ハカセのノート

ハカセのノート

血液型による占いや性格診断を信じるわけではありませんが、「B型の人はだらしない」っていうのだけは当たっているのではないかと思います。何を隠そう私は生粋のB型なのですが、とにかくだらしないのです。物事を整理することを知らないと言うか、なんでも無秩序状態でして、仕事用の机の上はかなりカオスな状態だったりします。で、そうなると当然、重要な書類などを紛失すことが多々あるんですけど、最近は便利な世の中ですね、なくなった書類はどっかから借りてきてコピーすればいいだけのことなんですよね。ほんと助かります。まあ、大体、一日に一回ぐらいのペースで書類を借りてきてコピーする。そんな学習能力のなさをいかんなく発揮しているのですが、こういった行為の最中に必ずといっていいほど思い出すことがあります。そう、「学生時代のノートの貸し借り」です。試験前になって慌ててクラスのがり勉連中からノートを借り、一生懸命ノートをコピーする。思えば僕はあの頃からちっとも成長していないのですね。

元々、僕は授業中にノートなど取っていませんでした。「早く授業おわんねーかなー」とばかり考えていましたね。で、試験前に焦ってノートを借りようとするんですけど、親しい友人ってのは大抵が”同類”ですから、誰もノートなんか取ってないんですよ。ほんと使えない奴らですよね。

で、そうなると真面目にノートとってそうなヤツに借りることになるんですけど、そういった人たちとは交流が少ないために、借り難いんですよね。そこで登場、我らがハカセ。クラスに一人はいるじゃないですか、典型的ながり勉タイプの人。ちょっと頭が良さそうなのび太って感じの人ね。概ね、そういう人ってニックネームが”ハカセ”だったりするんですよ。で、うちの”ハカセ”はその典型的な人ね。もう”ハカセ”以外のニックネームは考えられないって言うイメージなんだけど。彼がすごくいい人で、がり勉特有の殺伐としたようなイメージがなくて、朗らかでいい人なんですよ。「悪いけどノートコピーさせてくれない?」って言うと「うん、いいよ僕のでよかったら」って満面の笑みで貸してくれるんですよ。神様仏様ってのはこういう人のこというんでしょうね。

で、そうなると、クラス中でハカセのノートが出回るんですよ。もう又貸し又貸し、終いには紛失してしまってどっかいっちゃったりしてね。で、当のハカセは誰かがコピーした物のコピーを試験勉強に使ったりするんです。もうハカセのノートなのにハカセのノートではないって感じですよ。僕なんかがハカセの立場でしたら、怒り狂って二度とノートを他人に貸したりなんかしないんですけど、ハカセは相変わらず朗らかで他人にノートを貸しまくってるんですよ。

で、試験前はハカセのノートのコピーでお勉強、ってな具合になるんですが、彼のノートは本当に分かりやすかった。さすがダテにハカセじゃありませんよ。細かい字でビッシリと書いてあるんですけど、重要なところが分かりやすいし、難しいところにはハカセの解説つきです。ハカセはきっと他人に貸すことを前提にノートをとっていたんでしょうね。感服します。もちろん、ハカセのノートは大変好評で、皆の試験勉強のマストアイテムとなってましたね。

ある冬の期末試験のときのお話です。いつものように出回るハカセノートのコピーたち。僕も当然入手して試験に備えます。家に帰り夜中に勉強開始、なんといっても試験は明日なのです。完全に一夜漬けってやつですね。いつものようにハカセノートをめくり、重要そうな箇所に印をつけていきます。やはりハカセノートはよくまとまっている、非常に分かりやすい。コレなら明日の試験も楽勝だな、などと思いながら紙をめくったその瞬間でした。

「みんな死んじゃえ」

ノートの隅の方に書かれたこの単語を私は見逃しませんでした。動揺を隠し切れず次の紙をめくりました

「みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ みんな死んじゃえ」

ノートいっぱいに件の単語がビッシリと並んでいるのです。この瞬間、試験に役立つ”ハカセノート”は”サイコノート”に早変わりですよ。恐怖に震えながらもノートをめくっていくのですが、目玉が抉り出されるイラストがコミカルに書かれていたり、足一本のオジサンが幼女と歩いているイラストがあったりと、明らかにノートの途中でハカセが壊れてきているんです。

彼は皆にコピーされることを承知の上でノートにこのようなサイコな書き込みを残したのだろうか、だとしたら、これは彼からの重要なメッセージかもしれない。もう気が気ではありませんでした。そしてノートの最後はこのような言葉で締めくくられていました

「誰も死なないのなら僕が殺してあげる」

相当血の気が引きました。あの朗らかなハカセの内面を垣間見たような気がしたからです。そして我が家には続々と電話がかかってきました。そうです、このメッセージを見たクラスメイトたちからです。「俺たちマジでハカセに殺されちまうのかな」「やべーよ、試験なんかどうでもいいよ」「明日学校に行きたくない」と、なかには本当に恐怖に震えて泣き出すヤツまでいる始末でした。

しかし、次の日、学校に行くと相変わらずハカセは朗らかで「僕のノート役に立った?」などと笑顔で聞いてくるのです。もはやその笑顔すら怖いのですが・・・。
もちろん、僕たちはサイコノートに翻弄され勉強どころではなかったので、めでたく赤点をゲットしました。
それ以来、僕らはハカセノートを借りるのを辞め、自分でノートをとるようになりましたとさ
見た目が大人しそうな人ほど内面は怖いかもしれない、そう考えさせられる事件でした。

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