違反者講習に行ってきた-後編-

違反者講習に行ってきた
-後編-

前回までのあらすじ
ついに違反点数6点に達したpatoは免許停止処分の対象となった。しかしながら、彼は「違反者講習」という救済措置があることを知ることになる。これを受ければ免停にならない。一縷の望みを託して免許センターに行くpato。そこは違反を重ねたクズどもの吹き溜まりだった。明日への希望は見出せない。どうする、pato!?

ということで、なんとか必要書類を提出し、いよいよ違反者講習が開始されます。午前中は運転手シミュレーターや適性検査、実車訓練などの比較的体を使うオーダー、午後は教室で安全運転講習、座学で頭を使うというスケジュールになっていました。

「よし、今日は頑張るぞ、頑張って安全運転の意識を取り戻してやる。もう絶対に違反なんてしない」

これから始まる講習に思いを馳せ、決意も新たにギュッと唇を噛み締める僕。しかしながら、そんな思いを打ち砕くかのように

「まだ運転シミュレーターの準備ができてませんので、準備ができるまで休憩してください」

一斉に教室を出て、喫煙所でタバコを吸うクズども。もう、なんというか、しょっぱなからグダグダの展開。講習をやる側、つまり免許センターサイドにやる気が感じられない。

「いやはや、スピードオーバーで」

「わたしはシートベルトで何回も捕まっちゃって」

モアーっと煙を吐きながらクズどもが自分の違反経歴を自慢げに話す。

「準備ができました、シミュレータールームに移動してください」

やる気のない教官に促され、クズどもはシミュレータールームに移動する。そこはさすが「シミュレータールーム」と名乗るだけあって、妙にハイテクな運転シミュレーターマシンが20台ほど並べられた空間だった。ちょうどゲームセンターにある車の運転ゲームみたいなのが並んでる姿は圧巻だった。

運転席と全く同じに作ってあるシミュレーターに座り、画面に出てくる指示に従って運転していく。画面はすっげえショボいポリゴンでできてて、通行人なんてマッチ棒に手足が生えたみたいなのが右手と右足を同時に出して歩いてた。なんていうか、昔の超ショボイテニスゲームみたいな画面だった。ハッキリ言ってリッジレーサーの方が面白い。

でまあ、この運転シミュレーターってヤツは、右直事故やら巻き込み事故、路地での飛び出しとか事故になりがちなシチュエーションを実際に画面上で体験し、どういった場面が危ないかを身をもって学習するって狙いがあるのだけど、これが全然意味ナッシング。

いやいや、普通に真面目にやれば幾分か意味があるのだろうけど、もう全く持って真面目にやらないもんだから皆目意味が無い。教官が後ろの方で仁王立ちして監視してれば幾分かは真面目にやるのだろうけど、その教官にやる気が無いんだからさあ大変。

最初こそは機械を起動したり色々な指示を出していた教官。しかしながら、途中から同僚の教官がシミュレーションルームに入って雑談を始めちゃったもんだから、一気に教官さんもやる気低下。

「昨日の飲み会さ」

「うんうん」

と、僕らクズどもが頑張ってシミュレーションしてるのに教官は雑談。そのうち盛り上がってきちゃったらしく、部屋の外に出て帰ってこなくなっちゃったからな。どうなってんだ、この講習。

でまあ、教官がいなくなった安全運転講習なんて、先生のいなくなった小学校低学年の自習時間みたいなもので、クズどもは一気にスパークして遊びまくり。あちらこちららで

ドカン!ズドン!

と人を轢き殺すサウンドが聴こえてくるからな。20台はあろうかというシミュレーションマシンのあちらこちらから殺人サウンド。画面上で人を轢き殺すってのがクズどもにとっては極上のレジャーらしく、それはそれは信じられないくらいマッチ箱みたいな人間が轢き殺されてた。普通は、良く事故が起こりそうなシチュエーションでフルブレーキを伴って轢くんだけど、もうノーブレーキ、全然関係ない通行人まで轢いてた。

しかも、一連のシミュレーションが終った後も教官は帰ってこなくて、僕らは「おつかれさまでした」っていうコメントが青い画面に裏ビデオのタイトルみたいに浮かび上がった状態で放置。徹底的に放置されてた。

その後も適性検査なる、訳の分からない、少年院の少年更生プログラムみたいなのやらされたんだけど、それも教官はやる気ナッシング。適性検査の結果とか受けて何のアドバイスもなかったからな。「反応速度と認識速度が著しく低い、運転には不向きです」という僕の結果を見ても微動だにしてなかったらな。

そんなこんなで、何のためにやってるのか理解できない思いを抱えつつ運転シミュレーターや適性検査をくぐり抜けてきたわけなんですが、いよいよ午前中の大トリ、実車訓練の時間がやってまいりました。実際に車に乗り、教官を横に乗せて運転免許センター内のコースを走る。それでもって教官に安全意識や運転テクについてアドヴァイスしてもらうという時間。これは随分と期待が持てます。なにせ実際に車に乗るのですから、これまでのシミュレーターとか目じゃありません。言うなれば今までのなんて前座です、前座。

乗降場に移動し、クズどもが輪になって教官の登場を待ちます。しかしながら、極度にやる気のない教官陣、もちろんなかなか乗降場にやってきません。そのうちクズどもの中でも

「なんかすげえやる気ないよね、ここの教官」(ボンボン)

とか

「なんか腹立ってきた。さっきから待ち時間ばっかやん」(ヤクザの妾)

とか

「チェケラ」(ヒップホップ)

とか不満が噴出し始めていました。暴動とか起こってもおかしくなかったんじゃないかな、アレは。そんなこんなでクズのくせにイッチョ前に不満を口々に語っていたのですが、そんな中で僕は驚愕の真実を発見。一人で驚愕し、ガクガクと膝から下が震えているのでした。

いやな、ヤクザの妾、かなりの巨乳。

見た感じヤクザの妾としか思えない大人な女性で、駅前ロータリーをロリータと読み間違えて一人でドキドキしてるほどロリコンな僕は興味なかったんだけど、よくよく見るとかなりの巨乳。下手したらFカップくらいあったんじゃないかな。それ発見した瞬間にやる気のない教官への怒りとかどうでもよくなったし、免停とか正直どうでも良くなった。

あのですね、男なんてどんなにカッコイイこと言ってても頭の中ではオッパイのことしか考えてない、そんな悲しい生き物なんですよ。そんな男にとってFカップってのは途方もないポテンシャルで、なんちゅーか英検2級くらいの価値があるわけなんですよ。

クズばっかりだと思ってたけど、なかなかやるじゃねえか、まさかFカップがいるとはな。一片の希望も見出せない違反者講習の中にあって宝石のような最後の希望を手に入れた僕、俄然やる気が出てきました。

そこうしていると、死んだ魚のような目をして教官が登場。いよいよ実車訓練と相成りました。まず誰かが運転席に座る、そいでもって隣に座っている教官の指示に従ってコース内を走行する。で、残った2人が後部座席に座って待機するという形式になってました。

初めに名前を呼ばれたハッスル爺さんが運転席に座ります。助手席には教官。後部座席には僕とヒップホップが座ることになりました。

「いいですか。これは試験でも何でもありません。普段どおりの運転を見てアドバイスするだけですから、お落ち着いて運転してください」

明らかに緊張し、鼻息も荒くそのまま死ぬんじゃないかと言うくらい興奮しているハッスル爺さんをなだめるように教官が言います。

「はぃ!」

と明らかに緊張しているとしか思えない返事をするハッスル爺さん。その瞬間、「こりゃイカンかもしれんね」と後部座席にいる僕とヒップホップの脳裏に不安がよぎりました。

「では、発進して下さい」

「はぃ!」ズギューーーーーン

教官が発進を促した刹那ですよ、ありえない勢いで発進するハッスル爺さん。アクセルベタ踏みとしか思えない勢いで加速する僕らの車。「おやおや、車だと思っていたのに間違ってロケットにでも乗り込みましたかな」と言いたくなるほどの加速で、僕とヒップホップは必死になって加速のGに耐えてた。爺さんだけにすごいGだ、と思いながら耐えてた。

加速が凄いだけならまだしも、発着場のすぐ目の前にある一時停止標識も完全に無視。信号とかあってないようなもの。他の車なんて見えてないみたいで、とにかく地獄としか思えないほど荒々しい運転。北海の漁師でももうちょいおしとやかに運転するぜ、と思うほどのヘブンズドライブ。まさにドライバーズハイ。まさか安全運転講習に来て死の危険を感じるとは思わなかった。

多分ね、爺さんは勘違いしたんだと思う。緊張して勘違いしたんだと思う。安全運転講習のための実車訓練なのにタイムトライアルか何かと勘違いしたんだと思う。後部座席からルームミラー越しにチロッと爺さんの目が見えたんだけど、完全に逝っちゃってて、アイルトンセナが乗り移ってるとしか思えなかった。

爺さんのドライビングが終わり、僕とヒップホップはハァハァと息切れをしながら「死ぬかと思った」とか目を丸くしているのに、助手席の教官は

「はい、おつかれさまー、村山さんはもうちょっと標識を確認した方がいいですねー、おつかれさまー、次はpatoさんに変わってください」

とか言うてました。いやいや、標識確認以前の問題やん。明らかにもっと指導する場所あるやん。それどころかこのまま爺さんに免許持たせててもいいのかよ、と思うのですが、やはり教官は淡々とスケジュールを消化していくだけなんですよね。

もちろん、その後も僕やヒップホップ、Fカップヤクザの妾が同じように運転したのですけど、最後のコメントは「もうちょっと標識を確認した方がいいですねー、おつかれさまー」のみ。やる気がないにも程がある。

午前中の予定はこの時点で終っちゃったのですけど、時間はまだ10時半、お昼まで相当の時間が余ってるらしく、教室に行って交通事故は怖いんだぞーって言うビデオを見せられました。ここでも教官はいなくて、勝手にループする同じ30分番組を3回くらい見せられました。どうなってんだこれ。

午後からは午後からで、やる気のなさそうーな別の教官が出てきて、何の意味が有るのか分からない交通安全の授業。自分が運転してて、前の車がウインカー出さずに右折したから頭にきた、みたいな至極プライベイトな小噺を延々と3時間くらいしてました。

おまけに、「早く終りたいですから、休憩時間はなしで。その分授業を前倒ししてやりますから」と勝手に決められて3時間休憩なしでぶっ通し。おまけに教官が活舌悪くて小声でボソボソ言ってるもんだから、何にも話が聞き取れない。

しかも偉そうに黒板を使って授業をするのですけど、

「最近はペーパードライバーの人が増えてきまして」

と言いながら、黒板に「ペーパ」と凄く力ないフォントで書く始末。そこでそう黒板に書く意味が分からない。それ以前にこの講義の必要性が見えてこない。と心の中で突っ込みながら気付いたら居眠りしてました。ボンボンは必死で携帯電話でメール、ヒップホップは机に落書き、ハッスル爺さんだけ真面目に聞いてた。

そんなこんなで、なんとか地獄のような3時間の拷問をくぐり抜け、もう帰ってもいいよってことなので晴れて開放となったわけなんですが、思うわけなんですよ。

建前上は、違反が多い運転者に安全運転意識を植え付けて違反を減らす、結果的には事故数の削減などにつなげようという狙いの違反者講習なのですが、蓋を開けてみればただの集金システム。クソみたいなシミュレーターと検査と実車、それとチンカスみたいな講義で14000円ですからね、物凄い利益が出てると思うのですよ。

結局、誰だって「免停をチャラにしてやるから14000円払いなさい」って言われれば払うわけです。向こうサイドとしても安全運転意識を植え付けるつもりなんて毛頭なくて、免許制度を傘にいかに金を集金するか、それしか頭にないわけなんですよ。

本当に違反を減らしたいなら、違反者集めて電気椅子にでもかければいいのです。「もう違反しないか!もう違反しないか!」と電圧を上げまくればいいのです。軍曹みたいな教官がそうやれば確実に減るし、免停をチャラにしてもいいと思う。

それをやらず、ただクソのようなことをやらせて免停チャラ。これなら14000円という金で免停免除を買ったも同然です。

世に噂される免許制度にまつわる黒い噂。様々な利権。免許センター前に必ずある「学科試験対策教室」も然り。なんか途方もなく黒い世界が展開されているなーと思う次第なのでした。

免許センターから開放され、列になって岐路に着くクズ人間ども。Fカップ妾は乳を揺さぶりながら歩きます。ボンボンは早速誰かに電話をかけています。そして、いち早く駐車場に到着し、マイカーである軽トラで帰ろうとしていたハッスル爺さんは、

チュドーン

と、またもやロケットのようなダッシュで発進していました。

それこそが、僕らが14000円で免停免除を買った確たる証拠で、何も安全運転に対して意識変化がないことを示していたのでした。免許界、思っている以上に黒い世界だぜ。

っていうか、あの調子なら爺さんは、またすぐに違反か事故を起こすに違いない。また免許証停止になるどころか、爺さんなら生命すら停止しかねない。そう感じ入る5月の夕暮れでした。

とりあえず、講習などで意識変化はなったけど、爺さんの運転を見て、安全運転しなきゃなって思った。

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