ポスト恐怖症

ポスト恐怖症

日常生活に潜む小さな恐怖。それは知らず知らずのうちにアナタの側に忍び寄っているものなのです。それは徐々にアナタの神経を蝕み、いつか崩壊させてしまうかもしれません。

小さな恐怖と侮ってはいけません。小さいからこそ知らず知らずに蝕まれる。言うなれば日々少しずつアナタの心は削られていってるのです。

その恐怖は人それぞれです。例えば、上司の視線が恐怖という方もいます。彼に見られるたびに肝が冷える。また怒られるんじゃないかとヒヤヒヤする。そうやってアナタの心は削られていくのです。

世の中には小さな恐怖が沢山あります。それが対人関係によるものだったり、心理的圧迫だったり様々ですが、そういった心の削られ行為がエスカレートすることにより、他人が怖いという対人恐怖症や尖った物が怖いという先端恐怖症に繋がっているのではないでしょうか。

そういった種々の恐怖の中、言うなれば僕は郵便受け恐怖症であります。毎日仕事を終えて帰宅し、アパート入口のところにある郵便受けを開いて確認する。その度に僕の心は削られ恐怖に震える、そんな状態になっているのです。

ハッキリ言いまして、僕にとって郵便受けとは魔性の箱でしかありません。一昔前なら郵便受けを開ける際に心弾ませ、恋人からのラブレターが届いてるかな?海外に行ったあいつから絵ハガキ来てるかな?そうそう、アイツら結婚したんだよなーなどとワクワクするような場面もあったかもしれませんが、情報化社会が発達した昨今、そんな手紙は全てメールや電話などに取って代わったのです。

で、そうなるとどういった現象が起こるかというと、郵便受けに届けられる手紙は請求書のみ、というなんとも殺伐とした魔性の箱が誕生してしまうのです。電気水道ガスなどの各種料金の「早く払え!停めるぞ!」といった請求書という名の脅迫状。電話・ネット・携帯などの通信費、家賃の督促、そういった世知辛い請求書しか我がポストには届かないのです。あと、架空請求とか。

そんな請求書の類を見るたびに僕の鼓動は早まり、膝はガクガク、「ああ、また請求が来た、いつ停められるんだろう」などと口をパクパクとさせながら目が泳ぐ状態となるのです。本当に郵便受けを開けるのが怖い。いつもいつも心を削られてしまう。

先日の話でした。

いつものように仕事を終え、疲れた体で我がアパートに帰ってきました。もう辺りはすっかり暗く、アパート入口を照らす蛍光灯が切れかかっているのか怪しく瞬いていました。そんな中、不気味に佇む郵便受け。僕はゴクリと息を呑みました。

やばい、また郵便受けだ。やだな。できれば開けたくないな。どうしようもない現実など見たくない。水道止めるとか電気止めるとか、そういう世知辛いのは見たくない。ああ、でも見ないわけにもいかないし。葛藤する心を抑え、チラリと隙間から郵便受けの中を覗いてみました。

何か入ってる・・・!

郵便受けの中には何かの手紙が鎮座しているのが見えました。何か入ってる、何らかの請求書が入ってる。ここに越して来てそろそろ三ヶ月、そろそろ何かを止められても何もおかしくない。きっとあれは脅迫状だ。何かを止めるぞという慈悲のカケラもない請求書だ。

震える手で郵便受けの重厚な扉を開ける僕。鼓動が更に早まり、嫌な汗が噴出してきました。

そこには、NTTからの請求書が入っていました。

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「至急」重要書類在中

紅で彩られたその表記は、この手紙が只事ではないこと、ただのお知らせの手紙ではないことを物語っていました。ゼッタイに何らかの脅迫状に違いない。

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手紙を開けてみると、やはり脅迫状でした。何度も請求書を送っているのに支払われていない。もう一回送ってやるから早く支払え。コンビニで払えるからよー、とっとと払っちまったほうがいいんじゃね?といった内容の手紙でした。

やはり不安は的中した。どうしよう。電話を止められたらネットも何も出来ない。ここは大人しく払った方がいいのだろうか。くぅ、やはり背に腹は代えられない。どうせ支払わなければならないのだ。彼らは僕が払うまで許してはくれない。所詮世の中は金だ。

くっ、いくら、いくら払えばいいんだ。請求額はいくらなんだ。直視し難い現実に向き合い、請求額を確認しようと手紙を読み進めました。そして、そこには驚愕の事実が。

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5月分=35円

そ、そんなバカなー!請求額が35円だなんて!そんなんだったら郵便代の方が高いじゃないか!おかしい、これは明らかにおかしい、きっと何かの間違いに違いない。別の意味で震える手を抑え、コンビニ支払い用の伝票の方も見てみました。

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やっぱり35円。

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内訳も35円。

どうやら本気で請求額が35円らしく、どういった理由なのか分からないけどその金額の低さに拍子抜けしたのでした。こんなショボい金額に僕はあれほどビビっていたのかって。

怖れていることなど蓋を開けてみれば大したことでない場合が殆どです。本気で怖れて心配しているものほど、実は中身はあっけない。そう、まさに郵便受けの蓋を開けるかのごとく、勇気を出して開けてみる。あんなのただの箱じゃないか。そんなものなのです。

請求書を握り締め、あまりのバカらしさに一人で高笑い。こんなの速攻で払えるわー、怖れていた自分がアホみたいだぜーと思ったのですが、よくよく考えるとコンビニでこの伝票を出して35円払うのって恥ずかしすぎるという事実に気がついてしまったのです。

物々しく払うくせに35円。そんなの恥ずかしすぎる怖すぎる。一緒にエロ本とか買おうものなら「エロ35円」とか店員にあだ名をつけられるに違いない。

怖れていたものは蓋を開けてみるとあっけない。けれども、真に恐ろしいのは予想外のところから来る恐怖だ。コンビニで払うのが恐ろしいという真の恐怖に触れた僕はそう思うのでした。

こうなったら、このまま払わず、35円でも払わなかったら電話を止められるのか!?という実験にしたいと思います。

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