弱さを抱きしめて

弱さを抱きしめて

自分の弱さがとことん嫌になることがある。

この間、高速バスに乗っていた時のこと。僕はガラガラで空席だらけだったバスの後方の座席に座り込み、ドサっと持っていたリュックを隣の座席に投げ出した。

バスは走り、とある停留所に到着する。見ると、そこにはバスに乗り込まんとする大量の人、人、人。間髪入れず運転手から車内放送がアナウンスされる。

「当バスはこの停留所で満席となります。席に荷物などを置かれないようお願い致します」

あらら、満席になるのね。こりゃいかんね。そそくさと隣に置いたリュックを手に取り、膝の上に抱えるようにして隣の席をあける。

ドッと乗客がバス内に流れ込む。僕はリュックを抱えながら乗客を眺めある一つの望みだけを念仏のように唱えていた。

「カワイイ女が隣に座って欲しい」

こういった公共の乗り物に乗ると、僕の隣にはオッサンや爺さんが乗る率が極めて高い。いつもいつも加齢臭のする殿方ばかり。たまに女が座ったと思ったら、「オツカイに行ってきてよ」とお金を渡したらその足でシンナーを買いに走りそうなヤンキー女が関の山。

前なんて、東京行きの新幹線に乗ってたらアンドレみたいな体躯したオッサンが座ってきまして、もう、座席に収まりきってないのな。で、明らかに僕のほうの座席にもはみ出してきてて、東京までの数時間、圧死の危険性にハラハラしながら浜名湖とか眺めた思い出があるんです。

他にも、飛行機の隣に座った爺さんが入れ歯を飛ばしたり、電車で隣に座ったヤツが携帯でNumeri見てるようなクズだったり、とにかく隣の乗客に恵まれないんですよね。美女なんて絶対に座りやがらない。

そりゃね、隣に美女が座ったってどうってことないですよ。別にその美女が僕のものになるわけでもないし、いきなり「溜まってるんでしょ?ギンギンだぞぅ」って言ってフェラしてくれるわけでもなし。ただ、ちょっと良い香りがするくらいのもんです。隣に美女、別にどってことない。

でもな、そういうのでは割り切れない男の浪漫があるんだよ。そういうの、男ならきっと分かってくれると思う。分かってくれると信じてる。

でまあ、流れ来る乗客どもを眺めながら、「うわ、オッサンは勘弁」「美女じゃないけどお前で妥協してやる、こい、隣に来い!」などと一喜一憂しておったわけなんです。

どんどんと座席が埋まっていくのですけど、僕の隣に誰も座らない。いよいよ、空席は僕の隣だけだぞーって状態になった時、僕の胸は高鳴りました。次、あそこの階段を昇ってきた人間が間違いなく僕の隣に座る。他に空席はないんだ。間違いなく座る。一体どんな人が・・・。

カツカツ

階段を昇るハイヒールの音が聞こえる。来た、間違いなく女だ。美女かどうか知らないけど、間違いなく女。やった、隣に女が座る。喜びのあまり小躍りしそうな勢いでした。

しかし、乗降口を昇ってきた彼女は当たり前のように僕の座席をスルー。なんか、最後尾の座席の所でガスガスと補助席を出していました。そこまでして僕の隣に座りたくないのか。

ああ、また美女が座らないのか・・・。補助席を出す女性を落胆しながら見ていると、ガスガスと乗降口の階段を昇る足音が。

きたっ!次こそ僕の隣に座る人物だ。一体どんな人物が・・・。どんな、どんな。ドキドキする僕の目の前に現れたのは、途方もない残酷な現実でした。

うん、すげえ外人が立ってた。

見るからに外人。もう外人。超外人。人外な外人が立ってからな。腕毛とかモシャモシャ生えてて、体がでかくて、マリファナとかやりながらエキサイト、北斗の拳みたいなバイクに乗って一般人を鉄パイプで殴ってそうな外人だった。

で、そいつが僕の隣にドカッと座るのだけど、もう近くで見ると異常に怖いのな。赤鬼みたいで、拳銃とか持ってそうで殺されそう。それだけならいいんだけど、問題はバスが走り出してから。

ちょっと僕の座ってる体勢が良くないから体の位置を変えようと動いたんですよね。そしたら、外人のヤロウ、僕の上着の裾をその巨大な尻で踏みつけてやがるの。

動こうとするのだけど動けない。どうせ言葉なんて通じないだろうから、僕も上着をグイグイと引っ張ってフォリナーにアッピールするんだけど、フォリナーは気付く様子もなく観光ガイドみたいな本を読んでいる始末。

僕もまあ、自分の上着の裾を踏まれてるってことで怒りを増幅させ、お前らの国と戦争してもいいんだぞ、と思うわけなんですけど、気が弱いから言えないんですよね。もう、ただただ裾を引っ張って必死にアッピールするのみ。

それでも全然気付こうとしないクソ外人。というか微動だにしやがらない。そうこうしているうちにバスは高速を降り、僕が降りなければならない停留所にさしかかります。

「あ・・・降りなきゃ・・・」

グイグイと裾を引っ張り、僕は降りなきゃいけないんだ、ってことを必死にアッピールするのだけど微動だにしない外人。普通に座席に鎮座しておられます。

結局、外人のヤロウは終点までバスに乗っていやがったのですけど、降りられなかった僕も何故か終点まで一緒に乗ってました。全然目的地と違う停留所で降ろされ、その原因となった外人が、彼を迎えにきていたファミリーと楽しそうに談笑しながら去っていくのを見て、人知れず泣きました。自分はなんて弱いのだろう、と。

しかも、外人が踏んでた側のポケットにタバコ入れてたみたいで、シッカリとタバコがプレスされてました。うん、ただの板になってた。

見るも無残に板状になったタバコを咥え、火をつけるとボロボロと葉っぱが落ちてき、それを見てたらまた泣けました。

自分は何でこんなに弱いんだろう、もっと強くなりたい。裾を踏む外人を国際紛争になるレベルでガンガン殴りつけたい。それが出来ない自分が心底憎い。なんて気が弱いんだ。

もう弱い自分にはサヨナラだ、豪胆になってやる。そう思った僕は、今日のような手抜きでクソ面白くもない日記を豪快にアップするのでした。普段なら、さすがにこんな日記はアップできない・・・!と怯えるのに、豪胆に。

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