引越し戦線異常あり-前編-

引越し戦線異常あり
-前編-

ということで、引越ししなきゃいけないのに物件が決まってない、さらには部屋は引越しの「ひ」の字も見当たらないカオスな状態。おまけに、妙に張り切っているオヤジがトラックに乗って手伝いにやってくる状況。まあ、間違いなく切羽詰った状況であったわけなんです。

親父がやってくる数時間の間にやらねばならないこと
1.アウシュビッツより酷い状況にある部屋の片付け
2.引越しの荷造り
3.新天地での物件探し
4.各種公共料金の停止の連絡
5.部屋を綺麗に磨き上げる
6.市役所に行って転出届

これだけでも途方もないことで嫌になるのですが、さらにオヤジが到着した後には荷物をトラックに積み込み、からっぽになった部屋を不動産屋に引渡し、新天地に向けてムリムリと車を運転しなければなりません。

まあ、ざっと考えても物理的に不可能。小人さんが万人単位で手伝ってくれても出来るかどうかわからない状況で途方に暮れます。なんでこう切羽詰った引越しになるのか不可解、どうして用意周到に準備できなかたのかと後悔するばかりです。もはや引越しできる可能性を見出せない。

でもまあ、このクソ面倒な引越しさえ潜り抜ければ新天地での新生活が待っているわけです。新しい住まいに新しい環境、見るもの全てが新鮮で目くるめくようなニューライフが待ち受けているのです。そう、前向きに考えれば引越しって実は明るい未来なんです。

とりあえず、「やばいやばい引越しできないよ」などと後ろ向きにオロオロしたって状況は何ら進展しません。それどころか、その窮地を伝えるためだけに一生懸命日記更新をするんなんて持っての他です。そう、歩き出さねば事態は何も進展しないのです。

ということで、まずは部屋の掃除に手をつけることを決意。断腸の思いでネット回線を断ち切った僕は、何かを決意した武士のように立ち上がり、部屋の片隅にうず高く積み上げられた雑誌類に目を向けるのでした。

そう、時間のない切羽詰ったこの引越し、普段ならアンニュイに必要な品とか大切な品とかを選別して荷造りするのですが、あいにくそんな時間は与えられていません。とにかく捨てて捨てて捨てまくる。目に付くものを捨てまくる。そんなバブル経済の象徴のような引越ししか道はないのです。

ということで、もう捨てられるものは何でも捨てると決意した僕。まずは最も大物であると考えられる雑誌類を片付けることにしたのでした。もう数年前から購入している週間マンガ雑誌数百冊、おまけにエロ本コレクションが数百冊。これをペンペン草一本残さぬように綺麗さっぱり捨てることにしたのでした。

ええ、苦しいですよ。悲しいですよ。寂しいですよ。何年もかけてためた雑誌類、愛娘のように愛でていたエロ本たち、それらあ間違いなくプライスレスですから、できれば捨てずに新天地に持って行きたいのです。けれどもそんあ余裕は残されていません。使えるエロ本だと、お世話になったエロ本だとか、殿堂入りエロ本だとか、そんなものを選別している暇はありません。とにかく捨てるしかない。

僕の住んでいる地域は雑誌類は紐で縛って捨てねばなりませんので、昼間にホームセンターで買ってきた紐で次々と雑誌類を縛っていきます。10冊ほどを1つのブロックとし、それを見事にヒモで縛る。で、それをアパート前に設置されたゴミ捨て場に捨てに行くのです。

大体10冊のブロックが40ほどできたでしょうか。どんだけエロ本と雑誌を所持していたんだという話なんですけど、あるものは仕方ありません。黙々と作業していきます。エロ本ばかりのブロックとか作っちゃうと世間体が悪いので雑誌7にエロ本3くらいの割合で混入しつつ、黙々と作業。

雑誌処理が終わったのが真夜中の二時過ぎでした。もうこの時点でアパート前のゴミ捨てブースは溢れかえってました。うん、普通にブースの外に雑誌が溢れかえってた。

さて、一番厄介と思われる雑誌処理が終了。少しばかり気が楽になったので次は荷造りを始めます。4年間ほど手付かずの大自然のと化していた押入れの下の段を探索していたら大量のゴミと共に大量のダンボールが発掘されたので、それを使って荷造り作業を開始。

基本的には「捨てる」という姿勢で使うものと使わないものを選別。使わないものはゴミ袋へ、使うものはダンボールへと振り分けていきました。うん、大体9割くらいの確率で捨てていきましたので、荷造りダンボールが1個完成するのに9袋くらいゴミ袋が満杯になってました。深夜に荷造りとかしてると夜逃げみたいで泣きそうになってくるんですけど、7年物の砂糖の袋とか、インコの糞みたいに地層状態になっている「何か」とか生命の神秘としか思えないものが多数発掘され、ちょっとだけ感動した後に全部捨てました。

でまあ、このゴミ袋もゴミ捨てブースに捨てなければいけないんですけど、さっきの雑誌類で満員御礼ソールドアウトな状態。ゴミが捨てられません。仕方ないので雑誌類を全部ブースの外脇に並べ、空いたブース内にゴミをドンドコと捨てて行きます。部屋とゴミ捨てブースを何度も何度も往復し、お百度参りみたいにしてゴミ捨て。ホント、引越しってのは辛いものです。

しかもまあ、人が必死でゴミ捨てしてるっていうのに、なんか空からはパラパラと雨が降ってきやがりまして、最初は小雨だったのにどんどんとクライマックスに、最後のほうはマトリックスのラストバトルの時みたいな大雨になってました。普通にビショビショ、ドブネズミ以下の状態でゴミを捨ててました。

でまあ、なんとかゴミ捨てブースにゴミ袋のタワーを築き、その周囲を有象無象の雑誌ブロックが固めるという異様な光景が完成。朝になって子供とかが見たら泣くかもしれません。うん、軽く1トンくらいはゴミを捨てたような気がする。俺はゴミ屋敷の主人か。ゴミ御殿の主人か。ハッキリ行ってこれはテロだよ、テロ。

で、後はオヤジトラックの到来に合わせて積み込む予定のテレビ(ワイドで大型テレビ)だとか冷蔵庫、洗濯機などが残された状態になりました。これを積み込みやすいような体制に整えた時点で夜が開け、晴れてオヤジを迎え撃つ体制が整ったのでした。

しかし、引越しはこれで終わりではありません。大家に引き渡すためには「来た時よりも美しく」の精神で物件を綺麗に磨き上げなければいけません。大量のゴミを整理し、荷造りを終え、大物家電品を整理した後の部屋を見ると、まあ、これが酷い有様。

畳の各所にはどす黒いガンの影みたいなシミが。飲み物とかラーメンの汁とかこぼして放置していたためか、変色して元の色が分からない状態。カンフー映画を見た時に空いた壁の穴、友人N君が壊したドア、タバコの吸いすぎて黄色くなった元白い壁。結露が酷い部屋でしたからサッシ周辺はカビ王国になってました。うん、狼に育てられた少年とかに部屋を与えたらこんな状態になるんじゃないかなって状況。

この状況を見て軽く自殺しそうになったもんな。今すぐ核戦争でもおきねーかなーとか思ったもんな。雨の中の薄い朝日を浴びて空っぽの部屋がオドロオドロしく輝いてたからな。こんな絶望的な引越しってなかなかないぜ。

でまあ、半泣きになりながら畳み拭いたりカビを取ったり、もうやけっぱちになって「お風呂の洗剤」とかを畳みに使ってたからな。それでも全然落ちねーんだわ、これが。

でもまあ、ほんの数時間前まで日常キングダムな部屋だったのだけど、僕の夜逃屋本舗並の奮闘が効いてか誰が見ても引越しと分かる状況に。なんとか親父の到着に間に合わせて最低限の引越しポーズだけは整えることができました。人間やればできるものです。

さすがに僕も夜通し頑張ったですし、そろそろ親父がトラックに乗って到着する時間です。こりゃあ、親父が到着するまで朝飯でも食って休憩するかー、ともう少しで僕の部屋じゃなくなる部屋を出て、コンビニに向かおうとしたその瞬間でした。僕は衝撃的な、下手したら人生において初めて殺人を犯してしまいそうな光景を目の当たりにしてしまったのです。

いやな、さっきゴミ捨てブースにゴミパラダイスを建立したじゃない。真ん中にゴミタワー、その周辺にエロ本を含む雑誌ブロック、そんなゴミの希望みたいな前衛的なオブジェを建造したじゃない。そのゴミブースの周りにな、青いジャージを着てヘルメットかぶった少年が8人くらいたむろしてるのよ。運、どっからどう見ても掛け値なしに中学生。春休みの時期のこんな早朝に学校指定のジャージ着てヘルメットかぶってところから見ると部活の朝練習とかにいく中学生なんだろうけど、そいつらが「すげーすげー」とか騒ぎながらゴミブースに群がってるの。

うん、僕が捨てたエロ本を盗んでた。

雨の中、もう顔を輝かせながら雑誌ブロックの紐を解いてな、ジャンプやマガジンはバシバシとリジェクトしてエロ本だけを的確に回収してた。そう、雑誌ブロックの紐を解いて、あれだけ苦労して縛ったヒモを解いて。温厚な僕もおれにはさすがにリミットブレイク。

「このクソガキどもがー!人がせっかく縛ったのに!!」

大声で怒鳴りましたね。僕はガキどもがエロ本を拾っていたから怒ってるわけではありません。むしろエロ本ってのはそうやって捨てる拾うを繰り返して世代から世代へ受け継いでいくべき物だと思っていますから、エロ本を拾う行為自体を否定しているわけではありません。問題はやつらがあれだけ苦労して縛ったヒモを解いていたこと。

もう子猫を失った母猫みたいな形相で小僧どもに突進して行ったのですけど、それにビビった小僧ども、大切なエロ本だけを抱えて蜂の子を散らすかのようにして自転車に乗って逃げていきました。そう、後にはヒモを解かれて乱雑に散らばった雑誌類、しかも雨でベロンベロンに濡れた雑誌ブロックの残骸だけが残されていたのでした。

さすがにゴミブースの周りに乱雑に雑誌類が散らばったこの状態では引っ越していけません。最後の引渡しの時にやってきた不動産業者がこの光景を目にし、熱烈に糾弾されるのは目に見えてます。

「ちくしょう、あのガキども・・・エロ本ほしいなら縛る前に言えよ・・・」

雨の中、半泣きというか全泣きで雨だか涙だか鼻水だか分からない物で顔をグシャグシャにしながら再度雑誌類をヒモで縛る僕。各ブロックにエロ本を分散させたのが災いしたのか、全部のブロックが見事に解かれてました。もう引越しとかどうでもいいから楽になりたい、樹海にいきたい、そう考えていました。

「よー、手伝いに来たぞー、さあ引越すかー」

そこに素っ頓狂な声を出してトラックに乗った親父が登場。ゴミ捨て場で泣きながら本を縛ってる息子が彼の目にどう写ったか知りませんが、彼はかなり上機嫌そうでした。

はるばる遠くから、息子の引越しを手伝うためだけにブリブリとトラックを運転してきた親父。その熱意や親の愛情とかそういったものに感謝しながら彼を眺めていると、

「ほれ、土産だ。立派な魚だぞー」

と言いながら、発泡スチロール4箱にギッシリと詰まった生魚を差し出してきました。ありえない。アリエナイ。arienai。

これから引越しをしようとしている息子に生魚のお土産。しかも4箱。彼の精神構造がどうなっているのか偉い先生に分析して欲しい所ですが、僕は思いましたよ。

「ますますもって引っ越せる可能性が見出せない」

絶望という暗雲が立ち込める中、僕と親父の間に置かれた生魚だけが生臭いファンキーなスメルを放っていました。

波乱万丈の引越し戦闘記「引越し戦線異常あり-中編-」につづく

親父の目の前でキャラバンで貰ったバイブが!
親父が「ぬめり本」を発見!親父ネタ満載の本を読む!
親父に隠れてコソコソと新居探し。ありえない駆け引き。
そして、親父の奇行ここに極まれり。ありえない結末が。
乞うご期待!

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