやら全店舗一律で料金は20分1万5千円らしい。財布に4千円しか入ってなかった僕は泣く泣く諦めて帰ることに。

もう帰ろうと歩いていると、やはり閑散としてくるのだけど、そこにも料亭はあって女性が座っている。先ほど説明したとおり、メインには若くてカワイイ子、通りから外れるほどランクが落ちていくのだけど、完全に通りから外れたこのストリートは物凄いものがあって、座ってる女性がとにかく凄い。

巨乳の域を大きく外れ、関取の待機部屋みたいになっている料亭もあれば、熟女の域を超えて山下君のお母さんみたいな人が座っている料亭もある。それならまだ良い方で、中には客引きのババアと相手をしてくれる女性がどっちなんだか分からない場所がある。つまり、どっちもかなり高いレベルで婆さん。婆さんがにっこり微笑んで座ってるのだ。考えるだけでおぞましい。

とにかく凄い街だった。それにしても、あのシステムは何だか動物園に似ている。座っている女性が動物のようだ!とは言わないけど、あの女性がいるスペースを動物の檻と考えるなら、男性が見て周るというのは非常に動物園のシステムに近い。

なんてことを考えながら歩き、飛田新地を離れると今度は酔っ払ったオッサンどもが平気で地べたに寝転がっている通りに。ホームレスとかそういうのではなく、「ねむいから」という理由で寝そべってそうなオッサンばかり。しかもその数が半端じゃない。次から次へと、なんてディープなところだ。と思いながら、オッサンども寝そべる通りの中央を歩くのだけど、

「きえっ!」

とか奇声を発したり

「お兄ちゃん、タバコある?」

とか物凄く話しかけられる。もういつ襲い掛かられて身包みはがされても可笑しくない、そんな雰囲気。ヒヤヒヤしつつ、コエーと思いながら進んでいく姿はまさにサファリパーク。まあ、こっちはサファリパークと違って身の安全の保証がないんだけど。

危険度SSクラスの通りを抜け、またもやシャブ中が潜んでいそうなアーケード通りを来た道とは逆に歩いていって天王寺動物園に舞い戻ってきた僕、そこでまたもや衝撃の光景を目の当たりにしました。

天王寺動物園の入口の前は屋根付のタイル張りのスペースになってるんですけど、そこにホームレスが寝てるんですわ。どこに消えたんだ、って冒頭で述べましたけど、なんて事はない、夜が来るのを待って動物園の前で寝てるんですよ。

またこの光景が圧巻で、30人ぐらいの人がダンボールひいて綺麗に整列して寝てるんです。まるで碁盤の目みたいに正確に等間隔、同じ方向向いて寝てるの。その光景はまさに野戦病院さながら。あ、あと全員が北枕だった。

すげえ光景だなあ、と思いながら横をすり抜け、なんば方面に向かって歩いた僕、途中でブッサイクなカップルが動物のようにブッチュブチュと愛情表現をする場面に出くわし、微笑ましく見るやら散弾銃が欲しいやら。

とにかく、この動物園前駅周辺は物凄い。本体の動物園の動物はやる気ないのに、周辺には、獣のような体臭を発する親父や、動物の鳴き声みたいなカラオケ、動物のような裸のオヤジ、動物園さながらのシステムの飛田新地、サファリパークのような弱肉強食のエリア、動物のように寝るホームレス軍団、動物のように愛し合うカップルと、とにかく動物園チックなものが山ほど存在するのです。

動物園前駅ってのは、天王寺動物園の前にあるからじゃなくて、その界隈全体が動物園みたいだからなのかもな。そう考えながらなんばの喧騒に消えようとする僕に、天王寺動物園の中から動物の鳴き声が聞こえたのでした。

次回、大阪散策シリーズは、梅田周辺です。

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