さらば広島

さらば広島

2回前か、3回前のオリンピックの時から住んでいるこの町。何千回と通った交差点をすり抜け、何千回と通ったコンビニに入る。このコンビニでエロ本を買ったこともあるし、公然とコンドームを買うカップルに鉄槌を下したこともある。

どの街でも夕暮れに包まれた風景ってヤツは寂しいもので、見てるだけでそこはかとなく一人ぼっちの気分になってくる。家庭の明かりからこぼれる団欒の声や犬の散歩をする人々や、自分には無い何かを求めてしまう。今日はそんな淋しい気持ちも一層深まる。

春から仕事が変わる僕は、三月いっぱいでこの街を、広島を離れることになる。思えば悲しいことも嬉しいことも悔しいこともエロいことも沢山あったけど、僕はこの街が好きだった。

「さて、今日でこの街ともお別れか」

闇に包まれた見慣れた街を愛車に乗って駆け抜ける。あてもなく、ただただ思い出の足跡をなぞるかのように車を走らせる。走り慣れた道、見慣れた建物、エロ本を拾った林、いつもコーラを買っていた販売機。いつも見慣れた景色のはずなのに今日だけは何かが違う。

「あれ?おかしいな?涙が・・・」

僕の頬を流れる涙。「くそったれな田舎だぜ」と悪態をついていたこの街を離れることが悲しいなどとは認めたくない僕は、オープンカーが受ける風圧で涙が流れただけだと自分を納得させるのだった。愛車のシボレーがテールランプを煌かせ、見慣れすぎたこの街を駆け抜けていた。

なんてことは全然ありません。

いやな、上記のような感傷的な引越しっていうの?少しオシャレで寂しさというスパイスを身に纏ったダンディズム溢れる男の引越しっていうの?この季節特有の風物詩っていうの?そういうの全然無いんだよね。まあ、4月から仕事が変わるから引越ししなきゃいけないのは確か何だけど、そもそも引っ越せるかどうかが謎だから。あと、愛車もオープンカーじゃねえしシボレーでもねえから。

まず、4月1日から新しい職場で仕事なんだけど、3月30日現在で新しい家が決まってないからな。うん、不動産屋に行ったり部屋探ししなきゃしなきゃって思ってたんだけど、思ってたんだけど!いつの間にかこんな切羽詰った状況になってた。

しかもな、今現在、僕の部屋は引越しの「ひ」の字すら感じられない状態になってるのよ。もう至って日常、変わることの無い繰り返しの毎日みたいな状況なの。もう明らかに2日後に新しい土地に引っ越す男の部屋じゃない。

でもな、引越しの体勢が整ってないからといって引っ越さないわけには行かなくって、今の部屋の大家にも「3月いっぱいで引き払います」とか、どの口が言ったのかわからねーこと豪語しちゃったし、ウチのクサレ親父が「トラックに乗って引越しの手伝いに行く」とかトチ狂ったこと言っちゃってるし。

そんなこんなで、親父がトラックで来るまでの数時間で引越しの体勢を整えばなりません。おまけに、引っ越す先の部屋も決まってないのに大量の荷物を抱えて新天地に行き、なんとかしなければなりません。4月1日には新しい職場に行って仕事しなければなりません。あと、なんか30日免停になるって通知が来てた。もう、なんというか、全てが切羽詰った状況。ホント、キャラバンが終ってから今日まで何をやってたんだと自分を叱責したい気分です。

さすがの僕も「何か引越しらしいことしなきゃ」とか思い立って、近所のホームセンターにエロ本を縛るロープを買いに行ったのですけど、なんかホームセンターの前に時代錯誤な不良がたむろしててな。もう5人からのリーゼント頭のワンナイトカーニバルな連中を眺めながら、何かのネタにならねえかなぁ・・とか考えながら、そんなことしてる場合じゃない、引越ししなきゃ!と我に返ったり。

エロ本を整理しようとして懐かしいエロ本が出てきたりなんかして、「あー。これお世話になったなー」とまるで昭和時代を振り返るオッサンみたいになって軽く数時間読みふけってて呆然としてたり。

そんなこんなで支離滅裂で何を書いてるのか分かった状態じゃありませんが、感傷的にこの街との別れを惜しんでる場合ではありません。クソ親父がトラックで来るまでの数時間で新しい部屋を決めて、ガス電器水道電話に連絡して、市役所に行って住民票移して、エロビデオを返却して、荷造りをしなければなりません。

ということで、この日記を書いてる自分自身が信じられないんですけど、ドタバタしながら「Numeri広島編」はこれにておしまい。新天地で落ち着いたら新たに新天地編をスタートさせますので、それまでお待ちください。

今度はどの街に行くのか。もしかしたらアナタの住んでいる町に行くかもしれません。街で見かけたら石など投げず、笑顔で見なかったことにしてやってください。それじゃあ。

Numeri 広島編 おわり

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