シャッキング

シャッキング

ゴールデンウィークを直前に控える4月下旬なのに、何をどう勘違いしちゃったのか寒風吹き荒れる天気となりました今日この頃。職場の個室で一人仕事をしていてもガタガタと窓が、恐ろしいくらい揺れていました。

年代物の建物だけあって、強風に震える窓ガラスはまさにポルターガイスト。窓ガラスが割れるとかそういったレベルを超越し、今にも窓枠ごと飛んで行きそう。っていうか、隙間風が寒すぎる。そんな職場やねん。

なんというか、個室を与えられて一人で悠々と仕事をしてるのですが、それはそれで妙に寂しく、下手したら職場で誰にも会わないまま1日が終ったりするので、ちょっと何かをまかり間違ったら発狂するんではないかという心情になっています。

やっぱり人間ってのはどうしても一人で生きていけるもんじゃなくて、必ずや誰かと関わりを持って生きていたいと望むもの。僕だってこんな個室で一人寂しく仕事をしてるんじゃなくて、セクシャルダイナマイツな秘書をつけてもらって仕事したい。モニカ・ルインスキーさんみたいな秘書つけてもらって机の下でチンコとかねぶってもらいたい。とにかく孤独が嫌だし、静かなのが大嫌いだ。

個室内を包む沈黙がうるさく、あまりの無音に気が変になりそう。いつもそうで、沈黙をかき破るため一人で「さくらんぼ」を100回くらい唄ったりするのだけど、今日だけは風の音、窓が揺れる音が救いだ。大嫌いな静寂を打ち破る音は嬉しいのだけど、風の音は風の音で、窓が揺れる音は揺れる音で、僕には別のトラウマがある。

僕がまだ年端もいかない子供だった頃、我が家はシャレにならないレベルの貧乏で、家には毎日借金取りが押しかけていた。怖そうな外観の、下手したら人間の5,6人くらい殺めていそうなオジサンがやってきていた。

ウチのクソオヤジは脳みそまで全部筋肉でできているようなバカなので、いつもいつも友人の借金の保証人になっていた。まるで「へぇボタン」を押すかの如く気さくに実印を押す親父。いつも友人に逃げられて借金の肩代わりをしていた。

破滅的に人が良いのか、それとも正真正銘のバカなのかしらないけど、友人に逃げられ借金を背負わされても、彼はまた別な人の保証人になっていた。結果、数千万円だか良く分からない膨大な返済を背負っていたようだった。

幼い頃、僕が家に爺さんといると、その負債を取り立てに借金取りがやってきていた。父や母に「誰が来ても出るな、アイツらは嫌がらせで来るんだから」と言われていた僕は、いつも居間の隅で震えていた。借金取りに見つかったら殺される、そう怯えて生きた心地がしなかった。爺さんはボケてるのかテレビ見てボーっとしてた。

「○○さーん、いないの?いないの?○○興行だけど!」

怒りに満ち満ちた怒声が玄関先から聞こえる。今思うと、あれは近所中に聞こえるようにワザと言っていたのだと思う。しばらくすると怒声が止み、今度は居間の窓ガラスがガタガタ揺れる。痺れを切らした借金取りが居間の方に回ってくるのだ。

「いるの分かってるんだから、開けてよ!」

障子が閉まっているので姿は見えないのだが、それでも窓を揺さぶる借金取りのシルエットは今でも鮮明に覚えている。本当に怖かったし、何か自分の家の居心地の悪さが心底情けなかった。何も買ってもらえないことも飯が質素なことも、毎日同じ服を着ていたことも我慢できたけど、これだけは我慢できなかった。

もう20年も経つというのに、未だに窓が揺れると怖い。強風が吹き、ガタガタと揺れる窓、仕事をしていてもあの日の借金取りのシルエットが窓に浮かび上がりそうで怖い。

風の音に震え、トラウマと静寂どっちのほうがいいのだろう・・・と考えながら仕事をしていると

プルルルルルルルル

電話が鳴った。個室に備え付けられた電話が、まるで僕の恐怖と孤独を見透かしたかのように鳴り出した。

「はい、もしもし?」

「もしもし、こちらは○○○ですけど?」

聞けば誰でも知ってる消費者金融だった。某アイドルをブレイクさせ、精力的に活動している某社だった。

「今月分の返済が確認できておりませんが、どうしたのでしょうか」

電話口のお姉さんは小さい子に言って聞かせるような口調でそう言った。僕は上記のような体験があるため、借金をすることが嫌いだ。高利貸しってのがとにかく嫌いだし、どんなに金に困っていても借りる気にならない。だから、どう考えても消費者金融に「返済が遅れている」などと言われる筋合いはないのだ。

「あー、それは前にこの部屋に入ってた○○さんですね」

実はこんな電話はこれが初めてじゃなかった。4月にこの個室を与えられてから、頻繁にこういった電話がかかってくるようになっていた。基本的に住居とかの引越しとは違うので、職場の個室は住人が変わっても電話番号は同じ、つまり、前にこの部屋で仕事をしていた人宛に督促の電話がかかってくるのだ。

ザッと数えただけで15,6社くらい。誰もが聞いたことある大手から、聞いたことないようなサラ金まで、とにかく前この部屋で働いていた人は鬼のように借金をしていたようだ。1社50万借りてると計算しても800万くらいは借りて逃げたんじゃないだろうか。そんなに借りる方も借りる方だが、貸す方も貸す方だ。

最近はとにかく思うのだけど、日本人ってヤツは金に関して品性を失っているような気がする。ある瞬間からパラダイムシフトみたいに変わっちゃって、金に関することなら何でもアリみたいな風潮が流れてる気がする。

昔は借金ってのはそれこそ恐怖で、冒頭の幼き僕のように心底震え上がるようなものだった。事業者や大きな買い物をする人は仕方ないが、遊ぶ金欲しさに借金だとか、ギャンブルのために借金だとか、そういうことをする人は間違いなく終ってる人だった。

それが今やバンバンとテレビで金貸しのCMが流れ、チワワやらアイドルでオブラートに包みながら借金を促す。気さくに借金って言ってるのは明白で、契約すらも自動契約機でやっちゃって後ろめたさを希釈する。もうなんていうか、言葉が適切じゃないのは分かってるけど、昔の借金に比べて明らかに品が無い。

詐欺にしてもそうで、昔の詐欺ってのはもっと品があった気がする。見事なまでの詐欺手法ってのが主流だった気がするが、今や出会い系サイト架空請求花盛り、オレオレ詐欺大盛況、とまあ品のクソもないような気がする。

アドレスが簡単なためか、僕の携帯には詐欺の匂いがプンプンするスパムメールが日に50通届くのだけど、その騙し文句を見ているとメチャクチャだし何でもアリ、品性もクソも無い。見事に騙して詐欺をしようとしてるようには見えず、数撃ちゃ当たる戦法に見える。

老人の子や孫を思う気持ちに付け込むオレオレ詐欺なんて品性のカケラも無いし、ソレをやれるヤツなんて人間じゃねーと思う。棺桶に片足つっこんだ老人が年金をセッセと貯めた金を騙し奪い去る。必死にATMに振り込むお爺ちゃんの姿を想像すると泣きそうになるわ。

安易に借りられる品性のない借金、品性もクソもない何でもアリのムチャクチャな詐欺。なんていうか、金に関して本当に殺伐としていると思う。大きな国道をちょっと走ってれば金貸しの無人契約機がアホのようにあるし、銀行のATMにいけば「オレオレ詐欺に注意」の張り紙が、一体いつからこんな時代になってしまったのか。

「○○さんのご返済が遅れておりますが」

「関係ないです。その人はもう当社にはいません」

仕事部屋にかかってくる前の住人宛の督促電話。こんなやり取りを何度となくしながらも、やはり殺伐としていると思わざるを得ない。一介のサラリーマンが担保も何もなしに数百万の借金を気軽に作れる時代、たぶん、ここまで誰にも会わず、全部無人契約機で済んだに違いない。後ろめたさも何もなかったのだろう。なんとも狂った時代だ。

プルルルルルルル

また電話が鳴る。また前の住人宛に督促電話かー、こんどはどこだよーと思いながら電話に出ると

「おう、俺だけど。携帯でないから職場にかけたわ」

と、我が弟からの電話だった。

「おめー、俺が貸した3万円いつ返してくれるんだよ。言っとくけど利子がついて27万円になってるからな。返さなかったら追い込むからな」

弟から僕宛に借金督促の電話でした。そういや、数年前に弟に3万円借りたわ。

借金が嫌い、といいながら実の弟に3万円借りていた事実に身悶えながら、既に27万円に膨れあがっていることに震えあがったのでした。我が弟ながらなかなかの高利貸し。お前はミナミの帝王か。

「やべえ、返さなかったら実の弟に追い込みかけられることになる、やっぱ借金なんてするもんじゃねえな」

強風を受け、ガタガタ震える窓ガラスを背景に、あの日のトラウマをさらに思い出し、弟への借金で震え上がる僕がいたのでした。

弟様、あまり金のことで殺伐とするのはやめましょうよ。

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