半落ち

半落ち

映画「半落ち」を観てきました。

30万部を越えるベストセラー、「このミステリーがすごい!2003年版」「傑作ミステリーベスト10」の両方で1位を獲得した横山秀夫の原作「半落ち」の待望の映画化。まあ、ぶっちゃけ、原作はビタイチ読んでませんが行ってきました。

とにかく泣ける。感動と衝撃のミステリー。とにかく考えさせられる作品。ラストシーンなんて涙無しでは見れない。全米が泣いた。などと前評判が物凄かったですから、映画評論家としての顔を持つ僕としても行ってきました。

ネタバレしないように注意してザラッとストーリーを説明すると、アルツハイマーで苦しむ妻を警察官の夫が殺して、出頭してくると言う話。妻は、「自分が壊れないうちに私を殺して」なんて懇願し、それを受けて夫が殺すという、いわゆる嘱託殺人なんですよね。

でまあ、「私が妻を殺しました」とかいって出頭してきて自供するのだけど、妻を殺害してから出頭してくるまでの2日間、何をやっていたのかという部分だけは自供しない。他の犯行に関わる部分は素直に自供するのに、空白の2日間だけは頑として言わない。

全面的に容疑を認めているのに、犯行後2日間の空白については口を割らない「半落ち」の状態。現職警察官の嘱託殺人ということで県警幹部はなんとしても「完落ち」にもっていきたいのだが、それでも絶対に口を割らない。

一体彼は誰を守ろうとしているのか、空白の2日間に何があったのか。そしてその先にある「真実」には感動と涙が待っている。

なんてなもんでしょうか、ザラッとストーリーを紹介すると。とにかくまあ、この映画では家族の介護問題ですとか、「人が人でなくなる時」ですとか、「誰のために生きているのか」なんて小難しいテーマがこれでもか!と言わんばかりにエッセンスのように散りばめられています。

しかしながら、アホの僕にはそんな小難しいこと良く分かりませんし、何より考えをまとめて文章にするってのが出来そうにありません。それぐらい答えの見えない難しい問題を突きつけられていると感じました。

でまあ、小難しいことを抜きにしてバカなりに思ったことを書いてみると、タイトルでもある「半落ち」という部分、これが思いの他重大なんだなと思ったわけなんです。

僕のようなヌケ作はですね、「いいじゃん、半落ちでも。犯行を認めてるんだしさ」などと思うわけなのです。事件後の2日間のことなんて喋らなくても起訴はできるし、たぶん判決まで出せるし。でも、みんな必死になって半落ちから完落ちに持っていこうとするのです。

その辺は、現職警察官の犯行ということで警察のメンツだとか、弁護士の思惑だとか色々と絡み合ってくるのですが、なんというか、ちょっと極度にごだわりすぎな気がしました。まあ、何事も「半落ち」の中途半端な状態より「完落ち」のパーフェクトな状態がいいってことでしょうかね。

でまあ、この映画、「とにかく泣ける」って職場にやってくる保険勧誘のオバチャンが言ってましたし、最近泣いてねえから行って来るかというフィーリングで行ってみたのですよね。

もう公開開始からある程度の時間が経過したというのに、映画館は満員御礼、とにかく溢れんばかりの人が観に来ていました。「アルツハイマー」「介護問題」「夫婦愛」その辺の主題がある映画ですから、心なしか熟年のカップルが多かったように思います。いや、明らかに多かった。7割くらいが熟年だった。

でまあ、観客が沢山いるってことで映画館も大混雑、映画館の店員さんもてんやわんやで人の整理にあたっていました。

「おお、大ヒットじゃないか。すげえなあ」

などと思いながら劇場の前に行くと、そこには世紀末覇者みたいな屈強な店員さんが仁王立ちしていました。なんというか、観に来ている老夫婦を易々とひねり潰せそうな店員さんが劇場の前に立ってました。明らかに恐ろしい。

そんなこんなで指定された席に座ると、やはり館内は老夫婦の群れで満員御礼の大盛況。心なしか後ろのほうの席に座った僕の隣にも見事に老夫婦が、しかもオバハンの方が座りました。

そのオバハンは何やらダンナと仲睦まじそうな感じだったのですが、そこまでやらんでもいいだろう、とツッコミたくなるような厚化粧。なんというか、顔の原型を留めておらず、バンッと色画用紙を顔面に当てたらそのまま顔型が取れそうな勢いでした。まあ、旦那さんとお出かけで映画鑑賞、ってことでオバハンも張り切っちゃったんでしょうね。

でまあ、劇場内の照明も落ち、映画が始まったわけなんです。随所に泣けそうな場面とか、ホロリとか来る場面があり、クライマックスシーンなんかグンッとくるものがあって、僕も危うく泣きそうになったのですが、そこは氷の魂を誇る僕ですので、涙を流さずにグッと堪えました。

けれどもまあ、やはり泣ける映画ってのは間違いないようで、上映中もあちこちですすり泣く声やら、鼻水をジョルジョルと吸う音などが聞こえてました。クライマックスシーンなんてあちらこちらで聞こえてたもの。

そんなこんなでこの映画、たぶん一般的には泣ける映画だと思うし、考えさせられる映画であり、僕としてもそこまでの駄作とは思えず、まあ観てよかったと思えたのですが、問題は隣に座ったオバハン、これが最悪だった。

僕が映画を観に行くと、隣に途方もない人物が座る確率が高いのですけど、もうこのオバハンは明らかに凄かったからね。

マヤ文明の生き残りみたいな厚化粧な顔しやがってからに、旦那に少し甘えたりなんかしてな、そこまでは見逃せるんだけど、問題は上映中。上映中のオバハンがものすごかった。

劇場が暗くなるじゃないですか、それでもって予告編とか始まって、それでもって本編が始まるじゃないですか。本編は主人公が警察に出頭してくるシーンから始まるんですよね。うなだれた主人公が警察署の待合椅子みたいなところに座っているんですよ。

上映開始からこの時点で5分も経っていないというのに、隣からは

「シクシク・・・」

はやっ!明らかにはやっ!

なんかね、隣のオバハン、明らかに泣けるシーンではないのに、まだ始まってから5分も経ってないのに、もう泣いてるんですわ。いやいや、泣けるシーンなんてどこにもないじゃない。ちょっとオバハン、アンタ何があったんだい。飲んでたコーラ噴出しそうになったわ。

それでまあ、上映開始5分で泣いていたオバハンですから、泣けると評判のこの映画をマトモに観れるはずもなく、至るシーンでシクシクと泣いていました。もうなんというか、映画観に来たんだか泣きに来たんだか分からない状態。

「おいおい、このシーンのどこで泣けるんだ」

などと僕は映画を観ながら隣のオバハンが気になって気になって仕方なく、あまり集中できませんでした。

で、クライマックスシーンがものすごくて、オバハンは我慢の限界で悲しくなったらしく、シクシクというよりはオロローンという感じで泣いてました。あれはもう、「泣く」というよりは「鳴く」だったね。

なんというかさ、例えば友人と一緒にある共通の事柄について怒る時ってあるじゃないですか。「アイツだけは許せない!」とか、怒りを顕にして怒る時ってあるじゃないですか。

そこで、友人と一緒に「クソー!」って怒れればいいんですけど、例えば友人の方が、人智を超えたレベルで怒り狂っちゃって、「ムキョー!」とかキチガイみたいに大暴れしてたら、自分としては引くじゃないですか。同じ怒りという感情を共有するはずなのに、一方があまりにもレベルを超えて感情を剥き出しにしていたらひくじゃないですか。

それと同じなんですよね。僕としても感動したり、悲しいと感じたりして泣きたいのですけど、隣のオバハンがあまりにも凄いもんだから引いてしまう。そんな状態でした。これではいくらなんでも泣くに泣けない。というか、別の意味で泣きそうだった。

上映が終わり、またもやマトモに映画を観れなかった僕、なんだかなあと思いながらエンディングロールを観ていました。森山ナントカの歌を聴きながら。そして、エンディングも完全に終わり、劇場内の照明が灯ったのですが、そこには空白の2時間を埋める途方もない「真実」が。

いやな、二時間ずっと狂ったかのように泣き続けていた隣のオバハンな、泣きすぎたのか化粧が落ちてエライことになってた。もう中途半端に化粧が剥げ落ちてるもんだからベロンベロンでさ、明らかに醜いというか夜は墓場で運動会というか、とにかく途方もない状態になってた。ちょっと食欲が失せたもんな。

結局さ、中途半端に化粧が落ちる「半落ち」状態だから気持ち悪いのであってさ、それならば全部落ちてスッピン状態になる「完落ち」の状態のほうがまだマシかな、などと思ったのです。オバハンの完落ちスッピンもそれはそれで怖いものがあるけど。

とにかく、犯行もオバハンの化粧も、半落ちよりは完落ちの方がいいな、などと妙に納得した僕がいましたとさ。おしまい。

だい、大丈夫かな。今日の日記のオチは半落ちじゃないよね?ね?

関連タグ:

2004年 TOP inserted by FC2 system