コスマニ

コスマニ

「やっぱ裸なんちゃうん?裸に勝るものはないよ!でも、裸は何か違う気もするなあ・・・」

誰もいない会議室でそう呟いた。

今日の僕の仕事は、会議室の大型プロジェクターを使って、何の関連性もストーリー性もない映像たちをぶっ通しで5時間見て感想を書くという、下手したら仕事という名の精神鑑定か何かじゃないかと思うような代物だった。

バカ正直に全部見てると終るのに2年くらいかかりそうなので、基本的にマックスパワーの早送りで鑑賞し、気になる場面があったら標準の速度で見るという手法でノルマをこなしていた。

画面には本当に関連性のない場面ばかりが映し出され、子供達が楽しそうに遊んでたり主婦が立ち話してたりライオンが狩りをしてたり夕日が綺麗だったりして、エロビデオの冒頭のドラマ部分とかインタビューくらいどうでもいい映像が目白押しなのだけど、ふとある場面が映し出されら時、ビデオのリモコンを構えていた僕の動きが止まった。

それはなんてことない医療現場最前線みたいな画像で、チューブにつながれた患者さんに医師が必死になって治療している場面だったのだけど、その脇に映っているナースに目が留まった。

たしかにこのナースはカワイイ。けれども、もしこの人が普段着で町を歩いていたらどうだろうか。もし、この人が普通の服で町を歩く映像だったらどうだろうか。たぶんきっと、僕は早送りしていたに違いない。

やっぱりナース服はええなあ。

自分は物凄くナース服が好きなことを再確認した時、僕の思考が大車輪の如き勢いで回転しだした。

一口にナース服といっても様々だ。白いのもあればライムっぽいの青っぽいのピンクっぽいのまである。それらカラフルなナース服たちを一緒くたに「ナース服」というカテゴリで括ってしまうのはいかがなものだろうか。

僕は間違いなくピンク色のナース服が好きで、それだけで射精しそうになるのだけど、青系とか白系のナース服にはあまり敏感に反応しない。つまりは、ナース服が好きなのではなく、ピンク系のナース服が好きなのだ。

「ナース服はピンク色に限りますなあ」

誰もいない会議室、一人でそう呟いていた。

そうかそうかと納得し、映像を早送りする。すると、今度は元気に登校する女子高生の姿が映し出された。

「おいおい、待てよ待てよ」

またもや声に出してリモコンを操作する。今度は一時停止ボタンで映像を止めるにまで至った。

確かに女子高生の制服姿は魅力的だ。それだけで3日分くらいオカズには困らないだろうし、家にあろうものなら家宝のように丁重に扱うだろう。けれども、制服だったらなんでもいいって訳じゃない。

世の中には数多くの、それこそ星の数ほどの制服があるのだけど、物凄いカワイイのもあれば喪服と紙一重みたいな制服もある。そう、これらを全部「制服」でカテゴライズするのは女子高生に失礼ってものなのだ。

「なんてことだ・・・。僕は今まで漠然と、ナース服好き!制服好き!と声を大にして叫んできたけれど、それってば実はおかしいんじゃないだろうか」

衝撃の事実に直面するがあまり目の前が真っ暗になった。それと同時に、節操なく「制服好き!」と漠然と言っていた自分を恥じ入った。

「これはもう、今からマイコスチュームランキングを詳細に作るしかない。それが制服に対する最大限の礼儀だ」

物凄い使命感に駆られた僕は、「仕事?なにそれ?」と言わんばかりの勢いでリモコンを投げ出し、ホワイトボードに向かってランキングの作成に取り掛かった。

まず、ナース服(ピンク色)は外せない。それに制服はブレザータイプが好きだ。スカートはチェックで上着は紺系、それでいてタイも原色に近いものがいい。まず、このランキングをつける発端となった二つの制服がランクインした。

次にDoCoMoショップのお姉さんの制服も外せない。けれども、今のヤツはダメだ。モデルチェンジする前の旧タイプの制服がいい。あれは脳ミソが溶けて耳から出てくるくらいに好きだ。

あと、OL姿も外せない。事務系OLさんでピンク系の制服。これは絶対に抑えておきたい。

そうそう、リクルートスーツもいいね。もう初々しいリクルートスーツ姿。これだけご飯三杯はいける。

OL姿と似通っちゃうんだけど、銀行系制服もいい。ああ、そうだマクドナルドもたまらん。そうそう、近所のパチンコ屋の制服も最高にセクシーだ。

そんなこんなで、ホワイトボードに書いては消し、書いては消し、苦労に苦労を重ねて完成したマイコスチュームランキングが以下の通り。

1.裸

2.女子高生制服(ブレザータイプでチェックのスカート、紺系の上着)

3.ナース服(ピンク系)

4.女子高生制服(品川女子)

5.DoCoMo制服(旧タイプ)

6.OL(ピンク系のタイトスカートがベター)

7.近所のパチンコ屋の制服(園田さんの着こなしがベスト)

8.女子高生制服(スタンダードなセーラー服)

9.リクルートスーツ(無理矢理染めた黒髪があればベター)

10.マクドナルド(ピンク系のほう)

やっとこさランキングが完成し、大満足で一息ついたとき、ある疑問というか不安要素が僕の頭の中をよぎった。

「1位にランクしている「裸」、これは果たしてコスチュームなのだろうか」

確かに、裸はどんなコスチュームにも勝るポテンシャルを持っていると思う。裸の大塚愛と制服姿(ブレザータイプでチェックのスカート、紺系の上着)の大塚愛、どっちかをあげると言われたら死ぬほど悩むだろけど、結局裸の大塚愛を選ぶと思う。

「けれどもなあ、裸はコスチュームじゃねえよなあ、だって何も着てないんだもん」

夕陽がかかった広い会議室、そこで一人こんなことや冒頭のセリフを真剣に口走ってるわけだ。それだけで十分に精神鑑定に値すると思うのだけど、とにかくココはコスチュームを語る上で裂けては通れない道。真剣に悩んで悩みぬいて、結局「裸はコスチュームじゃない」という結論に達し、一位の部分を消そうとした瞬間だった。

がちゃ

会議室奥の扉が開いた。この会議室の奥は簡易的な仕切りの小部屋になってて、そこは資料室になっているのだけどどうやらそこに人がいたようだ。

見ると、そこには隣の部署で働く池畑さんの姿が。彼は僕と面識はあるのだけど廊下ですれ違って挨拶する程度、とりたてて会話をするような仲ではなかった。

「まずい、もしやずっと独り言を聞かれていた?いやいやそれ以前にこのランキング表を消さねば。僕の人格すら疑われかねない」

ここまでのランキング作成に試行錯誤している思案部分、僕は全て独り言として声に出して言っている。当然、資料室は仕切りが簡素なので声は筒抜け、「やっぱナース服はピンクが」なんてのも全部聞こえてるわけだ。もうなんというか、会議室のガラスをぶち破って飛び降りたい気持ちに駆られた。

「あ、どうもこんにちは、ははははは」

必死で取り繕い、ホワイトボードに書かれたランキングを急いで消そうとしたその瞬間、池畑さんのメガネの奥がキラリと光った。

「裸はコスチュームだよ」

池畑さんは思いもよらない言葉を発した。真面目で勤勉実直、外見からはそんなイメージしか受けない彼の言葉に、独り言を聞かれていたなんていう迷いは吹っ飛び、別の意味で狼狽してしまった。

「え・・!?」

まごついている僕に向かって池畑さんは続ける。

「何かを身に纏うのがコスチュームという定義ならば、裸だって立派なコスチューム、だってエロスを身に纏ってるじゃないか」

次の瞬間、僕と池畑さんはランキングの書かれたホワイトボードの前でガッチリと握手をしていた。

それからはもう意気投合、「ふむ、いい線ついてるね、僕もナースピンクは好きだよ」「いやー、でも僕はリクルートはイマイチかな」「あと、地味な紺色のブレザーもいいもんだぜ」

そんな会話をしているうちにすっかりと日が暮れてしまったので、

「すいません、僕仕事が残ってるんで。コスチューム談義の続きは社内メールでしましょうよ」

と僕が提案すると、池畑さんは、

「ああ、まだ仕事あるの?じゃあさ、手伝ってあげるよ、一緒にやろうよ」

こうして、僕と池畑さんの2人は、制服談義に花を咲かせつつ、意味不明な映像を続けざまに見て感想を書くという、一歩間違えれば精神鑑定みたいな作業をするのでした。

あまり知りもしない仲なのにコスチュームプレイで意気投合、おまけに真剣に話をするなんていう自分達のおかしさを自覚し、本当に精神鑑定が必要なのかもと思いを馳せながら。

この日、僕はコスチュームに関する新しい認識と、何よりも心強いアホな同僚を手に入れた、そう思ったのでした。

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