タケトリメイズン

タケトリメイズン

所詮は、いかにアピールできるかってことなんだ。仕事でも恋愛でも何でも、自分を上手にアピールできるヤツは勝つし、間違ったアピールは敗北へと直結する。世の中ってのはアピールの仕掛けあい、結局はそういうもんじゃないだろうか。

大阪からの帰り、空港をウロチョロしていたらモデルみたいな女性が二人、大きなカバンをガラガラと引きずりながら歩いていた。スタイル抜群で顔も超美人、しかもヒモなんだか布なんだかよく分からないセクシーな服を着ていた。

もう見るからにセックスの塊としか思えない二人の女性は空港内を闊歩し、その様子をテレビカメラを構えた業界人風カメラマンが激写していた。カメラマンは闊歩するモデル二人を前方から撮影するため後ろ向きに歩き、必死でカメラを構えていた。たぶんきっと、モデル二人の沖縄旅行!とかそういう番組の企画かイメージビデオの撮影じゃないかと思う。モデルさんなんか生で見る機会など滅多にないので、僕は飛行機の搭乗時間も忘れて見入っていた。

ファッションショーのモデルみたいに空港内を闊歩する女性二人。後ろ向きに懸命に撮影するカメラマン。その横にはADみたいな小僧がチョロチョロと歩き回っていた。

またこのADの小僧が必死で、仕事なのかデルモ2人に惚れちゃったのか知らないけど、とにかく尽くすのな。タオル渡したり、飲み物買ってきたり、なんかモデルが椅子に座ろうとしたら椅子拭いたりしてたもの。椅子がなかったら自分がひざまずいて人間椅子になりそうな勢いだった。

それを見て思ったわけですよ。何にせよアピールする事は大事だなあって。

例えばこのADが、恐ろしいことに分不相応にもモデルのどちらかに恋をしてしまっているのならば、俺ってお前のことこんなに好きなんだぜ、尽くしてるんだぜってアピールすることは肝要なのです。想ってるだけじゃ何も伝わりはしない。行動するなり告白するなりしなきゃダメなのです。

また、それが仕事だから仕方ない、体と顔とセックスしか取り柄のないゴーマンなメスどもだけどコイツらいないと撮影できないしなーと思ってるのだとしても、それはそれで、俺はこんなに仕事してるぜってアピールする事は大切なのです。影で目立たないように頑張ってれば誰かが見ててくれて認めてくれる、そんな時代はとうに終っていてるのです。多くの企業が成果主義の方針を打ち出している昨今、自分が頑張っていることを大げさにアピールできないヤツはダメなのです。

仕事においても恋においても、ひっそりと目立たぬようにという美談が通用する時代は終りました。特に恋愛においては、黙ってれば勝手にチンコに女がはまってくるってのはそうそうなくて、やっぱアピールするのが大切なんですよね。

僕が大学生の頃でしたでしょうか。

僕は同じ大学の娘に恋をしておりました。いわゆるフォーリンラブというやつで、ぶっちゃけ、おセックスとかしたくて仕方なかった。その娘のことをヒーヒーいわせたいとか思ってたのですけど、やはりなんというか恋というのは難しいもので、なかなか上手くいかなかったんですよね。というか、むしろキモイとか思われていたのかもしれない。

でまあ、変な棒出したり入れたりしてーとか悶々としたキャンパスライフを過ごしていたある日のことでした。その娘が言うわけなんですよ。まるで僕に何かを期待するかのように言うんです。

「うちのアパートさあ、竹がすごい生えてきちゃって日当たりが悪いの」

なんでも、彼女の家はアパートの一階なんですけど、窓の外が普通に竹が多い茂ってる空間になってたんですよね。でまあ、引っ越してきた当初は気にならなかったらしいのですけど、竹というものは成長が早い植物です。あれよあれよと伸びてきて竹の壁がそびえ立つようになった、ってわけなのです。これじゃあ日当たりも悪いし鬱蒼とした竹林ってのも気味が悪い。彼女はなんとかその竹を伐採できないものかと考えていたみたいなんです。

そこで僕の登場ですよ。そういった話をするってことはですね、間違いなく期待している。この竹を伐採して欲しい、と思ってるわけなんですよ。竹を伐採するとはいえ、彼女の住む一人暮らしのアパートまで行く。まあ、最初は部屋には入れないでしょう。でも、窓の外で汗だくになって竹を取る僕の姿を彼女は窓から見ているわけですよ。

そのうちなんか特別な感情が芽生えてきて、竹を綺麗に取り去った後は「部屋でお茶でも飲まない?」ですよ。で、後は竹とってやったんだから俺の若竹もなんとかしてくれや。綺麗に皮を剥いてくれや、ほーらタケノコみたいだろ、となるわけ。

「じゃあ俺が竹とってやるよ」

股間を怒張させ、彼女にそういいました。これがアピールってヤツですよ。俺はお前に恋をしてるぜ。だから竹でも何でも取ってやるぜ。このアピールが大切なんです。まあ、彼女は彼女で、最初からそう思ってたくせに

「えー、なんか悪いよー」

とか言ってたんですけど、僕だってもう成長を始めた竹をどうすることもできませんから

「大丈夫、おれ、竹とり名人だから」

とか、よく意味のわからない強がりを言ってました。

で、約束の日、よーし竹を取って部屋に上がって彼女に襲いかかってーとかニョキニョキと自身の竹を伸ばしながら彼女のアパートに行きましたよ。ドアをノックし、玄関先で彼女が出迎えてくれて部屋の中からムアッと女の香りっていうんですか?なんとも良い匂いがしてきましてね、当然のことながら部屋にはビタイチ入れてくれず、鉄壁の要塞の如き防御力を誇っていたんですよね。

でまあ、「じゃあお願いね」とか言ってアパートの裏手のほうに案内してくれたんですけど、そこにね、なんか訳分からない人物がいるんですよ。

なんか蛇の皮膚みたいなズボンをはいて、東南アジアあたりで流行してそうな柄のシャツを着て、訳のわからないチリチリのパーネントをあてた男が軍手はめて必死になって竹を取ってるんですよ。もう、見てくれはスネオの従兄弟の大学生みたいな感じでクルーザーとか乗せてくれそうなんですけど、見るからに怪しい。何でこいつはこんな場所で竹を取ってるんだ、って思いました。

「サークルの先輩。一人じゃ大変だと思って手伝いに来てもらったの」

彼女は屈託のない笑顔で言いました。「あー○○ちゃん、見てーだいぶ取れたよー」そう言いながら手を振って泥だらけの顔をしてるスネオの従兄弟の大学生を見て思いましたよ、こいつは間違いなく彼女を狙ってる。間違いなく僕のライバルになるはずだ、と。多分、向こうも同じことを思っていたと思います。

でまあ、ここからがアピール合戦ですよ。僕とスネオの従兄弟の大学生の激しきアピール合戦。窓を開け放って部屋から竹とりの様子を伺う彼女の眼前で熾烈なるサバイバルアピール合戦。なんか、いつの間にかより多く竹を取ったほうが彼女をモノにできるって勘違いしてたと思う。

僕かてスネオの従兄弟の大学生よりより多く竹を取りたかった。なんとか彼女をモノにしたかった。けど、いかんせん後から来たので不利でした。彼は既に大量の竹を伐採してましたし、彼女から授かった草刈鎌でバリバリと伐採してました。なのに、僕の手には彼女から借りたカッターナイフのみ。どこの世界にカッターナイフで竹を伐採する人がいるんですか。どんな竹とり名人ですか。

それでもまあ、カッターを使って必死なまでに竹を切る。変な汁とか出てきて、おまけに力を入れにくいもんだから手とか痛くて仕方ないんですけど、スネオの従兄弟の大学生と並んで涙ぐましいほどにアピールですよ。俺、君のためにこんなに頑張ってる。すごく頑張ってる。手とか痛くて仕方ないけど、それでも頑張ってる。

元々、日本人はアピールするのが苦手な種族とされています。アメリカ人などは自分の実力や実績以上にアピールをするのが普通ですが、日本人はそういうことがなかなかできません。いや、むしろ日本の村社会がそういったスタンドプレーを許さない風潮にあります。

影で努力することを美徳とし、、自分よりも他人の功績を称える。逆に自身を前面に押し出して必要以上にアピールする、そんな人は集団から嫌われる傾向にあるのです。

けれども、勝負の場でそんな生ぬるいことなど言ってられません。昨今の厳しい企業活動でもそうですし、就職活動でもです。特に恋愛なんて冬のソナタみたいな綺麗事の産物ではありません。殺るか殺られるか。取るか取られるか。入れるか入れられるかなのです。ワザとらしいアピールなんてしたくない、そんなチンケなプライドはクソの毛ほどの役にも立ちません。必要以上に、実力以上に自分をアピールする。そうしないと恋はおろか現代社会でさえも生き残れない、そういうところまで来ていると思います。

当時の僕も必死でした。とにかく、このスネオの従兄弟の大学生にだけは勝たなければならない。彼以上に竹を伐採し、彼女のハートを鷲掴み、「竹を取れる人って素敵、濡れちゃった」と言わしめたい。もう必死でした。

カッターの歯を目一杯に出し、ギリギリとのこぎりの様に竹に当てる。全然切れなくて嫌になるんですけど、それでも僕はやらねばいけない。彼女に熱烈アピールをしなくてはならない。スネオの従兄弟の大学生に勝たねばならない。必死でカッターに力を入れた瞬間でした。

ズルッ

グサッ!

もうね、竹に当ててたカッターの歯が見事に折れちゃって、僕の左手手首をモロに抉ったんですよね。リストカットする人みたいにザクッと手首をいっちゃたんですわ。もう、血が出る出る。

血がいっぱい出ちゃって明らかにパニックな僕なんですけど、そこでもふと思ったんですよ。「こいつはアピールに使えるんじゃないか?」傷だらけになってまで彼女のために竹を取る僕。手から血を流しつつも頑張る僕。もう彼女も胸キュンなんじゃないだろうか。

「わー、血が出ちゃったよ。いてー」

振り返り、早速アピールしましたよ。手首から噴き出す血を見せつつ、彼女に必死なまでのアピール。もう必死でした。これで彼女は俺のもん、ざまーみろ、スネオの従兄弟の大学生。

「わ、気持ち悪い。早く帰って治療したほうがいい」(ピシャリ)

そう言って彼女は情け容赦なく窓を閉めたのでした。どうも血とかそういうのを見るのが大の苦手だったらしく、とにかく拒絶反応。なんか、窓の鍵とかまで閉めてた。お高くとまりやがって、アバズレが。

あんなに頑張ったのに、血まで流して頑張ってアピールしたのに。全てが無に。なんか、二度と彼女の部屋の窓は開くことなく、バカな僕でもそれとなく恋の終わりを感じることができました。

結局、何度も「アピールするのは大切だ」と言いましたが、それは方向性が正しいアピールが大切というだけであって、激しくベクトルを見誤ったアピールは空回りか逆効果でしかないということなのです。血を見るのが嫌いな子に鮮血を見せてアピールなど空回りもいいとこ、愚の骨頂なのです。正確で的確なアピール、それが出来ないやつは生き残れないのです。

「大丈夫?手当てしたほうが良いよ、災難だったね」

横で竹を取っていたかつてのライバル、スネオの従兄弟の大学生が心配そうに駆け寄ってきました。なんか彼は近くの薬局で薬やら何やらを買ってくれて手当てしてくれました。おまけに、近くのラーメン屋でラーメンまで奢ってくれた。

なんだよ、お前いいヤツじゃないか。もっと早くそう言う部分をアピールしろよ。したら無駄に竹とりで争うことなかったのに。場末のラーメン屋、スネオの従兄弟の大学生と彼女の悪口や竹を取るときのコツなどで大変盛り上がったのでした。

ちなみに、冒頭のモデルにアピールしまくりのAD小僧。彼も一生懸命さが昂じてアピールの方向性を激しく間違えたのか、モデルの機嫌を損ねたっぽく、物陰でカメラマンの人に激しく殴られていました。やっぱアピールの方向性は大切だ。

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