レンタルビデオアングル

レンタルビデオアングル

なんてことはない、ただのアホ会社員だった僕。それが今はどういうわけか、このページ繋がりで文章を書く仕事を頂くようになった。本も読まなければ、文章を書くこともほとんどやってこなかった僕。そんな僕、曲がりなりにも文章を書いて金を貰っているのだから、世の中分からないものである。

まあ、文章を書くお仕事とはいったものの、継続的にやっている仕事といえばエロビデオのレビューのお仕事。文章で人を唸らせる必要もなければ、感動を与える必要もない。ただただ淡々とエロビの内容を説明し感想を述べる。名前すら出ない。そこには文章を書くという作業よりは、淡々とエロビデオを分析するという作業がある。

単純にエロビデオのレビューといっても、口で言うほど簡単なものではなく、かなり頭を悩ませることも多々ある。何の特色もなく女優も並以下、カラミの本気度も低いような作品に出会った際は、与えられたスペースをどう埋めるかで悩む。それとは逆に、至高の名作に出会った際には、どのようにしてスペース内に収めるかで頭を悩ませる。

しかし、どんなにエロビデオを見ようが、名作に出会おうが、そこはレビューすると言う一種の事務的作業しか存在しない。とくにこれといって欲情もしなければ、発情もしない。強いて言うならば仕事であることを忘れるような名作には未だに出会ってないということか。ただただ、単純にエロビデオに対する知識だけが蓄積されていく。今ではもう何処に出しても恥ずかしくない、立派なエロビデオ博士になってしまった。少し誇らしくもあり寂しくもある。

あるエロビデオマニアが残した名言に、次のようなものがある

「1週間レンタルしたお気に入りのエロビが家にあるという事は、愛しい恋人が部屋で自分の帰りを待っているのと通ずるものがある」

っていうか、この台詞を放ったのは他でもない僕なのだが、それこそビギナーな時代は、このような台詞を言うほどエロビに心ときめかしていたのだ。今ではすっかり枯れてしまい、その面影すらないが。

何処かでも書いたかもしれないが、僕が初めて借りたエロビデオは、伊藤真紀の「はまっちょバナナ」という名作である。これは未だに忘れることができず、レンタル屋の棚の下のほうから掘り起こして借りることがある。

しかし、それ以前に僕はエロビデオを見ていた。自分でもすっかり忘れていたが、僕はそれ以前に確かにエロビデオを見たいたのだ。よくよく考えれば、中学生男子が、何もない場所からボウフラのようにエロビを借りたいと欲し、はまっちょバナナを借りるとは考えにくい。やはり何かトリガーとなる出来事があり、借りるに至ったのだ。今日は、そんなエロビ博士patoの起源となる事件について歴史を紐解いてみようと思う。

中学生の頃、僕らの仲間内で学校帰りにゲームをするのが一時的に大ブームとなった。なけなしの小遣いを握り締め、学校帰りに1ゲーム100円のゲームを一度だけやる。仲間内で、そこはこう攻めるべきだ、いや、アイテムを取って行くべきだなどと毎日のように盛り上がっていた。

しかし、ゲームをしに通っていた場所は、ゲームセンターではなかった。学校から100メートルと離れていない場所にあるレンタルビデオ屋だった。その店の名は「アングル」なんとも安易であるが深くもあるネーミング。小さい小さい店舗内に、所狭しとビデオが陳列されている、そんな店だった。

ビデオ屋で何故ゲームを?と不思議に思う方もいるかもしれない。僕も今考えるとなかなか謎なのだが、何故だかそのビデオ屋アングルは、店の入り口部分、入ってすぐの場所にNEO-GEO系のゲーム機を2台だけ置いていたのだ。ビデオには全く興味はなかったが、このゲーム目当てにアングルに通っていたのだ。

異様なほどに静かな店内、明らかに暇そうな顔をしてカウンタに座るヒゲ店長。そしてただただゲームのピコピコという音だけが店内に響き渡る。ちょっと異様でなんともいえない雰囲気がたまらなかった。たまに、怪しげな今で言うデブオタのようなお兄さんが、ふらっと現れては、店の奥へと消えていったが、当時の僕らは時に気にすることもなくゲームに興じていた。

ゲーム機の周りは、いまゆる一般的な洋画や邦画が陳列されていた。それこそロッキーだとかETだとか、当たり障りのない人気作が1本づつ、一見してゲーム機周辺の品揃えからはマトモなビデオ屋にしか見えないようになっていたのだ。

ある日、友人が狂ったようにゲームに興じてしまい、すっかり暇になった僕は、映画になぞまったく興味はなかったのだが、店内を物色して回ることにしたのだ。思えば、ゲーム目当てでこの店に通うようになって長いのだが、全然に店の中を見て回ったことがない。ここはいっちょ店の中を探検してみるか、と、全く踏み込んだことない道の領域へと足を踏み入れた。

そこにはとんでもない世界が広がっていた。

エロビ、エロビ、エロビ、エロビ。まるで親の敵のようにエロビデオが陳列されているのだ。裸のお姉さんが綺麗な格好してウッフンと言わんばかりパッケージ達が山のように並んでいる。中学生の僕にとって、そこはまだ見ぬ桃源郷だった。当然、ティンポもエレクトすることしきり。ズボンがはちきれんばかりの勢いだった。

よくよく考えれば、当然のことである。このような小さなビデオやが生き残っていこうとするならばエロに主軸を置くしかないのだ。そこは店の在庫を全部エロにしたいところだろうが、在庫の何割か以上がエロで占拠されると風俗店という位置づけになってしまい、風俗営業の許可が必要となるのだ。だから入り口付近にはオマケ程度に普通の洋画や邦画を入れる。その裏ではキチガイのようにエロビデオがならんでいるのだが。

しかし、明らかにこの光景は異常だった。無数のエロビ、縄で縛られて悶絶する熟女の写真がパッケージとなり「人妻SM狂い〜縄で縛って〜」とか書いてある。まったく意味は分からないが何となく興奮する。それよりなにより、レンタル中を示すレンタル札が異常だ。

今でこそ、レンタル札というのはあまり馴染みがないものかもしれない。ほとんどの店舗が、棚に陳列されたビデオパッケージの中にビデオ本体を入れ、客はそのビデオを抜き取ってカウンタに持っていくという形式を取っていると思う。これは万引き防止タグが導入されたことにより実現可能となり、バックヤードを持たない営業形態ということで効率的である。

しかし、当時は万引き防止タグもあまり進化してなく、店舗形態もさほど効率的ではなかった。多くの店が中身を抜き取ったパッケージだけを陳列し、客はパッケージだけを手にとってカウンタに持っていくという形態だった。店側は、カウンタの裏にビデオの中身を全て保有しており、客が持ってきたパッケージを元にそれらを棚から引き出し、レンタル処理をする。このような方法だったのだ。スペース的にも作業的にもかなり非効率であるが、万引き防止のためには仕方ない手法であり、これが当時の主流だったのだ。

そうなると、レンタル中かどうか示すものが必要となるのだ。今ではパッケージの中身が空であれば必然的にレンタル中であると分かるのだが、当時のこの手法では全てが空のパッケージである。別な方法でレンタル中なのかレンタル可能なのかを示す必要がある。そこで用いられていたのがレンタル札なのだ。

アングルの場合もレンタル札制度を導入しており、一般的な洋画や邦画で、レンタルされているものには全て

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といった札が輪ゴムでつけられていた。これがパッケージについている作品は借りられているので帰ってくるのを待ちましょうということなのだ。僕らは、いつも見せの表側の一般的ビデオの棚しか見てなかったので、このレンタル札しか見たことはなかった。しかし、一方裏に入ればエロビの楽園、そこでは途方もないレンタル札が使われていたのだ。

ハッキリ言って、エロビデオたちのピンク色のパッケージよりも、このレンタル札のほうが衝撃的で泣きそうになっていた。見た瞬間に足がガクガク振るえ、逃げ出したい気分になったほど。ここにいてはいけない、逃げなければ逃げなければと恐怖に慄いたほどだ。だって、エロビコーナーだけレンタル札が

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こんなんなんだもん。なんなんだよ、コレ。「レンタル中」じゃなくて「発射中!!」だからね。これほどストレートな表現が他にあるか。ビックリマーク二つがやけにもの悲しい。その文字表現もさることながら、札の形にも注目して欲しい、誰がどう見てもチンコの形状。明らかにチンコ。色はやや黄色。しかもなんか先のほうが皮かぶってるくさい形状。もうとまらない。

で、このようなチンコ型の発射中札が、無数にエロビデオにつけられてるの。発射中発射中発射中発射中、チンコチンコチンコチンコと。アホのように。そりゃあ中学生の僕でなくても素人が見たら泣きそうになるわ。

で、それを見て茫然自失と立ちすくんでると、奥のほうでヒゲの店長が手招きして呼んでるのよ。厭らしい笑顔で「おいでおいで」ってしてるの。もうフラフラと誘われるかのように行くではないですか。

そしたら店長がニヤニヤ笑いながら「なんだ、坊主、エッチビデオに興味あるのか」とか言ってるの。そういえば長いことここに通ってるのに店長と話するの初めてだよなとか思うのですけど、「うん」とか僕も答えてしまうのです。

そしたら店長、ニヤリと笑って、だったら見せてやるとか店の奥に、カウンタの裏側に連れてってくれるの。なんかね、カウンタの裏には段ボール箱いっぱいに上記の「発射中!!」のチンコ札があって震えたよ。

それで、なんか椅子に座らされて、小さなモニタとビデオがある一角でエロビデオを見せてもらった。

もうね、アホの子のように興奮した。

異常なまでの精神の高揚と、性器のエレクト、腹の奥から沸き立つサンバを感じた。今にして思えば、見せてもらったビデオは桜樹ルイの作品だったように思う。何て作品だったかは忘れたけど。もう、それはそれは興奮した。

チンコとか、もう、ズボンを突き破りそうな勢いだった。変な汁とか出てたと思う。まさしく僕が「発射中!!」とかになっても可笑しくない状態だったね。札みたいに包茎だったし。

そんな僕の興奮する姿を見て、店長は横でニヤニヤニヤニヤ

「どうだい?ドキドキするかい?」

とかやけに艶っぽい声色で聞いてくるんです。どうなてるんだ、このヒゲ親父。しかもなんか

「このシーンはもっと興奮するぞ、綺麗なお姉さんがチンコを舐めるの」

とかいって早送りしてフェラーリのシーンに。

うおおおおおおおおおおおおおおお、チンコとか舐めちゃうのか。おいおい、そんな汚いところを舐めちゃうのか。病気になるんじゃないの?だってオシッコとかする場所だよ。どうなっちゃうんだろう。うおおおおおおおおおおおおおおおおおお。

とか、まだ見ぬフェラーリとか言う世界に興奮してると、ヒゲ親父が

「ここを舐められちゃうんだぞー」

とかやけに色っぽい手つきでエレクトした僕の男根を触ってくるんです。ズボンの上からさわさわと

「な・・・ちょっと・・・やめてください」

ただでさえ敏感になってるのに、鬼のように優しい愛撫です

「やめ・・・ちょ・・・許してください・・・・」

とか言うんですけど

「いいからいいから、気持ちいいから」

とかまるで紙やすりでもかけるかのように徐々に触るスピードを上げていくんです。それでいて優しく。

まずい、このままでは何か男として終わってしまう。そう直感した僕は

「す・・・・すいません!失礼します!」

とか言って、店長を跳ね除けて逃げ出しました。入り口付近で僕の、異常な花園のことなど露も知らずにゲームに興じていた友人を引っ張って逃げ出しました。鬼のように恐怖だった。前々からあの店長の視線はヤバイものがあると直感はしてたが、あいつは明らかに変態だ。息を切らしながらも冷静に店長分析とかしてました。

それ以来、アングルには行くこともなくなり、数年したらいつのまにか潰れてて、ラーメン屋に変わってました。しかし、僕はあの時見たビデオの興奮を忘れることができず、また見たい、エロビ見たい。フェラーリとか見たい、と常に考えるようになり授業中も上の空。

遂にはその想いが爆発し、母親のTSUTAYAのカードを持ち出してエロビデオを借りるという奇行にでるわけです。これが伊藤真紀のはまっちょバナナ事件に繋がるわけですね。

そいで、はまっちょバナナを借りて、家族に隠れつつ鑑賞して興奮したのはいいけど、恥ずかしくて返しにいけなくて、延滞金だけが山のように積もっていき、カード名義人である母親の元に「伊藤真紀 はまっちょバナナ 延滞金 38000円」とかいうハガキが来るわけです。

それを見た母は、「はまっちょばななーーーー!!!」と卒倒しそうな勢いで叫び、僕はものすごい勢いで怒られるといった寸法です。

結局、アングルでのあの事件があったからこそ僕はエロビデオに興味を持ち、エロビを借りるようになる、そこで、はまっちょバナナ事件を引き起こし、ある種の開き直りのような感情を抱くわけですね。

そりゃあ、中学生にして、はまっちょバナナを前にして父と母に説教されればどうでもよくなります。その後は何も恥ずかしい思いもせずに鬼のようなペースでエロビを借りるようになるのです。

そして今に至る。

思えば、僕はアングルのヒゲ店長に人生を狂わされたのかもしれない。今でも、エロビデオのドラマ部分を早送りしながら無性に切なくなることがある。これでよかったのかと・・・・・・。

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