大阪散策シリーズ その2〜動物園前駅編・前編〜

大阪散策シリーズ その2
〜動物園前駅編・前編〜

日が傾いた動物園はなんとも寂しくて人もまばら、檻の中の動物も退屈そうに寝てるだけだった。

大阪の良いところを再発見しよう!という目的で始まった「大阪散策シリーズ」、前回の「なんば」編に続いて待望のシリーズ第二弾が8ヶ月ぶりに登場です。何と今回は大阪のプレイスポットとして名高い「天王寺動物園」を擁する動物園前駅周辺。前回の「なんば」とは目と鼻の先になります。

天王寺動物園でやる気のない動物たちを眺めた後、どっぷりと日の暮れた周辺をブラブラと散策してみました。一体今回はどんな発見があるのか、とくとご覧下さい。それではどうぞ。

閉園を告げるアナウンスが流れ、まばらだった人々がポツポツと出口に向かって歩き出す。この天王寺動物園には何度か来てるが、いつ来ても閑散としてて寂しい気持ちにさせてくれる場所だ。それに、ここにいる動物は全て疲れているのか、ほとんどが寝てばかりいる。なんだろう、様々な動物を見に来ていると言うよりは動物の寝姿を見に来ているような感じだ。

僕が小学校低学年だったとき、お婆ちゃんに大阪に連れて来てもらったことがあった。確か「夢工場」とかいう訳の分からない博覧会みたいなのに連れて行かれて、その後に天王寺動物園に連れてこられた記憶がある。その時も動物たちはやる気なく寝てばかりでショックだったのだけど、それ以上に動物園周辺に密集するダンボールハウスがカルチャーショックだった。

都会育ちやある程度の都市育ちの人は信じられないかもしれないが、田舎育ちの人というのはホームレスというものを見たことがない。実はホームレスってのは都市部中心に生息するアーバンで都会派志向の職業で、田舎者な僕はこの時初めて遭遇したのだ。

「ねえ、なんでこの人たちはお外に住んでるの?」

雑然と並ぶダンボールハウスを見ながらお婆ちゃんにそう質問すると、お婆ちゃんはキッと片眉を吊り上げて

「見ちゃいけません!いくよ!」

と僕の手を引っ張ったものだった。懐かしい、幼き日の大阪の思い出。

閉園した動物園の重厚な門をくぐり、今また、あの幼き日と同じようにブラリと周囲を一周してみたのだが、あの時より随分とダンボールハウスが減っている。美観を損なうとかの理由で強制撤去でもされたのか、本当にごくごく一部に点在しているだけだった。あんなにあったダンボールハウスはどこにいったのだろうか。あんなにいたホームレスはどこにいったのだろうか。なんにせよ、随分様変わりたものだと思った。

動物園の周囲をグルリと周ったあと、地下鉄動物園前駅の近くにあるジャンジャン横丁という場所で夕食を取る。雑然としたストリートで小さな店が軒を連ねる場所なのだけど、ここがまた物凄く活気がある。狭い通りに人がギュウギュウになって行き来していて、大阪だぜ!と言わんばかりの人ごみ。閑散としてて死に体の動物園とは対照的だ。

美味しそうな店は何件かあったのだけど、何を血迷ったかいかにもマズそうなラーメン屋に入店。気難しそうなオッサンと、フェラチオが得意そうなオバサンが二人で切り盛りしてるっぽい店なのだけど、これがまあ、本当に客商売かというほどに無愛想。「いらっしゃい」の一言もありゃしない。どういう店だ。

無難にラーメンをチョイスするも返事も相槌もしやしない。こんなラーメン屋、やまだかつてない。まあ、出されたラーメンはマズくもなく、普通に美味しい味だったのだけど、問題は運んでくる時。エプロン付けたフェラチオ得意そうなオバチャンが持って来るんだけど、もうスープに指が浸かってるのな。それもありえないレベルで。下手したらコブシごと入ってるんじゃってレベルで。

ちょっとなあ、と思いつつ我慢して食ったよ。オバチャンの指から良いダシが取れてるに違いないって思い込んで食ったよ。まあ、美味しかったけど。

地獄のフェラチオオバチャンラーメンを食した後は、しばらくジャンジャン横丁をうろついて、それからガード下をくぐって大通りに。右側に異常にデカいパチンコ屋を眺めつつ、大通りを渡った場所に商店街チックなストリートがあったのでそちらに向かうことに。

信号を渡ってアーケードみたいな場所に入ったのだけど、ココがなんか異常に凄い。入った瞬間に瘴気というか重苦しく沈痛な空気というか、何か只事ではない空気がストリートに蔓延していた。

普通、アーケードのある商店街なんて、結構照明も明るくて活気があって、なんだかルンルン気分になってきそうなものなんだけど、なんていうか、このアーケードはイメージが荒涼としている。夜だからなのか店は全部閉まっててシャッターの展示会みたいだし、照明も物凄く暗い。ゴミとかも散乱してるし、人通りもほとんどない。なんていうか、只事ではない尋常ならざる雰囲気。ここでなら殺人事件が起こっても不思議ではないし、物陰から刃物を持ったシャブ中が飛び出してきても何らおかしくない。

なんちゅう殺伐とした商店街だ。

そう思いながらほとんど人通りのないアーケードを歩いていく。結構長いアーケードみたいで、途中何度か車道と交差しているところで途切れるものの、かなりの長さで真っ直ぐと繋がっている。心なしか、進めば進むほどアーケードの屋根とかもボロくなっていき殺伐さがヒートアップ、もうそこかしこにシャブ中が潜んでいそうな雰囲気に。

基本的に全ての店は頑なにシャッターを閉ざしてて、閉店してるのか潰れてるのか分からないんだけど、たった3つだけ営業している店が。一つは全国チェーンの弁当屋で、さすがというかなんというか、この殺伐とした商店街の中で唯一光を放っていてオアシスのような存在。通り過ぎる時にチラリと中を見てみたんだけど、シャブ中みたいな人が大震災レベルで貧乏ゆすりしながら弁当を待っていた、でもまあ気にしない。気にしてたらこの商店街は一歩も前に進めない。

もういっこ営業していた店が、和風の木造っぽい建物に「大衆酒場」という暖簾のかかった非常に大衆的っぽい酒場。見ると、頑固そうな店の親父と、それと仲良しそうな普通のオッサンが上の方に設置されたテレビを見ながら楽しそうに酒を飲んでいる。こりゃあ雰囲気が良さそうだ、ちょっとビールでも飲むか、とその「大衆酒場」の暖簾をくぐって店の中へ。

「らっしゃい!」

「生ビール下さい!」

「あいよ!」

先ほどまで死のアーケードを一人歩いていたせいか、店のオッサンの威勢の良さが逆に不気味。何かあるのではないかと疑ってしまう。

運ばれてきたビールをグビグビと飲んでいたのだけど、ここでとある異変に気が付いた。なんでこんなことに気が付かなかったんだろう、コリャやばいだろうと思うレベルの異変。

いやね、やけに臭い。

物凄い不快というか何というか、明らかに体の具合が悪くなりそうな嫌な匂いが店内にたちこめてるんですよ。なんていうか、獣の匂いっていうか、外で飼ってる犬を二年間くらい洗わなかった匂いというか、とにかく不快で仕方がない。確かにさっきまで動物園にいたけど、まさかこんな酒場で獣の匂いを嗅ぐとは思わなかった。

で、匂いの発生源を探そうとトイレに行くついでに色々と匂ってみたのだけど、どっかに犬でも隠してるのかなって思ったのに、どうも店の親父と仲良く談笑しているオッサンが犯人っぽい。正に文字通りヤツが臭いって感じで、ほぼ間違いなさそうな感じ。

すげーなー大阪の人は、あんな獣みたいな匂いの中で酒を飲んで談笑できるのか、こりゃあ大衆酒場って言うより体臭酒場だぜ、と思いながらビールを一気に飲み干して店の外へ。これ以上いたら酒に酔ってじゃなくて匂いで吐く気がした。

さらにアーケードを進んでいくと、今度はカラオケスナックみたいなのが営業していた。こちらは妖しげな紫の看板に詳細は忘れたが、おどろおどろしいフォントで店名が書いてあった。残念ながらあまりの怪しさに中には入れなかったし、店の中も窺い知ることはできなかったのだけど、店の外に漏れ出してくる歌なのか動物の雄叫びなのか分からない音声だけで充分だと思った。

ここまで歩いてきて、どんどんとアーケードが朽ち果てていき、この先はさらに照明すらなさそうな真っ暗なアーケードが口を開けて待っていたのでもう限界だと悟る。このまま進んでいったらいつの間にか地獄の二丁目に辿り付きかねない。ということで、アーケード通りから脇道にそれて住宅街みたいな場所を歩くことに。

しかしながら、これが大失敗だった。脇の通りは確実に街灯なんかなくて真っ暗。おまけに、あちらこちらにゴミが捨ててある。いやいや、普通に住宅街だからゴミぐらい捨ててあるのだろうけど、それがゴミ捨て場でもなんでもなくて道の真ん中なんだよね。道の真ん中が正規のゴミ捨て場の如く、山のように捨ててある。

注意してみると、歩道に何のためらいもなく家具が捨てられてたり、盗難車としか思えない自転車やバイクが投げ捨ててあったり。それに、ブロック塀なんかには何のためらいもなくスプレーで落書きしてあるからね。まさに暴力と理不尽が支配する世紀末バイオレンスタウン、みたいな雰囲気だった。

そんな場所を、それも真っ暗な場所を一人でトボトボと歩いているもんですから、異常に怖くて「怖いよう、怖いよう」と呟きながらさらに歩いたのですが、すると通りの影からヌッと人が出てきたんですよ。

40代そこそこの肥満体型のオッサンなんですけど、なぜか裸。上半身は完全に裸で下半身はブリーフのみ。なんだろう、変質者とかじゃなくて、単純に「蒸し暑いから」という理由だけで裸になってるような、そんな威風堂々としたデンジャーな雰囲気をムンムンと醸し出してた。

しかもまた、そのオッサンが僕と同じ方向に向かって等間隔の距離を保ちながら歩き出すんですよ。それも、「ウーウーウー」とか喚きながら。もうなんていうか、怖いとか危険とかそういったのを超越して、逆に面白くて笑えてきましたからね。

「うーうーうー」

「うーうーうー」

ずっとオッサンはたるみ気味の腹肉を揺さぶって唸りつつ歩いていて、そういった珍しい動物の発情期みたいになってたんですけど、ずっと歩いているとですね、その唸りの正体が分かったんですよ。

「うーうーうー」

「うーうーうー」

「とんぼーよーどこーへー」

こいつ、長渕の歌を歌ってたのか!

最後が聞き取れなかったら長渕の歌とは分からないほど歌っぽくない唸りだったのですけど、これで全ての謎が氷解しました。それにしても、こんなインパクト大のクリーチャーが普通に出てくるのですから、やはりこの界隈はあなどれません。

でまあ、まだまだ恐怖はあるものの、次第に慣れというか感覚が麻痺したというか、すっかり安心して歩いておりました。

しかしまあ、やはり侮れまないものですね、ゴミ捨て場に何のためらいもなく出刃包丁が捨ててあったりするんですから。ホント、ヒヤリとしたわ。

つづく

デンジャーな通りを歩いていったその先には血肉も沸騰する桃源郷が存在した!サファリパークを駆け抜け、夜の動物園に舞い戻った先には衝撃の光景が!そして、その先の公園で見た感動の光景とは・・・?

次回、大阪散策シリーズ2-動物園前駅編-後編、衝撃のクライマックスに全米が震撼する!!こうご期待!

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