友達の次元

友達の次元

小学校に入学する時、あなたは不安だったと思います。

ちゃんと友達できるかな?ちゃんとみんなに溶け込めるかな?僕だけ仲間外れになったりしないかな?6歳頃の話ですから忘れている方も多いと思いますが、きっとみんな不安だったと思います。「友達100人できるかな」なんていう歌があったりしましたが、まさにそんな不安を如実に表した歌なのではないでしょうか。かくいう僕も、小学校に上がる前は大層不安だったように思います。

こういった不安は何も小学校に上がる時だけではありません。どんな場面においても「集団と仲良くしていけるか」は重要な問題になります。僕らは集団で社会生活を営む生物ですから、その他の人々と良好に付き合っていく事は大切なことです。

中学校に上がる時、高校に上がる時、大学に上がる時、新しい職場に勤めることになった時、転校などによって学校を変わる時だって不安です。ましてや、新しい土地に引っ越してきた時などその不安は顕著で、自分は新しい土地に馴染めるのだろうか、この土地で友達ができるのだろうか、と心底不安になったりするものなのです。

そんなこんなで、この四月、職場も変わり、全く縁もゆかりもない土地に引っ越してきた僕。当然のことながら友達できるのだろうか?などと不安に思ったものでした。

僕は元々引っ込み思案な性格ですし、率先して誰かに話しかけるということも出来ません。早い話が人見知りしてしまうため、なかなか友達ができないのです。友達が出来たとしても「程よく付き合おう」と無意識下で思ってしまうのか、なかなか本当の意味での友達って出来ないんですよね。それが僕という人間の大きな問題なんですよ。

そもそも、この歳になってしまうと、なかなか友達を作る機会がありません。学生さんならクラスメイトと友達になれたりするかもしれませんが、個室で仕事をし、仕事が終れば家に直行して通販作業に勤しんでいる僕など友達ができるわけありません。キッカケがないのですから。

そんなこんなで、「新しい土地で友達できるかなあ」と思っていた不安は見事に的中し、友達もいないまま仕事に通販作業に大車輪、たまの暇にパチンコをやるぐらい、仕事以外で発する会話は「お弁当温めますか?」「はい」ぐらいの日々が続いていたのでした。

しかしながら、どんな状況でも友達ってヤツはできるものです。小学校で友達できるか不安に思っていてもいつの間にか友達ができているように、僕にもいつのまにか友達ができてしまったのです。

それは、ある日曜日のことでした。

いつものようにすることがなく、ネグセバリバリ伝説の頭を抱えて近所のパチンコ屋に行った時のことでした。せっかくの休みに起きてすぐパチンコ屋かよ、人間のクズだな、などと思いつつCRイエローキャブを打っていたのでした。

このイエローキャブという台はイエローキャブの巨乳タレント総出演のパチンコ台で、オッパイ揺れるわ水着だわサトエリがカワイイわで、とにかく煩悩の限りを尽くした台になっているのです。その台を半分口を開け、ボーっと見ていた時のことでした。

ある程度大当たりがきて、何箱かドル箱を積み上げていると

「お、それ熱いリーチじゃん」

と、後ろから話しかけられたのでした。まるで10年来の友達のような気さくさで、イキナリ話しかけられました。

見ると、そこには僕と同じ年頃の青年が満面の笑みで立っていました。背格好は普通くらい、顔は東南アジア風でやけに濃く、不様に伸びた長髪が落ち武者のようでした。なんていうか、ちょっとオタク臭いヤツだった。

「あ、でもこのリーチ、演出が長いだけで全然当たらないよ」

久々にプライベイトで一般人と会話したからでしょうか、僕も嬉しくなって彼の問いかけに答えたのでした。

それから彼は空いていた僕の隣の台に座り、二人でCRイエローキャブに座りながら様々な情報交換をしたのでした。で、たまの休憩とか食事休憩とか一緒に行き、僕らは益々親交を深めるのでした。

彼の名前は関口。どうもこのパチンコ屋の常連らしく、定職にも付かずプラプラとパチンコやったりマンガ喫茶に行ったりしているみたいでした。「最近どの店もあんまり出ないよな」ウドンを喰いながらそう言う関口君の顔は心底輝いていました。

でまあ、食事休憩も終わり、2人で並んで夕方までCRイエローキャブを打ち、2人とも数万円ほど勝ちを収めました。そうなってくると勢いで「飲みに行くかー」ってことになるわけで、2人してパチンコ屋近くの居酒屋に入ったのです。パチンコ屋から居酒屋、ダメ人間のゴールデンコースです。

今日パチンコ屋で出会ったばかりの2人、最初こそは共通の話題がパチンコくらいしかなく、話題も「あのリーチが熱い」だとかだったのですが、酒も良い気分で周り、ほろ酔い気分になってくると自然とプライベイトな方向へ話題がシフトしていったのでした。特に女性関係のほうに話題がシフトしていったのです。

初めて会った男同士なんて腹の探り合いです。果たしてコイツは俺よりモテるのか。女性関係はどうなのか。おセックスはしてるのか。する相手がいるのか。そういった女性関係のエトセトラを水面下で探り合っているのです。

でね、酔っ払った関口が口の周りにビールの泡つけながらのたまうわけですよ。

「実は俺、彼女が3人いるんだけどな、体が持たなくて大変だよ」

「女って金がかかるよな、パチンコでもやって稼がないと持たないわ」

「まあ、女を口説くのもいかせるのも結構簡単じゃん?」

「飢えた人妻が最高に美味」

と自信満々、風林火山と言わんばかりに威風堂々と言うわけなんですよ。オタクが!ハクいスケをこましまくり!俺がチンポ出して歩いていたら勝手に女の方がはまってくる!と言わんばかりに自信満々なんですよ。

震撼しましたね。間違いなく全米が震撼した。見た目オタクなのにモテるだなんて、ハッキリ言ってそんなにモテそうにない外見なのにモテるだなんて、よほどのラブテクニシャンに違いない、そう思いましたね。

間違いない、コイツは僕とは次元が違う。次元が違いすぎる。友達も喋る相手もいなくて足も臭くて、日夜パソコンに向かって薄ら笑いを浮かべている僕とは次元が違う。エロい画像をプリントアウトして大切に保管し、オナニーに使っている僕とは次元が違う。ハッキリ言って彼はカリスマオタクだ、こんな凄いお方と友達になっていいんだろうか、なんて考えて萎縮しちゃったもの。

ハッキリ言って、友達同士のレベルというのは大切だと思います。これを友人関係の次元と呼ぶのならば、次元の違いすぎる友情関係は必ずしも幸福なものだとは言えません。

片方がヤリチンで片方が非モテな友人関係も結構ですが、それが最良とは必ずしも言えないのです。片方が超大金持ちで片方が激烈に貧乏、片方が大天才で片方が激烈バカ、そういう次元が違う関係と言うのはあんまりだと思うのです。私見ですが、やっぱ友情関係って似たような次元の相手と築くのが一番じゃないかなって思うのです。

そんなこんなで、明らかに僕とはレベルが、次元が違う関口に萎縮し、コイツと上手く友達関係を築けるのか心配になってました。やっぱ僕に友達を作るってのは難しすぎるのかもしれない。

「すげえ酔っちゃったな、今日はウチに泊まっていけよ」

関口はヘベレケになりながらざっくばらんに言います。僕は元々、どんな心を許した人間でもその人の家で泊まるというのは嫌いなのですが、ヤリチンを自称する彼の家です。もしかしたら我慢しきれなくなった女性が裸になってベッドに待ち構えているかもしれません。

「しょうがねえなあ」

下半身をパンパンに怒張させ、ヘベレケな彼を支えるようにして彼の指示通り、彼の家へと向かいます。

彼は実家住まいだったらしく、その家は居酒屋からそう遠くない場所にある住宅街にありました。親などの家人は寝静まっているらしく電灯は真っ暗、そこに彼を支えながら

「おじゃましまーす」

と小声で言って上がりこみ、二階にあるらしい彼の部屋に向かいました。で、そこで僕は見てはいけないものを見てしまったのです。裸の女性がウエルカムとか、セクシャルなマダムがウッフーンとかではなく、次元の違う途方のないものでした。

いやな、美少女アニメのでっかいポスターが壁一面に飾ってあった。

おまけに、床にはエロゲーっていうの?そういうのが散乱し、同人誌みたいなものが乱雑に散らばってた。僕は美少女物とかエロゲーとか全然分からないのだけど、一目でソレと分かるものが大量に溢れかえってた。で、初めて個人で所有しているのを見たんだけど、アニメ物のエロビデオが何本かラックに納まってた。なんていうかな、間違いなくオタクの部屋だった。メディアが作り出した危ないオタクの典型みたいな部屋だった。実物の女の匂いのカケラもしなかった。

でね、思うわけですよ。居酒屋で彼がのたまっていた風林火山的セリフを思い返すわけですよ。

「実は俺、彼女が3人いるんだけどな、体が持たなくて大変だよ」
→美少女系恋愛ゲームを3本掛け持ち?

「女って金がかかるよな、パチンコでもやって稼がないと持たないわ」
→エロゲーや同人誌、DVDの購入費?

「まあ、女を口説くのもいかせるのも結構簡単じゃん?」
→ゲームのやりすぎ?

「飢えた人妻が最高に美味」
→そういうエロゲーがあるの?

酔っ払い、美少女物のDVDに埋もれて眠る彼を見て思いましたよ。コイツ、正真正銘のオタクじゃないか。画面の中の美少女に興味ない僕とは方向は違うけど対して変わらないじゃないかと。

コイツ、確かに僕と次元が違うのだけど、それは二次元か三次元の違いじゃないか。次元の意味が違う。

ということで、スーパーオタク関口君という友達を手に入れ、最初は友達が出来るのか不安だったのですけど、今では彼のことが不安で仕方ありません。パチンコ狂いで美少女オタク、しかも消費者金融のカードが部屋にいっぱいあったからな。

今後もスーパーオタク関口君と程よく付き合っていこうと思います。

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