きっと誰かが見てる

きっと誰かが見てる

誰も見てないと思っても誰かが見てるものです。それが悪いことであろうと、良いことであろうと、きっと誰かが見ている。そういうものだと思います。

誰も見てないと思って悪いことしても、きっとそれを誰かが見ていて周りまわってくる。逆も然りで良いことをしてれば誰かがきっと見ていてくれる。きっとそういうことなのだと思います。

この間の話なんですけど、近所のコンビニで弁当とお茶を買って、ついでに市指定の有料ゴミ袋も買って、エロ本も買おうと思ったのですけど抜けそうな作品がなかったので思いとどまってレジに行ったのですけど、その際にですね、アルバイトの女の子(三条さん、ややカワイイ)がですね、オツリを渡す時、僕の手をギュッと握ってきたんですよ。もっかい言うぞ、僕の手を、ギュッと、握ってきたんですよ。

もう、これはオツリが落ちないようにとか、サービス精神とかの枠を超えてですね、なんていうか愛とか恋とか、そういったスキャンダラスな香りのする握り方だったんですよ。

「あ、こいつ、俺に惚れてるな」

そう思いましたね。だってよくよく考えても見てくださいよ、いっつもいっつも弁当とお茶を買っていく見るからに独身な20代後半の男性。たまに髪なんかボサボサでヒゲもボウボウ、半分パンツが出てるような男ですよ。そんな男が稀にエロ本とか買っていくんです。そりゃあ手に変な液体とかモリモリとついていそうじゃないですか。明らかに異臭とかしそうじゃないですか。普通はそんな男の手なんか生娘が握れるわけない。それが握れるんだから、これはもう恋なんじゃねえのかな。

それにね、前々から様子がおかしかったんですよ。僕が行くとその店員の子がやけに艶っぽい表情になっちゃったりしてね、稀にウィンクみたいな仕草を見せたりしてね、なんていうか惚れちゃったのかなー、この僕に、ってのが何となく分かる雰囲気だった。そう、前々から。

でもね、こうして手を握ったりとかで積極的にアッピールされると嬉しいもので、「おいおい、まいったなー」と僕も照れたり興奮したりと有頂天のるつぼになったりするんですよね。それでまあ、思ったのですよ。やっぱ見てる人は見てると。

僕はこう、このコンビニでは物凄くジェントルに振舞ってるわけですよ。入店する時に別の人が後に続いてきそうだったらドア開けて待ってたりしますし、陳列棚の商品が乱れてたら直したりしてますしね。あと、この店が売れ残りに困ってて「半額サービス!」とかやってる商品も、困ってるんだなって思って買ったりしますし。

そういった僕の真摯で紳士な振る舞い、別に誰かに見てほしいとか熱烈アピールでやってるわけじゃないんですけど、やっぱそういうのって見てる人は見てるんですね。それでまあ、アルバイトの女の子(三条さん、ややカワイイ)は僕に惚れちゃったんじゃないかと思うんですよ。

コンビニからアパートまで徒歩で帰る道すがら、なんていうか有頂天で心なしかスキップとかしてたんですよ。「おいおいどうするよー、次行ったら告白とかされるんじゃね?」とか買ったばかりの弁当の入った袋をグルングルン振り回したりとかしてた。

「でも、告白されれても困るじゃないの、僕にはラバーズもいるわけだし。こりゃあどうやって断ったらいんかなー」とか、考えたりしてたら、いつも通る交差点に差し掛かったんですよ。

で、あまりに有頂天なもんだから歩行者用信号の押しボタンを押すのを忘れて、なかなか青にならねーなーとかボーっと10分間くらい棒立ちして待ってたんですけど、ふと横を見るとですね、明らかに異様な姿をしたオバハンが立ってたんですよ。

上から下まで全身紫色のヒラヒラした服を着てですね、進化しきれていない人類みたいに度を越した猫背で僕の横に立ってるんですよ。見ると、顔はひび割れしそうな勢いでファンデーションって言うんですか、ああいうのが塗ってあって粉吹いてる。オマケに頭はお湯を入れる前の焼きソバUFOが乗ってるみたいになってるんですよ。なんていうか、間違えて頭からチンゲが生えてきちゃった!ってなイメージのヘアスタイル。

うわ、この人見るからに頭狂ってるなあ・・・とか思いながら凝視してましたら、そのオバハンもクルッとコッチを見てですね、クワッと目を見開いて言うんですわ。

「アンタ!あんまり調子に乗るんじゃないよ!」

とか。

やっぱ頭狂ってるんでしょうね、信号待ちで目が合っただけの人にこんなセリフを言うなんて、通常の精神状態では考えられないことです。イキナリ挨拶代わりに「調子に乗るな!」と一喝されても怖いものがある。

キチガイ相手にムキになって刃物とか出されても困りますから、僕も「はあ、すいません」とか意味も分からず謝り、やっとこさ信号が青になったので道路渡って帰ったのですけど、なかなか釈然としない思いが残りました。

でもね、思ったのですよ。コンビニでバイトの子に手を握られたくらいで「アイツは俺に惚れてる!」とか有頂天になっていた僕。あのキチガイオバサンがそんな僕の姿を見て忠告してくれたとは思いませんが、そういったのを超越した「何か」が僕に「調子に乗るんじゃないよ」って忠告してくれたんじゃないかと。

やっぱ、どんなことをしても誰かが見てるものだよな。

そう思いながら、自分のアパートで、調子に乗って振り回しすぎて寄り弁どころかグチャグチャに混ざってビビンバみたいになってる弁当を食べながら思いました。

こんな弁当を寂しく部屋で食べてる健気な僕も、きっと誰か見ててくれるはず。

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