保険勧誘がやってきた

保険勧誘がやってきた

世の中には勧誘という名の怪しい魔術がはびこっておるものです。

宗教勧誘に新聞勧誘、セミナーやマルチ、ペーパー商法の勧誘などなど。新しく学校に入れば部活動の勧誘だってありますし、大学に入ればスーパーフリーみたいなサークルが鼻息も荒く勧誘してくるはずです。

往々にして、「勧誘」と名のつくものは大体胡散臭いものであり、何か罠が潜んでいるものです。そりゃあ、本当に良いものなら勧誘なぞしなくても人が殺到します。わざわざ勧誘して人を引き込もうとするからには必ずやマイナスな何かが潜んでいるものです。

私はまだまだフレッシュな独身男性で、糖尿病の気があるという以外はまずまずの健康体です。生命保険だとか入院保険みたいなものに全く加入しておりませんから、保険外交員の人々から見たら手付かずの大自然みたいなもの。非常に美味しい存在のようです。

やはり、外交員の方々も勧誘ノルマというものがあります。月々に何人かの、何件かの契約を取らなければ上司に激しく叱責される。勧誘がメインの仕事ですからそれはそれは厳しい世界が展開されているようです。

それに、保険という業界は若干特異的であります。美乳に1億円の保険をかけて鮮烈にデビューした巨乳タレントなどを除きますと、殆どの人が勧誘によって保険に入っていると言えます。つまり、殆どの場合が自主的に加入していないのです。

これは、どうも、自分から「生命保険に入りたい」と言い出す輩にはロクな者がいないということに起因しているようです。保険金詐欺や保険金目当ての殺人、自殺など、自分から進んで入ってくる者は何か企んでいるという予想です。保険会社に重大な損失を与えるという警戒から、丁重にお断りしているようです。ですから、殆どの保険屋の営業所は顧客がやってきて加入するようなシステムにはなっていません。

そんなこんなで、ほとんどの保険屋が勧誘による契約によって成り立っているという現状から、勧誘力の強さが保険会社の強さに直結しています。ですから、どこの保険会社もそれはそれは熱烈に、それこそ人殺し以外なんでもやるんじゃねえかという勢いで勧誘してくるのです。

前述したように僕は何の保険にも入っていないので外交員から見たら非常に勧誘しやすい存在。おまけに僕の仕事場は個室なもんですから、物凄く勧誘しやすいみたいなんです。やっぱ大勢人がいるオフィスよりも個室のほうが追い込みやすいみたい。

そんなこんなで、5月くらいから僕という手付かずの大自然を見つけた各保険会社の皆さん、それはそれは熱烈に、各社入れ替わり立ち代りで僕の仕事場にやってきては、「とてもお得な保険で」などと熱烈勧誘トークをしてくれるのです。

僕も僕で気が弱いものですから、そういった勧誘を無下に断ることが出来ず、

「いや、まだ保険とか考えてないっすから」

「僕に家族とかできたら考えるんですけどねぇ」

「僕、糖尿病の疑いがあるのですよ」

「電気代すら滞納して停められるくらいです。保険料なんてとんでもない」

と、いちいち仕事の手を中断しては対応にあたっているわけなんです。ホント、仕事なんてしてないけど、これじゃあ仕事になりません。

そりゃあね、僕かてそういった勧誘に対して「いらん!」と一言で断ったりとかしたいですよ。もう完全に冷血に、アメリカのビジネス界の如きドライさでバシッと断ってみたいですよ。でもね、必死で勧誘してくれる外交員の人を無下に断ることなどできない。「いらん!」と断罪することなんてできないのですよ。気が弱いですからね。

そんなこんなで、やんわりと何度断ってもめげずにやって来る外交員の皆さんの対応をしつつ、それでも普段の業務をこなす社会人の鏡みたいな僕の姿があるのですけど、そんな折、僕のデスクに一本の電話がかかってまいりました。

「もしもし、○○さんでしょうか?」

聞いてるだけで耳から精液が出てきそうなほど可愛らしい声。声優とかそういったものを超越した、本人の可愛らしさが教師ビンビン物語並に伝わってくるキューティクルな声でした。

「はい、そうですけど」

ヤバイ!アツイ!間違いない!なんだ、この可愛らしすぎる声は!と弾む心を抑えつつドライでクール、それでいてアンニュイな感じで返答しました。

「こちら、社会保険○○協会のものですけど、今日は今何かと話題になっている年金のことで○○さんにお話がありましてお電話したのですが」

おいおい、なんだ、その社会保険○○協会ってヤツは。怪しい匂いがプンプンするじゃないか。微妙に社会保険庁っぽい名称を名乗って公的な団体だと思わせて年金の話をする、そうすれば誰もが話を聞かなければいけないような錯覚に陥るというものです。

「はあ、社会保険庁ですか?最近の社会保険庁はそんなことまでしてるんですか?」

と僕が確認のために訊ね返すと

「いえ、社会保険庁ではありません。社会保険○○協会です。これは保険会社が共同で立ち上げた協会なんですけど・・・」

とまあ、やはり保険会社が作った協会であることをカミングアウト。

「で、あなたは何処の所属なんですか?」

「・・・○○生命です・・・」

やっぱり保険会社でした。社会保険○○協会という名前を名乗ってまでして年金の話を持ち出して話を聞いてもらおうとする。おそらく微妙に年金の話などをして「年金ではそんなに保証はないんですよ」みたいなこと言って不安を煽る。そこで年金型の保険だとか生命保険などを勧めるという手段に出るのではないかと思います。そこまでするのか、という感じなのですが、保険の勧誘とはここまで必死なものなのです。

「いいです、保険には興味ないですから」

と、仕事場にまで来られちゃまた仕事になりませんから、そう言って断ろうと思ったのです。仕事場に来られたらまた無下に断れず、淡々と話を聞くことになって何度も何度も訊ねて来られる、そんな地獄のラビリンスに陥ることを怖れたのでした。しかしながら、この僕の脳髄を刺激せんばかりのキューティクルボイスの持ち主、さぞかし美麗な容姿の持ち主に違いありません。

いやな、もうアイドルばりにカワイイ女性が必死になって勧誘電話をかけてるんだけど、誰も話しを聞いてくれなくてちょっと涙目。わたし、この仕事に向いてないのかなあ・・・。ううん、ダメよ、そんなんじゃダメよ。私は保険で皆を幸せにするって決めたんだから。子供の時からの夢だったじゃない。頑張らなきゃ。ファイト!好子ファイト!

そんなまだ見ぬ好子の姿が思い浮かんでな、正直言って萌えた、ハッキリ言って萌えた。ぶっちゃけ、受話器握り締めながら勃起してた。

「はい、じゃあ明日の午前中なら大丈夫ですので、僕の仕事場に来てもらえますか?」

と鬼よりも力強く、皇帝よりも誇らしげに言ってました。保険に入る気はないけど、この声の持ち主だけは見ておきたい。いや、あまりにカワイイんだったら保険に入ってもいい。そう思っていました。

よくよく考えても見てください。相手は契約が欲しくて欲しくてどうしようもないキューティクル女性です。それこそ

「いやー、いい保険だってのはわかってるんだけどね」

「この機会に是非お願いします」

「でもねー、僕にはまだ保険は必要ないと思うわけよ。明日生きるので精一杯だしね」

「でも、何かあったときのためですから」

「そういってもね・・・何かもう1つ付加価値のある保険なら考えるけどねぇ」

「わかりました!」(恥ずかしそうに俯いて)

「・・・・・え?」

「私をつけます!私を好きにしていいですから」

「おやおや、困った人だ」(といいつつ仕事場の入口の鍵を閉める)

「・・・・約束ですよ、ゼッタイに契約してくださいね」(ブラウスのボタンを外しながら)

「ああ、分かってる。さあ、脱いで」

それからはもう仁王立ちでフェラーリとか大車輪とか、保険契約を人質にやりたい放題。このキューティクルな女性(しかもスーツ姿!)をやりたい放題。下手したらアナルとかもするかもしれん。ちょっと目に涙を浮かべつつ、契約だから仕方ないと喘ぎ声を押し殺す外交員。それでも漏れてしまうか細い喘ぎ声。もう、一人で勃起しつつ、「保険外交員、陵辱の夜「お願い、契約してください・・・」-性命保険、私の体が特約です-」なんていう三文エロビデオになりかねないタイトルを思い浮かべて悶々としてました。

「はい、じゃあ、明日伺います!午前中ですね」

妄想パラダイスな世界はさておき、現実の世界では余程嬉しかったのか外交員の方が嬉々として言ってました。うんうん、やはり声が可愛すぎる。もう明日が楽しみで楽しみで仕方ありません。

そして次の日。

ワクワクして待つ僕の部屋に、ついに噂の彼女がやってきました。

「こんんちはー。○○生命のXXですけどー」

うんうん、やっぱカワイイ声。さあ、どうぞ入って入って。いくらでも話聴くから。と、彼女を部屋の中に招き入れようとドアを開けると、

なんじゃこりゃ、としか言いようのないオバハンが保険のパンフレットを大量に持って立ってました。うん、ものすごい鉄板すぎるほどお約束なんだけどさ、声だけカワイイおばさんだったみたい。

しかもそれが普通のオバサンじゃなくてな、すげえデブで、武蔵丸に必死になって狂ったように女性ホルモンを注射したみたいな、山下君のお母さんみたいなオバハンが立ってた。見た瞬間に死ぬかと思った。心臓が止まるかと思った。

「では、早速ですが保険のお話を・・・」

そう切り出すオバハンに言ってやりましたよ。

「いらん!」

と。オバハンが来てからこの間3秒。もう瞬殺で断ったからな。

それでも諦めないオバハン外交員。

「あらら。では、また機会を改めて、来週の同じ時間に来ますのでー」

と、物凄い厚化粧な顔近づけて言ってきました。

オバハンを部屋から追い出した後、また来週も来るのか。それどころか毎週来そうな勢いだよな。ということは毎週オバハンの顔見て寿命が縮む想いがするのか。こりゃあ、生命保険くらい入った方がいいかもなあ、と思う僕の姿がありました。

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