商売人ブルース

商売人ブルース

商売人とは、常に商売をすることを考えているものです。普段は普通の人でも、いざ商売となると商売人の血が熱く燃えてしまい、商売が最優先事項、他の事は二の次なんて人も多いみたいですね。そういう人を「商売人」と呼ぶのです。

個人的には商売は好きです。幼稚園の頃に一ヶ月に一回くらい「お店屋さんゴッコ」なる遊びがあったんですけど、ほんとにもう、これが好きで好きでたまらなかった思い出があります。

ちょっと話題が逸れましたが、今日はそんな商売人ブラッドな方のお話です。

同僚にEさんという人がいるんですが、けっこう今っぽいカンジのオシャレな人で、人当たりも良く人望もある人なんです。で、この人はサイドビジネスと称して、服の個人販売をやっていたりするんです。自分で集めた古着や、超安く売っていた服なんかを集めてきて、シコシコと写真を撮り、シッカリとカタログまで作っちゃって販売してるんです。

僕は、Eさんからはビタイチ買わないのですが、Eさんは僕たちグループの中でも一番の年長者ということもあって、後輩なんかはEさんから買ってるようなのです。

そんなある日、これまた同僚のMという奴が、Eさんに 「オシャレな服を売ってください」 と頼みに来たんです。Eさんの横でお茶を飲んでいた僕は、「彼は何を思ってオシャレな服を売ってもらいたいのだろうが・・・?」などと心の中でフツフツと疑問を沸かせていたんです。

Mは少々素行に問題があって、仲間内でも浮いた存在でした。彼の相手をしてもロクなことがないというのが定説で、そういうこともあってか僕はあえてMに突っ込みはいれず、無関心を決め込んでホノボノとお茶を飲みつづけていたんです。 しかし、Eさんは違いました。

よっしゃ!!お客だぜ!!

とばかりに商売人魂を燃やし、デスクからカタログを取り出しました。そして勢い良く商談をはじめるんです。僕はそれを横目で見ながら、

「選べる服の選択肢は少ないんじゃねーの」

などとまた心の中でツッコミをいれていました。なぜならば、Mは良く言えばふくよかな体型、悪く言えば肥満体型だからなんです。Eさんは比較的標準サイズの服ばかりを取り扱っていたため、ふくよかな彼に合う服は少ないはずなんです。

しかし、そんな僕の心配を他所に、彼らの商談は進みます。そして、Mのお眼鏡にかなうオシャレな服が見つかったようでした

「これ、カッコイイっすね。これにしようかなー」

なるほど、けっこうシンプルなシャツだが、なかなかカッコイイではないか、しかもお値段も1500円と手ごろだ。

「じゃ、1500円になりまーす」

などと、Eさんはご満悦ですっかり商売人の顔になっていた。そして、ここからが圧巻である。どうやらMがチョイスしたシャツは、サイズが3種類用意されているらしく、

「これ、サイズが三種類あるけど、M君、どのサイズにする?」

と尋ねていた。Mは何も躊躇することなく

「じゃあ、Sサイズで」

これを聞いた瞬間、僕は驚きのあまり、飲んでいたお茶をブーッと噴出してしまった。彼の体型でSサイズは無理だろうに・・・。 僕がEさんだったら、Sサイズは無理だからLサイズにしておけ、と間違いなく止めているはずだ。しかし、Eさんは売れてしまえばなんだろうと関係ないらしく迷うことなく。普通に承諾し、Mから料金を受け取っていた。

こうして、MはEさんからSサイズのシャツを買った。僕は、ヤツがいつそのシャツを着てくるのか気が気でない心境で恐怖におののいていた。そして、ついにXデーはやってきた。爽やかな顔で出勤してくるM。そして違和感タップリに例のシャツを着ている。シャツは彼の肉々しい体型にピッタリフィットし、まるでボンレスハムのようになっていた。いまにもはちきれんばかりで御座います。

シャツがピッタリフィットし、白色だったこと、彼がダクダクに汗をかいていたこと、この3つの要因が重なり 彼の肉体はシャツをスルーして肉眼でハッキリと見えるようになっていました。最高に気分が悪いのは、彼のどす黒い乳首が透けて見えており、なおかつシャツとの摩擦によって乳首が隆起していたんです。色形までシャツの上から見えております。もう、これは周りの人間にとっては嫌がらせ以外の何者でもない。セクハラだ。公害だ。

後輩たちの間では、そのシャツは乳首シャツと呼ばれ、恐れられていたようでした。いつMが乳首シャツをまとって出勤してくるか、恐怖は計り知れない。しかし、当のM本人は、まったくそれに気づかない様子で、相当にカジュアルな自分に酔いしれていた。

当人に自覚がないだけに、相当に性質が悪い。そんなこんなで、僕や後輩たちは困惑し、彼に「そのシャツは着てこないでくれ」、ということを指摘するべきなのか、しないべきなのか迷っていた。みんなシャイなのだ。

すると、EさんがMに駆け寄り

「M君、シャツ変だよ、小さいし、乳首透けてるし」 と言ってのけたのだ。何たることだろうか、売った本人が、売ったシャツに対して指摘したのだ。僕達は心の中でヒッソリと

「あんたが売ったシャツやんけっ!!」

とツッコミをいれておいた。恐るべき商売人である。さらにもっと恐ろしいのはM。指摘された後も、変である事に気づかなかったMは、その後も何度となく乳首シャツを着て俺達を悪夢のどん底に引き込んでくれた。 こんな二人に乾杯、といったカンジである。

冬が明けると、また乳首シャツの季節がやってくる。

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