あの頃君は
(15分トライアル日記)
前にいた職場にお中元を贈った。たしかバベルの塔みたいにテクニカルに積み重なったエビスビールを1ケース送ったはず。送る時に記入する住所、すっかり忘れててデパートのお中元コーナーで恥かいたよ。
僕が前いた職場はちょっと変わってて、辞めようがリストラされようが寿退社しようが問答無用でお中元お歳暮は贈らないといけないといけないというのが暗黙の了解で、最低でもいなくなって1年間は贈らないと末代まで悪口を言われるという諸行無常の職場だ。
さすがの僕も、そんないない場所で悪口とか言われると切ないものがあるので贈ったのだけど、ハッキリ言って手痛い出費だった。で、本日、その前の職場からお礼状が届いた。
これもまた慣例という名の鉄の掟で、お中元を贈ってくれた人には職場のメンバー全員でお礼状を書いて送ることになっていたのだ。そういや、自分が所属していた時、名も知らぬOBだかなんだか相手に「素敵な品物ありがとうございます」とか心にもないことを書いた気がする。
いつもそのお礼状を書いてると、クサレ上司のヤロウが近寄ってきて
「彼は伝説的OBなんだぞ。あいつの残した実績は凄い!」
とか聞いてもないのに、その名も知らぬOBの伝説を語りだして、そいでもって「それに対してお前は・・・」と哀れみの目で見られたものだった。
そうだ、思い出した!
そういえば、僕が前の職場を去る時、お中元とお歳暮も当然贈る気でいたから子飼いの後輩に頼んだんだった。お礼状を書く時、クサレ上司は僕のことを何と紹介するのか。まさか伝説的OBだとか、ヤツの抜けた穴は大きかったと涙したりとか、そういうのを期待して・・・。
その結果を後輩はお礼状に書いてくれる手筈になっていた。この手紙の中にその結果が書いてあるのだ。ドキドキし、。それでいてワクワクしながら封を開いた。
「patoさん、こんにちは。とても素敵な品物をありがとうございます。みんなで重宝しながら飲んでます」
やはり礼状は心にもないセリフから始まっている。で、あとは個別に職場メンバーが何行かのメッセージを書いているのだけど、問題の後輩の部分を読んでみる。
「上司ですが、礼状を書く時、patoさんの名前を連呼しながら、「だれだっけ?」って連呼してましたよ」
忘れられてる。
記憶の片隅にすらなかったことにされてる。おいおいそりゃないぜーと思いながら手紙を読み進めてみると、色々な職場の状況を説明してあった。
チンコヘッド君は髪を切って短髪になったらしい。
ウンコ上司は投資信託に失敗して大損、毎日機嫌が悪いらしい。
大崎は筋肉増強剤でも打ったんじゃないかというくらいマッチョに磨きがかかったらしい。
ヘルスズキはまた変な病気もらってきたらしく、深刻に性病関連のサイトを見てるらしい。
みんな相変わらずだなーと思いつつ手紙を読むと、後輩の記述に「B子」という文字が登場してきた。
僕と同時期に退職したマッスル事務員B子。ヤツはいったいどうしてるんだろう、などと感慨に耽りながら読み進めてみると
「ちなみに、B子さんお中元はアワビの干物でした」
みんな夏らしくビールやらジュースを贈るというのに、B子のヤツはアワビ、それも干物。相変わらず何考えてるか分からないクリーチャーだぜ、と思いながら、僕はそっとその手紙をしまいこむのでした。
13分08秒
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