ゴリ子さん

ゴリ子さん

人の記憶というのは、完全になくなるのではないらしいですね。ただ思い出せなくなっているだけらしいです。人にはそれぞれ忘れられない思い出がありまして、心の中に常に潜ませているだけなのでしょう。

そんな記憶も、ひょんな事から蘇ったりします。蘇った記憶に直面すると妙に懐かしかったり、悲しかったり、恥ずかしかったりするものです。大抵の場合、僕が記憶を思い出すトリガーは、当時流行っていた流行歌を聞いたときですとか、季節の変わり目だったりします。

そう、冬が到来すると、どうしても思い出してしまう記憶があるのです。忘れられない遠い記憶です。今日はちょっとそんなお話しをしてみましょう。

小学生の頃、まだまだファミコンもリトルブームといった感じで、子供達の遊び場は、もっぱら近所の野原でした。僕も数人の仲間たちとチャンバラをしたり、かくれんぼをしたりと遊んでいました。

僕達のグループには赤木君というもやしっ子で弱そうな少年がいました。彼とは家が近所だったのでよく遊んでいましたが、彼は少し不登校気味でした。原因はイジメです。

誰がイジメていたのか?クラスの男子ではありませんでした。女子がイジメていたのです。

この年代の子供と言いますと、体の発育が早い分、女子のほうが精神的にも肉体的にもオトナである場合があります。我がクラスでは女子のほうが圧倒的に強かったのです。

中でも女子の中でボス級に豪快な女性がいました。身長も高く、肉付きもよく、顔つきも男みたいでした。彼女はかなり豪快で暴れん坊、既にクラスは彼女の支配下におちていたのです。僕は心の中で彼女のことをゴリ子と呼んでいました。

で、このゴリ子は積極的に赤木君をイジメていました。精神的なイジメから暴力的なイジメまで各種取り揃えており、その度に赤木君は泣いていました。

ある日のこと、僕達がいつものように野原でフラフープをして遊んでいたところ、どこからともなくゴリ子が登場してきました。ゴリ子は楽しそうに遊んでいた僕達が気に入らなかったらしく大暴れ。フラフープを取り上げるわ、殴る蹴るだわ、とんでもない暴れっぷりでした。中でも執拗に攻撃を受けたのが、やっぱり赤木君でした。

当然の如く、赤木君は泣いてしまうのですけど、僕らにはどうすることのできません。赤木君を泣かせ、目的を達成したゴリ子は勝ち誇った顔で帰っていきました。

僕らはゴリ子の登場で盛り下がったこともあり、家に帰ることにしたのですが、赤木君は一向に泣き止みません。慰めながら帰るのですが、ワンワン泣くばかり。「どうしようもねえなぁ」と少々僕らもウンザリです。

野原と僕らの家の中間地点ぐらいにゴリ子の自宅はありました。どうしてもそこを通って帰らねばいけないのですけど、さすがに通るのは怖いです。いつゴリ子が家から出てくるか・・・。そう考えると足も震えました。

ちょうどゴリ子の家の前に差し掛かったその時でした。

先ほどまで涙に暮れていた赤木君が突然リミットブレイク。大泣きしながらゴリ子の家に石を投げつけているのです。しかし、さすがそこはもやしっ子、全く家屋には届いていませんでした。そして怒りの赤木君の一言

「このやろう!ゴリ子め!俺ばっかりいつもイジメやがって!お前の家なんか燃えてしまえ!」

子供ながらなんて過激な発言だろう。僕は彼のことを弱虫だと思っていましたが、少し見直しました。


その夜のことでした。けたたましくなるサイレンの音で目が覚め、窓の外を見ました。西の空が真っ赤に燃えているのです。

まさか・・・。

父親と自転車に乗って現場へ行くと、紛れもなく燃えているのはゴリ子の家でした。もうメラメラと。

僕は未だに、燃え逝くゴリ子の家、さらにパジャマ姿で焼け出されたゴリ子一家の呆然とした姿が忘れられません。

その後、赤木君は放火犯として疑われるのですが、結局はシロ。偶然にも別の原因で赤木君の「燃えてしまえ」発言の夜に火災は起こったのです。

その後も、実は赤木君はゴリ子のことが好きだったということが発覚したり、ゴリ子もまんざらではなかったことが発覚したりと話題に絶えない二人でした。

冬が来るたびに僕はパジャマ姿で立ちつくし、ススだらけで煌々と炎に照らされたゴリ子の赤黒い顔を思い出すのです。

ゴリ子と赤木君が元気に暮らしているか、それだけが心配です。

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